身体のパフォーマンスを高めるには何をすればいいか。スポーツトレーナーで理学療法士の中野崇さんは「同じパワーが発揮できるのであれば、筋力への依存度は低いほうがいい。
筋力だけに頼らず大きなパワーを発揮するには『身体操作』を取り入れる必要がある」という――。
※本稿は、中野崇『最強の身体操作 プロが実践する連動スキルの磨き方』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■「とにかく思いきり筋力を使う」は大間違い
思いきり筋力を使うことが要求されるのが、ウエイトトレーニングに代表される筋力向上型のトレーニングだと位置づけた場合、ふだん行うトレーニングがここに偏ると、とにかく思いきり筋力を使うという動き方(=筋力依存型)のパターンがいつの間にか身についてしまいます。
そうなると、「余分な筋力を使わずに大きなパワーを発揮する」という高いパフォーマンスが発揮できる条件からはどんどん乖離していってしまいます。
筋力向上型のトレーニングは、パフォーマンスの向上に不可欠なトレーニングであることは間違いありません。
しかし、一方でパフォーマンスの低下につながりやすい側面も持っているのです。
動きの本質を突き詰めた技術である「身体操作」の核心には、「筋力への依存度」という観点があります。
競技動作の中で同じパワーが発揮できるのであれば、筋力への依存度は高いほうがいいのか? 低いほうがいいのか? その答えは明白です。
・ケガの繰り返し

・疲労

・ボールコントロールの不正確さ

・動き出しが遅い

・上半身と下半身が連動しない

・相手に読まれやすい
これらのデメリットは、筋力への依存度が高いことで生まれるデメリットとまさに一致しています。
実際、プロ選手たちは試合の中で、「いかに少ない力で最大限のパフォーマンスを発揮するか」を重視しています。長いシーズンを通してパフォーマンスを維持する必要性を考えると、当然のことだと言えるでしょう。
ただし、筋力への依存度を減らした結果、発揮できるパワーまで減ってしまっては元も子もありません。

そこで「身体のつながり」や「エネルギーリターン」、つまり身体操作を取り入れるのです。
これらを最大限に活かすことで、従来の「とにかく筋肉を全力で使う」「とにかく筋力を高める」という考え方から脱却し、筋力だけに頼らず大きなパワーを発揮することが可能になります。パワーを減らすことなく、です。
■トップアスリートの体型が“ぽっちゃり”の理由
トップアスリートと聞くと、誰もがシックスパックに割れた腹筋や分厚い胸板、大きな肩まわりを思い浮かべるかもしれません。
しかし、実際は違います。競技にもよりますが、彼らの体型は一般的なイメージとは異なり、「ぽっちゃり系」や「寸胴体型」に見えることが多いのです。
もちろん、筋肉量そのものは圧倒的に多いですが、特に体幹部の筋肉のつき方は、ボディビルダーのような「見せる筋肉」とは根本的に異なります。
ここで重要なのは、外見(表面の筋肉系)と中身(深部の筋肉系)の発達は別のものであり、外見と機能は切り離して考えるべきだということです。
一般的に「ムキムキの肉体」としてイメージされるのは、身体の表面にある表層筋群(いわゆるアウターマッスル)です。シックスパックをつくる腹直筋、分厚い胸板を形成する大胸筋、大きな肩をつくる三角筋などが代表的です。
これらを鍛えることで、「見た目の強さ」を手に入れることはできます。
しかし、トップアスリートの強さを支えているのは、むしろ身体の深部にある深層筋群(俗にいうインナーマッスルですが、厳密には異なります)です。

