週刊誌の悲鳴が聞こえる。
高市早苗首相は皇室典範を改正して、①女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する、②旧宮家の男系男子の子孫を養子として皇族に迎えるという2案を、7月17日の今国会会期末までに成立させることに強い意欲を示している。
衆議院では賛成派が圧倒的多数を占め、参議院も反対派は全体の2割くらいだから、成立する可能性大である。
拙速とも思える高市政権のやり方に、週刊誌から批判が相次いでいる。
「結婚後に皇室に残れるかという選択の責任を女性皇族本人に負わせ、“残ったとしても夫と子供は一般国民のまま”という戸籍の違う家族を強いるのは、皇族を生身の人間としてみているとは思えません。このままでは、皇室と内閣・国会の間に溝ができる恐れがあります」(皇室解説者の山下晋司氏=女性自身6月9・16日号)
■作家・高村薫氏の正論
サンデー毎日(6月7日号)は丸ごと「拙速な皇室典範改正に反対する」特集号のようである。
倉重篤郎毎日新聞客員編集委員は冒頭こう書く。
「日本国憲法第1条には『天皇は、日本国民の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく』とあるが、男系養子論は『日本国民の統合の象徴』とも『国民の総意に基づく』とも思えない。憲法精神に反する」
野田佳彦元首相は、
「旧11宮家から養子をとるというが、旧宮家というポジションはない。今や普通の国民だ。国民が養子で皇族になることは歴史上なかった。それをあえてやることがいいのかどうか。憲法14条が禁止する『門地による差別』にもなる」
原武史明治学院大学名誉教授は、
「男系養子案が通れば、愛子さんは天皇にはならない。それに納得しない少なからぬ人たちがいる。
やはりサンデー毎日に連載をしている作家の高村薫氏は、声高に愛子天皇を叫ぶ側に全面的に与してはいない。
「私たち日本国民は、もとより天皇制について確たる知識も関心ももたずに漫然とやり過ごしてきて今日がある。一部の保守勢力が主導する皇室典範改正に用心しつつ、あらためて議論に誠実に耳を傾ける労を惜しんではならない」〔以上すべてサンデー毎日(6月7日号)〕
たしかに、今の「愛子天皇」待望派の多くは、「愛子さま可愛い!」「さすがに気品がおありになる!」という情緒的な支持派が多いことは事実であろう。
■愛子さまに感じる“直系”の品格
週刊新潮(5月21日号)で、鈴木洋仁神戸学院大学准教授がいっているように、
「皇位継承という国の在り方にかかわる制度を議論する上で、“愛子さまは素晴らしいから天皇になるべき”という属人的な話にすり替わってしまっているのは問題です。例えば、愛子さまが毀誉褒貶あるような方と結婚を希望なさるとなれば、今の天皇待望論は出ていたでしょうか。国の制度や仕組みが、個人の人気に左右されて“この人だったらOK、あの人だったらNG”となってしまったら、法治国家としては成り立ちません」
週刊文春(5月28日号)は「『愛子天皇』をなぜ高市首相は拒絶するのか」という特集を組んだ。
4月に天皇一家が福島県・双葉町にある東日本大震災・原子力災害伝承館を訪れたときのことから書き出している。
同館のそばでファストフード店「ペンギン」を復活させた山本敦子氏に、愛子さんは「懐かしいお客様もお越しになりますか?」と聞いたそうだ。
山本氏は当日を振り返りこう話している。
「愛子さまのご質問には大変感銘を受けました。震災前、学生だったお客様が今のお店を訪ねてくれることを、事前にお調べしてくださったのでしょうか。お薦めのメニューも聞いてくださり、途端に場が和やかになりました。
文春は“天皇流”のご質問でおのずと周囲を魅了される――備わっているのは、まぎれもなく直系の品格だと書いている。
■高市首相の不見識
だが、高市首相は3月16日の参院予算委員会で、「現行法規では愛子さま、女性天皇は誕生できません」と明言した。
安倍晋三元首相のブレーンであった麗澤大学の八木秀次教授はこう話す。
