健康的にお酒を楽しむには、どんなことに注意すればいいのか。肝臓専門医の浅部伸一さんは「お酒を飲まない“休肝日”は特に必要ない。
重要なのは頻度よりも飲む総量だ」という――。(第2回)
※本稿は浅部伸一『健康長寿の人が毎日やっている肝臓にいいこと』(自由国民社)の一部を再編集したものです。
■お腹が出てきた人は脂肪肝に要注意
皆さんはいま、どのような食習慣をお持ちでしょうか。若い頃と同じような食事であれば、ちょっと注意が必要です。
お腹いっぱいのご飯や早食い、丼メニュー、飲み会の最後の〆のラーメン、偏った食事、アルコールの多飲、夜遅い食事、ビタミン・ミネラル・食物繊維の不足、朝ご飯・昼食の欠食……。これらは、「将来的に脳卒中や心筋梗塞が起こりやすくなる食習慣」です。すでに次のようなサインが出ているかもしれません。
・昔と同じように食べているのに太ってきた

・お腹が出てきた

・体重はそれほど変わらないのに、以前着ていた服が着られなくなった

・疲れやすくなった
これらは、「このままでは生活習慣病になるから気をつけて!」という体からのメッセージ。無視してはいけません。お腹周りが大きくなったのは、内臓脂肪が増えて脂肪肝になっているというサインです。
本稿では、肝臓から脂肪を落とすための「肝臓痩せ」の食習慣をお伝えします。肝臓痩せ食習慣は、脂肪肝を予防・改善するだけでなく、コレステロール値が高い人や糖尿病とその予備軍、高血圧症など、生活習慣病にかかわるすべての人に効果を発揮する食習慣です。

■40歳は未来の健康を決める分かれ道
また、40歳という年齢は未来の健康を決める分かれ道です。これまでと同じような食習慣では、いずれ生活習慣病を招くことになります。40歳は体のターニングポイントともいわれます。白髪が目立つようになる、視力が落ちて老眼が始まる、更年期障害などの老化現象が現れてきた頃ではないでしょうか。
なかでも中年太りといわれる肥満傾向が多くみられるようになります。また、がんや心臓病のほか、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病を引き起こす人も増え、40代の男性の消化器系のがん、女性の場合は乳がんが増えてきます。
糖尿病は40代以降から増え、加齢とともに糖尿病患者数が急増します。生物としてのヒトの寿命は、40歳くらいといわれています。飢餓の時代を生き抜くために、栄養分を脂肪として備蓄してきましたが、蓄え過ぎて肝臓に炎症が起きても、40歳で寿命を終える時代にはまったく問題はなかったのです。
超高齢化社会を迎えた日本では、40代で肝臓に炎症が起これば、50代、60代で病気になるリスクは高まります。厚生労働省の2019年「国民健康・栄養調査」の結果によると、高コレステロール、高血圧は、成人男性の約30%、成人女性の約25%以上です。また、BMIが25以上の肥満の割合は男性で約33%、女性で約22%にのぼります。

■アルコールの多くは分解されずに吸収される
男性の3人に1人が肥満ですから、成人男性の3人に1人が、また成人女性の5人に1人が脂肪肝という割合とぴったりと重なり合います。それほど肥満と脂肪肝は関係が深いのです。40歳という年齢は、体の大きな変わり目として次のような変化があります。
・基礎代謝の低下

