■3日間で22億4000万円のヒット
今年の夏休み映画最大の話題作『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』。その内容がSNSやネットニュースをざわつかせ、コアファン以外の一般層を巻き込んで、雪だるま式に話題も興収も膨らんでいる。公開後3日間の興行成績は22億4000万円で、1週間前に公開された『キングダム 魂の決戦』の15億8400万円を超えた。
本作の作品性は異色だ。シネコンの上映後の場内に“ざわめき”や“どよめき”が起こるのが象徴的だが、かわいいキャラクターたちの子ども向けファミリーアニメだと思って鑑賞すると、とんでもない衝撃を受ける。
筆者が鑑賞した上映回の終了後には、子どもに「大丈夫?」「最後の意味わかった?」と声をかける母親や、「シュールな内容だなあ」と驚く子連れの父親の姿があった。SNSでも「ホラー映画だった」という若い世代の声や、「小学校低学年の子どもが楽しかったと言っているけど、たぶん理解していない」といった親のポストが目立っている。
本作は、就学前の幼い子どもたちにとっては、かわいらしいちいかわたちの夏の冒険物語だが、成長過程の子どもや大人にとってはそれだけではない。その根底にあるのは、「復讐による負の連鎖と因果応報」を描く悲劇であり、7月に亡くなった東野圭吾の小説にも通じる“残酷な物語”でもあるのだ。
■『鬼滅の刃』と同等の上映規模
もともと本作は、映画業界最大手の東宝が、今年の夏興行の勝負を託した大本命。そのファンダムの大きさと熱量の高さ、かわいいものへの感度が高い子どもおよび若い世代の女性層がそのメインになることによる社会的な話題を巻き起こすポテンシャルに加えて、事前の規格外のコラボ商品展開などから、シネコンをはじめとする興行関係者の期待値は公開前から極めて高かった。
それが顕著に表れたのが、封切り時のスクリーン占拠。
ただ、アニメの聖地・池袋に立地する同シネコン特有の地域性からの極端なシフトでもある。TOHOシネマズ新宿は、全12スクリーン中、IMAXレーザーを含む7スクリーンを開けていた。ともあれ、初日のシネコンのスクリーン占拠としては、近年稀に見る規模だった。
■興行成績は『コナン』には届かず
その結果、『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』は、初日3日間の興収22億4000万円の大ヒットスタートを切った。
この数字がどれほどの規模かというと、今年公開作品の同日間比で、『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』の35億円、『トイ・ストーリー5』の24億1000万円に続く3番目だ。2022年の『ONE PIECE FILM RED』(最終興収203億3000万円)の土日初日2日間(22億5000万円)と同規模になる。先述のとおり、実写映画の『キングダム 魂の決戦』は超えた。
一方、昨年の『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(最終興収402億円)は55億2000万円、2020年の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(最終興収407億5000万円)の46億2000万円からは大きく離されている。
■話題性でロングヒットするか?
