シンガー・ソングライターのラブリーサマーちゃんが、平成最後の日となる4月30日に東京・恵比寿リキッドルームにてワンマンライブ「ミレニアム」を開催する。
2017年に1stアルバム『LSC』でメジャー・デビューを果たした彼女は、そのキュートな歌声とポップなメロディ、宅録を中心とした緻密なアレンジによって、シーンに大きなインパクトを与えた。
そこで今回Rolling Stone Japanは、ラブリーサマーちゃんの自宅を訪問。自身のソングライティングに影響を与えたアルバム10枚を選んでもらい、数々の名曲を生み出してきたその場所で解説をしてもらった。彼女の「音楽愛」が、ひしひしと伝わってくる貴重なロング・インタビューである。
─ラブリーサマーちゃん(以下、ラブサマちゃん)は、2017年に『LSC』と『人間の土地』をリリースして以降、ライブ活動を中心に行っていますよね。新作の予定はどんな感じですか?
ラブサマ:すでに13曲のデモが完成していて、リリースに向けて準備を進めているところです。まだ具体的には何も決まってないんですが。
─それは楽しみです。どんな内容になりそうですか?
ラブサマ:前作『LSC』は音楽性がバラバラというか、アレンジ的に幅のあるアルバムだったと思います。というのも、自分が音楽を好きになってから、その時までのリスナー遍歴全てが入っていましたから。でも、『人間の土地』をリリースして以降、私の中で空前絶後の「ブリットポップ大ブーム」が訪れて(笑)。
─(デモ音源を聴かせてもらう)うわ、もう最高じゃないですか。ブラーあり、ブリグリ(the brilliant green)あり、オアシスあり……。ラブサマちゃんが1人で作った打ち込みデモですか? これはこれで欲しいくらいです。
ラブサマ:マジっすか? 嬉しい!
─この新曲は、今回のワンマンでもやる予定ですか?
ラブサマ:メッチャやろうと思ってるんですよ。昔の曲ばかりやっててもなあって思うし。ただ、13曲全部やったら(観客が)知らない曲ばっかりになっちゃうじゃないですか(笑)。どんなセットリストにするかは、これから考えます。
─ライブのサポート・メンバーは今、どんな編成なのですか?
ラブサマ:去年の7月から新編成になりました。ベースは、私のサポートをもう何年もやってくれているayutthaya/nenemの右田眞さん。
─では、来るべき新作と4月30日のワンマンに備えて、「ラブリーサマーちゃんの新作がよく分かるアルバム10選」を1枚ずつ解説していただこうと思います。それにしても「ラブサマちゃんらしさ」炸裂の10枚ですね。
ラブサマ:やったー! 嬉しい。どんなことを話すか考えようと思って、昨日1日中この10枚を聴いていたんですけど、「私本当に、こういう音楽大好きだわ」って改めて思いました(笑)。
1. Echobelly『On』(1995年)
─では、まずはエコーベリー。彼らの2ndアルバムです。
ラブサマ:今回のリストでいうと、エコーベリーからの前半4枚まではもう、昔から大好きな「オールタイム・ベスト」感があります。イギリスの女性ボーカルのバンドではたぶん、エコーベリーが一番好きですね。
エコーベリーが好きなのは、サビでメロディを繰り返すところ。”Nobody like you, nobody like you”とか(「Nobody Like You」)、”Go away, go away”とか(「Go Away」)。しかもアレンジはシンプル。バレーコードのギターを2本、左右に振って、そこにアルペジオが乗るくらい。派手なことは一切せず、このフォーマットで13曲続くんですけど、全然ダレなくて。シンプルな演奏を誠実に演奏していると、そこにパワーが宿るんですよね。私自身、曲を作っていてアレンジで迷った時は、一旦エコーベリーのフォーマットに落とし込んでからオリジナリティを追求しています。
※Apple Musicはこちら
─誤解を恐れずに言えば、ブリットポップって演歌なんですよね。循環コードが基本で、シンプルな8ビートと、ペンタトニックのギターイントロっていう。「型」が決まっているからこそ気持ちいいというか。
ラブサマ:あははは! 確かに気持ちいいんですよねえ。あと、エコーベリーは歌詞がすごくいいんですよ。
しかも、この曲はラスサビで”Me! Me! Me!”って何十回も言うんですけど、こんなに自分を力強く肯定できるってなかなかない。私はあんなふうにパワフルに歌えないので、すごく憧れちゃいますね。
View this post on Instagramラブリーサマーちゃんさん(@imaizumi_aika)がシェアした投稿 - 2018年 6月月7日午前9時17分PDT
2. Blur『Leisure』(1991年)
─インタビューの最初、「ブラーってやばい!」とおっしゃっていました。ブリットポップにハマっているラブサマちゃんから見たブラーの魅力というと?
