■トランプ大統領の支持率が過去最低
アメリカの国益を第一に謳い、支持層の心を掴んだドナルド・トランプ米大統領。だが、米国民の心は離れつつあるようだ。
決定打はイラン攻撃だった。米公共放送網のPBSが伝えた世論調査では、アメリカ人の過半数がイランへの軍事行動に反対している。政権全体への評価も厳しく、米ニュース週刊誌のニューズウィークが報じた「ジ・アーギュメント」の全国調査(3月12~17日、登録有権者1519人対象)では、トランプ大統領の支持率は40%にとどまった。不支持率は58%に達している。
支持率から不支持率を差し引いた「純支持率」はマイナス18ポイントに沈み、同調査の過去最悪を更新した。ニューズウィーク誌はこれを、「前例のない領域」に突入したと評している。第1次・第2次のトランプ政権を通じ、トランプ氏にここまで不満が高まったことはなかった。
これ以前にも、米シンクタンクのピュー・リサーチ・センターが2月に公表した調査では、トランプ氏の政策を「すべて」または「大部分」支持するアメリカ国民は27%にとどまった。就任時の35%から、8ポイントの低下だ。
支持率の低下は、イラン戦争以外にも複合的な要因が関係している。米公共ラジオ放送局のNPRは、エプスタイン文書の公開、輸入品への大規模関税、移民取り締まりの優先順位、H-1Bビザ(外国人専門家向けの中短期就労ビザ)の扱いなど、迷走が目立つと指摘。支持者の間ではそもそも各政策が「アメリカ・ファースト」に当たるのか否か、見解も割れ始めたという。
共和党支持層の間でも、トランプ氏への信頼は低下している。前述のピュー・リサーチ・センターの調査によると、全面的に支持すると回答した支持層の割合は、昨年の67%から今年2月には56%へと11ポイント急落した。とりわけ深刻なのが、倫理面への信頼の崩壊だ。大統領が「倫理的に行動している」と信じる共和党員は55%から42%へ落ち込み、6項目の資質評価のなかで最低となった。
■裏切られた「アメリカ・ファースト」
トランプ大統領が掲げた「アメリカ・ファースト」への失望は、イラン戦争だけではなく、もっと身近な場所でも広がっている。
カンザス州西部の牧場経営者、カイル・ヘマート氏(61歳)は小学2年生で最初の牛を飼い始め、いまは約275頭の群れを育てている。干ばつによる飼料費の高騰や、食肉加工業者の寡占など、ずいぶんと苦しい時代が10年近くも続いた。
多くの仲間が廃業に追い込まれた、とニューヨーク・タイムズ紙に語る。生き残った者も牧場を拡大する余裕などなく、日々の暮らしをしのぐのが精いっぱいだったという。
ようやく出荷価格が上向き、頭数を増やせるよう投資できるかもしれないと思い始めた矢先、トランプ大統領がアルゼンチンからの牛肉輸入枠を4倍に拡大すると発表した。
トランプ氏は「牛肉価格を下げて消費者を助ける」と説明したが、効果を疑う声は多い。アルゼンチン産はアメリカの牛肉輸入全体のわずか2%にすぎないからだ。一方、大統領の一言で先物価格は下がり、あおりは牧場経営者が直接受けることになった。
ヘマート氏はニューヨーク・タイムズの取材に、「トランプが牧場経営者に送っているメッセージは、『お前たちは儲けすぎだ』ということだ」と語る。何年も赤字に耐えた末、ようやく出始めた利益に、大統領がとどめを刺した。
アメリカ最大の畜産業団体、全米肉牛生産者・牛肉協会はこれまで大統領の貿易政策を概ね支持してきたが、一転して反対声明を出した。「アルゼンチン産牛肉の輸入で家族経営の農場と牧場の未来を損なう大統領を、支持することはできない」。
トランプ氏の最も忠実な支持基盤のひとつであった食肉業界が、大統領自身が「アメリカ・ファースト」に逆行していると明言し、公然と反旗を翻し始めた。
■「戦争はしない」というから投票したのに…
怒りに燃えるのは、牧場主たちだけではない。多くのアメリカ国民が、アメリカに経済的損失をもたらす政策に失望している。主な批判の矛先は、突如始まったイラン戦争だ。
2026年2月末、アメリカはイスラエルとともに軍事作戦「エピック・フューリー(Operation Epic Fury)」を開始し、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師を殺害した。すでに複数の米兵が命を落とし、紛争はなお続いている。
