中国のシンクタンク・安邦智庫は、米製鉄大手USスチールを買収するなど対外投資に積極的に乗り出す日本製鉄からみた中国鉄鋼産業の状況を伝え、その問題性について考察する記事を掲載した。
記事は、USスチールを買収した日本製鉄の橋本英二CEOが、グローバルな視点に立った発展戦略を立てているとし、その戦略が大きく二つに分けられると伝えた。
まず、買収したUSスチールの経営改善とし、日本製鉄がUSスチールについて稼働率の低さや高コスト体質といった課題を抱えていると認識していることを紹介。日本製鉄から40人の技術者を派遣し、生産方法の最適化や老朽化した設備の改善を進めているとした。また、橋本CEOは米国市場には十分な需要があり、特にAI半導体やEVモーターに不可欠な高級電磁鋼板など、日本製鉄の技術があれば米国では生産できない高付加価値製品をUSスチールで製造できると考えており、これが収益性向上と競争力強化に繋がるとも見ていることを伝えた。
次に、USスチールの経営改善と並行したさらなる海外投資への注力を挙げ、橋本CEOが現在の世界的な産業構造の変化や保護主義の台頭を大きな転換期と捉え、10年後に「勝者」となるため、米国や欧州、インド、タイの主要市場で生産拠点を確保し、粗鋼生産量1億トンを目指すと表明したことに言及。中国鉄鋼企業の低価格攻勢が続く状況は、実力のある企業がさらに強くなる機会と捉えており、国内市場の飽和も踏まえて積極的な海外展開が不可欠だと認識していると解説した。
その上で、中国の鉄鋼企業について橋本CEOが「非難し、見下す」ような見解を持っていると主張。まず、悪性の競争による鉄鋼業界全体の生産能力過剰状態が悪化し続けているとし、粗鋼の消費量が2020年をピークに年々減少して24年には8億9200万トンにまで低下した一方で生産量はなおも10億トン程度で推移しており、24年の中国主要鉄鋼企業の年間利益がおよそ半減し、利益率も0.71%にまで低下したことを指摘した。
次に、日本製鉄との対比を通じて中国鉄鋼業界の収益性が低いことに言及。24年の日本製鉄の生産量が中国鉄鋼業全体の約4%だったのに対して、営業収入は中国全体の7.26%に達したことを指摘し、質と効率を重んじる日本製鉄が薄利多売で疲弊気味の中国鉄鋼業全体を上回っていることを説明した。さらに、日中間の収益性の差は鉄鋼業界と密接に関係する自動車業界などの産業でも明らかになっていると論じた。
記事はまとめとして、中国の製造業が「大きくても強くない。産業政策に依存して無秩序に成長し、政府の補助に頼って価格競争を展開するばかりで、自身の競争力による適者生存が行われない」という根本的な問題を抱えている指摘。