ラブサマ:顔がかっこいい(笑)。
─それは大事な要素です(笑)。
ラブサマ:私はブラーといえば、3rdアルバム『Park Life』の方が好きなんですけど、今回は「作品に影響を与えたアルバム」ということでこの1stを選びました。制作中のニューアルバムの中には「Theres No Other Way」のコード進行を引っ張ってきて、そこから膨らませたような楽曲があるんですよ。
※Apple Musicはこちら
─1995年当時には、オアシスとブラーの勢力争いもありましたよね。ラブサマちゃんはどっち派ですか?
ラブサマ:ちょうどその年に生まれたので、一つも記憶に残ってないんですけど……うーん、どっちかな。だいたいオアシスとブラーって得意分野が全然違うじゃないですか。私としては、どっちの得意分野も自分の音楽の中に取り入れたいです。
3. the brilliant green『TERRA2001』(1999年)
ラブサマ:ブリグリも私の「オールタイム・ベスト」なので、選盤は迷いましたね。1stアルバム『the brilliant green』も名曲ぞろいで捨てがたいんですけど、初めて聴いたアルバムが『TERRA2001』だったので、その思い出補正も含めて選びました。
─ラブサマちゃんは歌声ももちろん魅力の一つで、おそらく川瀬智子さんからの影響もあると思うんですが。
ラブサマ:「自分が気にいる音楽をやりたい」と常々思っているので、たとえばCymbalsみたいな曲が出たら、土岐麻子さんの声に「コスプレ」して歌ったり、ブリグリのような曲ができれば川瀬さんの声に「コスプレ」して歌ったりしていましたね、初期の頃は。特に川瀬さんの歌声には憧れていて、「あんなふうに歌えたら……」と思って中学生くらいからメチャクチャ練習してました。ですが、最近初期の音源を聴き返してみると、コスプレ系の声はなんか不自然で気持ち悪いなと(笑)。最近はもう「誰々に似せよう」などとは思わず、「自分の声は、こういう風に発せられた時に、一番気持ちよく出るよな」という角度から見て、歌い方を決めるようにしていますね。
※Apple Musicはこちら
─そういえば以前、「自分の新曲を聴いて、頭の中の架空リスナーが爆泣きしてくれている」ってツイートしていたじゃないですか。
ラブサマ:そうです。喜ばせてあげたいですね。
─TWEEDEESの沖井礼二さんも、「自分の楽曲の一番のファンは自分で、そいつを喜ばすために曲を作っている」っておっしゃっていました。
ラブサマ:最高です。次に選んだオウズリーもそう言ってましたよ。
4. Owsley『Owsley』(1999年)
─では、そのオウズリーの魅力を。
ラブサマ:確か大学1年のころ、スカートの12インチがアナログ限定で出たんです(2014年の『シリウス』)。その時にレコードプレーヤーを初めて買ったんですけど、「せっかくだから、他にもレコード聴きたい」「”レコード屋でレコードを買う”という楽しみを味わってみるか」と思い、ココナッツディスクで何枚か買った中にまずワナダイズがあって。それがすごく良かったので、関連を掘っている時に「グッドメロディ特集」みたいなネット記事でオウズリーを見つけたんです。
