最近のYouTubeではどんな動画が人気なのか。ジャーナリストの肥沼和之さんは「アカウント停止スレスレの過激動画を配信する新規参入者が続々登場し、人気を博している」という――。
(第1回)
※本稿は、肥沼和之『炎上系ユーチューバー』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■「私人逮捕」を配信するユーチューバーが出現
私人逮捕系ユーチューバーとはその名の通り、犯罪・違法・迷惑行為を働いた人を、自分たちが私人逮捕する様子を撮影し、配信する人たちのことである。
ユーチューバーによって取り締まる分野や方法は異なるものの、基本的に動画には「パトロール・張り込みの様子」「犯行の現場確認」「私人逮捕の実施」「警察への引き渡し」までが収められている。
彼らの目の前で実際に起きた映像なので、さながら警察24時のような、迫力や緊迫感のあるコンテンツになっていることが多い(ヤラセを疑う声もあるが、一旦その問題は置いておく)。私人逮捕された被疑者の顔には大抵モザイクがかけられているが、そうでないこともある。声の加工の有無も同様。プライバシーへの配慮も、ユーチューバーや動画単位でばらつきがあるというわけだ。
彼らはいわゆる「世直し系ユーチューバー」というカテゴリーのひとつとされ、世直しの手段として、うがった見方をして言い換えれば「世直しの手段という名目を掲げて」私人逮捕を行っている。
■一部の女性配信者が始めた「搾乳」動画
彼らはなぜ誕生したのだろうか。ITジャーナリストの高橋暁子氏は、「大局的には炎上系ユーチューバーの流れで誕生した存在」だと話す。
「ユーチューバーは、インプレッション(表示回数)さえ稼げれば収益になります。若い女性であれば、顔を出す、身体を露出する、などでインプレッションが増えることがありますが、一般的な男性の場合はあまり期待できない。
普通の投稿をしていても、多くは鳴かず飛ばず。視聴者を引き付けるコンテンツがない以上、当然なんです」

新規参入者が増えるのに伴い、YouTube業界もレッドオーシャン化し、頭ひとつ抜け出すのは厳しい状況にある。
高橋氏が指摘するように、若い女性は自らをコンテンツとすることで、インプレッションを稼げる可能性は高まる。これまでも、セクシーな服装で料理をしたり、ピアノを弾いたり、ヨガをしたりといった具合に、女性性をフックにして再生回数を集めるケースがあった。
最近はさらに巧妙化している。ある女性配信者たちは、搾乳の練習をするという名目で、動画内で胸を露にしていた。真面目な内容という建前なので、プラットフォーム側も垢(あか)バン(アカウント停止)しづらいところに目をつけたのだ(おそらくは魂胆を見抜かれ、現在はほとんどが削除されている)。
いずれにせよ、動画の内容自体は平凡であっても、そこに女性性が加わることで、キラーコンテンツになることを示した事例である。
■へずまりゅうが成功したワケ
筆者が驚いた例がある。日本文化を発信するとうたうチャンネルが、「巫女の舞い」を「真面目にわかりやすく」紹介しているのだが、演者の女性のパンティラインがあからさまに透けていた。
当然のように(?)再生回数は爆上がりで、卑猥なコメントも多数寄せられていたが、それが配信者の目的だったとすると、その巧妙さに開いた口がふさがらなかった。
一方で、強い武器を持たない者の筆頭格である一般男性は、再生回数や登録者を増やしづらい。
ではどうすればいいのか。「良くも悪くも注目される」という意味での成功例のひとつとして、そして正攻法ではなく、変則的な方法で人々の関心を集め、世に知られるようになった代表的な存在として、高橋氏は元炎上系ユーチューバーのへずまりゅう氏を挙げる。
へずま氏はもともと、ごく普通の動画を投稿していたが、あまり注目されていなかった。そこで、有名ユーチューバーにアポなしで突撃して「メントスコーラお願いします!」などと強引にコラボを迫るスタイルに変えた。結果、悪名であろうが、批判コメントが多く寄せられようが、その名をとどろかせることに成功したのだ。
■「へずま後発組」が生み出したヒットジャンル
動画が過激ゆえに、何度も垢バンされ、ユーチューバーとしては活動ができなくなっても、自分という存在を世間に知らしめることができた。結果、月100万円の給料でナイトレジャー関連の企業からスカウトを受けたとされている。
知名度のおかげで支援者や収入源も獲得できたため、一定の成功を手に入れたと言っていいのだろう、と高橋氏は話す。そんな彼のいわば“サクセスストーリー”を見て、伸び悩んでいた一部のユーチューバーたちも、一発逆転を狙って過激路線に舵を切っていったのだ。
ただし、過激路線に走るユーチューバーは、世間からの批判や垢バンだけでなく、逮捕のリスクも付きまとう。へずま氏と同じやり方で、彼のようなポジションを目指そうとしても、後発組には難しいし、失敗したときの代償も大きい。
そんな風潮のなか、2020年ごろに現れたのが、世直し系ユーチューバーなのだと高橋氏は説明する。
彼らが行うのは、痴漢・盗撮や違法転売、買春・売春、詐欺行為などの取り締まりのほか、タバコのポイ捨ての注意、ぼったくりバーや闇金業者への突入、振り込め詐欺業者への電凸など多岐にわたる。善行をしているかのようなコンテンツに、彼らの狙いがあると高橋氏は言う。
「一見、悪い人をこらしめる行動なので、すぐ垢バンにはなりづらいんです。応援する人もいれば、アンチもつくので、話題にもされやすい。注目されるし、『これならいける』と彼らは思ったのでしょう」
■社会的意義があるという評価
敵と見なした人を取り締まろうとすると、自然と過激な展開になることが多い。逃げ出した痴漢・盗撮犯を追いかけて捕まえる、タバコのポイ捨てをした人や振り込め詐欺業者と口論になる、ぼったくりバーで支払いを迫る用心棒ともみ合う、闇金業者からお金を借りて踏み倒す、など。それらの動画にはスリルと迫力があり、相手をやり込めたときは、視聴者からすると痛快感がある。人々の関心を集めるコンテンツのできあがり、というわけである。実は筆者も、ついついそういった動画を視聴していたものだった。
犯罪やそれに準ずる行為は、法的にも道義的にも許されないことである。悪いことをした人や団体を捕まえて警察に引き渡すのは、一見すると正しい行動のように思える。実際に世直し系ユーチューバーを肯定する声として、「警察の目が届かない、あるいは警察が動いてくれないことにも対応している」という意見は少なくない。

