1934年に渋谷駅に誕生し、90年以上にわたり渋谷の街とともに歩んできた東急百貨店。
2026年6月11日、渋谷ヒカリエ内の「ShinQs」は「ShinQs by TOKYU DEPARTMENT STORE」へ、「日吉東急アベニュー」は「東急百貨店 日吉店」へと店舗名称を変更します。
プロジェクトを率いる店舗運営事業部 副事業部長で渋谷戦略推進担当の赤田敏彦、ShinQs店長の藤田愛子、日吉店長の村山由美子の3名が、その覚悟と想いを語ります。
「渋谷に東急百貨店の名を冠する店舗がない」その違和感が出発点だった
全国の百貨店はピーク時から4割以上減少し、全国的に百貨店の名を外してショッピングセンター化する動きが加速しています。東急百貨店もまた、100年に一度と言われる渋谷駅周辺の再開発にともない、2020年に東横店、2023年に本店を閉店しました。
一方で、渋谷エリアでは東急百貨店が運営するShinQsや渋谷 東急フードショー、+Q(プラスク)、THE WINE by TOKYU DEPARTMENT STOREなど、約3万平米の売り場が今もあり、再開発の進展でさらに活躍の場が拡がる見込です。それでも店頭運営を行う中で、プロジェクトリーダーの赤田はこんな声を耳にしてきました。
「渋谷に東急さんがなくなってさみしい、不便です」
東急百貨店の名を冠する「館」はなくなっても、渋谷から東急百貨店の店舗がなくなったわけではない。
売り場はあるにも関わらず「東急百貨店はもうない」と受け止められている。このギャップについては、本店閉店の時点ですでに社内でも議論の的となっていました。そんな中、ShinQsの名称を東急百貨店に変えたほうがいいのではないかという意見も挙がっていました。
プロジェクトリーダー 赤田
「ただ、ShinQsは2012年の開店以降、東急百貨店が従来の百貨店やショッピングセンターといった仕組みにとらわれず、新たな店づくり、新たなお客様づくりのために挑戦してきた店舗です。これまで築いた新しいお客様との関係性を大切にしたいと思い、まずはお得意様サロンや一部ブランドを本店からShinQsに移設するなど、段階的に整理を進めながら、時間をかけて議論を重ねていきました」(赤田)
「最初は反対だった」開店メンバーの葛藤と、変化への決断
名称変更の議論は、決して一枚岩ではありませんでした。ShinQsの開店準備室から携わり、14年間店舗を見守ってきた藤田も、当初は変更に反対でした。
「オープンメンバーだったので、ShinQsというお店やブランドのアイデンティティへの思いがあり、変えたくないという気持ちが強かったです」(藤田)
渋谷再開発のリーディングプロジェクトである渋谷ヒカリエ内に開店したShinQsは開店当初から、これまでの東急百貨店にない新しさと独自性を発信してきた店舗です。
「東急百貨店を“渋谷”という視点で見た時に、お客様と深い関係性を築ける場所がなくなっていました。ShinQsのアイデンティティは残しながら、お客様との関係性をより深めるために『by TOKYU DEPARTMENT STORE』を加えるのは、前向きな選択だと考えるようになりました」(藤田)
一方、日吉店でも議論がありました。1995年に日吉東急百貨店として開店し、ショッピングセンターへと業態変更し「日吉東急アベニュー」に名称変更した経緯から、「なぜまた百貨店に戻すのか」という声が現場から上がりました。議論開始当時、日吉店長を務めていた藤田は、その声にも向き合います。
「百貨店からアベニューに名前が変わっても、お客様との関係性は変わらず『東急さん』と呼んでいただいていました。百貨店に名称変更することで、まちの中での信頼感や存在感は高まると考えました」(藤田)
社内では社長以下、役員が何度も集まり、あらゆる選択肢が検討され、親会社である東急(株)とも検討を重ねてきました。
「名前を変えるならすぐにでも、という意見もありましたが、あえて時間をかけて丁寧に進めました。最終的に重要視したのは、『お客様との関係性』という原点でした」(赤田)
