■「棺桶まで歩こう」に込めた意味
『棺桶まで歩こう』(幻冬舎新書)では、「棺桶なんかに入りたくなかったら歩こう。生きてる間は歩こうよ」という提案をしました。人は歩けるうちは、死なない。在宅のがん患者を2000人以上の看取ってきた中で、人は病気になったり、がんが大きくなったりして死ぬのではなく「老いて、弱って死ぬ」と考えるようになりました。
どんなに体にいいとされるものを食べても、いくら健康にいいことをしても、人は必ず老化していきます。人は病気で死ぬのではなく、弱って死にます。病気が進んでも、弱らなければ、なかなか死なないのです。
僕の患者さんにも、がんが大きくなっても生きていられる人がたくさんいます。外からわかるくらいがんが大きくなり、体重が落ちて25キロになっても歩いている方がいます。
人は歩けているうちは、死にません。歩けるというのはがんばれるということで、がんばれるうちは死にません。「がんばれる」というのは気力がある、つまり脳の若さの表れなので、人は気力によって、弱っていくのを遅らせ、余命をのばすことができるのです。
■余命は腫瘍マーカーでは決まらない
歩く速度や歩幅を見れば、その人の寿命がほぼわかります。例えば、がん患者に対して病院の医者が「余命何日」と告げる時は、腫瘍マーカーの数値で見ているわけですが、僕は「歩けるかどうか」で見る。スタスタと歩ける方は、おおむね10年以上生きられるでしょう。ちょこちょことしか歩けない方は余命数カ月、歩けない方は余命1カ月以内、というところです。では、歩けるためには何が大事なのかというと、「気力」と「根性」、そして「体幹の持久力」だと僕は考えています。
背筋を伸ばして、背もたれに寄りかからず座ってみてください。これは体幹の持久力があるからできる姿勢です。30分間、背筋を伸ばして座っていられる方は、30分歩けます。3分しか背筋を伸ばして座っていられない方は、3分しか歩けません。持久力ですから、マラソンの選手と一緒で細い筋肉があればよく、体幹の持久力があれば、どんなに痩せていても歩くことができます。
■イスから立ち上がれないと余命半年
人間は、歩けなくなる前に立てなくなります。歩くのに必要な筋肉のひとつが、膝上にある大腿四頭筋で、これが「立ち上がりの筋肉」です。
僕は患者さんにまず立ち上がってもらい、どう動くかを見ます。そして、ゆっくりでいいので、連続で何回立ち上がれるかを数えます。6回立ち上がれる方だったら、「6回が7回になったら寿命が延びたということ。逆に、6回が4回、3回……と減ってきたらカウントダウンですね」という話をします。
筋肉は使わないとどんどん衰えてしまいますから、気力があるうちにできるだけ歩くことが大事なのです。患者さんには、「膝の上の筋肉があなたの寿命を決めます。俺に聞かないでも、自分で分かるからね。だから歩き続けましょう」と伝えています。
■立ち上がれない人もリハビリで…
歩くためのリハビリは、一人につき一人の介助者が必要で、介護施設は職員の数の方が少ないため、「歩かせる練習がなかなかできない」という声を聞きます。
それを定期的にやっていると、最初は1日に10回立ち上がるのがやっとだった人も、次第にもっと立ち上がれるようになり、歩けなかった人が1日に100回立ち上がれるようになった頃には、歩けるようになっているはずです。
■歩けなかった人が奇跡を起こした
入院中は歩けなかった方が、自宅に戻って歩けるようになることもあります。「歩こう」と言うと「食べられないから、私、歩けない」と言う患者さんも、もちろんたくさんいます。そう思い込んでいるのです。「今歩けなくたって、歩きたいなら歩けるようになるんだよ」と話して、「じゃあがんばる」と答える人は必ず歩けるようになります。
患者さんがもう一度がんばれるくらい、心の状態を上げることができる一番の存在は家族です。家族からの「ありがとう」や「お母さん(お父さん)すごいね!」というほめ言葉が、何よりの「がんばる力」になるのです。だから僕は、「歩けない」患者さんの家族にはまず、「心の状態を上げてあげようよ」という話をします。
僕の患者さんにAさんという70代の女性がいました。彼女は病院で抗がん剤治療を受けて「余命1、2週間」と言われ、「家で死にたい」と言って、家族のいる家に帰ってきた。退院してきた時は、トイレには伝い歩きでなんとか行けるけれど、ごはんは食べられない状態でした。そこで僕は、Aさんの子どもたちに「『母ちゃん、ありがとう』と言ってあげて」とお願いしました。素直な子どもたちは、すぐに「母ちゃん、ありがとう」と言葉にしてくれました。すると彼女は幸せな気持ちになって、「もう少し生きたい」と前向きになったのです。
■最後に息子と娘から感謝された
そうなったら、僕の出番です。「じゃあ、歩こう」。僕が言うと、Aさんは、「私、食べられないから歩けない」と嘆くので、食べられなくて体重25キロでも背筋を伸ばして歩いている別の患者さんの動画を見せて、言いました。
「この女性も食べられないけど歩いてる。あなたは、このまま歩けないと弱って死んじゃうけれど、もう少し歩いて粘っていれば抗がん剤が抜けてきて、食べられるようになるかもしれない。生きたいなら、歩くしかないよ。
「じゃあ私、がんばる」。そう答えたAさんは、毎日少しずつでも歩き、抗がん剤の副作用も落ち着き、次第にごはんも食べられるようになり、退院から2カ月後には、毎日外を30メートルくらい歩けるようになったのです。そこからさらに数週間。食欲が落ちてきたので、そろそろだなと思った僕は、この2カ月半を振り返ってどうだったかを彼女に訊ねました。
「先生、私は幸せよ。先生のおかげで息子と娘が、私に『ありがとう』っていっぱい言ってくれたから。あと少し、死ぬまで面倒見てね」。笑顔で答えたAさんは、その5日後に逝きました。亡くなる3日前も外を30メートル歩き、逝く前日も、退院してきた時よりしっかりした足取りで歩いてトイレに行ったそうです。
たとえ寿命が見えてきても、歩いて粘れば、粘れます。ただ、努力しても延ばせない命は残念ながらありますし、誰しも、いずれ粘れなくなるときはきます。それでも、自分の足で立つこと・歩くことは、患者さん自身が努力をする価値が十分あるのです。
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萬田 緑平(まんだ・りょくへい)
医師
「緩和ケア 萬田診療所」院長。1964年生まれ。群馬大学医学部卒業後、群馬大学医学部附属病院第一外科に勤務。手術、抗がん剤治療、胃ろう造設などを行う中で、医療のあり方に疑問を持つ。2008年から緩和ケア診療所に勤務し、在宅緩和ケア医として2000人以上の看取りに関わる。著書に『穏やかな死に医療はいらない』(河出書房新社)、『家で死のう! 緩和ケア医による「死に方」の教科書』(三五館シンシャ)など。
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(医師 萬田 緑平 取材・構成=浜野雪江)

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