■人生の主権を握り直す50代の朝の過ごし方
50代の朝は、二種類に分かれます。
朝の主権を、「スマホに明け渡す人」VS「自分の手に握り直す人」。
前者は目が覚めた瞬間、考えるより先に親指が動きます。LINEを開き、メールをチェックし、SNSをスクロールする。他人の成功を横目で眺め、地球の裏側のニュースに悲観し、誰かの要求に反射的に反応する。
この時点で脳は「不法投棄場」と化し、一日がスタートする前からすでに気分は濁りきってしまっている。
「奴隷の朝」の始まりです。
一方、後者はスマホを伏せ、気持ちのいい音楽で自分を起動し、光と呼吸で気分を整え、頭の中のゴミをノートに吐き出します。
ToDoリストを朝イチで確認しない。前日の失敗を朝に引きずらない。濁ったニュースや他人の情報で脳の回路を満杯にしない。
一日の主権を、自分の手に握り直してから動き始める。
人生の主権者の朝です。
あなたは今、どちらの朝を生きていますか。
私は編集者として25年間で600冊以上の本を編集し、累計1200万部を世に送り出してきました。中には『人は話し方が9割』(すばる舎)という140万部超えのベストセラーもあります。その過程で、何万人というビジネスパーソンを見てきました。
だからこそ、断言します。
朝をスマホに明け渡す人に、50代の逆転の目はありません。
両者の差は、能力でも体力でも年収でもありません。一日の最初の30分に、何をしていたか――それだけでした。
■大切なのは「毎日歩くこと」より「気分」
「毎日続けることが大事だ」
健康意識の高い50代ほど、この呪縛に縛られています。ですが、ウォーキングを義務化した瞬間、それはもう健康法ではありません。
雨の朝も、気が乗らない朝も「歩かなければ」と玄関を出る。高価なシューズを履き、スマートウォッチに管理され、「今日はあと2000歩足りない」と自分を追い立てる。
その姿を、少し離れたところから眺めてみてください。
誰に命じられたわけでもないのに、数字に追い回され、静かな早朝の街をひた走る。それは健康維持ではなく、ただの自己満足という名の執着です。
ここであなたはこう思うはずです。「いや、運動は体にいいはずだ。歩かない方が不健康だろう」と。
おっしゃる通りです。しかし、運動の「量」に固執して、一番大切な自分の「気分」を濁らせては本末転倒ではないでしょうか。
ここに意外な研究結果があります。
「ウィークエンド・ウォリアー」の研究によれば、週150分の運動目標は、毎日やっても週末にまとめてやっても、健康リスクの低下に大差はありません。
つまり、「毎日歩くこと」への固執は、根拠の薄い思い込みの呪縛にすぎないのです。
体の健康は、週単位で考えていい。しかし、気分は「今日の朝、この瞬間に」決まるのです。
■費用ゼロ、15分間のモーニングルーティン
では私が毎朝、何をしているか。
拍子抜けするほど、地味なことしかしていません。費用はゼロです。
①音楽を流す――ただし他のアプリは絶対に開かない
スマホのアラームを止めて寝床を出たら、私は音楽を流しながら洗面所で歯磨きをします。
50代の朝の体は鉛のように重いものです。だからこそ私は道徳や義務感ではなく「音楽」という燃料の力を借ります。
全米ベストセラー作家のパム・グラウトは語っています。
「朝の数分で、あなたの一日の台本は書き換えられる」と。
音楽は情報ではなく、自分を着火させるための「燃料」です。
選曲の基準は2つ。
自分が、理屈抜きで「上機嫌」になれる曲であること。
悲しくなったり、過去を悔やんだりするような「湿っぽさ」がないこと。
音楽というシールドでノイズを遮断し、自分自身を気持ちよく起動させる。朝イチにニュースやSNSを開く「奴隷」行為とは、対極にあります。
②カーテンを開け、窓の前に30秒立つ
健康のためではありません。スマホのブルーライトという他人のノイズで視覚を汚す前に、自分だけの光で脳を満たすためです。
私の住む京都の朝の光は、季節によって色が違います。冬の鋭い白光と、夏の柔らかい橙では、気分の立ち上がり方も明らかに異なります。この感覚の違いを味わえるのは、五感を開いているときだけ。
記録しない。
③ゆっくり呼吸する――3分でいい
