管理職として部下から信頼されるためには、何が必要なのか。新刊『残念なリーダーにならないためのマネジメント50の心理法則』(日本実業出版社)より、部下の心を開く問いかけの技術を紹介する――。

■「5年後どうなっていたい?」は危ない
キャリアコンサルタントとして実際に面談をしていると、多くの会社で2種類の「WILLハラスメント」が横行していることがわかります。
その背景には、面談について、中途半端な理解で本質まで理解せずに、表面的なやり方だけを取り入れている管理職が多いことがあるのではないかと感じています。
その実態から共有します。
まず1つ目。弊社では「C-WILLハラスメント」と名付けている、キャリア(Career)についてのWILLの強要です。
大前提として、キャリア支援に取り組むこと自体は、とても重要なことです。今の仕事は自分のキャリアにとって価値があると感じると、仕事への本気度も高まりパフォーマンスも上がりますので、本人も会社もWIN-WINの関係になります。
ただ、「キャリア支援のための研修」で教わった内容や「本で学んだ知識」の通り、すべての人に、「5年後、10年後、どうなっていたいですか?」「そうなるためには、何をしたら良いと思いますか?」を繰り返すと、人によってはハラスメントと感じてしまうことがあるのです。
■上司に相談しても逆質問で終わってしまう
キャリアに対する意識は、人によって温度差があります。「まずは目の前の仕事を粛々と進めたい」と考えている人にとっては、5年後、10年後のイメージまで持ててはいません。「上司の顔色を見ていると、10年後のイメージは、何か突拍子もないことを言わないと満足してくれない雰囲気があります」と教えてくれた人もいます。
キャリア支援の本質というより、上司が面談で聞かないといけないという義務感が先走っているのではと感じるのです。

もう1つは、「T-WILLハラスメント」です。これも弊社の呼称ですが、日々の仕事であるタスク(Task)についてのWILLの強要です。
メンバーが、仕事の進め方に困って上司に相談しても、
「キミはどう思う?」

「どう進めると良いと思う?」

「キミはどうしたい?」
と、答えを示さずに、逆質問だけで終わってしまうというケースです。
■“テクニック”を使いこなせていない管理職
このような現象に陥る人の多くは、「管理職のためのコーチング研修」を受けたり、コーチングの本で学んできたりした人たちです。こちらも大前提で言うと、コーチング自体が悪いわけではありません。人を導く有用な手法です。しかし、「T-WILLハラスメント」を起こしてしまう管理職は、その本質までを理解せず、質問のテクニックに走っている節があるのです。
コーチングも流派によって多少違うでしょうが、「答えは、その人の中にある」「教えるよりも、自分で気づくことが大切だ」という考えを教わり、具体的な「問い」の手法を学んだ管理職は、悪気なく、良かれと思って付け焼刃の逆質問をしてしまうということです。メンバーからすると、質問しても答えももらえず、追い詰められるだけで何も先に進まない感覚になってしまいます。
学んだことを実践すること自体は素晴らしいのですが、これら2つの「WILLハラスメント」に共通するのは、一番大切な「まずは、相手の状況を見極めて、それに合わせる」ということが抜けていることです。その前提があってはじめて、学んだ問いかけが生きるのです。
■「なぜ」ばかり聞かれて萎縮してしまう若手
20代の社員とのキャリア面談でよく出てくるのが、上司が怖いという話です。

「上司に質問されると、だんだん本当のことが言えなくなって、つい、とりつくろった答えを返してしまいます。でもそうすると、さらに追及されるのです。最近は、上司に呼ばれるのが怖いです」というようなことを打ち明けられます。
詳しく聞いてみると、その怖い原因は、上司の聞き方であることが多くあります。
若手社員が怯える原因は、上司が発する「Why?(なぜ?)」にあるのです。いわば「Whyハラスメント」。
上司「あの企画書は、そろそろできた?」

本人「今まだ3分の1ぐらいです」

上司「まだ、そこまでしかできていないの。もう1週間も経っているぞ」

本人「急な仕事を先輩に頼まれましたので……」
すると、ここから「なぜ? なぜ?」攻撃がはじまるわけです。
上司「なぜ、それを私に言わないのだ?」

上司「なぜ、それを優先したのだ?」

上司「なぜ、そんな勝手な判断をしているのだ?」

上司「なぜ、頼んだ企画書が重要だとわからないのだ?」
そんなふうに、上司の「なぜ、なぜ、なぜ……」が続きます。
メンバーは、徐々に萎縮して、何も言えなくなり、ついその場しのぎの嘘をついてしまうということが起こるのです。
メンバーが嘘をつくのは良くありませんが、そうさせてしまう原因の一端が、上司の側にもあるということを知ってほしいのです。
■「なぜ」が効く場面と効かない場面を理解する
もちろん、「Why?」と聞くのが、すべて悪いわけではありません。
たとえば、「Whyを5回繰り返せ」のような「なぜなぜ分析」は、何かの問題事象が発生した際にその問題の原因を究明するような分析手法としては秀逸です。
たとえば飲食業界で、「なぜ、原価が上がっているの?」→「仕入れ量が多く、廃棄が出たようです」→「なぜ、仕入れる量を適切にできないの?」→「食材の廃棄より、販売の機会ロスを恐れているようです」→「なぜ、機会ロスをそんなに恐れるの?」→「売上が目標に届かないと、給与や賞与に影響すると思っているようです」→「なぜ、売上だけで評価しているの?」というように、深く掘り下げて本当の原因に近づいていきます。
しかし、これが機能するのは、みんなで原因を究明して改善しよう、個人を責めるのではなく仕組みを良くするために行おう、ということが共通認識になっている場合です。
対人コミュニケーションにおいては、「Why?」は、相手の落ち度や至らなさを責めるニュアンスになりがちです。人は、責められると、逃れたくなるものです。
では、相手を責めるニュアンスではなく、深掘りしていくにはどうしたら良いでしょうか。たとえば、キャリアコンサルタントは「なぜ、そうしたの?」と問いかける代わりに、「何がそうさせたの?」と言ったりします。ちょっとした違いですが、それだけで、相手は本当のことが言いやすくなるのです。
できるリーダーは、相手を責めないコミュニケーションで心理的安全性を高めて、本当の情報を共有できる状態をつくっています。

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松岡 保昌(まつおか・やすまさ)

経営コンサルタント/モチベーションジャパン代表取締役社長

1963年生まれ。同志社大学経済学部卒業後、リクルートに入社。2000年、ファーストリテイリングへ。
執行役員人事総務部長として当時の急成長を人事戦略面から支える。2004年にソフトバンクグループに移り、ブランド戦略室長としてCIを実施。福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役として球団の立ち上げを行う。著書に『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』『こうして社員は、やる気を失っていく』(いずれも日本実業出版社)。

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岩渕 美香(いわぶち・みか)

組織・人事コンサルタント/モチベーションジャパン取締役副社長

金融業界およびパナソニックグループにて営業、人材育成、組織支援に従事。国家検定1級キャリアコンサルティング技能士。キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザー。筑波大学キャリア・プロフェッショナル養成講座、慶應MCC組織版キャリアコンサルティング指導者育成プログラムにて心理学やキャリア形成支援の手法を研鑽。

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(経営コンサルタント/モチベーションジャパン代表取締役社長 松岡 保昌、組織・人事コンサルタント/モチベーションジャパン取締役副社長 岩渕 美香)
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