今月に入り、強豪チェルシーを相手に2戦連発。イングランドの地で三笘薫が躍動している。
(文=田嶋コウスケ、写真=ロイター/アフロ)
三笘は手をたたいて味方選手を鼓舞していた
三笘薫が好調だ。
2月8日のFAカップ・チェルシー戦で決勝点をたたき込むと、6日後にチェルシーと再び相まみえたプレミアリーグ(2月14日)でも先制点を奪取。強豪クラブを相手に2試合連続でネットを揺らし、公式戦での得点記録を「7」にのばした。この結果、三笘がプレミアリーグでブレイクした2022−23シーズンの得点記録「10」も見えてきた。好調を維持しているだけに、さらなる記録更新が期待できそうだ。
FAカップのチェルシー戦では、体勢を大きく崩しながら肩でトラップし、素早くループシュートに持ち込んだ。後半12分に生まれたこの得点が決勝点となり、サムライ戦士はチームを勝利に導いた。三笘はこう振り返る。
「アクシデントみたいなゴールでしたけど、ジョルジニオ・リュテールが良いパスをくれました。GKと1対1になっているのはわかってたので、トラップが大きくなりましたけど、逆に相手GKが前に出てくれたので助かりました。パスが不意に来た感じでしたけど、浮き玉じゃないとパスが通らなかった。自分自身もギリギリのところで触れて良かった。
得点自体も素晴らしかったが、筆者が注目したのは、ブライトンが先制点を奪われた前半5分の場面だった。GKバルト・フェルブルッヘンがクロスボールの処理を誤り、開始早々にオウンゴールを献上。折しも、その前週に行われたプレミアリーグのノッティンガム・フォレスト戦で、ブライトンは0−7の惨敗を喫していた。また敗戦か──と、開始早々に嫌な空気が流れた始めたところで、三笘は手をたたいて味方選手を鼓舞していた。
気持ちを切り替えることができたブライトンは、オウンゴールの7分後に同点ゴールを奪取。そして、サムライ戦士の決勝ゴールにつながった。もともと三笘は選手たちの先頭に立ち、味方を強引に引っ張るようなタイプではない。しかしチームが苦しい状況に陥ると、今季の三笘は率先して選手たちの気持ちを高めようとしている。苦しいときこそ、チームを引っ張らねば──そんな決意が伝わってくる。
「プログレッシブ・ラン」でリーグトップの数値
プレミアリーグのチェルシー戦では、絶妙なボールタッチから鮮やかにネットを揺らした。
GKフェルブルッヘンからロングボールが飛んでくると、三笘は素早く反応。後方から飛んできたロングパスを足元でピタリと止め、マーカーの間合いを外してゴール右にたたき込んだ。デニス・デルカンプやリオネル・メッシといったワールドクラスになぞらえられたスーパーゴール。
三笘の優れたボールテクニックもさることながら、このゴールには、日本代表アタッカーがプレースタイルを徐々に変化させている片鱗も見えた。
三笘といえば、ペナルティエリア付近でのドリブル。相手をドリブルで交わし、さらにサイドをえぐって好機を演出するプレーは27歳MFの代名詞である。
しかし今季、こうしたドリブル突破の回数が減っている。要因は、相手のダブルマーク。対戦相手は三笘に2人のマークをつけることで、ドリブル突破の怖さを消している。
代わりに増えているのが、縦へのスプリントだ。
背景にあるのは、ブライトンの監督交代に伴う戦術変更である。今季から指揮を執るファビアン・ヒュルツェラー監督がフィールドプレーヤーに求めているのは「強度の高いディフェンス」である。アタッカーの三笘も例外ではなく、あくまでも守備をこなしてからの攻撃になる。三笘も「守備をやらないと試合に出られない」と語り、自陣深くまで下がってディフェンスをこなす必要があると強調している。
その結果、縦へのスプリントが増えた。自陣からスプリントを繰り出し、攻撃に絡む回数が増えているのである。あるときはカウンター。またあるときは、今回のスーパーゴールのようなロングボールからの攻撃だ。
実際にスタッツをひも解くと、三笘が自陣から長い距離を走り、攻撃を仕掛けているのがわかる。例えば、「プログレッシブ・ラン」。このスタッツで、三笘はリーグトップの数値をたたき出している。プログレッシブ・ランとは、一人の選手がボールをコントロールし続け、ボールを相手ゴールに近づけるプレーを指す。スタート地点が自陣の場合は、ゴール方向にボールを30メートル近づけることでカウントされるスタッツであり、いかに三笘が長い距離を走って攻撃に絡んでいるかがわかる。
ブライトンと日本代表で貢献を見せる“今季のテーマ”
守備をこなした上で、攻撃を仕掛けているのが、今季の三笘のテーマだ。そこで、こんな質問をぶつけてみた。
「吉田麻也選手が、『カオルは日本代表で強度の高い守備を自分に課してるように見える』と話していました。
「もちろんそうですね。プレスバックだったり、中に入る守備だったり、いろんなとこが求められるので。(代表の)ウィングバックはもちろん守備の比率が高いので、自分に課しているというよりは、そこをやらないと試合に出られない。そこは間違いなくあると思います」
今季の三笘は、プレースタイルをゆっくりと変えながら、よりスケールの大きい選手へと進化している。その成果が、絶妙なボールタッチから生まれたスーパーゴールだった。
一方で27歳の中堅になり、精神面からチームを引っ張っていこうともしている。「もっともっと結果を出すことで、日本人選手の価値も上がると思う。自分は、そういう役割を担っていると思っている」と力強く語る三笘。
今シーズンの残り試合で、果たしてどこまで進化するのか。
<了>
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