■自ら「新皇」と称した大胆不敵
日本には「八百万(やおよろず)の神」という言葉があります。つまり自然物からモノにいたるまで祭神は数限りなく存在するわけですが、なかには「神になった人」もいます。
ではどんな人(の霊魂)が神になるのか。大別すれば、(1)偉大な業績やすぐれた徳を有した人、(2)祟(たた)りをなすと恐れられた人、が挙げられるでしょう。今回紹介する平将門公は、この(1)と(2)ともに合致する人物です。
さて、平将門(903~940)とは何者でしょう。
平安時代の中期に実在した坂東(関東)を代表する武士・豪族で、50代桓武天皇の血を引く、いわゆる桓武平氏の末裔(まつえい)。父親は武門の誉ともいうべき鎮守府将軍を務めた平良将(たいらのよしまさ)です。
平氏一族の領地争いに端を発する関東諸国の戦乱のなかで頭角をあらわし、国府を次々と攻略、その官印を奪い、実力で地方行政権を掌握。ついには、天神・菅原道真の神託を後ろ盾に、自らを「新皇」と称するにいたります。
新皇すなわち「新しい天皇」。なんということでしょう。そんな称号を名乗った人物は、後にも先にもいません。説明するまでもなく、それは古(いにしえ)より続く天皇中心の秩序を真っ向から否定し、関東に独自の独立国家を樹立しようとする史上類を見ない大胆不敵な試みにほかなりませんでした。
■実力主義の武士の世を先取り
結果として、反乱は短命に終わるのですが、将門は実力主義の武士の世を先取りした開拓者とされ、平親王(将門の異名)の志はのちの鎌倉幕府創設へとつながる伏線になったともいわれています。
このため、天皇中心史観において将門は「朝敵」あるいは「大逆賊」とよばれるいっぽう、中央の圧迫に屈せず自分らの利益を守った、独立不羈(ふき)すなわち「何ものにも縛られず、自立した姿勢を貫く」坂東武者のアイコンとして仰がれてきました。
事実、中世から近世にかけ、関東で躍動した武者たち――千葉氏、秩父氏、江戸氏、豊島氏など、地名にその名を残す有力氏族はみな将門の後裔を称し、太田道灌や北条氏綱といった兵(つわもの)は、将門公を関東を平定した祖神として将門公をあがめました。
■日本三大怨霊のなかでも「最恐」の存在
もうひとつ見逃せないのが、将門公が日本三大怨霊の一(ほかは菅原道真(すがわらのみちざね)、崇徳(すとく)天皇)にして、最恐とも評される怨霊としての神格(キャラクター)でしょう。
都市伝説の脈絡でよく知られているのは、東京・大手町の「将門の首塚」です。
いわく、関東大震災(1923年)後にこの周辺に旧大蔵省の庁舎を建設しようとし、当時の大臣や関係者が病死や変死を遂げた。あるいは第2次大戦後、日本を占領下においた連合国軍総司令部(GHQ)がこの周辺を駐車場にしようとしたら、整地作業のブルドーザーが突然ありえない横転事故を起こし、関係する米軍将校が不審な死を遂げた……などなど。
もちろんこれらは近代になって語られた風説によるもので、正確な歴史的事実を反映したものではないのですが、「最恐」とされる理由を探ると、〈京都で晒し首になった将門の首が、失った胴体を求めて夜空を飛行し、それが大手町のここ(武蔵国豊島郡芝崎村)に落ちた〉という伝説にたどり着きます。
なんとすさまじき怨念か――。
■恐ろしい怨霊だからこそ「最強の守護神」に
このように、非業の死を遂げた人や、怨念を残して亡くなった人の霊は、時に疫病や天災などのマイナスの作用(祟り)をもたらすと考えられてきました。
先に挙げた「天満天神(てんまんてんじん)」こと菅原道真公、「白峯大神(しらみねのおおかみ)」こと崇徳天皇、そしてほかならぬ将門公。いずれの御祭神も、その負のパワーの強さゆえに神様として祀られ、御霊(ごりょう/みたま)としてお鎮まりいただくことで、平和と安寧が保たれると考えられました。
これがいわゆる「御霊(ごりょう)信仰」と呼ばれるものですが、重要なことは、祟れば恐ろしい怨霊でありながら、手厚くお祀りすれば最強の守護神に転じうると考えられたことです。現代人の目からは不合理にも映りますが、この二面性は、実は日本の神様信仰の底流をなす重要なセオリーだったりもします。
■将門公に戦勝祈願して戦に向かった家康
さて、〈将門公(神田明神)に祈願すれば勝負に勝つ〉。古くからそんな言い伝えがあるそうです。そのきわめつけは、徳川家康の以下の逸話でしょう。
慶長5年(1600)、上杉氏を討つために関東に下った家康は、神田明神に戦勝祈願をして会津に向かいました。ところが、石田三成らの挙兵の報を聞いてすぐに江戸に帰還。神田社に合戦勝利のために祈祷するよう命じ、勇躍関ヶ原に向かいました。
そして9月15日、徳川連合軍(東軍)は“天下分け目の合戦”に大勝利を収めます。その日はくしくも神田明神の例祭日でした。つまり、神社の草創にかかわる特別な日に決戦を制したわけです。家康と神田明神の因縁として、これ以上の事実はないでしょう。
ちなみに、同社で頒布されている「勝守」は、この奇縁に由来するものです。
ともあれ、こうして神田明神は徳川家が特に尊崇する守護神となり、江戸城の鬼門(東北)に遷(うつ)されるとともに、その例祭(神田祭)は「天下祭」として発展しました。