「少なくとも、私が認識している範囲では、皇室をテーマにした国会議員の会議などの場に高市さんがいたことはなかった。例えば安倍さんは人から有益な情報を聞き、どんどん取り入れていました。高市さんは人に会うより、資料に目を通したいタイプ。ただ、資料を読んでも分からない機微の問題もあります」
そんな皇室に無関心な高市首相がボロを出したのは2月27日だった。衆院予算委員会で、安定的な皇位継承と皇室典範改正について見解を問われ、こう答弁したのだ。
「有識者会議の報告書でも男系男子に限ることが適切とされている。(略)この報告を尊重する」
ところが、有識者会議の報告書は、あくまで、女性皇族が結婚後も皇室に残ることと、旧宮家の男系男子を養子に迎えるという2案の検討を求めたものに過ぎない。
「報告書には、旧宮家の養子復帰案の箇所に『養子となり皇族となる者も、皇統に属する男系の男子に該当する者に限ることが適切』とある。首相はこの部分を、皇位継承についての見解だと誤読したのです」(政治部デスク=週刊文春)
その後、木原稔官房長官が会見で釈明に追われた。
■時の政権が軽々に決めるものではない
2005年に答申された小泉純一郎政権時代の有識者会議の報告書は「女性・女系天皇の容認」を柱としていた。だが、2006年、紀子さんが懐妊し、同年、皇室に41年ぶりの男児となる悠仁さんが誕生。当時の皇室典範改正案は立ち消えになった経緯がある。その有識者会議で座長を務めた吉川弘之元東京大学総長が文春にこう話している。
「私たちは『国民感情も踏まえた日本の在り方はどうあるべきか』という観点で徹底的に議論し、女性・女系を否定してしまうと天皇制を途切れさせかねないと結論付けました。悠仁さまがいらっしゃるので今はよいのですが、成長された愛子さまが候補に挙がるほど、近年では女性天皇のイメージも世の中に浸透しています。時の政権が軽々に決めるのではなく、あらゆる選択肢を含めて、もう一段深い国民的な合意を探る議論があってもよいのではないでしょうか」
高市首相が総務相時代の部下で、現在、宮内庁長官の黒田武一郎氏に文春が直撃している。
――世論調査では愛子天皇を期待する声が多数だが。
「そういうデータがあるかどうか、報道でしか分かりませんが、それに一つひとつ答えることはない。とにかく今、政府は報告書の考え方を尊重すると、国会に出しているわけですから」
まるで他人事である。
■国民の7割が女性、女系天皇を支持
愛子天皇は、物価高や社会保障の行き届かないこの国の人間にとって、唯一の「希望」なのである。
その希望が潰えてしまえば、この国は“奈落”に堕ちるしかないのではないか。
朝日新聞(5月18日付)が行った世論調査によれば、
《「女性天皇」は72%、母方だけに天皇の血を引く「女系天皇」については74%が容認する考えを示した。
(中略)
今回の調査では、天皇について、「女性もなれるようにした方がよい」が72%で、「男性に限った方がよい」の18%を上回った。「女系を認めてもよい」が74%に対し、「男系を維持する方がよい」は18%にとどまった。
自民支持層では、「女性天皇容認」が68%、「女系天皇容認」が70%。維新支持層は「女性」「女系」ともに容認派が7割を超えた。男女別にみると女性回答者の方が男性回答者よりも、「女性天皇容認」「女系天皇容認」の割合が高めだった。》
自民党、維新の会の支持者でも、女性、女系天皇を支持する人が7割もいるのだ。
それなのに、高市政権は愛子天皇について全く触れないのは、どうしてなのだろうか。
■皇籍復帰する考えを持つ4人の男系男子
新潮(6月4日号)によれば、養子案というのはすでに密かに進められていて、昨年4月に玄葉光一郎衆院副議長(当時)が与野党協議会終了後の会見で「4宮家に未婚の男系男子がいるとの前提で議論が行われてきた」という旨を明かしていたというのだ。
その4宮家とは、1947年に皇籍離脱した旧11宮家のうち賀陽(かや)・久邇(くに)・東久邇・竹田の各家を指す。
八木秀次麗澤大学教授はこういっている。
「政府側がそういう説明をしたということは、すでに事務方が“応じてくれる人はいる”との感触を得ていると考えるのが自然です。