・筋肉量の減少

・ホルモンバランスの変化

・肝臓や膵臓などの機能の低下

・身体活動量の減少
若い頃と同じような食事では、太るのは当然のことなのです。
以前、私が監修した『酒好き医師が教える最高の飲み方』の著者の葉石かおりさんは、酒ジャーナリストでつまみのレシピ提案なども行うお酒のプロです。彼女は本書で伝えるような「お酒の正しい飲み方」を実践した結果、体重は3kg減、体脂肪は5%減、オーバーしていた中性脂肪は基準値に収まりました。
アルコールを飲むと、血中のアルコール濃度が高くなります。気分がよくなったり、逆に頭が痛くなったりします。1時間で分解できる純アルコール量は、体重1kgにつき0.1gですから、体重50kgの人の場合、純アルコールは5gとなります。
肝臓がアルコールを処理するスピードは、個人差もありますが、平均して1合(180ml)あたり3時間程度といわれています。5gは、ビールなら中瓶1/4本(125ml)です。
意外に少ないことに驚かれるでしょう。
飲んだアルコールは、胃で10~20%ほど吸収され、残りは小腸で吸収されます。
■「二日酔い=脂肪肝の悪化」と考えたほうがいい
ではどうして、アルコールを飲むと脂肪肝になりやすいのでしょうか。それは、アルコールが中性脂肪の分解や脂肪酸の燃焼を抑制するからです。
アセトアルデヒドは、最終的には水と二酸化炭素にまで分解されて体外に排出されますが、過剰に飲酒するとアセトアルデヒドが多量につくられて悪影響を及ぼします。どのような悪影響を及ぼすのかをまとめると、次の2点になります。
〈お酒の過剰摂取で起こる悪影響〉

・アセトアルデヒドの強い毒性が原因で、頭痛や吐き気が起こる(悪酔い)

・アセトアルデヒドが活性酸素を介して、肝細胞を傷つける(肝機能の低下)
お酒の適量には個人差がありますが、医学的には純アルコール量で1日20g、多くても25g程度です。アルコールの処理能力は個人差が大きいので、頭痛や吐き気などの症状が出やすい人や女性、高齢者などは、これより少なめを適量と考え、お酒と上手につき合うことが大切です。
ポイントは、「二日酔いしない」「気分が悪くならない」「悪酔いしない」。二日酔いは8時間以上経ってからの症状を指しますが、悪酔いは飲酒後2~6時間くらいで生じます。症状としてよくあるのが、頭痛、吐き気、嘔吐、動悸、顔色の変化、寒気や震え、精神的不安などです。
このような症状があれば、「私はアセトアルデヒドの毒にやられている」「肝臓にいま、中性脂肪がどんどん蓄積されていっている」ととらえ、翌日からのアルコールを控えるか、飲酒をお休みしましょう。
■ストロング系チューハイはリスク大
ビールやアルコールが苦手な人でも飲みやすいお酒がストロング系チューハイです。

甘みが強く、ジュースや炭酸飲料のような飲み心地で、強いアルコール度数にもかかわらずぐいぐい飲めてしまいます。そのため酔っぱらうまで気づかずに飲み過ぎてしまうことで、健康へのリスクが懸念されています。アルコール依存症になるリスクも高いといわれています。
ストロング系チューハイのアルコール度数は7~9%もあるので、2缶、3缶と飲めばあっという間に1日のアルコール摂取適量をオーバーしてしまいます。飲料メーカーによっては、ストロング系の缶チューハイの新商品を今後発売しない方針を発表しています。
安くてすぐ酔えるストロング系は大変魅力的ですが、肝臓には決してよいものではないということを知っておきましょう。
よく「週に1日は休肝日をとる」という指導が行われています。アルコール健康医学協会では「週に2日の休肝日をとる」と伝えています。しかし、医師によっては休肝日不要という人もいます。
厚生労働省が作成する「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年2月公表)の中では、「1週間のうち、飲酒をしない日を設けることが必要」と記されています。その理由の1つは、アルコールは依存性が高いため、依存症になって毎日飲みつづけてしまうリスクがあるからです。
■飲む頻度よりも量を気をつけたほうがいい
依存してしまうと、ほどほどの量のお酒では満足できなくなり、飲酒量の調節を自分で制御できなくなります(コントロールの喪失)。

