※本稿は、森下克也『「月曜の朝がつらい」がなくなる本』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■記憶から「月曜日を消す」から嫌になる
日曜日は、いやがうえにも月曜日が意識されます。「サザエさん」が始まるころになると、なんだか気分が沈んでしまいます。これは、いやなことは記憶から消去し、いいことは覚えておこうとする心理と関連しています。
日曜日の朝、気持ちよく目覚めたとき、私たちは多くの場合、月曜日のことをまったく意識していません。休日の心地よい気分の中で「ああ、休みだ」と寝床の中で伸びをしながら、明日は仕事をしなければならない月曜日であるなどとはなぜかまったく考えないのです。これは、月曜日といういやなことを、記憶の表層から消去しているからです。
消去した結果どうなっているかというと、翌日が仕事であるということを考えないで日中を過ごし、日曜日の「快」の部分だけを抽出して、休んでいるその瞬間だけを楽しんでいます。
ところが、さすがに「サザエさん」が終わったころになると、明日の仕事が現実として迫ってきます。とても消去したままにしておくことができなくなります。そうすると、あたかも突然目の前に月曜日が出現したかのように意識されてしまうのです。
■土曜日と同じ感覚で過ごしてはならない
ちなみに金曜日、私たちは朝から「明日は休日の土曜日だ」という意識を無意識のうちに持っています。これは、いいことは積極的に記憶にとどめて、「明日は休みだから頑張ろう」というモチベーションにしているのです。
では、「サザエさん症候群」をなくすにはどうすればいいでしょうか。
明日が月曜日であるということを消去するから気分が沈むわけですから、消去しなければいいのです。日曜日の朝から、明日が月曜日であることをしっかりと意識して、そのことを織り込んで、月曜日の準備も考えつつ過ごすということをしましょう。
日曜日は、明日が月曜日であるという点で、同じ休日であっても土曜日と性質を異にしています。だから、日曜日を土曜日と同じ感覚で過ごしてはいけません。では、どのように日曜日を過ごせばいいのでしょうか。それを以下にお話しします。
■日曜日は活動量を増やす
運動を始める前、私たちは準備運動をします。屈伸したりストレッチしたりして、さあ運動するぞ、という心構えを作ります。もし何の準備もせずマラソンでも始めようものなら、あっという間にばてて身体は動かなくなってしまうでしょう。
日曜日も同じことです。ただ休日として過ごすだけでなく、月曜日の準備も考えてください。そのためには、土曜日よりも活動量を上げることを意識してください。土曜日は終日ダラダラ過ごしてもかまいませんが、日曜日はだめです。それをやってしまうと、月曜日がつらくなります。
では、どうやって活動量を増やせばいいのでしょう。先にも触れましたが、日曜日は、「やりたいこと」に加えて「するべきこと」を積極的に入れます。車検の手続き、買い物、懐かしい友達と会う、何でもかまいません。
土曜日にゆったり過ごせて副交感神経優位になっていれば、日曜日は多少きつめに運動できます。激しく泳ぐ、重いバーベルに挑戦するなどもけっこうです。
つまり、活動量を上げる、激しい運動をするというのは、月曜日に向けて交感神経を刺激していこうということです。月曜日がだるくて身体が動かないのは、週末に副交感神経優位になり、それが交感神経優位に切り替わらずにそのままになっているからなのです。
■夜の2時間までなら仕事をしてもいい
活動量を上げることの中には仕事も含まれています。平日の勤務時間の中でやり残してしまった仕事は、金曜日の夜や土曜日には手をつけず、日曜日にまとめてやってしまいましょう。
ただし、やりすぎは禁物です。それこそ朝から仕事にどっぷり浸かってしまっては、前倒しで月曜日が来たのと同じことになってしまいます。
日曜日に仕事をするなら、翌日の月曜日が現実的に迫ってくる夕方、「サザエさん」が終わってからです。朝からそのように決めておいて、記憶の表層から決して消えてしまわないようにします。
