※本稿は、大前真由美『中学受験塾 エルカミノがわかる本 元講師が教える「考える力」を育てる塾のすべて』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■桜蔭合格に近づく子vs遠ざかる子の国語答案
桜蔭中学校の入試問題を使い、生徒が実際に書きそうな解答をどのように添削していくか、具体例をご紹介します。
2025年度 桜蔭中学校
『〈弱いロボット〉から考える 人・社会・生きること』
(要約)
筆者は、手作りしてきた「ゴミ箱の姿をしたロボット」を子ども向け施設に連れ出す。そのロボットは、「ポリバケツ」そのものという姿でヨタヨタと動きまわるだけで、自分ではゴミを拾えない。ところが一人の子どもがいたずらからゴミを投げ入れると、ゴミ箱ロボットはお礼をするようなしぐさをする。このことをきっかけに、他の子どもたちも一緒になってゴミを拾い集めてきてゴミ箱はいっぱいになってしまう。そのうち一人の子どもがその場を仕切り始め、色分けされたゴミ箱に分別してゴミを入れるようになる。
こうしてロボットとしては不完全であるからこそ、放っておけないという気持ちを引き起こさせ、子どもたちに活躍の場をたくさん与えることとなった。
ロボットの開発にあたっては、多くの場合その機能や能力の隙間を埋めようと工夫し「ひとりでできるもん!」を究めようとするが、想定外のことに対しては脆弱であり柔軟性に欠けてしまう。ところが「ゴミ箱ロボット」は、弱さをさらけ出すことで子どもたちの器用にゴミを拾い集めるという強みややさしさや工夫まで引き出した。
「注文をまちがえる料理店」というレストランがあり、ホールスタッフの多くは認知症の方々で、「注文をまちがえるかも」と弱さをさらけ出すことによって、客と店員という立場を越えて助け合い「しなやかなシステム」を作り上げている。
またハサミはわたしたちの手の働きを得ることによって、人間の手だけではできないひもなどを断つことを可能にしている。このように素朴な道具はわたしたちとの協働によってしなやかな関係を作っているからこそ、世の中から淘汰されず重宝されている。
問四 (文中の)「〈しなやかな強さ〉というのは、こういう関係の中から生みだされるようです。先の『ひとりでできるもん!』と強がっているはずでも、実は『とても脆(もろ)い』ことと対照的に思われるのです。」について、「しなやかな強さ」が「とても脆い」ことと対照的とはどういうことですか、具体的に説明しなさい。
さまざまなレベルの答案に対してどう指導するかを見ていきましょう。以下の生徒解答と添削例も、エルカミノが行っている志望校別講演会の資料から抜粋したものです。
模範解答と比較しながらご覧いただくとわかりやすいでしょう。
模範解答
欠けている機能や能力を埋めたり、新たな機能を追加したりしてロボットが自分の力で事態をのりこえる完全さを究めようとしても、想定外のことが起こると対応できず脆さを露呈する。弱みのあるゴミ箱ロボットが子どもの手助けを引き出したように、不完全なもののほうが互いの協働を生み、弱さを補い合って柔軟な強さを引き出すということ。
■正解のように見えて実は不正解な解答3つ
生徒が書きそうな解答 例①
「自分の力だけで、なんとかしよう」とがんばって「足し算のデザイン」で機能を追加しても、想定外のことには脆弱である。
入試では少しの部分点しかもらえないレベルですが、本文のおおまかな読解はできていることがわかります。ただし、いくつかの改善が必要です。
まず、この答案では、本文の語彙をそのまま引用しすぎています。比喩を使わず具体的に言い直す必要があります。たとえば、「足し算のデザイン」という作者の表現を「自分ひとりの力で事態を乗り切れるよう、完全さに向けて機能を追加しても」などと一般的な言葉に言い換えて説明します。
自力で完成度を上げていく強いはずのものは、想定外のことが起きると機能しなくなる弱さを露呈します。一方、不完全なもの――ここではゴミ箱ロボット――は、不完全であるがゆえに協働を招き、結果として「完全を目指すものにはできなかったこと」を達成します。生徒には、この不完全なものの強みを書くよう伝えます。
では、不完全なものの強みとは何か。「子どもたちの助けを引き出す」という内容は書けているので、そこから発展させ、「協働を生み出す」「互いの弱さを補って柔軟な強さを発揮する」という内容が必要だと指導します。
また、この答案では問いの「具体的に」の部分に応えていません。
生徒が書きそうな解答 例②
ロボットに欠けている能力があったら新たな機能を追加して完全さを追求しても、想定外なことが起こると立ち往生してしまう弱さがある。自分でゴミを見つけたり拾ったりできないゴミ箱ロボットは、子どもの力を借りて仕事を完成させる強さがある。
この解答は結論部分が間違っています。エルカミノの記述添削の方針として、結論が間違っている答案は途中が合っていても不正解としています。一般的な模試では、要素のつなぎ合わせで部分点がもらえますが、入試では、結論がずれていれば大幅減点になります。逆に結論さえとらえていれば、合格点に達する可能性が高くなります。
「子どもの力を借りて仕事を完成させる強さがある」という結論では、成果を上げたこと自体が強さになってしまいます。しかし、ここで問われている「しなやかな強さ」とは、成果を上げられることそのものではなく、成果を上げるに至る「協働を生み出すこと」にあります。この結論部分を間違えてはいけません。
普段から記述の結論がずれてしまう子には、その設問に対する核心をひと言で考えるよう指導します。この核心こそが結論につながります。授業では、解答の核心をひと言で決め、そこに向かって書き始めるよう指導します。つまり、記述の解答を文末から積み上げていく、ともいえます。
■「たくさん書けば加点される」とは限らない
生徒が書きそうな解答 例③
ロボットの不完全なところが、結果として子どもたちに活躍の場をたくさん与えていること。
本文から抜き出すところとしては間違っていません。おおむね読解はできていると思われます。前述したような解答の核心も合っていて、そこに向けて書いています。
しかし、問いに書いてある「対照的」「具体的」に触れていません。何がどう対照的なのかを具体的に書き加えるよう指導します。
このような記述を書いている子の指導は、意外と難しくありません。結論部分が間違っていないからです。
記述が苦手な子であっても、結論部分さえ把握できているなら、記述力は必ず伸びていきます。
逆に、余計なことを書いていたり、結論が間違っていたりする記述をしている生徒は、その考えを修正するのが大変です。字数制限がない記述問題に対し、「たくさん書けば加点される」と指導する塾もあるようですが、実際に入試で加点されているかは疑問です。
さて、ここで紹介したような誤答をする生徒にまず必要なのは、読解のスピードです。読解に時間がかかると、記述に費やせる時間が限られてしまいます。記述の練習をするとともに、読解のスピードを上げる指導が必要となります。エルカミノでは4・5年生の段階から、時間を意識した読解の訓練を行っています。
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大前 真由美(おおまえ・まゆみ)
フリーライター
筑波大学第二学群(現:人文・文化学群)比較文化学類卒業。一般企業勤務を経て、二人の娘を育てながら生活情報誌の編集ライターに。その後、中学受験関連書籍などを手がけるフリーライターとして活動。
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(フリーライター 大前 真由美)

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