健康で長生きするには何をどう食べればいいのか。福島県立医科大学医学部の大平哲也主任教授は「調査では、日本人の男性は乳製品を積極的にとると死亡リスクが下がった。
また、ドカ食いなど一度にたくさんの量を食べると糖尿病のリスクが上がり健康によくないことがわかっている」という――。(第2回)
※本稿は、大平哲也『10000人を60年間追跡調査してわかった 健康な人の小さな習慣』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
■「死亡リスク」を減らす食品とは
カルシウムやマグネシウムといったミネラルは、血圧を安定させる働きがあります。マグネシウムは日本人がよく口にする海藻や豆腐などに豊富です。一方で、和食ではカルシウムが不足しがちです。
カルシウムをちゃんととっている人は不足している人と比べ、骨粗しょう症を予防できるだけでなく、脳卒中が少ないことがわかっています。おそらく、血圧安定効果が寄与しているのではないかと思います。
JPHCスタディで、日本人を対象に食事内容と、がん死亡や循環器疾患死亡との関わりについて調べた研究があります。
そのなかで、牛乳、チーズ、ヨーグルトなど乳製品の摂取量を取り上げた研究結果が図表1で示されています。とくに男性は、乳製品をとると循環器疾患死亡が減ることがわかるでしょう。
■朝食には乳製品をプラス
男性では、乳製品の摂取量が多いグループで、全死亡と循環器疾患の死亡リスクが低いという結果でした。一方で、乳製品の摂取量が一番多いグループと2番目に多いグループの全死亡リスクは、それぞれ0.89倍と0.87倍と同程度に低く、また同様に、循環器死亡では0.78倍と0.77倍と同程度に低い、という結果でした。

(ただ女性では、乳製品の摂取量による死亡リスク低下の関連はみられませんでした。女性は男性よりも喫煙者や過度の飲酒者が少ないなど、健康的な生活習慣の人が多いため、乳製品の摂取と死亡リスクとの関連がみえにくかった可能性があります)。
同じくJPHCスタディで、小魚など乳製品以外からの摂取よりも、乳製品からカルシウムを摂取したほうが、脳卒中のリスクが下がることもわかっています。
おそらく、吸収の問題があって、乳製品のほうがカルシウムの効果が出やすいのだと思われます。
そのため、塩分を減らした和食に、乳製品を加えるとかなりバランスがいい食事になります。具体的には、朝食に(もちろん昼食でもいいですが)牛乳を1本あるいはヨーグルトを一つ足してください。
■海藻を多く食べる人には脳卒中が少ない
塩分を減らした和食を実現するには、煮物などさまざまなおかずの味付けを時間をかけて薄くしていく必要があります。もちろん、味噌汁も重要なファクターです。
味噌汁は徐々に薄味に変えていく一方で、具はたくさん入れましょう。味噌汁の具は、体にいい素材がほとんどですから。
私たちのCIRCS研究で、海藻を多く食べる人には脳卒中が少ないことがわかっています。海藻にはマグネシウムが多く含まれ、血圧安定効果も期待できます。

味噌汁の具をワカメと豆腐にすれば、マグネシウムはばっちりとれます。
なめこなどキノコ類もおすすめです。キノコはほぼノーカロリーで食物繊維も豊富に含みます。ほかに、大根、小松菜、ナスといった野菜もどんどん入れましょう。
なお、味噌には発酵食品という利点もあります。同じ塩分度合いの塩味や醤油味のスープを飲むなら、具だくさんの味噌汁を飲んだほうがいいでしょう。
■朝食をとると「肥満」と「糖尿病」リスクが減る
朝食をとる人ととらない人では、1日の総摂取カロリーは前者のほうが多くなりそうです。でも、面白いことに、朝食をとったほうが糖尿病や肥満が少なくなるというエビデンスがあります。朝食をとったほうが、肝機能も改善することがわかっています。
私たちが食事をとると、インスリンが分泌され、血糖値の上昇をほどほどに抑えてくれます。そのときに、一度に食べる量が多ければインスリンもたくさん必要になります。しかし、日本人はインスリンが出にくいタイプが多く、大量に食べるとインスリンの分泌が間に合わず、糖尿病にかかりやすくなるのです。