名称変更を従業員やお取引先に伝えた際、予想以上の反応がありました。
「東急百貨店の名前がつくことをうれしいと感じてくださる声が想像以上に多かったです。東急百貨店への期待を現場で実感している店頭販売スタッフの方々が一番喜んでくださいました」(藤田)
「来れば必ず素敵な商品と出会える」お客様の言葉が背中を押した
現ShinQsの自主編集売り場(2F)にて
藤田には、名称変更への確信を深めた忘れられない出来事があります。昨年のクリスマス、売り場を回っていた時のこと。
「渋谷っていろんな店舗があるけど、結局ここに来ちゃうんだよね」
その一言に、「これこそ自分たちが目指してきた“マイストア”だ」と感じたと言います。「マイストア」はShinQs開店時からのサービス指針であり、その軸は14年経った今も変わっていません。
それを裏付けるように、上顧客アンケートには多くの声が寄せられました。
「往年のデパートの雰囲気も残しながら、女の子の宝物が詰まったような空間で大好きです」
「必ず素敵な商品と出会えるのがうれしいです」
中でも多かったのが、「いつもありがとう」「いつもあなたに接客してもらってうれしいです」といった、「いつも」という言葉です。
「この声を聞いて、百貨店化の方向性は間違っていないと確信しました。『来れば必ず素敵な商品と出会える』という言葉は、ストアコンセプトとして掲げる“メイク セレンディップ ストア”そのものです。やってきたことは間違っていなかった。だから進んでいいのだと」(藤田)
ShinQsが目指すのは、双方向の関係性の積み重ねです。2025年にオープンした「ShinQs Gallery 5」では、ライブペイントや盆栽づくりのワークショップなど、アートを身近に体験できる場も生まれました。また、LINEの友だち登録をしているお客様限定のフラワーアレンジメントイベントには想定を上回る応募が集まり、渋谷ヒカリエのクリスマス限定のキャラクター「HikariELF(ヒカリエルフ)」では商品づくりに顧客の声を反映する取り組みも始まっています。
「エンゲージメントとは、こうした双方向の関係性の積み重ねです。
藤田が見据えているのは、さらにその先です。
「1階ビューティーフロアに新しいイベントステージを設けて、新ブランドのお披露目や、ビューティーの新しい体験の場をつくりたいと考えています。さらに将来的には、渋谷の新進クリエイターや学生が『初めてお客様に届ける場所』としてShinQsを選んでくださるような、インキュベーションの拠点にも育てていきたい。ShinQsで生まれたブランドが日吉エリアやたまプラーザエリアに広がっていく。そんな流れをつくることができるのは、渋谷を起点に事業展開する私たちだからこそだと思っています」(藤田)
「日吉の暮らしの羅針盤」桜餅が渋谷より売れるまちで
日吉東急アベニューは1995年に日吉東急百貨店として開店以来、30年にわたり地域に親しまれてきました。村山にとって、日吉は特別な場所です。
「生まれも育ちも近隣で、開店以降、親子三世代で利用してきました。3階のレストランで祖母が好きだったピザを食べ、食料品を買って帰る。そんな日常が、今では大切な思い出です」(村山)
2025年の30周年記念イベントでは、「ずっと一緒に過ごしてきた」「赤ちゃんハイハイレースに子どもが出場した」といった声が寄せられ、販売や接客にとどまらず、家族の思い出の場としての役割が育まれてきたことがうかがえます。
日吉店が掲げるストアコンセプトは「Daily Life Compass 横浜日吉ライフの羅針盤」。コンパクトでありながら、日常の暮らしにささやかな幸せや喜びを届ける存在を目指しています。
「皆さん、その日のうちに召し上がるものを買っていかれるんです。その日常との結びつきが、お客様との絆です。日吉のお客様は歳時記を大切にし、家族で過ごす時間を重んじています。ひな祭りの桜餅やお彼岸のおはぎなど、季節の行事が日常に根付いているんです。実は、桜餅は渋谷よりも売れるショップもあるんですよ」(村山)