加えて、保守派の中には早くも、皇室入りする旧宮家の男系男子と愛子さまとのご成婚を望む声も上がっているというのだ。
「仮にそうなれば、愛子内親王殿下は妃殿下として皇室にお残りになり、男児が生まれれば天皇家直系かつ男系男子となります。『皇位継承』と『皇族数確保』という二つの観点から理想的だと考える人たちがいるのは事実です」(同)
■麻生太郎が狙う「摂関政治」
一方で、典範改正を目指す“前のめり”の動きに疑問を投げかけるのは、象徴天皇制に詳しい河西秀哉名古屋大学大学院教授である。
「愛子さまの結婚問題と養子案を絡めて議論されることの多い昨今の風潮には強い違和感を覚えます。そもそも上皇さまも天皇皇后両陛下も2代続けて恋愛結婚でした。しかし現在進む議論では、一番重要な愛子さまのご意思が考慮されていないように映ります。それゆえ旧宮家の男系男子と愛子さまのご成婚を望む声に対し、“政略結婚だ”と反発の声が上がっているのです」
実際、宮内庁でも不協和音が生じているという。
「陛下と皇后さまも、娘である愛子さまのお気持ちを尊重するお立場に変わりはありません。できれば、自然な人間関係の中で恋愛結婚されるのが望ましいと考えておられると伺っています。それに反するような形で、養子として皇室入りする可能性のある方が愛子さまの結婚相手に擬せられる論調に対し、庁内では不快感を示す人間も少なくありません。他ならぬ上皇后さまもまた、こうした動きには少なからぬ困惑を覚えておられるといいます」(宮内庁関係者)
河西教授の言う「政略結婚」というのは、私なりに解釈すると、麻生太郎副総裁の妹・信子氏が最近、三笠宮寛仁親王妃家という皇室を立ち上げ、当主になった。
そこが「男系男子の養子」を受け入れ、麻生家が外戚(がいせき)になるという“タクラミ”のことではないか。
「この世をば 我が世とぞ思う望月の 欠けたることも なしと思えば」
と歌った藤原道長(平安中期)は、自分の娘4人を次々天皇の妃にして「摂関政治」といわれた。
摂関政治とは、天皇の外戚という立場を利用して政治のトップに立ち、実権を握る政治体制である。麻生氏はそれを狙っているのではないのか。
■旧宮家の人たちの本音
さまざまな思惑が交錯する今回の皇室典範改正だが、旧宮家の男系男子を養子に迎えるというのは現実的なのだろうか。
日本国憲法施行の半年後の1947年10月に皇籍離脱した旧11宮家の人たちは、どう考えているのだろうか。
文春(6月4日号)は、旧宮家の人たちにインタビューしている。
「関東近郊の閑静な住宅街。その一角に、東久邇家の親族の男性が住む家がある。この人物の孫は、いわゆる旧宮家の『未婚の男系男子』の一人である。
5月の週末の昼下がり、家を訪れると、親族男性は取材に応じ、こう語った。
『孫が皇室に、「養子に来てくれ」と言われる可能性はないでしょ』
旧宮家の養子案に関するニュースは、新聞やテレビでよく見ているという。だが、『夢のまた夢だよ』と笑いながら言う。(中略)
『なぜ養子の可能性がないのか?』と改めて問うと、親族男性はこう語った。
『ないですよ。この辺の田舎者だから。彼の親だって、普通のサラリーマンなんですから』」(文春)
■竹田恒泰氏の考え
天皇家と血縁が深いのが東久邇家である。
「東久邇家は明治天皇、昭和天皇の内親王が二代にわたって降嫁、首相を務めた稔彦王、盛厚王とご結婚された。盛厚王と成子さんの長男・信彦氏、次男で旧華族の壬生家の養子となった壬生基博氏、三男の眞彦氏は、天皇陛下のいとこに当たります」(百地章国士舘大学名誉教授)
しかし、東久邇盛彦氏は2005年、『文藝春秋』で作家の保阪正康氏の取材に、こう考えを述べていた。
「旧宮家から養子をとるといっても、あまり現実的にはイメージができませんね。ただ、そこまでして何を残すのかということをよく考えるべきだとは思います」
旧宮家の中で知名度の高いのは竹田恒泰氏であろう。彼はこういったという。
「皇族男子の究極的な役割はたった1つ。ひたすら存続すること、子孫を作り続けることです。そのために、宮家は血のスペアとして存続してきました」