今日は1杯でやめておこうと思っていても、飲み出すとブレーキがきかなくなってしまうのです。それはお酒を好きで飲んでいるというよりも、依存によるものです。依存症になると強い飲酒欲求が起こるので、意志が弱いからお酒がやめられないのではなく、依存症という病気によるものです。
アルコール依存症から抜け出すには、断酒(一切断つこと)しか方法はありません。しかし、依存症でない人であれば、肝臓専門医として皆さんにお伝えする結論は、「休肝日は必ずしも必要ない」ということです。
お酒を飲み過ぎてしまう人にとって大切なのは、肝臓を休ませることではありません。必要なことは、お酒の総量を守ることです。その量というのが純アルコール量で1日20~25g程度です。
1日の純アルコール摂取量が60gを超えている人は、アルコール性脂肪肝であることがほとんどです。60gは、日本酒で3合、ビールでジョッキ3杯、ワインでグラス4~5杯程度です。休肝日の翌日にどか飲みしてしまっては意味がありませんから、なによりお酒の総量を守るように心がけましょう。
■1リットルのビールを飲むと、それ以上の水分が失われる
そうはいっても、アルコールは体にとって毒ですから、毎日この毒を分解することは肝臓にとって大きな負担です。
「1週間の飲酒プラン」を立てて、1週間の純アルコール摂取量150gを超えないようにすることが非常に大切です。
なぜなら休肝日を設けずに、1週間に純アルコールを450g摂取している男性は、休肝日がある人に比べ、1.8倍の死亡リスクになるという研究データもあるからです。飲み過ぎは脂肪肝になるだけでなく、死亡リスクも高めるのです。
アルコールを分解するには、酵素が働くため、水が必要になります。そして、アルコールは最終的に、二酸化炭素と水になって、呼気や尿に排出されます。アルコールには利尿作用があり、その作用がとくに強いのがビールです。1リットルのビールを飲むと、1.1リットルもの水分が体から失われます。飲んだビールよりも、失われる水分の方が上回っているので脱水症状を起こしかねません。
■特に40代以降は、脱水症状に注意したほうがいい
体が水分不足状態だと、アルコールやアセトアルデヒドの代謝能力が下がり、体内からの排泄が遅れます。それにより悪酔いや二日酔いになりやすい状態を招きます。そうならないためには、飲酒中と飲酒後の水分補給はとても重要です。
よく「ウーロン茶や温かい緑茶、コーヒーでもいいですか?」という質問を受けますが、緑茶やコーヒーなどのカフェインを含むものは利尿作用が強いので、水分補給という目的には合いません。いちばんよいのが水ですが、ウーロン茶でも効果があります。
40歳以降は、飲酒による脱水症のリスクが高まります。なぜなら、体の水分量と塩分調整を行なっている腎臓の機能(体液量と塩分濃度を一定に保つ腎臓内にある糸球体のろ過量)が1年ごとに1%ずつ低下していくからです。
年をとればとるほど脱水症状になりやすいということです。ですから水分補給が大切になりますが、あまりにも水を飲み過ぎると、血中のナトリウム濃度が必要以上に薄まってしまい、低ナトリウム症(水中毒とも)を招く危険性もあるのでほどほどにしておきましょう。

----------

浅部 伸一(あさべ・しんいち)

肝臓専門医

東京大学医学部卒業、東大病院・虎の門病院・国立がんセンター等での勤務後アメリカに留学。帰国後は、自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科講師・准教授。その後、製薬会社に転じ、新薬開発等に携わっている。実地医療に従事するとともに、肝臓やお酒に関する記事・書籍等の監修・執筆やがんの予防・最新治療についての講演も行っている。医学博士、消化器病専門医、肝臓専門医。著書に『長生きしたけりゃ肝機能を高めなさい』など。お酒が好きで、日本酒・ワイン・ビールなど幅広く楽しんでいる。アシュラスメディカル株式会社所属。

----------

(肝臓専門医 浅部 伸一)
編集部おすすめ