しかも、日曜日の仕事に充てる時間をあらかじめ決めておきましょう。「午後7時から9時までの2時間、それ以上は絶対にやらないぞ」などです。内容の進捗に合わせてしまうと、ついだらだらと3時間も4時間もやってしまったということになりがちで、他のやるべきことに影響が出てしまいます。
「他にやるべきことって何?」と疑問に思われるかもしれません。そう、月曜日を控えた日曜日の夜には、次にお話しする、日曜日独特のやるべきことがあるのです。
■「週末にできたこと」を評価する
第1回で、金曜日に、平日の5日間をサマライズしていい点を見つけ、賞賛という報酬を自らに与えてモチベーションにするとお話ししました。
金曜日の夜から日曜日についても、これと同じことをしましょう。何しろ休日は2日間しかありません。いろいろな雑事が入ってしまい、思うように休めないことだってあります。そうすると、その雑事による多忙感が週末全体を支配してしまい、気分転換のはかられないまま不本意な気持ちで月曜日を迎えることになってしまいます。それはぜひとも避けたいところです。
それを克服してくれるのが、週末のサマライズです。上手にサマライズするためには、平日の間に週末の予定をゆったりめに入れておきます。そして、どんな小さなことでもいいので、うまくいったこと、できたことを自分で自分に評価してあげましょう。悪い点は過小評価し、よい点は大いに過大評価してあげるのです。
予定の数は多くて3つ程度にしておきます。あらかじめ達成しやすい予定にしておくことで、いい評価をつけやすいようにしておきます。これができれば、達成感と充実感を同時に得ることができ、思い残すことなく週末を終えることができます。
■日曜の夜に「一週間のシミュレーション」を
「サザエさん」が終わり、明日が月曜日であるという現実を直視したら、今度は積極的に仕事の準備をしましょう。
どうあがいても明日はやってくるのです。「いやだなあ」と否定ばかりしていると、いざ新しい週が始まってからもずっとその感覚に支配されてしまい、アクティブな1週間を創造できません。でも、あくまでもまだ日曜日なのですから、本格的に仕事に取りかかってはいけません。仕事をシミュレーションしながら、週明けにやるべきことの計画を立てましょう。
計画を立てることのメリットは何でしょうか。本書で、人間は見えないことが不安であり、暗い部屋でも電気をつけて見えるようになった途端に不安が解消するとお話ししました。計画を立てるという作業は、要するにこれなのです。
週明けに何が起こるのか、何をするべきなのか、ということをはっきりと見えるようにしておくことで、なんとなく日曜日の夜を支配している「明日は仕事か、いやだなあ」という不安感を解消するようにします。
やるべきことを日曜日のうちに考えておけば、問題解決にもつながります。立てた計画が実現することで満足感や充実感を得ることもできます。
■日曜日は1時間遅く寝てもいい
計画は、あまり細かく立てる必要はありません。平日が始まれば状況に応じてやるべきことも変わってくるでしょうから、5日間の計画は大まかに立てておき、直近の月曜日と火曜日の予定についてだけ、より具体的に計画を立てるようにしておけばいいでしょう。
日曜日は、残した仕事をこなしたり、寝る前には週末のサマライズや来週の予定のチェックなど、何かとやるべきことがあります。その時間を確保するために、日曜日は1時間ほど遅く寝てもかまいません。ただし、金曜日、土曜日と十分に睡眠を取り、心と身体を休めることができていればの話です。
では、1時間を超えて遅く寝てもいいか。これはおすすめしません。といいますのも、現代の夜の時間帯は私たちを誘惑するものにあふれており、つい度を超えて夜更かししてしまう危険性があるからです。
