※本稿は、和田秀樹『60歳からこそ人生の本番 永遠の若さを手に入れる恋活入門』(二見書房)の一部を再編集したものです。
■人に頼ったり甘えられたりする人は「強い人」
じつは今、リタイアの前後に恋愛活動=恋活(れんかつ)を始めている人が増えています。恋活とは、ワクワクドキドキする異性・同性と出会うための活動です。人生の後半、第二の人生こそ「恋活が大切」という前向きな活動に、私も賛成です。
「人は、他者と良い人間関係を築くことで回復していく」
そう説いたのが、精神科医のハインツ・コフート(1913~1981)でした。
コフートは、他人に頼ることや甘えることで、人は、より生きやすくなると述べました。人は、それほど強くもなければ立派でもなく、一人ひとりの能力には限界がある。だからこそ、お互いに依存したり共感し合ったりすることで成長していけるのだ、という主張です。
私自身、一人の精神科医として、コフートの考え方に非常に共鳴します。人に頼ること、甘えることができなければ、精神的にも追い込まれます。
一人で悩んでいると、「これしかない」といった心理的視野狭窄(きょうさく)を起こして、最悪の判断や行動をとってしまう人も出てくるからです。
心理的視野狭窄になると、イエスかノーかの二元論的な思考になり、「会社を辞めるしかない」「この人とは別れるしかない」「自分はもうダメだ」「自分のことをだれもわかってくれない」「自分のことを好きになってくれる人などだれもいない」「だから死ぬしかない」といった考え方から抜け出せなくなり、周りの人の意見を聞き入れることができなくなります。
一般的に、人に頼る人や甘える人は「弱い人」だと考えられがちですが、困ったことがあったときやつらいときに、自分の悩みを話せたり素直にSOSを出せたりする人は、逆に「生き延びていける強い人」なのです。
■世間体や見栄、プライドを捨て「人の力を借りる力」を
怖いのは、我慢強い人、自分の信念を固く持っている人、自分に自信のある人、そして他人に頼れない人です。こうした人たちは、なにかのきっかけにポキンと折れてしまう可能性があるからです。
だれかに素直に泣きつける人は、心の病(やまい)にもなりにくいのです(ただし、うつ病の初期症状も、涙もろくなったり涙が止まらなくなったりするので、注意が必要です)。
もしも泣きつける相手、悩みを話せる相手がいなければ、カウンセラーや医師を頼りましょう。今は公共のサービスも充実してきています。
歳をとったら、なるべく楽にできる方法を考え、世間体や見栄、プライドを捨てて「人の力を借りる力」をつけましょう。これも1つの恋活力です。
「こんなことを話したら迷惑だと思われる」
「相手は嫌だと思うに決まっている」
こんなふうに先回りして、他人の気持ちを決めつけてはいけません。
「気」になる人、「気」の合う人、「気軽」に話せるという3つの「気」が揃っている人は、あなたの周りに必ずいます。それを見つける活動も恋活です。
今はパートナーがいる人も、いつかパートナーと別れる日が来るのです。
3つの「気」が揃っている人を見つけたら、まずはつながりましょう。歳をとると、死別も含めて、周囲からどんどん人が減っていきます。恋活をしなければ、ますます知人も友人も、人脈も減る一方です。
■同じ思いを共有できる相手は、あなたの人生の宝
先のコフートは、人間はそもそも「他者と同じでありたい」「この人と同じ人間と思いたい」という根源的な欲求があると述べています。専門的にいうと「双子自己対象転移」といいます。
気の許せる友人や、同じ趣味を共有する仲間、自分と同じような立場の人、似たような価値観を持っている人に、私たちは、自分と同じ人間だという「安心感」を覚えます。こうした、生きていくうえで同じ人間だと思える相手がいることが重要だと、コフートはいいます。
つらいときには一緒に悲しみ、頭に来ることがあれば一緒に怒り、うれしいことがあれば一緒に喜び、美味しいものを食べて美味しいねといい合い、そのようにして「同じ思いを共有」します。同じ思いを共有できる相手は、あなたの人生の宝となります。
あなたに今、一緒に悲しみ、一緒に怒り、一緒に喜んで、同じ思いを共有してくれる人はいますか? 一人でもいれば、あなたの人生は幸福です。そして恋活は、こうした、同じ思いを共有できる人を見つけるための活動なのです。
思春期以前の小児期は、子どもは親になんでも話しますが、成長とともに、好きな人ができたり、エッチな本を隠し持ったり、親にはいえない秘密がだんだん増えてきます。
それが「大人になる」ということです。親にいえないことを共有できる存在が、彼女/彼氏、そして親友なのです。
年老いたら、まったくこれと同じです。子どもにとって、親以外の「自分を受け入れてくれる人」「自分をわかってくれる人」という存在が発達過程で必要なように、高齢者も、家族以外の、自分と同じ思いを共有できる存在が重要なのです。
■定年退職で「喪失感を得る人、元気になる人」
人々の老化を促進させるのが、定年制度です。定年が「老人性うつ」をわずらうきっかけになるのは、長年、職場で積み上げてきたものを1日で喪失するからです。
古典的な精神分析の考え方では、うつ病の最大の原因は「対象喪失」とされています。愛する対象を失ったとき、人は心理的に不安定になり、うつ状態におちいります。その状態が2週間以上続くと「うつ病」と診断されます。
職場という居場所と人間関係を一度に失い、それが心に大きなダメージを与えます。
現代的な精神分析では、「自己愛喪失」が心の健康にもっとも悪影響を及ぼすとされています。
あなたの働きを認めてくれる人、尊敬してくれる人、心の支えになる人、同じ志(こころざし)を持つ仲間を失うことが、自己愛喪失になります。
定年退職によって、この「対象喪失」と「自己愛喪失」が一挙に押し寄せてくるのです。
しかし、恋活をしている人はどうでしょう。定年退職は、それまでの束縛から解放され、自由を手に入れる最高の機会となります。
一般的に定年退職となる65歳は、体力も気力も十分にあって、恋活を通じて試せることは無限にあります。時間的な余裕が増えるぶん、これまでできなかったことにも挑戦できるのです。
今こそ次のようなルールを設けましょう。
「歳をとったら、自分がやりたいことをやる」
これまで社会のルールに従って生きてきたのですから、あなたを縛るものはなにもなく、一人の人間として、自由に恋活を謳歌できます。
歳を重ねてまで、嫌なことをする必要はなく、気の合う人とだけ、活動をともにすればいいのです。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。
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(精神科医 和田 秀樹)