朝食を抜けば、昼にドカンと食べることになり、結果的に糖尿病のリスクが増します。
また、JPHCスタディで、朝食を抜くことと脳卒中や虚血性心疾患との関連を調べた研究では、1週間あたりの朝食摂取回数が少ないと脳出血のリスクが高くなることがわかりました。
■時間がなければ、卵かけご飯・納豆ご飯でOK
もちろん、朝食の時間をしっかり確保しているような人は、そうでない人に比べて、そもそも健康意識が高く、普段からバランス良く食べているということもあるでしょうし、3食しっかり食べないと、必要な栄養素がとれないということもあるのかもしれません。塩分摂取量が多くコレステロールが少ない人は血管がもろく脳出血を起こしやすいので、朝から適切な量のタンパク質などをとったほうがいいでしょう。
朝食には、タンパク質と炭水化物をとると、栄養素的にも腹持ちの点でもいいのではないかと思います。
時間がなくてとにかく手軽に済ませたいという人は、卵かけご飯や納豆ご飯を選んではどうでしょう。レンジでチンしたご飯(もちろんパックご飯でもかまいません)に生卵や納豆をかけるだけなら、たいした時間は要しません。なお、そのときの醤油は少量垂らす程度にとどめてください。
こうして朝食をとることで、体内リズムがつくれるのも健康に寄与します。
■バナナ・ヨーグルト・野菜ジュースも過信は禁物
朝は少しでも寝坊していたいというとき、バナナやヨーグルトなどを食べて家を出るという人が多いのではないでしょうか。
バナナにはカリウムが多く含まれているので、高血圧の人にはとくにおすすめです。糖質量が結構ありますが、朝食ならその後の活動でエネルギーが使われてしまいますから気にしないで大丈夫です。

ヨーグルトはカルシウムの多い乳製品であり、発酵食品でもあるので、やはり朝食におすすめです。
ただし、どちらも完全食ではありません。バナナ1本であっても、ヨーグルト一つであっても、リズムをつけるという点で「なにも口にしないよりはいい」というくらいに考えてください。
野菜ジュースを飲んでいるという人も多いですね。「これ1本に1日分の……」などと書いてあると、それだけで「健康に良さそうだ」と思ってしまいそうです。
しかし、一口に野菜ジュースと言っても成分はさまざまです。宣伝文句を信じ込まず、しっかり自分の目で「なにが入っているのか」を確かめましょう。果汁など糖分がかなり入っているものが多く、かえって健康にはマイナスかもしれません。
さらに、簡単にジュース1本飲んだだけで「自分は健康に留意している」と思ってしまうことが、あまりよろしくないと言っておきましょう。
もし、本当に健康に留意する気持ちがあるなら、自分でスムージーをつくりましょう。砂糖も入れず、塩も入れず、新鮮な野菜をミキサーにかけただけのスムージーなら、繊維質も豊富にとれます。
■どうしても空腹なときは無塩ナッツ
前述したように、一度にたくさん食べるのは、糖尿病の原因ともなり健康によくありません。
夕方などに小腹が空いたら、そこで我慢して後からドカ食いするのではなく、おやつを食べましょう。
おやつにいいのが、マグネシウムやカリウムが豊富なナッツです。ただし、塩分の多いものは避け、無塩タイプを選びましょう。
こうしたナッツは、お酒のつまみにも向いています。お酒を飲むと、どうしても尿にマグネシウムやカリウムが排泄されてしまいますが、ナッツでそれを補うことができます。
私がおやつに愛用しているのが、カロリーが低くタンパク質豊富で腹持ちがいいスティックタイプのサラダチキンです。普通サイズのサラダチキンは、おやつにはちょっと大きいので、もっぱらスティックタイプを食べています。飽きないようにいろいろな味を冷蔵庫にキープしてあります。
チョコレートもいいですね。心疾患の予防効果などについて、ポジティブなエビデンスがいくつも出ています。ただし、ホワイトチョコレートにはエビデンスがありません。
というのも、ポリフェノールの抗酸化作用がいい働きをしているものと思われ、カカオ成分が高いチョコレートほど効果が期待できるのです。

具体的には、カカオ成分が70パーセント以上あるようなチョコレートを、1日に10グラムくらい食べることが推奨されます。これで、ポリフェノールが250ミリグラムほどとれます。
チョコレートは乳脂肪分も含むので、あまり量を食べるとカロリーをとりすぎてしまいます。あくまで、ほどほどをキープしましょう。

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大平 哲也(おおひら・てつや)

福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授

1965年、福島県生まれ。福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授。同大学健康増進センター副センター長。大阪大学大学院医学系研究科招聘教授。福島県立医科大学卒業、筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。大阪府立成人病センター、ミネソタ大学疫学・社会健康医学部門研究員、大阪大学医学系研究科准教授などを経て現職。専門は疫学、公衆衛生学、予防医学、内科学、心身医学。

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(福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授 大平 哲也)
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