■深刻化する少子化の「本質課題」とは
婚姻減、出生減が止まりません。
既に発表された2025年5月までの人口動態速報によれば、5カ月間累計で婚姻数は4.3%減、出生数は3.8%減です。このまま推移すれば、2025年の出生数は65万人台に突入する可能性もあります。
出生減は婚姻減によります。最近は、政治家もメディアもようやくこの本質課題を認識するようになりましたか、まだそこの部分の深刻さが広く伝わっていない気がします。婚姻が増えない限り、増えないまでも減少を抑えない限り、出生数は下げ止まりません。出生率世界最下位の韓国も、すでに実質出生率1.0を切ってしまった中国も、婚姻減によって生じた結果です。しかも、それは、20代の婚姻減に尽きますが、それは日本でも同様です。
2024年の人口動態概数においては、別の衝撃的な数字も発表されました。
20代前半(20~24歳)の出生数4万2754人に対し、40代前半(40~44歳)が4万3463人で、40代前半の出生数が20代前半のそれを初めて逆転しました。これは40代前半の出生率が増えたという晩産化によるのではなく、20代前半の婚姻数が激減したことにより、その年齢での第一子出産が減ったためです。
■「晩婚化」は起きていない
今、日本で起きている少子化について一旦整理しておきましょう。
年代別の初婚率で見ると、男女とも20代の初婚率が極端に減っていることがわかります。しかも、2003年から2013年の期間では男女ともほとんど減少していないのに対し、2013年から2023年の期間で急激に減少しました。
晩婚化などといまだに悠長なことを言う有識者がいますが、晩婚化などは起きてはおらず、年齢別初婚率で見ても、35歳以降で初婚率が増えていないことがわかります。女性に関しては、2003年から2013年にかけて多少晩婚化の傾向がみられましたが、2023年には元に戻っています。男女とも20代はもっとも結婚意欲の高い年代ですが、そこを未婚のまま過ぎてしまうとそのまま生涯非婚につながりやすくなります。
■20代「経済中間層」の婚姻が激減
それら20代の婚姻減が児童のいる世帯数の減少に直結したわけですが、年収別に増減を見ると、世帯年収300~500万円台の中間層の減少が顕著です。しかも、20代の初婚率の推移と同様、2003年から2013年ではほぼ変わらなかったのに、2013年から2023年の10年間で極端に中間層の世帯数が激減しました。
逆に言えば、これだけ少子化が進んだといっても、経済上位層の子有り世帯の数は、20年間まったく減っていないということになります。
つまり、今起きている少子化は、20代の経済中間層の婚姻減によって起きているものであり、しかも2013年以降に急激に進んだということです。
この間に何があったでしょうか。
まず、少子化対策の予算についてです。
■累計130兆円投入も、出生数は33%減
予算が増えたことそれ自体を問題視はしませんが、投じた予算が3.1倍にも増えたのに、出生数は同期間で33%減です。さすがに11.5兆円という大金を投じたのに出生数が33%以上も減ってしまったのでは、一体何のための対策費なのかと思わざるをえません。ちなみに、2007年から2023年にかけて累計の支出は約130兆円です。比較すべきものではないかもしれませんが、これが民間企業のプロジェクトだとすれば、こんな事業は即中止の上見直しですし、リーダーは更迭されるでしょう。
一部「日本は北欧などと比べて家族関係政府支出予算が低い。これをあげれば少子化は改善される」などと言う識者もいましたが、予算だけ増やしたところで効果が出るという因果はありませんし、的外れなことをしていたらこの有様です。
もうひとつ、大きな転換期が2010年にありました。
旧民主党が政権交代をした際の「控除から給付へ」の目玉政策とされた「子ども手当」です。
■「子育て支援金」は新たな税負担増でしかない
この給付政策が少子化対策にならない点については、そもそも旧民主党が実施する以前から指摘されていたことです。「児童手当などの現金給付は新たな子どもの出生意欲は喚起せず、むしろ今いる子の投資に回されることでかえって子育てコストのインフレを起こしかねない」という危惧が指摘されていました。そして、実際その通り、この期間において、「子ども1人を大学まで卒業させるのに何千万円」などという言説もメディアで流れるようになり、「子育てはお金がかかる」という刷り込みがされてしまいました。