クリスマスや年末・お正月に加え、ひな祭りやお彼岸など暮らしに根付いた歳時記も一つの山となる。こうした文化を大切にするお客様の気持ちが、この街の百貨店を支えてくださっています。
「東急百貨店 日吉店は、コンパクトでありながら、日常にささやかな幸せや喜びを届ける、地域密着型の新しい百貨店として出発します」(村山)
2023年、慶應義塾高校が夏の甲子園で優勝した時には、商店街とともに盛り上げたことで「一緒に応援してくれてうれしい」と声が寄せられ、街が一体となる瞬間も生まれました。商店街や地域の個店と連携しながら「あったらいいな」を満たすハブとしての役割を担ってきました。
今回、日吉駅のリニューアルとも連動し、「街の玄関口」として再出発します。ShinQsやたまプラーザ店など東急百貨店が運営する施設との連携はもちろん、綱島や武蔵小杉などの沿線の東急グループの施設との連携も視野に入れています。
「名称変更を機に、渋谷の外商チームとの連携を深め、日吉エリアのお客様の満足度向上につなげてまいります。」(赤田)
渋谷で生まれた価値を、沿線へ届ける
「東急百貨店は、東急グループ創業者・五島慶太が、沿線の街づくりの一環として沿線居住者の利便性向上を目的に百貨店をつくったことに始まります。
今回の名称変更により、渋谷にはShinQs(渋谷)、田園都市線沿いにはたまプラーザ店、東横線沿いには日吉店が加わり、沿線に3つの百貨店が揃います。渋谷は東急百貨店および東急グループの本拠地です。
日吉で人気を博したブランドがShinQsに出店するなど、沿線店舗間の循環も生まれています。渋谷を起点に、たまプラーザや日吉へ波及するケースもあれば、その逆もある。沿線20分圏内に暮らすお客様が、地元と渋谷を使い分けてくださっている。その関係性こそが、東急百貨店の最大の強みです。
「東急線沿線をはじめとした地域のお客様との関係性こそが、東急百貨店が他社に負けない一番の資産です。お客様に当社各店をマイストアと思って通っていただくために、これまでに培った目利き力、編集力、接客・販売サービス力をさらに高めていきます」(赤田)
2034年、東急百貨店は創業100周年を迎えます。
「百貨店業は、お客様の生活や行動に合わせて変化し続ける仕事です。街の変化に合わせて対応していく。その一つが今回の名称変更です。お客様の生活に寄り添い続けること。
『この店一番の自慢はこのまちのお客様です』その言葉を胸に、東急百貨店は渋谷と日吉、2つの街から新しい百貨店の姿を描き始めます。
【参考】
『東急百貨店が運営する「渋谷ヒカリエ ShinQs」と「日吉東急アベニュー」を2026年6月11日(木)から店舗名称変更 ~百貨店屋号を再掲し、東急(株)グループのまちづくりと連携した新たな百貨店像を創出~』
URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000127.000020722.html
<プロフィール>
赤田敏彦
株式会社東急百貨店 店舗運営事業部 副事業部長 渋谷戦略担当。1998年入社。日本橋店、東横店の店頭勤務、経理部、経営企画部担当部長、ShinQs店長などを経て現職。今回の店舗名称変更プロジェクトリーダー。
藤田愛子
株式会社東急百貨店 ShinQs店長。開店準備室から自主編集売り場とサービス担当として、2012年のShinQsの開店に従事。日吉店長を経て、2025年にShinQs店長に就任。
村山由美子
株式会社東急百貨店 日吉店長。テナントリーシング担当として2015年から日吉店に関わり、2025年に日吉店長就任。生まれ育った沿線で、親子三世代で利用してきた。
<会社概要>
■東急百貨店について
東急グループにおけるリテール事業会社として、渋谷ヒカリエ ShinQsや渋谷 東急フードショー、+Q(プラスク)、東急フードショーエッジなど渋谷を拠点とし、東急線沿線を中心に百貨店・ショッピングセンター・専門店を展開。百貨店事業で培った目利き力、編集力、接客・販売サービス力を生かし、新たな顧客価値を創造し、地域の生活者の豊かな暮らしづくりに貢献します。
URL:https://www.tokyu-dept.co.jp/