「音楽って何が一番大切なんだろう?」「何を一番大切にしたらよかったんだっけ?」「そもそも、いい音楽ってなんだっけ?」などと考え込んで、迷走してしまうときがあるんですけど、そういう時にオウズリーを聴けば一発解決というか。こんなTシャツを着て(この日はティーンエイジ・ファンクラブ)、「いいメロディが」とか言ってるのそれっぽすぎて恥ずかしいんですけど(笑)、ワナダイズとかティーンエイジとかオウズリーとかを、酔っ払った帰り道とかにいつも一人で聴くんです。そういう時に聴く音楽って、メチャメチャ大事じゃないですか。もうね、いいメロディといい歌詞というのがやっぱ一番大事だわ、私の帰ってくる場所はここだわって。オウズリーを聴くとそういう気持ちになるんですよね。それを思い出させてくれる1枚です。
※Apple Musicはこちら
─ただ、残念なことに彼は2010年に自殺してしまったんですよね。
ラブサマ:私、オウズリーの人柄も大好きなんですよ。日本盤ライナーノーツに掲載されたインタビューを読んだり、90年代に渋谷クアトロでやった時のインタビュー映像を見たりするうちに気づいたんですけど、私と考え方が一緒なんだなって。だから、このジャケを見ながら曲を聴いてるとメチャメチャ泣いちゃうんです。
オウズリーって、いわゆるシンガー・ソングライターじゃないですか。でも本当はバンドがやりたかったんですよね。このアルバムは、お金をコツコツと貯めて家の中にスタジオを作り、サポート・メンバーに助けてもらいながら自分でバリバリ演奏していて。それでジャケットを見ると、1人部屋の中で「バンドごっこ」をしてるという。こっちを向かずに、背中を見せてジャンプしてますよね? この内向的な感じと、1人ではしゃいでる感じ、でも最終的に自殺しちゃって……もうなんか全てが愛おしすぎてどうしよう。とにかくこの人、頑張ったんだなあ。すみません、オタクしゃべりしちゃって。
Photo by Takanori Kuroda
─これほど素晴らしいオウズリーのレコメンド、お目にかかった事がないですよ。
ラブサマ:しかも彼は、歌詞を1年もかけて書くんですよ。作品に対してあまりにも真摯じゃないですか? 私はもう、「Coming Up Roses」みたいな曲が書けたら音楽やめてもいいですね。”みんながウトウトしている間に、君のバラは咲いている”でサビが終わるとか、すごく詩的。脚韻の踏み方も全曲素晴らしいし。私は今まで、韻を踏むという事を意識せずに曲を作ってきたんですけど、最近はやっぱり歌詞というのは言葉の意味だけじゃなくて、音としての要素がすごく強いんだなって思うようになって。自分が想像していた以上に、音としての要素が人に与える影響ってヤバイらしいということに気づいたんです。
5. MGMT『Little Dark Age』(2018年)
─続いては、MGMTが昨年リリースした4年ぶりの通算4枚目。
ラブサマ:一番有名な『Oracular Spectacular』(2007年)もメチャメチャ好きで、聴きまくった青春の1枚なんですけど、その彼らが新しいアルバムを出してくれるということで、大変期待して聴いたらやっぱり最高でした。特に、なんともいえない不穏な感じがすごいというか。私がこのアルバムを聴いていたのは、去年の梅雨の時期。結構、アホっぽい音も入っているし音像も可愛らしくて、ビートとかもチープなかんじだしノレるのに、なんか不穏な感じがするんです。ちょっと調律の狂った古いピアノみたいな。
ビートルズの「Revolution 9」ってメチャクチャ怖いじゃないですか。あれを希釈した不穏さというか。私、そういうのに惹かれちゃうことに最近気がついたんですよ。ディアハンターの新譜(『Why Hasnt Everything Already Disappeared』)も不穏ですよね。あれ、なんなんでしょう。ボーカルとかギターのリバーヴの処理なのかなと。どう思います?
