※本稿は、菅原道仁『ゆるまる脳 タイパ疲れの時代に効く「脳の新習慣」』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
■知らないうちに脳に負担がかかっている
あなたの脳を整えて、人生全体のパフォーマンスを上げるテクニックについてご紹介していきます。
いちばん初めにしてもらうのは、「入力を制限する」こと。ここでいう「入力」とは、もちろん情報入力のことです。人生のタイパを上げるためには、まず、日々の多すぎる情報入力量を整える必要があります。
そうすることで、脳内おかんこと「扁桃体」が警報を発する機会が減って、働きづめの脳内交換手「サリエンス・ネットワーク(SN)」が少し休めるようになるからです。
僕たちの扁桃体は、さまざまな情報に反応します。中でも、扁桃体が特に反応しやすいのが、
・危険な情報
・チャンスに見える情報
・比較を誘う情報(格差を感じさせるもの)
といった、あなたの生存を有利にしてくれそうだったり、逆に、命を脅かしそうな情報です。SNSやウェブサイトには、こうした情報があふれていますよね。
たとえば、「実は危険な食品、○選」「○○するだけで年収アップ!」「30代で○○を達成している人の共通点」ほら、こういう記事、もう問答無用で目に入ってきませんか?
他にも、動画アプリには、あなたと同世代の人のキラキラした姿や、逆に、胸が痛くなるような事件などの動画があふれ返っています。それを目にするたびに、イライラしたり、不安から心臓がキュッとなったり。
これが、扁桃体の警報が鳴っている状態です。
■脳を守るいちばん確実な方法
こうして扁桃体が警報を鳴らし続ける環境では、自分にとっての重要情報をピックアップするSNに、いつも以上に負担がかかることになります。
その結果、SNは、ちょっとしたネガティブ情報も「重要かもしれない」と判断するように。そのせいで僕たちは、日々、膨大なタスクを抱えることになり、作業タイパも、人生のタイパもズルズルと低下させていくことになります。
というわけで、サリエンス・ネットワーク(SN)を休ませる――つまり「脳をゆるめる」ためのいちばん確実な方法は、僕たちの主な情報取得源である、スマホに触れる時間を減らすこと。
「そうだよね。やらなきゃいけないとは思ってた」と、あなたもきっと気づいていたのではないでしょうか。
今、実に多くの人たちが、スマホに依存しています。どこに行くにもスマホをつかみ上げ、ちょっとした空き時間にも無意識に画面をタップ。「スマホを忘れると、不安で何も手につかない」、そんな人も少なくないでしょう。
■「最悪、脳が腐っている」依存度チェック
ここでご紹介するチェックリストは、国立病院機構 久里浜医療センターが公開している、「スマートフォン依存スケール(短編版)」です。
このテストでは、以下の10項目について、自分の状態にどれだけ当てはまるかを「1:全く違う」~「6:全くその通り」の6段階で回答してもらい、それをもとに医師が診断します。
このリストで得られるスコアは、あなたの脳の「疲労度」を知るための大切なバロメーターになります。
血圧や体温を測るのと同じように、今の脳の状態を客観的な数値で見てみる。点数が高かったとしても、それはあなたの性格のせいではなく、単に「脳がスマホという刺激にさらされすぎている」という事実を示しているにすぎません。
まずは「今の自分のコンディション」を確認するつもりで、気楽にチェックしてみませんか。
■スマホの使いすぎで「脳」がサボり始める?
ちょっと怖い話をすると、チェックリストで当てはまる項目が多かった人は、脳が腐っている可能性もあります。「ブレインロット(brain rot)」。「脳腐れ」とも訳される、この言葉を知っている人も多いでしょう。
これは、オックスフォード大学出版局が選出した「2024年の流行語」。SNSなどの低品質のオンラインコンテンツを過剰摂取することで、認知能力や精神力が低下した状態を表す言葉です。
SNSなどにある一部の低品質なコンテンツを過剰に摂取し続けることで、認知能力や自制心が低下した状態を指します。
「ショート動画を見すぎて、なんだか頭がモヤモヤする」「やめたいのに、どうしてもスマホをいじる手が止まらない」そんな現代人の悲鳴を象徴する言葉として、瞬く間に世界へ広がりました。
もちろん、実際に脳が物理的に腐るわけではありません。
たとえば、学術誌「NeuroImage」に掲載された2025年の研究(※1)。これによると、ショート動画の見すぎで、扁桃体がリスクに反応しづらくなり、衝動的でリスキーな選択をしやすくなること。
また、集中・熟考などを司る脳の楔前部の活動が鈍って、集中力が続かず、ささいな決断にも時間と労力がかかるようになることがわかりました。
■1日平均6時間以上スマホを使う人
ショート動画は、瞬時に人目を惹きつけるために、強烈なインパクトを集めて構成されていますよね。そうした強すぎる刺激に扁桃体や楔前部が慣れてしまい、脳の反応が鈍くなっているのです。
SNSなどに流れてくるあやしい情報に飛びついてしまう人が後を絶たないのは、もしかすると、こうした脳的背景があるのかもしれません。
他にも、学術誌『Social Cognitive and Affective Neuroscience』に2023年に掲載された研究(※2)。
これによると、1日平均6時間以上スマホを使う依存傾向の高い人は、創造性が低下して、
・出てくるアイデアの数が減る
・似たようなパターンしか思い浮かばない
・アイデアにユニークさがなくなる
といった傾向があることもわかりました。
■スマホは我々の脳を静かに壊している
これは、スマホが「答え」をすぐに提示してくれるせいで、脳が自ら考えることをやめ、完全な「受け身状態」になってしまうため。いわば、スマホに頼りすぎることで、脳がサボり癖をつけてしまった状態と言えるでしょう。
「あ~、まさに自分のことだ」と思った人も多いのではないのでしょうか。
こんなふうに、スマホの長時間使用、そこからもたらされる大量の情報入力は、僕たちの脳を静かに壊しています。働きすぎの交換手のみならず、他の部分もどんどんうまく働かなくなっているんですね。
もちろん、スマホそのものがすべての「悪の根源」というわけではありません。マップやカレンダー、連絡ツールなど、特定の目的のために使う分には非常に便利であり、無理に手放して生活を不便にしすぎる必要はないのです。
問題なのは、目的もなくダラダラと画面をスクロールし続ける「受け身の使いかた」です。通知が鳴るたびにスマホに「呼び出される人生」から、自分自身がスマホを「道具として使いこなす人生」へとシフトしていきましょう。
まずは不要なアプリの通知をオフにしたり、朝や晩の少しの時間だけでもスマホに触れないルールを作ったりして、デジタルとの付き合い方にメリハリをつけてみてください。
スマホと適切な距離を保ち、脳に静かな「余白」を取り戻すこと。それこそが、情報過多な現代において、自分自身の人生の質を守るための第一歩になるはずです。
※1
論文タイトル:Loss aversion and evidence accumulation in short-video addiction: A behavioral and neuroimaging investigation. 著者:Chang Liu, Jinlian Wang, et al. (2025)
※2
論文タイトル:Reduced brain activity and functional connectivity during creative idea generation in individuals with smartphone addiction. 著者:Xinyi Li, Yadan Li, Weiping Hu, et al. (2023)
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菅原 道仁(すがわら・みちひと)
日本脳神経外科専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター
脳神経外科医。菅原脳神経外科クリニック(東京都八王子市)、菅原クリニック東京脳ドック(港区赤坂)院長。杏林大学医学部卒業。
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(日本脳神経外科専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター 菅原 道仁)

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