米中対立が激化するなか、日本はどう対応すればいいのか。エコノミストで日本成長戦略会議の有識者メンバーの会田卓司さんは「地政学上のリスクを考え、官民ともに中国依存を軽減しようとする動きが活発化している。
しかし、巨大な中国市場から完全に撤退することは難しく、基幹産業の依存度をできるだけ低下させていく戦略が不可欠だ」という――。(第2回)
※本稿は、会田卓司『サナエノミクス 高市成長戦略』(ワック)の一部を再編集したものです。
■米中対立の背景にある「トランプの焦り」
――トランプ大統領は中国封じ込めを狙いたいけれど、レアアースの問題などもあって、強くは突き放せないのではという見方もありますが。
それは中国も同じです。国内需要が足らないので海外に向かわざるを得ない。しかし世界最大の需要創出国は米国であり、米国の需要から完全に切り離されたら、中国は深刻なデフレ不況になってしまう。しかし、G7各国が20年間官民連携でしっかり投資しなかった間、中国は積極的に投資に邁進(まいしん)し、驚異的な発展を遂げてきました。
特にこの20年間、ITやAI技術を含めたデジタルの分野で驚くべき進歩を成し遂げています。EVを先頭に、官民あげてAI関連も含めた先端産業に莫大な投資をしたら、たまたまテクノロジー進歩が急激に加速する局面に合致し、飛躍的に国力を増してきました。
それは米国にとっては国家安全保障の危機です。したがってトランプ大統領は対中国政策として製造業を復興させることを目指し、関税政策を打ち出したのです。しかし中国にレアアース禁輸をちらつかされて、米国の態度は軟化してしまいました。

でもその反面、トランプ関税は、米国の製造業復活のための資金集めという側面もあるようです。やはり中国を抑え込むことよりも、自国が上に行く方法を考えるのが米国という国です。
■中国とロシアを周りから封じ込めたい
現状では中国を押さえ込むのは無理だと感じたら、今後、中国が膨らむ速度を抑え、自国を強くしようとする方策に出た。これこそ米国流の自国第一主義、あるいはトランプ流のリアリズムなのかもしれません。
トランプ政権は、ベネズエラとイランに攻撃を行いました。中国が原油の輸入で依存している国々です。南米と中東の政治情勢が安定すれば、欧州、インド、日本と合わせて、中国とロシアを地政学的に封じ込めることができると考えているのかもしれません。
世界地図を見れば、欧州、中東、インド、東南アジア、台湾、日本とつなげば、中国とロシアを封じ込める半円ができ上がります。北からの脅威に備えるため、トランプ大統領はグリーンランドの領有を主張しています。すべては対中国に向けた国家安全保障戦略で読むことができるかもしれません。
たとえ、高市政権の経済政策が成功しても、日本が直ちに中国を追い越すことはできないでしょう。ただ、少しでも近づいておかなければなりません。
そのために成長カーブを描ける環境をつくることが重要です。そして、中国に過度に依存しない強靭なサプライチェーンを構築しなければなりません。
■「脱中国依存」の現実的な進め方
かといって、中国が崩壊してしまっても困ります。自暴自棄になって無謀な行動に走らせないようにするために、日中間のバランスを保つことが大事です。「中国サプライチェーンの切り離しが急務」という声も高まっていますが、そう簡単には実現できないでしょう。
将来的にはそれが不可欠ですが、いきなり分断するのは難しいのが現実です。ただ、基幹産業のサプライチェーンや特定重要物資を握られてしまうと、日本は息の根を止められてしまいかねません。そのような分野にはある程度コストを度外視してでも、日本国内で開発・生産を模索しなければなりません。そのような分野こそ官民連携が必要です。
これまでのような「サプライチェーンを世界に張りめぐらせば張りめぐらせるほど、一番安いところで製造ができ、競争力もつき成長できる」というビジネスモデルは、完全に崩壊しています。
今はサプライチェーンを広げれば広げるほど、地政学上のリスクに晒(さら)されます。たとえば、米中対立が激化したら、たちまち分断されてしまいます。
実際、高市首相の「存立危機事態発言」以来、中国が態度を硬化させているのはご存じの通りです。
■中国が日本を脅すほどかえって好都合
今後がどうなるかはまだ不明ですが、ある程度コストをかけてでも「サプライチェーンの強靭化」という潮流に向かっているのは間違いありません。効率化一辺倒では今後はとても立ち行かないのです。とはいえ、すべて日本で生産するとなったら、コストが膨大になります。
やはり上手なさじ加減で調整しながらやっていくしかない。たとえば、医薬品などの分野は中国頼みですが、脱却しなければなりません。中国の態度硬化は、短期的には中国からの観光客減少による経済効果への影響が避けられません。インバウンドが主力の観光業者には大打撃でしょう。
そのようなネガティブな部分は無視できませんが、反面、それが危機意識となり、中国以外の観光客の誘致や、日本のレアアース投資を加速させる要因になります。南鳥島のレアアース開発は、通常なら30年、40年かかるプロジェクトですが、さらに加速化していこうという気運が高まりました。中国依存を軽減していく政策の優先順位がグンと上がってきたのです。
中国が日本を脅せば脅すほど、ある意味で日本の経済成長の後押しになってくれるかもしれません。