─うーん、ハープシコードやファルフィッサ(オルガン)のちょっとピッチがずれている感じとか、シンセの揺らぎとか、そういうものも影響してそうですよね。
ラブサマ:あ、なるほど。私の曲作りって、ギターをジャーンってコードで鳴らして、ベースはルートに5度を足すくらい。ドラムはAddictive Drums(ドラムのソフト音源)の一番シンプルなやつをアサインして8ビートみたいな。だからバカっぽい曲しか出来ないんですけど(笑)。こういう、不穏な曲を作りたいって最近は思っているんです。なんか、ちょっと怖いものって絶対みんな気にしちゃうじゃないですか。好きか嫌いかじゃなくて、なんか気になってしまう。「畏怖」の気持ちと「憧憬」って近いですよね。
※Apple Musicはこちら
6. Only Real『Jerk At the End of the Line』(2015年)
ラブサマ:私はリズム感が致命的にないからラップは出来なくて。試しにやってみたら、お母さんに「さっき念仏唱えてた?」って言われるくらいムリなので。でもヒップホップには興味があって、色々聴いています。ケンドリック・ラマーに、”I got, I got”って歌う曲あるじゃないですか(「DNA.」)。私、下の名前が「愛夏」なので、たまに1人で替え歌やってるんですよ。”アイカ、アイカ”って(笑)。
─何ですかそれ(笑)。
ラブサマ:それはそれとして、今メチャメチャ好きなのがオンリー・リアルですね。トラックメイキングやボーカルの表現にUKロックを感じるというか。ブリットポップのエッセンスを感じるところが特に好きで。彼はバンド系の音楽が好きらしく、(UKでは)ヒップホップやグライムがすごく流行っているけど、それより自分の好きなバンドと一緒にラップをする方が向いているとかインタビューで言ってて。この人、音楽に対するマインドがめっちゃ自由だなと思いました。
オンリー・リアルやラット・ボーイを聴いていると、今っぽさと懐かしさが同時に存在している気がして。今後、UKロックが進化していく中で、こういうヒップホップとの融合は一つの道になっていくのかも知れない。私もドラムを電子音にしたり、アホっぽいピャー!という音を入れたり、そしていつかはラップしてみようかな~みたいな。新しいチャレンジに目を向けさせてくれる1枚ですね。
※Apple Musicはこちら
7. Billie Eilish『WHEN WE ALL FALL ASLEEP,WHERE DO WE GO?』(2019年)
ラブサマ:「when the partys over」は新しいアルバムから先行リリースされた曲なんですけど、もう聴いた瞬間ゾワゾワして。気持ちが先走ってセレクトしました(※)。この人は、とにかく声が美しすぎてドンピシャで好きなんですよね。自分と比較するのはおこがましいけど、あまり声を張らないタイプの女性ボーカルじゃないですか。私もそうなので親近感を持ちましたし、「このくらい声のニュアンスを大事にしたいな」と思いました。
※『WHEN WE ALL FALL ASLEEP,WHERE DO WE GO?』は3月末リリース、取材時はアルバム発表前だった。
─とにかく「声」を大事にしたサウンド・プロダクションですよね。
ラブサマ:もう、神がかってるんです。努力と天性の掛け合わせというか。声そのものが素晴らしいのはもちろんのこと、その声をメロディに乗せた時の、ニュアンスの付け方や感情の込め方に、「歌と声ってやばい!」と改めて感じましたね。私もメチャクチャいいスタジオで、いいエンジニアとボーカル録りをしたくなりました。
もちろん「声」だけじゃなくて、トータルで素晴らしいです。歌詞もメロディもエンジニアリングも。低音の作り込みもヤバイ。音に対する美学がひしひしと伝わってきて身が引き締まる思いでした。まだ10代なんですよね。それであの歌詞って(笑)。