一方で、世継ぎを産まなければならないという重圧もあるが、養子を迎えることで解決できるという。
「産まなかったら、産まないでOKなんです。養子が無ければ途絶えてしまいかねないですが、身内から養子を迎えることで、天皇のお后に対して、お世継ぎを産まなければならないプレッシャーを分散させることができます。大丈夫ですよ。一族から誰か出せばいいですから」
楽観的だが、竹田氏にも長男がいる。彼を養子に出す可能性もあるのかと問うと、
「制度上は可能ですが、息子はうちの跡取りでもある。私が経営する7つもの会社も、誰かに継いでもらう必要がありますし。子どもを養子に出すのは、誰にとってもハードルは高い」
と腰が引けるのだ。
■旧宮家「女系を認めてもいい」
さらに、養子案にはっきり懐疑的な意見を述べたのが、久邇朝宏氏。久邇家の当主・邦昭氏の弟で、皇籍離脱の時は、3歳だった。学習院大学理学部を卒業後、日立製作所に勤務。技術畑を歩んだ人物である。
「学習院の同級生に三笠宮家の長女・(近衛)甯子さんがいました。彼女は当然、宮家であるという教育を受けていましたが、私はまったくない。宮様で生きるための教育を受けていない状態で戻るのは、無理だと私は思っています」
さらに、皇室での生活は、今の若者にとって難しいという。
「殆どの人が民間で育ってきた。自由にしてきたわけですからね。よほど神経が太ければいいけれど、繊細な人だったら、参ってしまうんじゃないか」
では、どのような皇位継承策が望ましいのかと聞くと、こう“告白”したというのである。
「私は、女性天皇でいいと思っています。要は『なるように任せる』しかないのだと考えています。女性天皇でいいですし、もし男の子が生まれれば、その子が天皇になればいい。女の子しか生まれなかったら、女の子が天皇になればいい。何が何でも男系男子がいいとは思いません。その時代に合わせていけばいい。女性の総理大臣も誕生したのですから、女系を認めてもいいでしょう」
もっともな意見だと、私も思う。
■高市首相のウソ
初の女性首相が、女性天皇を排除し、男系男子にこだわるのは、保守というより「万世一系イデオロギー」に毒されているとしか思えない。
高市首相は、衆院選直後の会見で、「さまざまな声に耳を傾ける」といった。今こそ多くの国民の声を聞くべき時であろう。
高市首相をはじめとするゴリゴリ保守たちの思惑に翻弄され、先の見えない青春を送っている愛子さん。
先の女性自身で、天皇の知人は、愛子さんには「覚悟」があるといっている。
「ご成年後のご様子から感じていることですが、両陛下をお支えするためなら、愛子さまはご結婚を諦めることもありえると思います」
また、皇室番組に携わる放送作家のつげのり子もこう話している。
「愛子さまの昨今のご発言やご様子からは、皇族としてこれからも天皇皇后両陛下をお支えするというお気持ちを抱かれているようにお見受けしています。
しかしながら、配偶者とお子さまが皇族になれないことでさまざまな支障が生じることを懸念されれば、愛子さまは生涯独身であることを選ばれる可能性もあるでしょう。この今後の課題について、国民は重く受け止めて考えなければならないと思います」
根拠の薄い万世一系、男系男子に拘るのが、天皇制を存続させるためのベストの選択なのか。
女性側の考えを忖度せず、長い間普通人として生活してきた男性と結婚させることは、女性の人権を蹂躙することにならないのか。
冒頭で挙げた高村薫氏のいうように、皇室典範改正の議論に耳を傾け、この国の天皇制の在り方や愛子さんという女性がどうすれば幸せになれるのかを、政治家任せにせず、国民全体で真摯に考え議論を交わすことが、今求められているはずだ。
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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

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