音楽と朝の光で体を起動させたあとは、呼吸で気分を整えます。
STEP①おへそから指3?4本分下にある「丹田(たんでん)」を意識します。
STEP②お腹(丹田)を凹ませながら、口から「ふーっ」と息を細く長く吐き出します。
STEP③吐ききると、鼻から空気が入ってくるので吸います。
STEP④吸い切ったところで、ほんの数秒間、息を止めます。
STEP⑤また吐き出します。
「1日3分」、無理なく続けてみてください。あなたの自律神経を整え、脳をリラックスした状態へ導いてくれます。
④ノートを開き、頭の中のゴミを吐き出す――目安は5分
ここで正直に打ち明けなければなりません。かつての私は、この習慣を「自分を高めるための記録」として使っていました。目標を書き、感謝を綴り、理想の自分を演じようとしていた。
しかし、47歳で独立したあと、仕事が減り、付き合う人間が減った時、私は頭の中にあるドロドロとしたゴミを直視することから逃げていることに気づきました。情けない話ですが、それが現実でした。
ノートは、ゴミ箱です。
心配事、モヤモヤ、昨日誰かに言われた一言、なんとなく引っかかっていること――それらを、ただ紙の上に吐き出す。これだけです。
書くことが思い浮かばない時は「今日は書くことがない、以上終わり」でかまいません。
これは記録ではありません。「排泄」です。朝に体の排泄があるように、脳にも排泄が必要です。一晩かけて澱んだ思考のゴミを、紙の上に出し切る。そうすることではじめて自分の気分の「素の状態」が見えてきます。
■脳に「余白」を、人生に「主権」を
なぜ、この15分が機能するのか。
50代の頭の中は、慢性的な情報過多です。すでに満杯のグラスに、朝からスマホで泥水を注ぎ続けているようなものです。
脳が刺激から解放されたときに活性化する「デフォルトモードネットワーク」という回路があります。整理、統合、創造――脳が最も高度な作業を行うのは、実はこの「何もしない時間」なのです。
「そんな暇はない、一分一秒が惜しいんだ」
そう仰る方にこそ、お伝えしたい。
その焦燥感こそが、あなたの脳が悲鳴を上げている証拠です。朝イチにポッドキャストを聴き、ウォーキングに勤しむ人は、この回路を自ら遮断している。疲労の上に疲労を重ねて、「枯れていく恐怖」を自ら深めています。
50代の朝に必要なのは、刺激ではなく「余白」です。精神論ではなく、脳の構造の話です。
■上機嫌こそが、50代の唯一の武器
600冊の本を作る中で見てきた「輝いている50代」は、例外なく上機嫌を維持する技術を持っていました。
朝をスマホに奪われる人は、不法投棄場のような脳で一日を始め、焦燥感を深めていく。
朝を自分に引き戻す人は、音楽で着火し、光と呼吸で整え、ノートにゴミを捨てる。
この二者の間には、才能でも努力でも埋められない「気分の格差」が生まれます。
誤解を恐れずに言います。
50代の人生において、気分の高さは才能より重要です。
不機嫌な天才より、上機嫌な凡人の方が、仕事も人間関係も最終的にうまくいく。人は「気分のいい人」の周りに集まり、人が集まるからお金も運も引き寄せられるのです。
上機嫌は、足し算では手に入りません。引き算の結果として、現れるものです。
たった15分の引き算が、あなたの一日を、そして50代そのものを、静かに変えていきます。
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越智 秀紀(おち・ひでき)
作家、編集者、出版マイスター
1970年愛媛県今治市生まれ。PHP研究所に25年間勤務後、47歳で独立。担当作は600冊を超え、累計発行部数1200万部。編集した『人は話し方が9割』(146万部)、シリーズ100万部突破『「世界の神々」がよくわかる本』など、ジャンルを問わずミリオンセラーを呼び寄せる「幸運な編集者」。
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(作家、編集者、出版マイスター 越智 秀紀)

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