「新たな戦争はしない」と約束して2024年の大統領選を制したトランプ氏が、まさにその公約を破って開戦に踏み切った。
やりたい放題のトランプ氏に、ついに保守層も堪忍袋の緒が切れた。3月末、保守派の祭典に異質な空気が漂った。
テキサス州ダラスで開かれた保守政治行動会議(CPAC)は、MAGA運動の「総本山」とも呼ばれる。ところがこの年次大会の最終日、会場からは政権批判が相次いだとNPRは伝えている。
イラン攻撃からちょうど1か月のこの日、例年なら大会の締めくくりに演説するトランプ大統領の姿はなく、10年ぶりの欠席となった。J・D・ヴァンス副大統領も、元フォックスニュースキャスターのタッカー・カールソン氏も不在。いつもなら壇上を彩る面々が、軒並み欠けていた。
主役不在の会場で、支持者たちは怒りを隠さなかった。テキサス州出身の退役軍人、ジョセフ・ボリック氏(30歳)は、2016年からトランプ氏に投票し続けてきたが、もう支持しないと言い切った。
登壇者からも異論が飛び出した。元フロリダ州下院議員マット・ゲーツ氏は、戦争を正面から批判した数少ない登壇者の一人だ。「イランへの地上侵攻はアメリカをより貧しく、より危険にする」と述べ、ガソリンや食料の価格高騰を招くと警告している。
■カリスマ指導者なきMAGA
トランプ氏への不満を契機に、結束が乱れ始めたMAGA連合。では、なぜトランプ氏の足元はこれほど揺らぎやすいのか。答えは、支持層の構成にある。
米地方紙のシカゴ・サンタイムズが引くエコノミスト/YouGovの世論調査によれば、「MAGA支持者」を自認する有権者は全体のわずか24%。トランプ氏に票を投じた層に限っても54%にとどまる。
この少数派の内実をさらに掘り下げたのが、同紙が紹介する民主主義推進団体「More in Common」の大規模調査だ。1万8000人超を8カ月にわたり追跡した結果、2024年のトランプ支持者はMAGAコア層(29%)、過度のポリティカル・コレクトネスを好まない反ウォーク保守層(21%)、主流共和党層(30%)、消極的右派層(20%)の4グループから成ることが判明した。
ポリティカル・コレクトネスはポリコレとも略され、人種や性別、宗教や障害の有無などによる差別や偏見表現を避ける考え方だ。一方で厳格に適用すると、まるで言葉狩りのようだとする反論もある。
調査が至った結論は、「連合であってカルトではない」。すなわち、MAGAは一人のカリスマの下でカルト的に強く結束した集団ではなく、動機の異なる集団がたまたま同じ旗の下に集まった寄り合い所帯にすぎないのだという。
例えば反ウォーク保守層は、トランプ氏個人への忠誠心というよりも、社会正義運動への強い反発を動機としてトランプ氏に投票したと分析されている。文化戦争でトランプ氏と利害が一致しているために支持したに過ぎず、経済政策や外交で期待を裏切られると離反しやすい特徴がある。
また、消極的右派層に至っては4人に1人が自らの投票を後悔していると答えた。一枚岩にはほど遠い連合が、「アメリカ・ファースト」という一語だけでかろうじてつなぎ留められてきた。その結束が、トランプ氏の繰り出すアメリカの利益に反する政策を契機に、揺らごうとしている。
■動き出したもうひとつのMAGA
トランプ氏に失望した支持者であっても、「アメリカを再び偉大に」のコンセプト自体には賛同する向きは多い。
米政治専門メディア・ヒル紙のエミリー・ブルックス記者は、トランプ氏を熱心にサポートしてきた支持層の一部が、今や「失望と裏切られたと感じている層が明らかに存在する」と言及。
トランプ政権を見放したがアメリカの利益は追求したいこうした層を、彼女は「シャドウMAGA」と呼ぶ。表立ってトランプ氏に反旗を翻す組織ではないが、失望と不満で緩やかに非公式に連帯し、運動の方向性に影響を及ぼしつつある勢力だ。
真っ先に反旗を翻したのは、まさに政権の中心的人物だった。
