※本稿は、マルク・ティッヘラー,オスカル・デ・ボス著/児島修訳『脳をオフにせよ 仕事も人間関係もうまくいく集中術』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■6人に1人がSNS依存症
集中力はどこまで自分でコントロールできる?
こんな経験をしたことはないでしょうか?
アプリを全部チェックして、新着メールがないのはわかっているのに、もう一度スマホをチェックしてしまう。あるいは、「新しいメールが来ないかなあ」と思いながら、受信トレイを2秒ごとに更新している。
私も、以前はしょっちゅうこんなことをしていました。まるで、おやつがもらえるかもしれないと期待して、夢中になってボタンを押し続けるサルのように。
自分も同じようなことをしている、と思った人も、心配しないでください。
それはあなただけではありません。
複数の研究によれば、現代人の8人に1人がスマホ依存症で、6人に1人がSNS依存症です。
集中力がテーマの本書も、この問題を避けて通るわけにはいきません。最初に浮かぶ疑問は、「スマホやメールを1分おきにチェックしたいと思いながら、中断なく仕事に集中することは本当に可能なのか?」です。
■SNSの中毒性
アプリやSNSをチェックしたくてたまらなくなるのは、私たちのせいではありません。これらは、中毒性があるように設計されているのです。
そのビジネスモデルはシンプルです。アプリが使われれば使われるほど広告スペースが売れ、企業の価値が上がります。このモデルはうまく機能しています。2008年、私たちがスマホに費やす時間は1日平均18分でしたが、2018年には1日3時間以上に増加しています。
私たちを画面に釘付けにするために、あの手この手を尽くした心理的なトリックが仕掛けられています。
その代表例が通知です。通知を無視するのはとても難しいため、私たちはそれまでしていたことの手を止めて、ついアプリやウェブサイトを覗き込んでしまいます。つまり通知は、私たちの行動や生活を左右する強力な心理操作ツールになっているのです。
「停止の合図」を取り除くことも、開発者が用いる巧妙なテクニックです。以前の私たちの生活には、自然な「停止の合図」があちこちにありました。朝、新聞が配達されたら、それを手に取って読み、読み終えたらほかの活動を始めていました。
一方、デジタルニュースには終わりがありません。どの記事にも別の記事へのリンクがあり、読者を誘っています。そのため、なかなか区切りをつけて次の活動に移れないのです。たとえば、アイデア収集アプリ「Pinterest(ピンタレスト)」では、ユーザーが何をしても次のピン(画像付きのブックマーク)の一部が常に表示されるようになっています。
このような仕組みによって、ユーザーがアプリの画面をスクロールし続ける可能性が高くなることは、研究でも証明されています。こうした設計手法が「エンドレススクロール」と呼ばれるのには、理由があるのです。
こうしたアプリやSNSは、カジノのスロットマシンと同じ原理で設計されています。カギはいつ報酬がもらえるかがわからないことです。これは「変動報酬」と呼ばれ、極めて強い中毒性があります。
■スマホの新着メッセージが気になるワケ
最初にこれを研究したのは、アメリカの心理学者、B・F・スキナーです。
1950年代、スキナーはハトを使った実験を行いました。
ハトをレバー付きのケージに入れます。
すると、ハトはとりつかれたようにレバーを押し続けるようになったのです。
スマホに新しいメッセージが届いていないかをチェックしたいという衝動も、同じように機能します。メッセージが届いているかどうかはわかりません。
届いているのは、ワクワクするような誘いでしょうか?
それとも、嫌な知らせでしょうか?