■巨大市場から離れるのは企業にとってリスク
――国際的に対中国依存のサプライチェーン見直しの気運が高まっていますね。「日本企業も中国から足抜けを」という議論もありますが……。
中国は「反スパイ法」で“スパイ行為”の汚名を着せるなどして、外国人などを不当に連行し、拘束しています。反日感情の高まりもあって、「日本企業も撤退すべきじゃないか」という意見も出ているのは確かです。
でも残念ながら、そう簡単には撤退できないのが現実です。日本企業にとってまだまだ中国市場は大きく、また、中国から資本を国外に流出させられない仕組みになっているからです。撤退するならすべてを捨ててくるような覚悟が求められ、それは現実的ではありません。
そのコストをすべて日本の政府が肩代わりすることも現実的ではありません。完全に足抜けできないことは承知の上で、できるだけ基幹産業の依存度を低下させる。ここは抜く、ここは残すという形で転換を図っていくほかありません。
では、人民元のレートはどうなのでしょうか? 人民元安は輸出を伸ばす要因になるので、国内がデフレ状況であれば、人民元安のほうが海外需要を強くできますが、あまりにも人民元安になると資本逃避が懸念され、中国に対する投資フローが失われます。すると、ただでさえ悪い雇用状況、特に若年層の雇用状況がますます悪化します。

■習近平が直面する出口のないジレンマ
一方、大きく人民元高となれば、輸出競争力を失います。現状は、中国もかなり難しい舵取りをしているのではないでしょうか。中国の経済状況は需要が足りず、日本のデフレ時と似た状況です。
海外に安く売ることで需要を増やしたいと思うけれども、そうすると国内の資本が逃避するという動きが起こるリスクがあります。
官民連携どころか官主導で強引に産業を育てる国ですから、少しでもうまくいかないと、企業が海外に逃避してしまう可能性もあります。現実に、日本にも中国人がたくさん訪れて、不動産を買ったり、ビジネスを展開したりしています。
ますますそのような人が増える可能性が高くなります。おそらく中国国民は共産党政権を信用していないのでしょう。だから不動産バブルになってしまうのです。とはいえ、中国の不動産は使用権で所有権ではなく、政府が退去しろといったら有無を言わさず……です。それも不思議なところなのですが。

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会田 卓司(あいだ・たくじ)

エコノミスト、「日本成長戦略会議」有識者メンバー

1975年生まれ。
埼玉県立浦和高等学校卒業後、米国スワースモア大学経済学部・数学部卒業(Honors)。ジョンズ・ホプキンス大学経済学博士課程単位取得退学。メリルリンチ日本証券、バークレイズ・キャピタル証券、ブレバンハワード・ジャパン、UBS証券、ソシエテ・ジェネラル証券、岡三証券などでエコノミストを歴任。現在、クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト。文化放送『おはよう寺ちゃん』レギュラーコメンテーター。照夫(父)はヤクルト、有志(弟)は巨人の元プロ野球選手で、有志は現在、巨人軍三軍監督。従弟は元関脇隆乃若。2025年11月より、高市政権が設置した日本成長戦略会議の構成員に就任。主著に『日本経済の新しい見方』(金融財政事情研究会)、『日本経済の勝算』(経営科学出版)、『日本経済 成長の道筋が見えた』(ビジネス社)がある。

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(エコノミスト、「日本成長戦略会議」有識者メンバー 会田 卓司)
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