社会の治安を守っている存在は、数えきれないほどある。警察や自衛隊、海上保安庁、警備員などのほか、NPOや地域の人々などによる有志の団体もそう。防犯カメラや防犯システムなどのテクノロジーもそうだろう。入国審査や通関士や外交官は国際社会における日本の平和を守り、消防士や救急救命士や医療従事者などは人々の命を救っている。官民がそれぞれ、あるいは連携して、平和や安全を支えているのだ。
しかし、すべての犯罪を100%防ぐことは不可能で、どうしてもこぼれ落ちてしまう部分はある。そこを補うという意味で、私人逮捕系ユーチューバーたちの存在は社会的意義がある、という評価も多いのだ。
■メリットもデメリットもたくさんあるほうがいい
動画にして公開することに関しても、「晒されることを恐れ、悪いことをする人が減る」「犯罪が複雑化するなか、こんな事例があると周知できる」といった犯罪抑止の観点からの賞賛や、「悪者を捕まえてくれてスッキリした」「悪いことをした人は晒されて当然」という溜飲を下げる観点からのそれもある。悪を罰する正義の味方と、喝采する民衆のような構図に見える。
けれど、警察や警備員や万引きGメンなどと違い、私人逮捕系ユーチューバーは基本的に、一部の例外を除いて「訓練を受けたプロ」ではなく、「頼まれてもいない」のに活動している前提がある。
批判する声として、「世直しのためなら動画にする必要はないのでは」「所詮は収益や売名が目的だろう」などのほか、「何の権利・権限があって捕まえているのか」「えん罪で捕まえてしまう可能性はないのか」「制圧する際にケガをさせないのか」「動画がデジタルタトゥーになって、被疑者は必要以上の罰を受けたり、名誉を毀損されたりするのでは」といったものがある。
メリット・デメリットとされることがそれぞれたくさんあるからこそ、私人逮捕系ユーチューバーの活動は賛否を呼んでいるのだ。
ゴミ拾いのボランティア活動のような、誰も傷つかず、全体がハッピーになることを、自発的に行うのとは少々わけが違っている。

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肥沼 和之(こえぬま・かずゆき)

フリージャーナリスト

1980年、東京都生まれ。大学中退後、広告代理店勤務を経てフリーのジャーナリストに。東洋経済オンライン、弁護士ドットコムニュース、文春オンラインなどさまざまなメディアで、主に社会問題を扱う記事や人物ルポを執筆。著書に『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』(青月社)など。新宿ゴールデン街の伝説的なぼったくりバーを追った『ゴールデン街のボニーとクライド』はnote創作大賞2022にて入賞。読書好きや作家志望者が集まるバー(新宿ゴールデン街「月に吠える」、四谷荒木町「ひらづみ」)を経営している。

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(フリージャーナリスト 肥沼 和之)
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