Wリーグで連覇を成し遂げた富士通レッドウェーブが大切にしてきたチームコンセプトに「オーバーコミュニケーション」がある。宮澤夕貴はキャプテンとして、若手が思いを言葉にしやすい空気を作り、全員でミーティングを重ねる中で、その重要性を実感してきた。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、撮影=松岡健三郎)
「オーバーコミュニケーション」で作る共通理解
――富士通は「オーバーコミュニケーション」をチームのモットーとして掲げてきましたが、改めてその言葉の真意を教えていただけますか?
宮澤:優勝した2023-24シーズンの時に、まずBT・テーブスHC(ヘッドコーチ)が「オーバーコミュニケーション」を目標に掲げました。それから、練習後に全員で集まってミーティングする機会を作り、全員でこのチームを作っていくという意識が高まりました。
以前は赤と白、2つのチームに分かれて各グループでコミュニケーションをとっていたのですが、それでは試合で共通認識が持てないこともありました。そこで、全員で「できていること、できていないこと」を共有し、次につなげる場を作るようになったんです。
――その取り組みは、宮澤選手の考えにも影響しましたか?
宮澤:はい。若い選手は積極的に発言しないことが多いですが、「どう思う?」って聞いたら、ちゃんとそれぞれが考えを持っていることに気づくことができました。今までは言ってこないから「何も考えてない」と思っていたんですけど、表情を見ていると、何か言いたそうな感じがすることもあって(笑)。実際はすごくいろいろなことを考えている。きっかけを作ってあげると、発言してくれるんだとわかりました。
――若い選手が話しやすい雰囲気を作る工夫をされているのですね。
宮澤:全員で丸くなってミーティングをする時に、「何か(意見)ある?」と聞くだけだと発言は出てこないので、名前を挙げて「◯◯はどう思う?」と聞くようにしています。表情を見て「言いたそうだな」と思う選手に声をかけることもあります。

「伝え方」の原点と高校時代の葛藤
――リーダーとして、「厳しさ」や「本音」を伝えるうえで葛藤はありましたか?
宮澤:高校の時もキャプテンをしていたのですが、恩師の星澤純一先生に、「アース(宮澤のコートネーム)は優しすぎる。もっと自分から言え」と言われたんです。それで言うようになったのですが、当時はきつい言い方しかできなくて、「これダメ、全然できてない」とチームメートに強く言いすぎたりして、本当に悪いキャプテンだったなと反省しています。その経験から「どう言えば伝わるか」を考えるようになりました。厳しく言う時も必要ですが、言い方を工夫することが大事です。今は町田瑠唯選手や林咲希選手がフォローしてくれるので、バランスが取れていると思います。
――試合中、ベンチにいる選手にはどのような声かけをしているのですか?
宮澤:常に声をかけています。「こうした方がよかったと思う」とか、「あの時どうしてそうしたの?」と聞いたりもします。
――ヘッドコーチとの関係性で心がけていることはありますか?
宮澤:私は、コーチと積極的にコミュニケーションを取ります。まず、そのコーチの考えを聞いて、私の意見も伝える。
――さまざまなコーチの下でプレーしてこられましたが、コミュニケーションで難しさを感じた経験もありましたか?
宮澤:ありますよ。自分の考えを率直に伝えた結果、裏目に出てしまったこともあります。チームのためにと思って行動した結果でしたが、それも一つの学びになりました。

