※本稿は、森由香子『疲れない人の上手な食べ方』 (青春新書プレイブックス)の一部を再編集したものです。
■体で一番疲労しやすいのは、自律神経の中枢
昔から「疲れたらスタミナ食で疲労回復」といわれていました。いまでも、どっと疲れたときは、焼肉でスタミナを補給する、という方も少なくないでしょう。
しかし、体の中で、一番疲労しやすいところは、どこだと思いますか? それは、筋肉でも、骨でも、消化器官などの内臓でもありません。脳にある自律神経の中枢です。
脳はとても繊細で、機能低下を起こしやすいところです。ある報告によると、16時間以上連続して起きていると、脳機能は低下し、酒気帯び運転状態と同じ程度にしか機能しなくなるとか!
たとえば、徹夜明けの体を想像してみてください。頭はボーッとして思考力も落ち、言葉も思うように出てこなくなり、体を動かすのもつらく、フラフラ状態になりますよね。これは、脳が疲れている証拠。全身の指令塔である脳の働きが低下すれば、精神的にも肉体的にも、作業効率が下がってしまいます。
そんなとき、焼肉などのスタミナ食を食べて、体力を回復しようと考える方も多いようです。
■「スタミナ食」は栄養バランスを偏らせる
睡眠中に出る成長ホルモンが傷ついた細胞の修復をし、疲労回復に働きます。一例ですが、焼肉1人前(牛タン20g、肩ロース脂身つき50g、バラ肉脂身つき50g)の全体エネルギーの脂質が占める割合は87.3%です。
食事摂取基準の脂質目標量の割合は20~30%ですので、あきらかに多すぎ。こうした間違った疲労回復法を繰り返していると、確実に肥満につながります。さらに脂質が多い食事は、消化に時間がかかり、自律神経の負担が増えることは否めません。
繰り返しますが、焼肉のようなスタミナ食は、エネルギー摂取の過剰、栄養バランスの偏りを生じさせ、肥満の原因や自律神経を乱すばかりです。太れば体重が重くなり、当然疲れやすくなりますし、自律神経のバランスが崩れれば脳疲労を起こしかねません。
疲労回復目的でスタミナ食を食べても、逆に疲れを作ることになるだけ。どうぞ今日からは、考えを改めてください。
■ウナギと一緒にトマトを食べると効果的
実際、スタミナ食として、真夏にウナギを食べている方はいらっしゃるでしょう。
確かにウナギは、エネルギー量も高く、イミダゾールジペプチド、EPA、DHA、糖質の代謝に関わるビタミンB1、ビタミンEも含まれています。しかし、疲労回復に関わる栄養素がこれだけ含まれているウナギでも、いくつかの体に必要な栄養素をとることができないのです。
ここに、私たちが陥りやすい「木を見て森を見ない」食事のとり方をみることができます。
体のスタミナアップは、栄養のバランスがとれてこそ、はじめて成り立つのです。それこそが、食事の基本です。私たちは、ひとつの食品をとることで、ほしい効果を期待してしまいがちです。
しかし、ひとつの食品で、体に必要なすべての栄養素を満たすことは不可能です。他の食品と組み合わせることで栄養素が揃ってこそ、それぞれにパワーを発揮してくれるからです。ウナギのかば焼きには、体に必要な栄養素であるビタミンK、ビタミンC、食物繊維がほとんど含まれていません。さらにいえば、疲労回復に効果があるとされるカロテンやリコピン、クエン酸もとることができません。
そこで、栄養バランスを整えるために、最適な食品と組み合わせることが大切です。ウナギのかば焼きの場合、緑黄色野菜の中でも特に緑の濃い野菜、たとえばブロッコリーや小松菜、トマトを一緒にとることで、お互いに足りない栄養素を補い合えます。
緑黄色野菜のβ-カロテン、ビタミンC、リコピン、クエン酸が加わることで、はじめてバツグンの疲労回復効果が発揮されるのです。
■「主食+かんきつ類+卵」で疲労回復が期待できる
一日中休みなく動いたり、歩き回ったりしていると、だんだん頭がボーッとしてきたり、体が重くなったりしてくるでしょう。それは、脳や体の筋肉が、「疲れました! エネルギーが足りません!」と発信しているサインです。
こんなとき、私たちの体は活性酸素の増えすぎで疲労がたまっているうえに、エネルギー不足を起こしています。活性酸素は、体の中でエネルギーを作り出すために大量の酸素が使われるとき、その過程で発生します。強力な酸化作用があり、体に侵入したウイルスや細菌などから体を守る働きがあります。
しかし、活性酸素が増えすぎると体の細胞を傷つけ、本来の正常な働きを失わせてしまいます。運動による筋肉疲労、パソコン作業で起こる眼精疲労、頭脳労働による脳疲労など、多くの疲労の原因が活性酸素だといわれています。というわけで、脳や筋肉から疲労を訴えるサインが出たら、活性酸素を撃退する抗酸化作用のある成分とエネルギー源を、食事からとる必要があります。
すぐにパワーチャージできる私のおすすめメニューは、糖質、ビタミンC、ビタミンE、クエン酸が同時にとれる、「主食+かんきつ類+卵」の組み合わせです。早いタイミングで糖質やビタミンCを摂取すれば、疲労を軽減することができます。
卵サンドとオレンジジュース、または、おにぎりとゆで卵とオレンジなどは理想的な組み合わせですね。
■オレンジジュースと組み合わせても効果的
脳や体の筋肉が活動しているときの主なエネルギー源は、やはり糖質です。糖質と食物繊維が結びついた炭水化物は、体の中でエネルギーに変わる大事な栄養素です。まずはごはんやパンで、しっかりとりましょう。
ビタミンCは、体中でエネルギーを作り出すときに大量に発生した活性酸素の働きを抑制し、疲労を軽減してくれる抗酸化作用の強いビタミンです。体で作れないため、食品からとる必要があります。
ご存じのように、オレンジなどのかんきつ類に豊富なので、生のまま、あるいはジュースやスムージーなどにして、食べ物と組み合わせるといいでしょう。ちなみに、かんきつ類は、ブトウ糖、果糖、ショ糖など糖質が含まれているため、エネルギー作りにも役立ちます。特にオレンジやミカンには、糖質の代謝を高めるビタミンB1やクエン酸も豊富です。
さらに、ビタミンCの抗酸化作用を高めるには、ビタミンEがあると効果的です。このふたつの栄養素はお互いに協力しながら働くからです。そこで、パンやごはんとかんきつ類の組み合わせに、ビタミンEが含まれている卵をプラスするのです。
これで、パワーチャージに最適な頼もしいメニューの完成です!
手作りなら最高ですが、コンビニなどでも手に入るメニューなので、疲れたときは、ぜひこの組み合わせをお試しください。
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森 由香子(もり・ゆかこ)
管理栄養士
日本抗加齢医学会指導士。東京農業大学農学部栄養学科卒業。大妻女子大学大学院(人間文化研究科人間生活科学専攻)修士課程修了。2005年より、東京・千代田区のクリニックにて、入院・外来患者の血液検査値の改善にともなう栄養指導、食事記録の栄養分析、ダイエット指導などに従事している。また、フランス料理の三國清三シェフとともに、病院食や院内レストラン「ミクニマンスール」のメニュー開発、料理本の制作などを行う。抗加齢指導士の立場からは、“食事からのアンチエイジング”を提唱している。『おやつを食べてやせ体質に! 間食ダイエット』(文藝春秋)、『1週間「買い物リスト」ダイエット』(青春出版社)など著書多数。
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(管理栄養士 森 由香子)