並行して行われた幼保育児サービスの無償化や教育関係の無償化なども、結果からいえば、そっくりそのまま税負担化となり、ますます国民負担は増すばかり。
とどめに、来年から「子育て支援金」という悪手が始まります。これも「社会全体で子育てを支援しよう」という掛け声は立派ですが、結局は新たな税負担増です。まだ何かしらの恩恵のある子育て世帯はまだしも、こうした税負担増しかない独身者たちは「90年代の若者と比較しても手取りが少ない」のような目に見舞われます。
■若者は子を持ちたくても「経済的に無理」
「控除から給付へ」などと言われてやられたことは、結局「子育てコストのインフレ」となり、夫の一馬力では家計が持たずにパートで働く妻が増えました。
20代の初婚率が減少する以前、児童のいる世帯数が激減する以前の20代の結婚に対する金銭意識は「年収300万円台で結婚できる」というものでした。実際、その頃まで多くの中間層の若者がその年収帯で結婚していました。
しかし、その後年々「結婚に必要な年収」意識が爆上がりし、2014年に379万円であったものが、2024年には、544万円にまで高騰してしまいます。2014年対比で約1.4倍です。ちなみに、同様に、20代が考える「子を持てる可能年収」も、2014年の450万円から、2024年は683万円へと1.5倍以上の増加です(SMBCコンシューマーファイナンス「20代の金銭感覚についての意識調査」から中央値を計算)。
当然ながら、多くの若者の年収はそんなにあがってはいない。が、若者の中でも比較的余裕のある経済上位3割層は結婚して子どもを持つ。それが図表2でも紹介したように、経済上位層の児童のいる世帯は全く減っていないことにつながります。加えて、大企業勤務や官公庁などの公務員の未婚率も増えていない。彼らはやがて経済上位層の年収が約束されている安心があるからです。
かくして、20代の中間層以下の若者たちは、結婚や子を持ちたいと思っても「経済的に無理だ」と途方に暮れる。それが今の状況です。
■「少子化対策」が成果につながらない根本原因
2003年に制定された少子化対策基本法の前文には以下のような言葉が掲げられています。
家庭や子育てに夢を持ち、かつ、次代の社会を担う子どもを安心して生み、育てることができる環境を整備し、子どもがひとしく心身ともに健やかに育ち、子どもを生み、育てる者が真に誇りと喜びを感じることのできる社会を実現
文言は立派だと思いますが、果たしてこの言葉に恥じないような政策が講じられてきたかと言えば甚だ疑問です。もっとも大事なことは「次代の社会を担う子どもを(産むべき若者が――筆者追記)安心して生み、育てることができる環境を整備」することだと思います。若者が結婚し、子どもが生まれてこなければ、そもそも育てることもできなくなります。しかし、少子化対策という名の下で講じられてきた政策のほとんどは今いる子どもたちのことばかり着目して、本質的な「子ども0人→1人」の誕生を後押しするものになっていません。1人目が産まれなければ2人目も3人目もありません。
■子を持てるのは「上位3割の金持ち」という皮肉
子育て支援は否定しませんが、今までの少子化対策はあまりにそこだけに偏重しすぎていて、皮肉にも経済上位3割の金のある層だけが結婚し、子を持てるような世界線を作っていないでしょうか。政治家や官僚、大企業やメディア勤務、またはテレビでコメントを言う識者やインフルエンサーなど、いずれも経済上位3割層ですが、上位層の上位層のためのお仲間政策が、結局子を持てる誇りと喜びを感じられるのは上位層だけにしてしまった一方で、皮肉にもそれが結婚も出産も贅沢品化し、それ以外の7割の若者に手の届かないものにしてしまったわけです。
上位3割だけではなく広く20代の若者で結婚や出産を希望する者が安心して踏み出せる環境を整えない限り、少子化は益々加速することでしょう。
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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)