「キャプテンは楽しくない」発言の真意
――幅広い年齢層の選手がいる中で、チームの一体感を高めるために意識していることはありますか?
宮澤:若い選手は、ベテラン選手に比べるとメンタル面で波があると思います。ただ、誰から言われるかによっても受け取り方は変わりますし、「この選手には私じゃなく別の選手から言ってもらおう」というふうに、話を聞くのが上手な選手に任せることもあります。私は「みんなを引っ張るリーダー」という立場を意識していて、役割分担をしながらうまくチームが回っていると思います。
――キャプテンという役割を楽しめていますか?
宮澤:正直、キャプテンは楽しくはないですよ(笑)。でも、チームを勝たせたいという気持ちがあるからやっていますし、優勝できた時はキャプテンとして導くことができた結果でもあるので、「このチームのキャプテンでよかった」と思えます。
――常にチームを引っ張る立場で気を張っていることも多いと思いますが、オフはどんなふうに過ごしているんですか?
宮澤:オンとオフを完全に切り替えています。オフがあるから頑張れるところがあって、ずっとバスケットのことを考えていると疲れてしまうので。男子(Bリーグ)の試合を見ることもありますが、基本的にはオフはアクティブに外に出るようにしています。

コーチング型リーダーシップへのシフト
――リーダーとしての展望やキャリアイメージをどのように描いていますか?
宮澤:最近、C級のコーチライセンスを取得しました。
例えば練習後に「こうするべきだったよね」と一方的に伝えるのではなく、「あの時どうしたらよかったと思う?」と問いかけて選手自身に考えてもらう。そうすれば、次に同じ状況になった時に自分の判断で答えを出して動けるので、自主性が身についていきます。これからはその点を意識して取り組んでいきたいと思っています。
――ワールドカップ、オリンピックに向けた展望はいかがですか?
宮澤:オリンピックまでは3年ありますが、まずは1年ごとにしっかり積み重ねていくことが大事だと思っています。ここ数年は、ワールドカップ(2022年大会9位)、オリンピック(2024年大会12位)と、結果を残せていないので、コーリーHCのバスケットで結果を出したいという気持ちがあります。
7月のアジアカップでは個人的にパフォーマンスを発揮できましたが、世界を相手にした時にどうなるかはわかりません。そのためにも、3ポイントだけでなくプレーの幅を広げる必要性を感じています。
――Wリーグのレギュラーシーズンは10月18日に開幕します。意気込みをお願いします。
宮澤:開幕までに、大学生との試合や「パクシンジャカップ」(8月30日~9月7日)、WBLA(FIBA Women’s Basketball League Asia 2025/9月23日~28日)などの試合が続きます。新体制でメンバーも変わりましたが、富士通のバスケットが大きく変わったわけではありません。試合を重ねながらチームを作り上げていきたいと思っています。
開幕戦は昨シーズン2位のデンソーアイリスとの試合なので、まずその2連戦をしっかり勝って良い流れを作りたいです。一戦一戦にフォーカスしてレギュラーシーズンを戦い抜き、最終的にリーグ優勝という結果につなげたい。試合の中で全員が成長し、チームを一歩ずつ進化させていきたいと思います。
――追われる立場で、3連覇を阻止しようとライバルも目の色を変えて臨んでくると思います。
宮澤:たしかに追われる立場ではありますが、今シーズンからWリーグは外国籍選手の登録規定が変更され、より多くの外国籍選手が登録できるようになりました。その影響で勢力図も変わると思うので、「2連覇したから」というプレッシャーは特に感じていません。
【連載前編】若手に涙で伝えた「日本代表のプライド」。中国撃破の立役者・宮澤夕貴が語るアジアカップ準優勝と新体制の手応え
【連載中編】Wリーグ連覇達成した“勝ち癖”の正体とは? 富士通支える主将・宮澤夕貴のリーダー像
<了>

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試合終了後、メンバー全員と交わした抱擁。BTテーブスHCがレッドウェーブに植え付けたファミリーの愛情
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[PROFILE]
宮澤夕貴(みやざわ・ゆき)
1993年6月2日生まれ、神奈川県出身。女子バスケットボール選手。富士通レッドウェーブ所属。ポジションはパワーフォワード。金沢総合高校では1年時から主力となり、3年時には主将としてインターハイ優勝に導く。2012年、JX-ENEOSサンフラワーズ(現ENEOS)に入団。