仕事のデキる営業マンはなにが違うのか。結果を出せる営業マンは、どんな工夫をしているのか。
キーエンスに13年半在籍し、営業サポート事業を展開する企業を創業した齋田真司さんは「営業電話で『忙しいからまた今度』などと断られたときほどチャンスだと考えるべき。取引先に訪問するという姿勢は絶対に崩さず、相手の事情を尊重しているフリをしながらアポ取りにつなげるといい」という――。(第2回)
※本稿は、齋田真司『キーエンス 最強の働き方 新人からベテランまで、最短で成果を最大化するシンプルなルール』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■相手の心を掴むキャッチフレーズを作る
アポ取りをする相手が決まったら、電話をかけます。大前提として、とにかく元気な声を出すこと。当たり前すぎますよね。でも、意外にできていない人も多いのではないでしょうか。
緊張するのはしかたありませんが、小さな声でぼそぼそしゃべってしまうと違和感を持たれるどころか、印象が悪くなります。こちらから話すべき内容は事前に台本を作り、頭の中に入れておきます。
アポ取りのトークを録音したものを自分で聞いたり、ロールプレーで事前に練習たりして、相手が感じるかもしれない違和感を取り除いておく。準備がしっかりできてさえいれば、あとはそれを実践するだけです。
ここでとっておきの「愛されテク」をお伝えしましょう。
それは、相手に興味を持ってもらえそうな商品を一つ決める。そして、電話越しにCMを流すようなイメージで、その商品にわかりやすいキャッチフレーズを付けて紹介することです。たとえば、衝撃や圧力に強いセンサーを売り込むなら、こんな感じ。
営業「キーエンスの齋田と申します! 本日は、新発売の『ゾウが踏んでも壊れないセンサー』をご紹介したくてお電話しました!」
ちょっと話を聞いてみたくなりませんか?
「10年間メンテ不要でほったらかしでいい」

「油にジャブジャブ浸けてもOKの」

「マッチ箱より小さい」
などなど、その商品の特徴を端的に表す、そして思わず興味を持ってしまうようなキャッチフレーズで相手の心をつかみます。相手が食いついてくれたら、こっちのもの。
■おもしろフレーズでも、決してふざけてはいけない
営業「新発売の『ゾウが踏んでも壊れないセンサー』をご紹介したくてお電話しました!」

お客様「なにそれ? どういうこと⁉」

営業「5トンの衝撃を受けても正常に動作するんです。御社ではセンサーが何かにぶつかって壊れること、ありませんか?」

お客様「たまにあって困ってるんだよ。それ、本当に壊れないの?」

営業「本当です。なにせゾウが踏んでも壊れませんから。一度実物を持って伺いましょうか?」

お客様「そうだね、見せてもらおうかな」
このやり方はめちゃくちゃ「効く」のですが、大前提として、電話する相手の会社に合った商品を選ぶ必要があります。
たとえば砂やホコリに強い『粉塵が山盛りになっても使えるセンサー』は、金属の削りくずがたくさん出る金属加工工場などでは興味を持ってもらえそうですが、ちり一つないクリーンルームで生産する半導体工場には無用の長物ですよね。
大切なコツをもう一つ。
おもしろいフレーズであっても、決してふざけた口調で言わないこと。あくまでも大まじめに伝えることで説得力が増し、違和感を持たれずに済みます。
■「忙しいからまた今度」こそ大チャンス
電話をかけたときのお客様の反応は、残念ながら好意的なものばかりではありません。
あなたにも、保険や不動産投資、あるいは選挙の投票依頼の営業電話がかかってきたことがあるはず。「あっ、いいですね。ぜひお話を聞かせてください」なんていう反応をした記憶、ありますか?
もっとも、話を聞いてくれる可能性が高そうな相手を絞り込んで電話しているので、無差別的な営業電話ほど厳しい反応をされることは少ないかもしれません。それでも、相手ももちろん多忙ですから、「ちょっと忙しいんでまた今度」といった答えが返ってくることも多いと思います。
おっと出ました、「忙しいからまた今度」。実はこれこそが、あなたにとって大チャンスの回答なのです。
社会人は誰もが忙しい。みんなが自分の仕事を抱えているのですから、それは当たり前のことです。アポ取りの電話で心がけるのは、「あなたがお忙しいから遠慮します」ではなく、「お忙しいのはわかっているので、いつなら会えるかを調整させてください」という姿勢です。

言ってみれば、相手がいくら忙しくても、「会うのが前提」という立場で臨むのが、ここでご紹介する愛されテクです。
■“相手を尊重しているフリ”をしてアポを確定させる
それでは、私が無数に経験してきたやりとりを具体的に見ていただきましょう。
営業「キーエンスの齋田と申します。御社の生産ラインで現在お使いの○○について、より高性能で低価格な新商品が出ましたので、ぜひ一度ご説明に伺わせてください」