※Apple Musicはこちら
8. Shocking Pinks『Shocking Pinks』(2007年)
─これはニュージーランドの才人、ニック・ハートによるソロプロジェクトの代表作ですよね。
ラブサマ:こういうローファイな音像と、ヘロヘロなボーカル、淡々としたドラムってやっぱり好きだよなあって思うんですよね、特に目新しいことはやっていないんだけど。ワンマンのタイトルにもなっている新曲の「ミレニアム」は、4曲目の「Second Hand Girl」という曲を参考にしました。クリーンなギターが途中からメチャクチャに歪んで繰り返されて、ドラムとベースは平熱で続いていて、静かに少しずつ汗をかいていくような曲です。
※4月22日追記:ラブリーサマーちゃんの最新2曲入りシングル「ミレニアム」が同日配信スタート。
※Apple Musicはこちら
9. 横沢俊一郎『ハイジ』(2018年)
ラブサマ:横沢さんは、2015年くらいに音楽を始めた宅録の人で、今は30歳くらいなのかな。この人の書く曲を初めて聴いたとき、すごい感激して。特に歌詞ですね。私、歌詞を書くときに心がけていることがいくつかあるんですよ。「嘘は書かない」「自分の知っている言葉でしか書かない」「誰にでもわかる平易な言葉で書く」という。要は、「個人的なことを、素直に本当のままで書く」ということが大事で。
それをしていない人って、聴いてて一発で分かるんですよね。「ここにこういうメロがあるなら、こういう言葉をハメたらいいんでしょ?」みたいな。「それっぽい、ありがちな言葉をアサインすればいいんだよね、ハイハイ」みたいな。あるじゃないですか、その人の生活している風景が、全く思い浮かんでこない歌詞。”君、あなた、踊る、涙、ありがとう”みたいな。
─(笑)。
そういうのを見ると、メロディに言葉を乗せるということをナメてるだろ?と思ってしまう。苦手なんですよね。では、その違いってどこにあるのかなと考えると、色んな要素の一つに「使う名詞の選び方」があると思っていて。例えば横沢さんに「マロニー」という曲があるんですけど。”マロニー”という単語を使って曲を書こうなんて、マロニーを作ってる会社の人くらいしか普通思わなくないですか?
─はははは!
ラブサマ:それを歌おうと思った横沢さんの、そのチョイスの痕跡こそが「彼だな」と思わせるし、その連続こそが本当の歌詞だと思うんです。
※Apple Musicはこちら
─なるほど。よく分かります。
ラブサマ:あと、自分の気持ちを歌うときに、言葉を選ぶ精度が横沢さんはすごく高いんですよ。例えば、「好きな女の子がいるけど、その人とうまくいかない」みたいなことを歌いたいときに、”君が好きだけどうまくいかないね”って歌ったらもう、それまでじゃないですか(笑)。そうじゃなくて、そこで歌われている恋が、他のどれとも違う恋であるように聞かせることが、歌の美味しいところだと思うんですよね。
横沢さんの場合はそれを、”遠い君が遠いままだなんてとても耐えられない”って歌ったんです(「遠い人」)。それを聴いた時、うまくいかない状況を「遠い君」という言葉で表せるんだと思って感動したんですよね。「遠い君」って日常会話で使ったら違和感のあるフレーズだけど、それをメロディに乗せて歌えば違和感がなくなるというのも、歌の面白いところだし。とにかく、言葉を選ぶ精度をこれくらい高く出来たらいいなと私は思っているんですよね。
10. Ryoji Ikeda『Test Pattern』(2008年)
─最後は池田亮司です。このセレクトは意外でした。
ラブサマ:「どこをどう影響受けたの?」と思われるかも知れないですね。「池田さんみたいな音楽をやってみたい!」というのではなくて、刺激を受けた1枚として選びました。
