世界最大のファウンドリ企業(半導体チップ製造請負企業)である台湾積体電路製造(TSMC、台積電)が建設を計画している熊本第2工場は、量産開始が当初の計画より1年半遅い2029年上半期になる見通しになった。同社の魏哲家経営最高責任者(CEO)は取材に対して、現地の交通インフラの整備を挙げたが、実際には主な顧客である日本企業が激しい競争に直面して受注が伸びないとみられることという。

台湾メディアの経済日報が伝えた。

第2工場は、24年末に稼働を開始した熊本県菊陽町にある第1工場に隣接して建設され、より先進的な回路線幅7ナノメートルおよび6ナノメートル相当のロジック半導体をつくる予定だ。これらの製品は、人工知能(AI)や自動運転関連での利用が想定されている。

なお、第1工場と第2工場を手掛けるのはソニーセミコンダクタソリューションズとデンソー、トヨタ自動車も少数株主として経営に参画するJASMだが、JASMにはTSMCが過半出資しているため、JASMの工場は一般的に、TSMCの熊本工場と見なされている。

TSMCの魏CEOは取材に応じた際に熊本第2工場の延期について、建設作業が現地の道路交通に深刻な影響を及ぼすためであり、住民感情を考慮して現地当局が交通インフラを改善してから着工すると判断したと説明した。

しかし、実際に熊本第2工場延期の大きな原因になったのはまず、TSMCが地政学的な変化に対応し、米国アリゾナ州での投資を1000億ドル(約14兆8000億円)増額して総投資額を1650億ドル(24兆4000億円)にしたことだ。TSMCはAI向け半導体の「米国製」に対する顧客の強い需要に対応するためとして、アリゾナ州の第2工場の設備導入と第3工場の建設を加速する方針を決定した。

一方で、熊本第2工場については、主たる顧客である日本企業による先進的製品に対する需要が当初予想ほど切迫しておらず、ソニーやデンソーの製品で十分に対応できると判断された。日本政府はAI自主開発計画を強力に推進しているが、中国による強烈な競争によって、自動車用半導体の市場は低迷し、AI用半導体の展開も著しく遅れており、これこそが熊本第2工場の量産を29年上半期にまで延期する主たる原因だ。

TSMCのサプライチェーン関係者は、米国のトランプ政権時代の関税政策に対応するため、米国工場への投資を優先する方針をとったが、熊本第2工場の延期の真の理由は、日本における先進的製品への需要が予想を大きく下回ったことであり、アリゾナ州の工場の建設加速とは大きな関係がないと説明した。(翻訳・編集/如月隼人)

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