お客様「あー、でも今ちょうど忙しくてね。またにしてもらっていいかな」

営業「そうですよね、お忙しいですよね。では来週と再来週でしたら、どちらが比較的お時間調整しやすそうでしょうか?」

お客様「えっ? うーん、再来週は月末だから、どちらかと言えば来週かなぁ」

営業「ありがとうございます。では、来週前半と後半ではどちらが比較的お時間調整しやすそうですか?」

お客様「まだ前半のほうがマシかなぁ」

営業「いつもお忙しいのは重々承知しているのですが、月曜か火曜の午前、午後、夕方でしたらどの日にちと時間帯がより大丈夫でしょうか」

お客様「火曜の午後なら、なんとか……」

営業「ありがとうございます。では火曜13時と15時ではどちらがよろしいでしょうか」

お客様「14時から会議だから、15時半にしてもらえると助かるんだけど。でも、ほんとに時間取れるかわかんないよ」

営業「承知しました。ではいったん、火曜15時半にご訪問で予定を仮置きさせてください。私の携帯番号をお伝えしておきますので、もし当日急なご予定が入られたら、次週以降に延期していただいても問題ありません」

お客様「はいはい、15時半ね。わかりました」
いかがですか?
■「訪問する」という前提は絶対に崩さない
相手が忙しいことは当然の事実として受け入れ(下線)、相手の事情を尊重しつつ、「訪問する」という前提は崩さない(太字)。
そして、相手がどうしても無理ならキャンセルもOKという選択肢を残す――ように見せかけて、キャンセルOKではなくあくまで「延期OK」。
ここでもなお、「訪問する」という前提は崩れていません。まるでスッポンのように食らいつくアポ取りです。
ここで気をつけたいのは、押しつけがましくならないこと。こちらが結論を出すのではなく、常に相手が選択するという進め方を強く意識します。最終的には「ふふふ、そんなに俺に会いたいなんて、しょうがないやつだなぁ」と思わせたら完璧です。
■「時間厳守」と「連絡厳守」を使い分ける
社会人たるもの、時間厳守は基本中の基本。
遅刻は相手の貴重な時間を奪う行為に他なりません。約束の時間になっても現れないあなたを待つ相手が感じ続ける違和感がどれだけ大きなものかを想像すると、遅刻なんて絶対にできません。
ただ、時間厳守だけが正義ではない場合もあります。会おうとする相手の業種や立場によっては、急な仕事が入ったり、トラブルに対応する必要があったりする可能性があって、あなたと会う時間を正確に決められないことも珍しくありません。
「15時前後なら大丈夫だと思うんだけど、ちょっとわからないんだよ。
申し訳ない」。そんなお相手に時間厳守を押しつけるのは、かえって迷惑です。
そこで、「時間厳守」と併せて身につけていただきたいのが、「連絡厳守」というテクニックです。目安となる時間は決めつつ、実際に会う時間は直前まで相手と密に連絡を取って、フレキシブルに調整していきます。
営業「何時がご都合よろしいですか?」

お客様「15時前後なら大丈夫だと思うんだけど……」

営業「承知しました。では私の前の予定が新宿駅で14時半終わりですので、御社に向かう前に必ずご連絡しますね」
こんな風に約束しておいて、あとは携帯のショートメールなどで「前の予定が終わりましたのでそちらに向かいます」「電車に乗りました。14時50分に御社の最寄り駅に到着予定です」「最寄り駅に着きましたが、ご都合いかがでしょうか」ときめ細かく連絡し、相手の事情に合わせます。
相手とこまめに連絡を取り合い、時間を臨機応変に調整しつつ、確実に面談にこぎつけるテクニックです。
■二つの“厳守”を組み合わせることでより効率的に
この「連絡厳守」テクニックにはいくつか応用編があります。
「前の予定が○時」の部分を、「ちょうど○時頃別件で御社の近くにいる予定があるので」と言い換えてみましょう。相手が感じるであろう「わざわざ訪ねてきてもらうのは申し訳ない」という負担感を減らすことができ、アポを受け入れてもらいやすくなります。
相手の負担感を減らしつつ、自分もハッピーになれる心配りです。
さらに、「連絡厳守」型のお客様との面談アポは元々「○時を目安に」という決め方なので、到着が少しぐらい遅れても、連絡を取り合っていれば「遅刻」になりません。そのため、予定と予定の間隔をぎゅっと詰めてアポを入れることができます。
キーエンスでは成約件数や契約額と同様、訪問の数そのものも重要な評価基準になっており、1日10件以上の取引先を回るのが私の基本スタイルでした。私が担当していた製造業の現場への営業はお客様と話す時間が比較的短いことも多く、また同じ工場の中や同じ工業団地(様々な会社の工場が集まっている地域)に複数のお客様が多くいらっしゃいました。
そういった事情があり、たとえば一つの工場を訪問した際に、複数の部署の担当者と続けて立ち話をする、といったことが可能だったのです。
「時間厳守」のためには、アポとアポの間にある程度の時間的余裕を持たせる必要がありますが、「連絡厳守」型のお客様を増やすことでより多くの営業機会を確保でき、結果としてより多くの面談に臨むことができるようになります。

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齋田 真司(さいた・しんじ)

キーレイズ代表取締役

2007年、株式会社キーエンスに新卒入社し13年半在籍。2022年、営業サポート事業を展開する株式会社キーレイズを創業。伴走支援先・研修指導先は多岐にわたり、大手から中堅中小まで、のべ3,000名を超える。著書に『キーエンス 最強の働き方 新人からベテランまで、最短で成果を最大化するシンプルなルール』(PHP研究所)がある。

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(キーレイズ代表取締役 齋田 真司)
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