新しいメッセージを受け取るたびに、私たちの脳内でドーパミンが放出されます。
それは、実験室のハトとなんら変わりありません。ドーパミンは、メッセージの内容にかかわらず、私たちを幸せな気分にさせてくれる化学物質です。
■スマホ中毒も薬物中毒も脳の反応は同じ
私たちの脳が求めているのは、「新しい何か」を処理することだけです。薬物中毒者が薬物を摂取したときにも、脳内でドーパミンが放出されます。つまり、覚醒剤を摂取しても、アプリのメッセージをチェックしても、脳の初期反応は同じなのです。
スマホ中毒とほかの中毒には明らかな類似点があります。スマホ中毒者が「いいね」や新着メッセージを求めて携帯電話をチェックせずにはいられないのは、薬物中毒者が薬物を摂取せずにはいられないことや、ギャンブル中毒者がスロットマシンをもう一度プレイせずにはいられないことと同じなのです。どのケースでも、脳は中毒性のある刺激に対してまったく同じように反応します。
ドーパミンが放出されたときに味わう快感はとても中毒性が高いため、それがなくなると落ち着かない気分に陥りやすくなります。スマホを持たずに家を出たことがある人なら、それがどんなものかわかるでしょう。私たちがつい何かをしている最中にスマホをいじってしまうのは、ドーパミンの快感を求めているからなのです。
念のために言えば、ドーパミンそれ自体には何の問題もありません。ドーパミンは、私たちに新しいことに挑戦する意欲を与えてくれます。これは、私たちが生き延びるうえで欠かせない素晴らしい神経伝達物質です。問題は、アプリ開発者が収益を増やすために、人間の生得的なドーパミンへの欲求を利用していることなのです。
■自分の子にiPadを使わせないスティーブン・ジョブズ
「自分が売る麻薬でハイになるな」
面白い事実を紹介しましょう。私たちのスマホやタブレット、アプリの開発に携わっている天才的な頭脳の持ち主たちが、自分の子どもにはそれらを使わせないことは珍しくありません。
■集中力アップのコツ
デジタル・デトックス
デジタル・デトックスは、スマホの使用を減らすための良い方法なのでしょうか?
ドイツの大学は、被験者の学生を3つの群に分けてこれを研究しました。1番目のグループには7日間スマホを使うのをやめさせ、2番目のグループには1日の使用時間を1時間に制限し、3番目のグループには何の制約も課しませんでした。その結果、意外にもスマホの使用を1日1時間に制限したグループのほうが、スマホを7日間使うのをやめたグループよりも、その後のスマホ使用が減少しやすく、かつ長続きすることがわかりました。
スタンフォード大学の行動科学者であるB・J・フォッグは、スマホの使用を減らすのに役立つ方法を開発しました。それは「タイニー・ハビット(小さな習慣)」と呼ばれるもので、現在では世界中の何百万もの人々に採用されています。これは、「望ましい行動を、すぐに習慣にしやすくするために、小さくする」というものです。これは、新しい習慣を既存の習慣に組み合わせるのにも役立ちます。
その公式はこうです。
[既存の習慣]の後、[新しい小さな習慣]をする。
(例:「家に帰ったら、スマホを機内モードにする」「夕食後、スマホをキッチンの引き出しに入れる」)
やり方は人それぞれです。
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マルク・ティッヘラー
認知心理学者
神経心理学の専門家。集中力・注意・脳の働きを専門に研究し、最新の神経心理学の知見を実践的に解説する研究者。集中力をテーマにした著書は国際的なベストセラーとなり、20以上の言語に翻訳されている。脳科学・心理学の研究成果を、仕事や日常で実践できる具体的な方法に落とし込むことに定評がある。TEDx登壇や国際カンファレンスでの講演を通じ、世界各国で集中力とパフォーマンス向上について発信。オスカル・デ・ボス生産性・集中力向上の実務家。研修企業「Focus Academy」の創設者として、企業・組織向けに集中力と生産性向上を支援している。ポッドキャストや講演を通じて、集中力や脳の休ませ方に関する最新情報を継続的に発信している。
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オスカル・デ・ボス
生産性・集中力向上の実務家
ビジネスパーソンの生産性と集中力アップを支援する研修会社「フォーカス・アカデミー」の創設者。同社でアプリやビデオ、書籍など、幅広く実用的なツールを開発。ワークショップや講演などの活動を積極的に行う。英語やオランダ語でのプログラムも提供。
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(認知心理学者 マルク・ティッヘラー、生産性・集中力向上の実務家 オスカル・デ・ボス)

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