NHK放送文化研究所が令和2年に行った国民生活時間調査によると、国民全体でテレビの視聴時間が10年前と比べて5%ほど減少し、動画やインターネットにあてる時間が格段に増えました。特に、若年者でその傾向が顕著で、それにともない睡眠時間が減りました。現代社会は、どうしても夜更かしをしてしまう構造になっているのです。それゆえ、睡眠のリズムをくずしてしまわない自己管理がぜひとも必要です。
■“月曜日はやってくるものだ”と受け入れる
インターネットは漫然とサーフィンせず、検索の目的を達したら早々に閉じてしまいましょう。サブスクリプション等で配信された動画の鑑賞も1本だけにするなど、自分なりのルールを決めておきましょう。
日曜日の睡眠を妨げる別の要因の1つに、月曜日恐怖症があります。これは、眠るとすぐに朝が来るのがいやで起きておくというものです。月曜日に非常にストレスの大きい案件が待ち受けていたり、「サザエさん症候群」が強く出て月曜日の来ることを現実として受け入れることができないときなどに出てきます。
これは、週末の過ごし方のまずさと、「月曜日を迎えたくないから起きておく」という間違った認識から来ています。起きていたところで月曜日は必ずやって来るのであり、起きていればその分だけ疲労が蓄積して余計につらくなるばかりです。
これを克服するには、認識の過ちを自覚し、月曜日はやってくるのだと受け入れて、より楽に月曜日を乗り切るにはどうするべきかを客観的に考えるようにします。
■起床後の“暗示”も効果的
本書でお話ししたように、私たちの思考は行動によって決定づけられています。そうであるなら、月曜日の朝、起きたときに「ああ、また1週間が始まるのか、いやだなあ」とか「週末まで長いなあ、憂うつだ」などと思っていると、本当に「いやな」「憂うつな」1週間になってしまいます。
そんなときはむしろ、「ああ、よく寝た、気持ちいいなあ」などとあえてつぶやいて、1週間をポジティブに過ごす第一歩としましょう。あえてそう思い、自分の中に「快」を演出することで脳内麻薬といわれるエンドルフィンの分泌を高め、仕事に向けて緊張しがちな交感神経の興奮を抑え、心と身体をリラックスさせて1日に臨むことができます。
これは自己暗示であり自己催眠です。自己暗示はフランスのエミール・クーエによって開発されました。クーエは、「ある考えが強固に心に残ったら、それが現実に肉体に現れる」と言い、思考する言語の力が肉体にまで影響を及ぼすという考えのもと、赤面症や不安症など、さまざまな精神疾患を治療しました。具体的には、クーエの公式と呼ばれる「あらゆる面で、私は日々よくなっていく」との文言を毎日繰り返し、ポジティブなイメージを作り出すことで成果を上げていったのです。
「無理にポジティブに思うなんてできない」と思われがちですが、できないのは普段からそのような考え方をしていないからです。ポジティブなイメージをずっと意識し続けていれば、やがてそれが自分の自然な思考法として定着してきますので、ぜひやってみましょう。
(主な参考文献)
・森雄材『図説漢方処方の構成と適用』(名著出版)
・大塚敬節『症候による漢方治療の実際』(南山堂)
・大塚敬節『漢方診療医典』(南山堂)
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森下 克也(もりした・かつや)
心療内科医、医学博士
1963年生まれ。久留米大学医学部卒業後、東京女子医科大学で8年間の脳外科医のキャリアを経て、米国へ留学。帰国後は浜松医科大学心療内科にて、全人的医療の提唱者である永田勝太郎先生に師事、漢方と心療内科の研鑽を積む。浜松医科大学病院、浜松赤十字病院、豊橋光生会病院などを経て、2006年精神科漢方の専門施設としてもりしたクリニックを開業。著書に、『決定版「軽症うつ」を治す』(角川SSC新書)、『うつ消し漢方』(方丈社)、『もしかして、適応障害?』(CEメディアハウス)他多数。
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(心療内科医、医学博士 森下 克也)