NPRは、議会やメディアからも声が上がったと報じる。元共和党下院議員マージョリー・テイラー・グリーン氏や、元ニュースキャスターのカールソン氏もメディアで、相次いでイランへの攻撃に疑問を呈している。アメリカの国益重視なら、なぜイスラエルの戦争に国費をつぎ込むのかとの問いを突きつけた。
これまでのトランプ氏であれば、党内で一定の反乱が起きたとしても、彼らは「RINO(名ばかり共和党員)」であると一蹴できた。だが「シャドウMAGA」の造反者たちは、トランプ氏自身が掲げた「アメリカ・ファースト」に、トランプ氏自身の政策が沿っていないとの鋭い疑問を投げかける。MAGA運動の正統な継承者を自任し、理念を裏切ったのは大統領の方だと現実を突きつけているのだ。
■共和党支持者が選んだ「次の大統領」
保守派の政治集会CPACの模擬投票では、すでに「トランプ後」を見据えた動向が見え始めた。
NPRによると、3月末の模擬投票で、2028年の共和党大統領候補としてヴァンス副大統領が53%で首位に立ち、マルコ・ルビオ国務長官が35%で続いた。首位は2年連続で、保守派の目は明らかにもう「次」に向いている。
今年のCPACに、当のトランプ大統領は姿を見せなかった。CPAC議長のマット・シュラップ氏は、「この連合が結束を保てている理由の一つは、人々がトランプとトランプイズムを受け入れたからだ」と述べた。だが主役のいない壇上でそう力説すればするほど、「トランプなきMAGA」に果たして求心力は残るのかと、かえって疑いたくなる。
早ければ2026年秋の中間選挙で、共和党はこの内紛のツケを払わされかねない。PBSの番組に出演した保守系雑誌『アメリカン・コンサバティブ』編集長でトランプ支持者でもあるカート・ミルズ氏は、イラン紛争が長引けば共和党は上下両院で議席を失うと予測した。大統領予備選でもイラン問題が最重要争点に浮上するとみている。
■副大統領ですらトランプの戦争を支持しない
さらにトランプ政権にとって、選挙以上に深刻な問題がある。戦争の大義そのものが揺らいでいるのだ。CNNの分析によれば、イラン攻撃の根拠とした「差し迫った脅威」について、政権は説明を二転三転させた末、いまだ決定的な裏づけを示せていない。明確な開戦理由を欠いたまま有権者の疑問だけが高まれば、支持基盤からじわりと人が離れていきかねない。
極めつけの皮肉がある。CNNが指摘するとおり、保守政治集会CPACの模擬投票で「ポスト・トランプ」の筆頭に立ったヴァンス副大統領その人が、イラン戦争への全面支持から明らかに距離を置いているのだ。「戦争をしない大統領」を信じて集った人々は、当の大統領が仕掛けた戦争を前に、結束を引き裂かれつつある。トランプ自身が放った「アメリカ・ファースト」のブーメランがどこに返ってくるのか、まだ誰にも予想できない。
■アメリカの若年層に広がる失望
4層に分かれたMAGA連合。走り始めた亀裂に加えて、世代間の乖離も目立つ。
アメリカン・コンサバティブ誌のミルズ氏はPBSの取材で、イラン戦争を推進しているのはベビーブーマー世代の保守派だと指摘する。若い世代はそもそも、開戦の大義が正しいとは認めていない。
「イランには本土を攻撃できる核兵器も弾道ミサイルもなかった」とミルズ氏は述べ、マイク・ジョンソン下院議長らが唱える「差し迫った脅威」論を一蹴した。オバマ政権時代のイラン核合意より有利な条件で交渉に臨む道もあったが、それでもトランプ氏は開戦を選んだ。これがどうアメリカ・ファーストに結びつくのか、支持層には混乱だけが残る。
ミルズ氏はトランプ氏の開戦を、ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領が1988年の大統領選挙キャンペーン中に掲げた「新たな増税はしない」の公約とその後の公約破りになぞらえ、歴史に残る裏切りだと断じた。
「永遠の戦争はもう終わりにしよう」。そのフレーズで支持を集めた大統領に、とりわけ若い世代は深く失望している。
----------
青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
----------
(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