出足の数字としては、大ヒットではあるものの、期待された『鬼滅の刃』シリーズほどではない。
この先の興行がどうなるかはまだわからない。最終的に100億円は視野に入るが、その先どこまで伸びるかはこれからの情勢次第だ。現状の話題の広がり方からは、ポテンシャルは高いと感じる一方、すでにスクリーン数が徐々に減っている。そんななか、まずは2週目の成績で初速をどこまで維持できるかが注目される。
プラスの材料としては、封切りからわずか1週間で、口コミなどで話題が大きく広がっていることがある。その背景にあるのは、「食べる」「食べられた」というセリフを使って“殺すことの罪と罰”が語られる本作の異色の作品性だ。
■原作漫画ファンは驚いていない
ただ、原作漫画からそれは描かれており、ファンにはよく知られていること。彼らは、映画館のスクリーンに映し出されるキャラクターたちの情感に心を奪われながら、そのシビアでダークな側面にも向き合って物語を楽しんでいる。
一方、『ちいかわ』のグッズが好きで漫画やアニメの内容は知らなかった一部ファンや、子どもの付き添いのほか、友人に連れられて鑑賞した“ミリしら”(「1ミリも知らない」の略でネットでよく使われる)層は、愛らしいキャラクターたちとダークな物語のギャップに打ちのめされる。一般的なホラー映画よりも恐怖を感じるかもしれない。
そんな話題の盛り上がりに興味を持った新たな“ミリしら”層が映画館に足を向け、その衝撃的な鑑賞体験を興奮混じりにSNSで綴り、さらに新たな層を呼び込む。そんなプラスのスパイラルが生じている。
■もともとはSNS発の無料漫画
そもそも『ちいかわ』とは、イラストレーターのナガノ氏が、X(旧Twitter)で発信しているショート漫画(正式名称は『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』)。2022年4月から情報番組「めざましテレビ』(フジテレビ系)内で数分ほどのショートアニメが放送されると、社会現象的な人気になった。
その後、当初のブームは一段落したが、YouTubeの公式チャンネルで配信されるアニメは、7月31日時点で第365話までアップされ、総再生回数は5億回を超える。また、「日本キャラクター大賞2026」では3年連続通算4度のグランプリを受賞。コアファンに支えられるIPコンテンツになり、単行本は第8巻まで発行され、Xでは最新エピソードが現在も不定期でアップされている。
■メインはちいかわ、ハチワレ、うさぎ
主要キャラクターは、ちいかわ、ハチワレ、うさぎ。主人公のちいかわは、恥ずかしがりやであまりしゃべらず、泣き虫だけどがんばり屋の優しい性格。ハチワレはちいかわの大事な友人で、よく話し、いつも前向きで明るい友達思い。うさぎは自由奔放で戦闘力が高く、何でもできる。奇声を発するどこかいかれたヤツだけど愛されている。
その物語は、何気ない日常をときにシビアに、ときにほのぼのと温かく描くのだが、子どものような彼らだけの社会で、労働し、資格試験のために勉強もして、危険な生物を倒す“討伐”などで報酬を得て、一生懸命生活する姿は愛らしい。お互いを思いやり助け合う姿や、日常生活のあるあるなどのほか、生きる上で誰もが直面する社会の厳しさやつらさ、悲しさなどもけっこうえげつなく辛辣に描かれる。とくに初期はそのダークさが話題にもなった。
その人気の理由には、驚くほどかわいらしいビジュアルがあるだろう。漫画だけでなく、アニメで動く姿を見ると誰もが心を掴まれる。ただ、そのかわいらしさは、見た目だけでなく、それぞれの個性にも根ざしている。どこにでもいる素直で素朴な子どもたちのような彼らの姿に、かつての自身を重ねて感情移入する大人のファンも多いようだ。
■原作者の強いこだわりが映画にも
また、『ちいかわ』のIPとしての特徴は、とにかく新商品や企業コラボグッズ、限定イベントなどが多いことがある。加えて、それらすべてが徹底してこだわって作り込まれ、手にしたファンを常に驚かせ、喜ばせている。作品とファンへの深い愛があるナガノ氏の確固たるポリシーと、決して揺るがない真摯な姿勢が反映されていることがうかがえる。
ファン層は、子どもたちや、かわいいもの好きの女性層が中心だが、おじさん年代も少なくない。前述のような作品性が幅広い層を引き寄せ、ナガノ氏との強い絆で結ばれたファンダムを形成している。
■劇場版になった「セイレーン編」とは
そんな『ちいかわ』初の劇場版アニメになる本作は、原作の「セイレーン編」と呼ばれる長編ストーリーを映画化している。
