■英語子育てでも日本語の習得に不安なし
未就学時から英語教育に力を入れる場合、「母語のインプットが不足しないだろうか」と不安を覚える親は少なくない。まゆみさんはどう考えていたのか。

「外国に住んでいるのなら母語を失う不安がありますが、日本にいれば日本語にはいくらでも触れられます。家を一歩出たら、ずっと日本語のわけですから。海外ではバイリンガル、トリリンガルは普通のことなので、英語を習うことで母語に支障が出るかもという心配はしたことはないですね。実際、たつやは高校生まで敬語がおぼつかなかったですけど(笑)、夫が注意したり、経験を重ねるうちに問題なくなりました」
■英語を楽しく学ぶのに必要なこと
たつやさんは神戸市の制度を利用し、インターの3カ月の夏休み(6~8月)期間に日本の小学校に体験入学していた。特にトラブルなく楽しそうに過ごすたつやさんを見て、星名さんが「私も日本の学校に行きたい!」と言うように。ところが、その矢先に神戸市の方針が変わり一時受け入れがなくなってしまった。それでも星名さんの日本の学校への熱が冷めなかったことで、小学6年生から中学2年生の1学期までを、星名さんは日本の公立学校で過ごしたそうだ。まゆみさんは、その間に星名さんが話していたある話が印象的で今も覚えているという。
「星名いわく、小学校までは英語が楽しかったのに、中学に入った途端、英語が嫌いになった子が多くいたと。英語のレベルが一気に難しくなって文法など学ぶ内容が多くなったからだと思うのですが、星名はそれ以上に『なぜこれを学ぶのか?』『この知識があると、どういうふうに世界が広がるのか?』という学びの本質を親も先生も伝えていないから、みんな前向きに学べないのではないかと分析していました。目的が見えないなか、難しいことをしろ、とだけ言われたら、誰でもイヤに思うよねと。幼かった頃の私が『英語ができると友達ができるんだ』と父に興味づけしてもらったように、“学びの先”には素晴らしいものがあることを示してやることが子供には大切。
それが親や教師の役目なのだと、星名の話を聞いてあらためて感じました」
■子供の好きなこと×英語を見つけてやる大切さ
英語の魅力に触れ、英語を学び、徹底した英語子育てで、子供にネイティブ並みの英語力を身に付けさせたまゆみさんだが、英語塾での講師経験もふまえ、家庭での英語教育には一点注意してほしいことがあるという。それは、「親の思いが強すぎないか」ということ。
「以前、娘さんを留学させたいというお母さんから相談を受けたことがあります。ご自身が留学を夢見ていたけど、かなわなかったから『娘には絶対に行かせたい』と。でも娘さん自身は興味がないから、どうすればいいかということでした。そこで私は『それならお母さんが行かれたらどうですか?』と話しました。今はシニア向けのプログラムもたくさんあるから、気軽にチャレンジできますし。そうするとハッとされた様子で『私は自分の夢を娘にかなえてほしかったんですね。こんな年でも留学できますか? ぜひ行ってみたいです』と前向きになられた様子でした」
親なら誰しも子供に「こうなってほしい」という願望や期待があるものだろう。しかしまゆみさんは、「子供は親が望むとおりには育たないもの」と言い切る。
「私の親は私を音大に進学させたかったんです。私も、たつやに大学に進学してほしかった。
でも、どちらも親の願いはかなっていません(笑)。私は英語にほれ込み、反対された留学に行き、そして今に幸せを感じている。たつやも今、自分が選んだ道で楽しんでいます。私も好きなことをしているから、あなたも自由に大好きなことをして自分の人生を生きなさいと言ってあげられるのが理想だなと。実際は難しく、まだ修行中の今ですが(笑)」
■英語を学んだことで自主性を身に付けた兄妹
「言語は思考パターンを決めます」とまゆみさんは語る。
「英語では必ず主語(誰が)が必要なため、自分がどう思い、どう感じるかを、日本語よりもはっきり表現する言語です。質問に答える際にも、まずイエスかノーと、自分の意思を述べます。日本人はノーと言うのに抵抗を感じがちですが、ノーと言う力は大切。英語で会話をすると自分の意思を伝えるクセが自然と身に付くので、子供たちにとって良かったかなと考えています。英語は教科ではなくコミュニケーションのツールですから」
今、たつやさんと星名さんは登録者数740万人超えのYouTuberだ。国内で遭遇した外国人と流ちょうにコミュニケーションしたり、日本のヒット曲を即興で英訳しながら歌ったり、その英語力を存分に生かすことで多くのファンを獲得している。
「英語のおかげで多くの外国人の友達ができたり、世界が広がったりして今があるので、『英語が自分の人生を決めたな』と思っています。
昔は当たり前すぎてわからなかったけど、いろいろ新しいチャレンジをしようとするたびに『英語ができて良かったな』と、そう思う瞬間が増えています。自分が親になったら間違いなく子供に英語を教えたい」(たつやさん)
「私も英語は、夢に近づく一歩だと思っています。また、英語を話せることで人間生活の悩みも減ったと感じていて。『この人はなんでこういう考え方をするのか』と思ったときに『価値観が、文化が違うからか』と思えるので、気が楽というか。それは英語を通していろんな人に出会ってきたからだと思います」(星名さん)
たつやさんは今、英語力を生かして、ハリウッドをはじめとした海外で俳優としてトップを目指すという夢を、星名さんは24年に上智大学を卒業した今、ダンスガールズグループで活動しながら、大学で学んだ「法律」に関わる仕事もしていきたいという夢を追っている。たつやさんいわく「YouTubeは自分をプロデュースできる場所。自分がやりたいことへとつなげてくれるプラットフォーム」で、今後も、お互いの夢のためにYouTubeの活動に力を入れていくようだ。
まゆみさんはそんな2人の活動を、自らも“英語でのコミュニケーション”を公私ともに全力で楽しみながら、応援しているという。
英語は「教科」ではなくコミュニケーションのツール

「話す喜び」の体験を
※本稿は、『プレジデントFamily2025夏号』の一部を再編集したものです。

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東野 りか
フリーランスライター・エディター

ファッション系出版社、教育系出版事業会社の編集者を経て、フリーに。以降、国内外の旅、地方活性と起業などを中心に雑誌やウェブで執筆。生涯をかけて追いたいテーマは「あらゆる宗教の建築物」「エリザベス女王」。
編集・ライターの傍ら、気まぐれ営業のスナックも開催し、人々の声に耳を傾けている。

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(フリーランスライター・エディター 東野 りか 撮影=堀 隆弘)
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