昨年の7月くらいに、池田さんの作品の上映イベントがあったんです。この「Test Pattern」という音楽が流れ、ものすごくミニマルな映像が再生されていくという。1時間ちょっとくらいの展示を観に行って、そのときにメチャクチャ感激したんですよね。それは何に対してか?というと、音に対する根源的な問いというか。例えばコップを叩いたって音は出るけど、それが人間にどんな作用を及ぼすのかみたいなことを、色々と考えたんです。
─「音に対する根源的な問い」ですか。
ラブサマ:人間の声ですら、サイン波やホワイトノイズをめちゃくちゃうまく組み合わせれば、理論的には再現可能らしいんですよね。「え、じゃあ音ってなに?」と思いましたし、「人間は、低い音が定期的になるとなぜ気持ちいいのか」とか、「なぜ4の倍数で(リズムを)繰り返されると落ち着くのか」とか、「音が終わる瞬間や、音と音が重なる瞬間が気持ちいいのはなぜか」とか色んな疑問が湧いてきて。あと、でかい音で流されると、電子音でもめっちゃシューゲイザーに聞こえたりするのはなぜだろう、そもそもデカい音はなぜ眠くなるのかとか……。そんなことを考えさせられて、とても感銘を受けたんです。
あと、「無音」というのも大事なのだなと。音楽は「音の芸術」だけど、音そのものだけが芸術というわけじゃなくて。音が「無い」瞬間が、いかに大切か?みたいな。池田さんのイベントは、そういう「人が音を聞くときの感じ方」についてハッとさせられる経験でした。私がやっている音楽スタイルとは全く違いますけど、音に対してはもっとストイックなフェチになるべきだなって。
※Apple Musicはこちら
─以上、アルバム10枚を紹介していただきました。お疲れ様でした。
ラブサマ:こちらこそありがとうございます。好きな音楽についてこんなに話せるなんて幸せです……(笑)。
─でもホント、どうして4の倍数の繰り返しは落ち着くんでしょうね。
ラブサマ:なんなんでしょうね。人間は二本足で歩くからかな。これが3本足の動物だったら、気持ちいい音のリズムも変わっていたかもしれない。
─なるほど! ……え、でもワルツは気持ちいいじゃないですか。
ラブサマ:あー確かに! そしたら「足の本数理論」は成立しなくなっちゃいますね(笑)。
Photo by Takanori Kuroda
ラブリーサマーちゃん ワンマンライブ
「ミレニアム」
日時:2019年4月30日(火・祝)
場所:恵比寿リキッドルーム
open 17:00 start 18:00
出演:ラブリーサマーちゃん(BAND SET)
料金(ドリンク代別);
前売り3000円/当日券3500円
※ミレニアム キャッシュバック
2000年生まれ以降の方は、当日受付にて身分証提示で1000円キャッシュバック
詳細:https://www.liquidroom.net/schedule/lovelysummer20190430
2017年に1stアルバム『LSC』でメジャー・デビューを果たした彼女は、そのキュートな歌声とポップなメロディ、宅録を中心とした緻密なアレンジによって、シーンに大きなインパクトを与えた。
同年、4曲入りEP『人間の土地』をリリース以降はライブ活動を精力的に行ない、着実にファンベースを拡大。来るべきニューアルバムに向けて、着々と準備を進めつつある彼女の「今」を確かめるという意味でも、今回のワンマンは必見の内容となるだろう。
そこで今回Rolling Stone Japanは、ラブリーサマーちゃんの自宅を訪問。自身のソングライティングに影響を与えたアルバム10枚を選んでもらい、数々の名曲を生み出してきたその場所で解説をしてもらった。彼女の「音楽愛」が、ひしひしと伝わってくる貴重なロング・インタビューである。
─ラブリーサマーちゃん(以下、ラブサマちゃん)は、2017年に『LSC』と『人間の土地』をリリースして以降、ライブ活動を中心に行っていますよね。新作の予定はどんな感じですか?