このシリーズ屈指の人気エピソードで、ちいかわたちは特別な島への招待状を受け取る。そこは限定島ラーメンやスイーツが食べ放題のうえ、簡単な討伐で100倍の報酬が得られるという。そんな好条件につられて島に渡り、つかの間のリゾート気分を楽しむが、そこに待ち受けていたのは、現在まで続く島民と伝説の人魚セイレーンの血塗られた怨念の歴史。ちいかわたちはその闘いに巻き込まれていく。
その物語のビジュアルは夏休み感がてんこ盛り。表面的には、これぞ夏に家族で観る冒険アニメという建て付けなのだが、そこには前述のような仕掛けが埋め込まれている。
そんな本作は、製作スタイルにも特徴がある。夏休み映画の大作でありながら、大手広告代理店が製作委員会に入らず、委員会の製作幹事はフジテレビでも東宝でもなく、企画会社のQTORY。同社は『ちいかわ』のライセンス管理などを担うスパイラルキュートと、『天気の子』『すずめの戸締まり』など新海誠監督作品で知られる企画会社・STORYが共同で設立した会社であり、クリエイティブ系企業が製作の中心になって舵取りをしてきた。
その結果、商業的な側面ではなく、作品とファンを最優先にする異例のクリエイティブファーストの製作進行になった。
■ファンとのエンゲージメントが強固
従来の大作映画は、まず製作発表会見があり、公開2~3週間前にレッドカーペットなどの大型イベント、公開初日には舞台挨拶が実施される。
代わりに、映画館でのキャラクターによるグリーティングのほか、上映前は作品内容と連動した新商品発売や企業コラボ、ポップアップストア、期間限定ショップイベントなどを実施。とにかくファンが作品およびキャラクターに触れる機会を多く設けた。
加えて、作品制作過程では、ありがちなタレントや俳優の声優起用をせず、映画主題歌や挿入歌にも売れっ子アーティストの書き下ろし曲を入れたりしない。ファンが知っている作品の世界観を決して崩さなかった。
■セブン‐イレブンなど企業コラボ多数
一方、企業コラボはとてつもなく多かった。この6~7月だけで、サントリー、東京スカイツリー、セブン‐イレブン、PARCOのほか、ユニクロ、マツモトキヨシ、CoCo壱番屋、オリオンビール、マクドナルド、Manhattan Portage、9090、リポビタンD、ドン・キホーテ限定グッズ、キッコーマン、チロルチョコ缶などなど枚挙にいとまがない。
しかも、セブン‐イレブンでは劇中にも出てきた「赤魚の煮付け」を販売するなど、それらすべてが今回の物語とリンクし、すべてのグッズやイベント一つひとつにファンを歓喜させるこだわりの造形やデザインなどの作り込みがあった。結果、大きな売り上げを作りながら、作品とファンのエンゲージメントを強め、双方をハッピーにしている。
要はIPビジネスに長けているのだが、その根底には作品とファンへの愛がある。もしかするとナガノ氏は、従来の商習慣やセオリーを顧みず、それを純粋にとことん追求しただけかもしれない。その結果のひとつがIPビジネスの成功だ。もともとビジネスを主目的にしていないからこそ、ファンの心をしっかりと掴むことができた。そんなことも思わされる。
■劇場版の次作はどうなるか
ともあれ、『ちいかわ』初の劇場版は大成功している。その製作過程では、プロモーション手法や権利管理を含めて、従来のアニメ大作とは異なる道を切り開いた。映画業界に新たな風を吹かせた意義のある作品でもある。
本作が一般層を巻き込むムーブメントになるかはこれからだが、すでにファンの裾野を広げており、コンテンツとしての人気度および強度をステップアップさせている。ここからは『ちいかわ』としても次なるフェーズに入るだろう。
劇場版第2弾はまだ発表されていないが、次があることは間違いない。そのときはまた新しい世界を見せてくれるだろう。いまから期待が高まる。
----------
武井 保之(たけい・やすゆき)
ライター
エンターテインメントビジネス・ライター、編集者。音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスで活動中。映画、テレビ、音楽、お笑いを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを分析や考察する。
----------
(ライター 武井 保之)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