明治維新後、将門公の御霊は朝敵としていったん主祭神から外されましたが、人々の崇敬の念は変わることなく、1984年、ついに本殿へのご帰還を果たしました。現在も、神田をはじめ、秋葉原、大手町、丸の内、築地、日本橋など、108もの町会の総氏神とされています。
■「推し神仏」との“結縁”のすすめ
ここまで述べた平将門公のように、神社の神も、寺院の仏も、それぞれ個性的な出自とストーリーを有し、人知を超えた「ちから」や「はたらき」(御神徳や御功徳)をもつ存在として広く信じられ、今に伝わっています。
そうした神仏と親しみ、お近づきになる方法として、筆者は「推し神仏」との結縁(けちえん)を提唱したいと考えます。ポイントは、「御利益にあずかる」という受動的なアプローチではなく、自分の内に「神仏成分を入れていく」感じと理解していただければと思います。
以下、神様との結縁をうながす具体的なメソッドをご提案しましょう。
1.御祭神の端末として、「お札・お守り」を日常に取り込む
神田明神で授与いただけるお札(神札)のなかに、「平将門命神札」があります。これは御祭神である将門公の神霊(みたま)の分身・依(よ)り代(しろ)。いわば“将門公の端末”です。これをいただき、家のなかに置くことで、いつでも将門公とつながることができます。
本来は神棚に奉安するものですが、なければ目線より高い清潔な場所に置けばOK。外出、帰宅の際などに目に入れる習慣をつけることで、日常に「神仏時間」が割り込んできます。御祭神とのつながりを常に意識することが、神縁を深めるコツといえるでしょう。
社寺で授与されるお守りは、神仏の力が宿る分身(依り代)であり、常に身につけて持ち歩くのが良しとされます。また1年後にはお返しして(お焚き上げしていただき)、新たに受け直すのが鉄則とされています。
2.定期的な挨拶とリセットの機会に
推し神仏を祀る社寺は、家でも職場でもない、いわば「サードプレイス」。聖域と呼んでもよいのですが、もっと気軽に“推し”と親交を深める場ととらえても結構です。ですので、何か機会があってもなくても、気軽にお詣(まい)りする習慣をつけましょう。
理想的には、「毎月1日には必ずお詣りする」などとルーティーン化すること。御祭神のことを思い浮かべ、自身の心願(勝負事の成功、ビジネスパーソンとして目指すことなど)を再認識する、メンタルのリセットおよびアップデートの場にしたいですね。
大切なのは、神仏との関係は取引ではないということです。「これだけ身銭を切ったのだから」「これだけお詣りしたのだから」などといたずらにリターンを追い求めるのではなく、自分にとっての新しい「軸」や「錨(アンカー)」となるような、長期的・永続的なつながりを築いていくことをイメージしてみましょう。
■わが身に“将門成分”を注入しよう
平将門公の神格の特徴は、まずは激動の時代に「新皇」を名乗り、既存の枠組みを打ち破ろうとした不屈の姿勢にあります。その、既存のルールに縛られず、歴史の転換期に新たな価値観を創出したあり方は、先行き不透明ななか、リスクを取って決断を下さねばならない経営者やビジネスリーダーに目指すべきイメージを与えてくれます。
将門公は「7人の影武者がいた」「刀や矢を通さない不死身の体をもっていた」など、超人的な逸話でも知られています。まさに、味方にすればこれ以上なく頼もしい守護神。理不尽なトラブルや外敵の侵入を回避し、はね返すためにも、自身に“将門成分”を注入しておきたいものです。
DATA:神田明神(神田神社)
【主祭神】
大己貴命(おおなむちのみこと)
少彦名命(すくなひこなのみこと)
平将門命(たいらのまさかどのみこと)
【ご由緒】
創祀は天平2年(730)、武蔵国豊島郡芝崎町(現在の千代田区大手町)に入植した出雲系の氏族が大己貴命を祀ったのが最初。その200年後、将門公の首が同社近くに葬られ、同社の祭神となった。
【授与品】
「勝守」「IT守護(守)」「仕事守(名刺入れ付)」「リラックマ守り」「平将門神札」ほか
【鎮座地/交通】
東京都千代田区外神田2丁目16番2号/JR中央・総武線、東京メトロ丸ノ内線「御茶ノ水」駅より徒歩5分。
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本田 不二雄(ほんだ・ふじお)
ノンフィクションライター、編集者
1963年熊本県生まれ。学研発行の一般向け宗教概説書の編集・制作に長く関わり、仏像や神社、神仏信仰をテーマに執筆制作した書籍(雑誌、ムック含む)は多数にのぼる。単著では『弘法大師空海読本』(原書房)、『ミステリーな仏像』『神木探偵』『異界神社』『東京異界めぐり』(いずれも駒草出版)、『日本の凄い神木』(学研・地球の歩き方)、『神社ご利益大全』(KADOKAWA)ほか。
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(ノンフィクションライター、編集者 本田 不二雄)

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