※本稿は、星友啓『スタンフォード大学オンライン高校の校長が教える 世界の研究に基づいた 勉強法大全』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■「一夜漬け」が必ず失敗する科学的理由
「テスト前日に徹夜で詰め込めば、なんとかなる」。そう考えて朝まで勉強した経験は誰にでもあるでしょう。確かに翌日のテストは乗り切れるかもしれません。しかし、その知識は1週間後や1カ月後にはきれいに消え去っています。
受験勉強や資格試験のような長期戦で勝つには、「スペーシング」が不可欠です。
スペーシングとは、一旦学んだら少し時間(スペース)を空けて思い出す勉強法のこと。
この勉強は、学んだことを短期間で繰り返し思い出す方法よりも、記憶の定着率がバツグンに高まります。
実際に、これまでの研究で、復習までの間隔が記憶の保持期間に大きく影響することが繰り返し示されました。
脳の中で情報を伝える「神経細胞(ニューロン)」同士のつながりが太くなり、安定するまでには物理的な時間が必要です。
一夜漬けのように短期間で情報を詰め込もうとすると、情報のつなぎ目である「シナプス」の受け入れ容量がいっぱいになってしまいます。
■忘れかけた頃がちょうどいい
逆に、少し時間を空けて、記憶が薄れかけた頃に「あれ、なんだっけ?」と思い出すと、脳は「この情報は何度も必要とされる重要なものだ」と認識し、記憶の定着を一段階上げます。
これを繰り返すことで、記憶は短期貯蔵庫から長期貯蔵庫へと移動します。「忘れること」は悪いことではなく、次の学習効果を高めるための準備期間なのです。
実践ステップ
復習スケジュールの最適化:「1・3・7・30の法則」を目安に復習計画を立てる。
① 学習した翌日(24時間以内)
② ①の3日後
③ ②の1週間後
④ ③の1カ月後
アドバイス
ベストな復習タイミングは、忘れかけた頃です。完全に忘れてしまったと思う直前、少し苦労して「うーん……あ、出た!」と思い出せるギリギリのタイミングこそが、脳にとって最も負荷がかかり、成長するゴールデンタイムです。
■教科書を「読み直す」のは時間の無駄
テスト前日、教科書に何色ものマーカーを引き、きれいにまとめたノートを何度も読み返す。翌日、「これで5回目だ、完璧に覚えたはず」と自信満々でテストに挑むものの、いざ答案用紙を前にすると、「あれ、なんだっけ……喉まで出かかっているのに!」と頭が真っ白になる。
実は、教科書の「読み直し」は最も時間対効果が低くなりがちな勉強法の一つなのです。それは、情報を入れる作業にばかり時間を使い、脳が記憶を定着させるための「保存ボタン」を押していないからです。
その保存ボタンとは、「リトリーバル(Retrieval:思い出すこと)」です。
記憶を思い出す時、脳内にある「シナプス」という神経のつなぎ目は、一時的に不安定な状態になります。記憶はもともと、このつなぎ目同士が手をつなぐようにして保存されていますが、思い出すことでその結びつきが一度「ほぐれる」のです。
このつながりが一度ほぐれると、脳は「この情報は重要だから、より強く、より取り出しやすい状態で保存し直そう」と働き、新しいタンパク質を作って記憶をアップデート(上書き保存)します。
■ちょうどいい負荷が記憶を定着
単に教科書を読み直すだけの時、脳は「ああ、これ知ってる」と情報をスルーしてしまい、この「記憶のアップデート(再固定化)」が十分に起きません。
しかし、本を閉じて「自分の頭だけで思い出す」というちょうどいい「筋トレ」を脳に与えると、脳は必死になって、神経回路をより強くつなぎ直そうとします。思い出せそうで思い出せない苦しさこそが、脳の筋肉がパンプアップされている瞬間なのです。
実践ステップ
① テキストやノートなど、今学んだものをいったん閉じる。
② 学んだことを自分の頭だけで「えーっと、なんだっけ」と思い出してみる。
③ 思い出せなかった部分だけを重点的に復習。
アドバイス
電車の中など、書くものがない時でも「今日の授業で先生が言った中で、一番重要なことは?」と心の中で問うだけで効果があります。
■テストは「嫌なもの」ではなく「最強の学習ツール」
「来週テストをします」という先生の言葉。教室中から重いため息が漏れる。テストは「実力を図るツール」。自分の足りない実力が明らかにされてしまうのは気が重い……。
しかし、それは大きな誤解です。テストは成績をつけるための道具ではなく、「記憶を定着させるための最強の学習ツール」としてとらえるべきなのです。
これを決定づけたのが、ワシントン大学の実験です。まず、学生に科学的な文章を読ませ、その後2つのグループに分けて学習させました。
● Aグループ(再読群):テキストを計4回、繰り返し読む。
● Bグループ(テスト群):テキストを1回読み、その後3回、何も見ずに思い出すテストを受ける。
直後のテストでは、直前に読み込んでいたAグループの方が成績が良い傾向にありました。
■読むだけだと忘れやすい
また、読むだけのグループは、時間の経過とともに読んだ内容を急速に忘れていきましたが、テストを受けたグループは記憶がしっかりと定着していました。これを「テスト効果」と呼びます。
読めば「わかったつもり」にはなりますが、それは短期的な記憶として一時的に保管されるだけで、すぐに消えてしまうのです。
一方、脳にテスト形式で「思い出す」負荷をかけると、記憶の司令塔である「海馬」が、その情報を「長期保存すべき重要なもの」と判断します。海馬は、脳に入ってきた情報を一時的に整理する役割を担っていますが、何度も呼び出される情報は、記憶の保管庫である「大脳皮質」へと送られ、長期の記憶として定着するのです。
実践ステップ
① 前の日に学んだことの確認テストをする。
② 学んだことの「予想問題」を自分で作る。(「先生ならここをどうひっかけるか?」と考えてクイズを作る過程で、理解が深まる)
③ 友達同士で問題を出し合う。(楽しみながらやる最高のリトリーバル)
アドバイス
間違えることを大歓迎してください。テストで間違えて「くそっ、間違えた!」と悔しがった記憶は、感情が伴うため、強烈に記憶に残ります。間違いは「失敗」ではなく、記憶を強固にするための「接着剤」です。
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星 友啓(ほし・ともひろ)
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
1977年生まれ。2001年東京大学卒業。2008年Stanford大学修了後、同大学哲学部講師として論理学で教鞭をとり、 2016年よりスタンフォード・オンライン・ハイスクールの校長に就任。日本では慶應義塾大学特別招聘教授、横浜市立大学特任教授を務めている。著書に『スタンフォード式 生き抜く力』『脳科学が明かした!結果が出る最強の勉強法』などがある。
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(スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長 星 友啓)

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