■深層筋群の発達がないとケガのリスクにつながる
深層筋群は全身に分布しており、関節の安定(専門的には「動的安定性」と言います)を保ち、骨格内での力の伝達をスムーズにする役割を持ちます。
深層筋群が十分に発達していることで、競技動作の際に身体がブレることなく、全身の力を効率的に伝えることができるのです。
つまり、深層筋群の発達こそが「身体のつながり」を生み出すカギ。
逆に、未発達なままアウターマッスルばかり鍛えてしまうと、見た目の変化はあっても動作の効率が下がり、パフォーマンスの低下やケガのリスクにつながります。
たとえば、シックスパックになるほど腹直筋を鍛えても、腹直筋は背骨につながっていないため、体幹の連動性や力の伝達にはあまり貢献しません。
むしろ体幹が固くなり、スムーズな動きが妨げられてしまうことすらあります。
トップアスリートの体幹が「寸胴体型」をしている理由はほかにもあります。
深層筋群が発達していることで背骨や胸郭(きょうかく)が柔軟に動き、さらに腹圧も高いため、体幹の容積が内側から広がるような構造になっているためです。
つまり、内側から広がることで腹圧が向上し、背骨が安定します。それにより「身体のつながり」が生まれ、力の伝達効率がアップするということです。
この構造こそが体幹の安定を生み出し、高いパフォーマンスを発揮するための基盤となります。
■本当に足りないのは筋力ではないのかも
多くの人は、身体の問題を解決する方法として「筋力をつける」ことを優先させます。
特にアスリートはその傾向が強いです。
腰を痛めるなら腹筋を鍛える、腕のパワー不足を感じるなら腕や背筋を強化する、という具合です。
しかし、これはあくまで「今ある動作パターンの中」で筋肉を鍛えているにすぎず、動き方そのものは変わりません。むしろパターンが固定化されることで筋力への依存が強まり、負担の偏りが助長されることすらあります。
このような複雑な問題において重要な解決策となったのが、今では「身体操作」と呼んでいる観点です。
身体操作という言葉は武術の世界では一般的であり、さまざまな考え方があります。
本稿での身体操作の位置づけは、「動きの中で扱える力の種類(協力者)を増やし、的確に扱えるようになること。そして、そのために身体のつながりを高めていくこと」。
私はこの考え方を体系立て、具体的なトレーニングとして落とし込むことで、多くの選手のパフォーマンス向上を支えてきました。
そんな、「身体操作トレーニング」の中から、今回は背骨・肋骨の動きを改善し、みぞおちへの刺激を与える「8の字背骨回し」をご紹介します。
このトレーニングは深層筋群の発達を促すことを目的としています。深層筋群が適切に働いていると過剰な緊張がなく、本来力が入るべき場所に力が入り、力を入れる必要のない部位の脱力を促せます。

さらに深層筋群が発達していることで関節を安定させ、「身体のつながり」をつくることができます。
■【8の字背骨回し】
1.両手でみぞおちを押さえる
立位の姿勢で行う。指を下の写真の形にしてみぞおちを押す。
2.1の状態のまま、肩を後ろと前に回す背泳ぎするように肩を交互に後ろ回しする。速く動かすと背骨・肋骨の動きが小さくなりやすいので、ゆっくりと。次にクロールをするように肩を交互に前回しする。後ろ回しよりも力みが出やすいため、さらに注意が必要。
みぞおちを押さえて背骨を動かすことで、上半身と下半身をつなぐ大腰筋の働きを促し、力の伝達がスムーズに。また、みぞおちは体幹の安定に関わる横隔膜の位置を指し、その動きは呼吸と腹圧のコントロールにも役立ちます。このトレーニングは肩を動かすことで、背骨・肋骨、みぞおちにまんべんなく刺激が入るメリットがあります。
また、ボールを投げる・ラケットを振るといった動作に不可欠な背骨や肋骨の柔軟な動きが含まれており、競技動作全体のしなやかさを引き出すのに効果的です。
〈ここをチェック〉●背骨だけでなく肋骨がグリグリ動いている感覚を追いかける

●肩が疲れてきてしまうのはNG(背骨・肋骨が十分に動かせていない)

筋力を鍛えていてもパフォーマンスが上がらない、ケガを繰り返すという人は、ぜひこれら身体操作トレーニングに取り組んでみてください。


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中野 崇(なかの・たかし)

スポーツトレーナー/フィジカルコーチ/理学療法士

株式会社JARTA international 代表取締役。1980年生まれ。大阪教育大学教育学部障害児教育学科(バイオメカニクス研究室)卒業。2013年にJARTAを設立し、国内外のプロアスリートへの身体操作トレーニング指導およびスポーツトレーナーの育成に携わる。イタリアのトレーナー協会であるAPF(Accademia Preparatori Fisici)で日本人として初めてSOCIO ONORATO(名誉会員)となる。イタリアプロラグビーFiamme oroコーチを務める。また、東京2020パラリンピック競技大会ではブラインドサッカー日本代表フィジカルコーチとして選手を支えた。YouTubeをはじめとするSNSでは、プロ選手たちがパフォーマンスを高めるために使ってきたノウハウを一般の人でも実践できる形で紹介・発信している。著書に、『最強の身体能力 プロが実践する脱力スキルの鍛え方』(かんき出版)がある。

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(スポーツトレーナー/フィジカルコーチ/理学療法士 中野 崇)
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