知的好奇心を刺激するために必要なものとは? 現役東大生150人にアンケート。共通して家にあったものは何だったのでしょうか。
また、大好きなことを続けられた「親の声かけ」も聞いています。
調査概要◎株式会社トモノカイの協力で、2025年4月に東京大学の現役の学生150人にインターネット上で回答してもらった。
■なぜ賢い子の家には図鑑があるのか
本誌では、継続的に東大生へのアンケートを実施している。そこで見えてきたのが、今の東大生が育ってきた家庭の姿だ。小学生のうちは特に、学ぶ楽しさに気づくための環境づくりをしている家庭が多かった。もちろん、「勉強しなさい!」は禁句だ。そして、子供が夢中になっていることは、とことん応援する。
ある家庭では、休日に生き物好きな息子のために水族館へ行った。朝一番に入館したのだが、一つ一つの水槽や展示をじっくりと堪能し終えたころにはもうお昼過ぎ。やっと館内の食堂でご飯にありつけたかと思うと、「もう一周見る」と息子。夕方の閉館時間まで付き合ったという。そんなエピソードには事欠かない。

今回は現役東大生150人へのアンケートで、興味が広がるきっかけとなった「家にあったもの」をフリー回答で尋ねた。150人中54人が挙げてくれたのが「図鑑」だ。最初から「家に図鑑はありましたか」と聞けば、もっと多くの東大生が、育った家庭にあったと答えたに違いない。
なぜ賢い子が育つ家には図鑑があるのか。
東北大学の瀧靖之先生は本誌2024年夏号でこう言っている。
「たとえば、動物、植物、天体など、さまざまな分野の図鑑が家にあったとしましょう。親は、折に触れて図鑑を開いては、美しい写真を見たり、不思議な生態を調べたりして楽しんでいる。家庭のなかでこんな光景が何度か繰り返されれば、『読みなさい』と言わなくても図鑑を開きたくなるのが子供です」
図鑑をきっかけに、子供のなかに好奇心のタネがまかれれば、実際に体験したり観察したりするなかで、探究心が花を咲かせる。
次に多くの東大生が挙げてくれたのが雑誌「Newton」。雑誌「ナショナルジオグラフィック」とともに、実際に東大生が育った家庭の本棚の定番だ。子供のために買い与えることもあるが、親が購読しているものを自然と子供も眺め、美しいビジュアルから興味につながるというケースも多い。
顕微鏡、星座早見盤といった理科グッズはそのまま実験、観察につながる。

面白いのが、「花・植物・野菜」。「ベランダで育てていた野菜」と具体的に答えてくれた東大生も。身近なところに生き物があることが、発見や考察のきっかけとなるのだ。
■なぜ、年間400冊本を読めるのか
さらに「小学生時代に何かに打ち込んでいましたか」という設問には、94%の東大生が熱中したものを答えてくれた。
特に多かったのが読書。知性は書架で育つということか。「図書館に毎日通った」(理一2年・男)、「1年で400以上冊読んでいた」(大学院・男)などのほか、図書館の棚の本を全部読んだという猛者は何人もいた。
どうすればスマホ全盛のご時世、そこまで本好きになるのか。「両親とも読書好きで大きい本棚があった」(農学部4年・女)、「(本を読むと)国語教師のおじいちゃんがすごく褒めてくれた」(法学部3年・男)、「家族全員が読書をしている時間があった」(大学院・男)といった回答が。家族の生活習慣や声かけの影響が大ということだ。
東大生は習い事も本気だ。「暇な時間はずっとサッカーをしていた」(理学部4年・男)、「4年間かけてけん玉道初段を獲得した」(理二2年・女)、「バレエに最大限の時間を割くために毎朝5時に起きていた」(大学院・女)など。

続けられた理由は「タイムが上がる達成感」(工学部3年・男)や「周りより少しでも早くできるか競っていた」(理学部4年・男)など、上手に目標設定をしたり、ライバルと競ったり、ゲーム感覚で楽しむという工夫をしていたことがわかる。
驚かされるのは、今でいう探究活動のように、知的な事柄を追求していた子も多かったことだ。
「毎週末、地元の科学館へ足を運んでいた」(大学院・女)という人や、「夏になると毎週末、父と一緒に近くの山や公園へ昆虫採集に出かけた」(大学院・男)という人も。
ほかの子が何げなく日々を過ごしているときも、何かに打ち込んでいるのだ。思う存分、熱中体験を続けられた理由として目立ったものは、「好きだから」「強制されなかったから」といったもの。面白いと思って夢中になっているから、どんどん上達する。がんばれば成果がでるという達成感が、勉強への意欲にもつながるのだろう。
■大事なのは自分で決めること
では実際に、東大生が小学生のときに、熱中体験を続けることをサポートしてくれた親の声かけについても聞いてみた。
一番多かったのは、好きなことをやりなさいと、子供の夢中になっていることを応援する言葉だ。「やりたいことをやりなさい」(理二2年・男)、「自分のワクワクを大切にしなさい」(大学院・女)、「自分の人生だから好きに生きなさい」(理二2年・男)など。「自分で決めなさい」(農学部5年・男)と、本人に選択権を持たせる言葉もあった。
心理学でも、選択の機会を与えられたほうがモチベーションが高まることがよく知られている。
たとえば、どのパズルに取り組むのかを自分で選んだほうが、より長く、楽しくパズルに挑戦することができる。東大生の親も、子供に自分で決めさせることで、結果として、熱中体験を継続する助けとなっているのかもしれない。
また、「博士になれるね」(医学部4年・男)、「すごいね、上手だね」(教養学部3年・女)などと、子供を素直に褒める言葉も多かった。なかには、「努力したおかげだね」(文三3年・女)、「たくさん本読んですごいな」(農学部5年・男)などと、具体的に努力を評価している声も。結果だけではなく努力の過程や、やったことを具体的に認めることで、「努力すればできる」という前向きな心理が育ちそうだ。
「やめてもいいよ」(文三2年・男)、「できなくてもいいから」(理一1年・男)などといった、失敗することを容認する声かけも多い。「一緒にやろう」(農学部3年・男)、「いつも応援してるよ」(大学院・男)などと共感して支える言葉を受けたら、安心して好きなことに取り組めそうだ。
一方で、「本はいくらでも買ってあげる」(理三2年・女)という声かけも、東大生やトップ中学に合格した家庭の取材でよく聞く。知的なことに対する好奇心を大切にする雰囲気が、子供の「なぜ」「どうして」という気づきを、思う存分探究に向かわせるのだろう。
※本稿は、『プレジデントFamily2025夏号』の一部を再編集したものです。

(プレジデントファミリー編集部 アンケート協力=株式会社トモノカイ)
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