ラブサマ:すでに13曲のデモが完成していて、リリースに向けて準備を進めているところです。まだ具体的には何も決まってないんですが。
─それは楽しみです。どんな内容になりそうですか?
ラブサマ:前作『LSC』は音楽性がバラバラというか、アレンジ的に幅のあるアルバムだったと思います。というのも、自分が音楽を好きになってから、その時までのリスナー遍歴全てが入っていましたから。でも、『人間の土地』をリリースして以降、私の中で空前絶後の「ブリットポップ大ブーム」が訪れて(笑)。
私が音楽を好きなったキッカケが、15歳の頃にブリットポップに出会ったからなんですけど、それから8年ぶりくらいに「ブラーってやばい!」みたいになって。その辺りを聴きまくっていたら、モロにUKな曲たちが出来上がりました。なので、新作の方向性は「ブリットポップ」ですね。ちょっと聴いてもらえますか?
─(デモ音源を聴かせてもらう)うわ、もう最高じゃないですか。ブラーあり、ブリグリ(the brilliant green)あり、オアシスあり……。ラブサマちゃんが1人で作った打ち込みデモですか? これはこれで欲しいくらいです。
ラブサマ:マジっすか? 嬉しい!
─この新曲は、今回のワンマンでもやる予定ですか?
ラブサマ:メッチャやろうと思ってるんですよ。昔の曲ばかりやっててもなあって思うし。ただ、13曲全部やったら(観客が)知らない曲ばっかりになっちゃうじゃないですか(笑)。どんなセットリストにするかは、これから考えます。
─ライブのサポート・メンバーは今、どんな編成なのですか?
ラブサマ:去年の7月から新編成になりました。ベースは、私のサポートをもう何年もやってくれているayutthaya/nenemの右田眞さん。
結構、精神的に参っているときにも色々助けてくれて、「パパ」と呼んでしまうくらい大好きな人です。で、ドラムはセカイイチの吉澤響さん。ギターはNENGUの馬場庫太郎さん、ARAMの野澤夏彦さん、wash?の奥村大さんの中から、スケジュールの都合がつく2人に入ってもらって5人編成でやっています。バンドのコンディションは今、最高ですね。
─では、来るべき新作と4月30日のワンマンに備えて、「ラブリーサマーちゃんの新作がよく分かるアルバム10選」を1枚ずつ解説していただこうと思います。それにしても「ラブサマちゃんらしさ」炸裂の10枚ですね。
ラブサマ:やったー! 嬉しい。どんなことを話すか考えようと思って、昨日1日中この10枚を聴いていたんですけど、「私本当に、こういう音楽大好きだわ」って改めて思いました(笑)。
1. Echobelly『On』(1995年)
─では、まずはエコーベリー。彼らの2ndアルバムです。
ラブサマ:今回のリストでいうと、エコーベリーからの前半4枚まではもう、昔から大好きな「オールタイム・ベスト」感があります。イギリスの女性ボーカルのバンドではたぶん、エコーベリーが一番好きですね。
エコーベリーが好きなのは、サビでメロディを繰り返すところ。”Nobody like you, nobody like you”とか(「Nobody Like You」)、”Go away, go away”とか(「Go Away」)。しかもアレンジはシンプル。バレーコードのギターを2本、左右に振って、そこにアルペジオが乗るくらい。派手なことは一切せず、このフォーマットで13曲続くんですけど、全然ダレなくて。シンプルな演奏を誠実に演奏していると、そこにパワーが宿るんですよね。私自身、曲を作っていてアレンジで迷った時は、一旦エコーベリーのフォーマットに落とし込んでからオリジナリティを追求しています。
※Apple Musicはこちら
─誤解を恐れずに言えば、ブリットポップって演歌なんですよね。循環コードが基本で、シンプルな8ビートと、ペンタトニックのギターイントロっていう。「型」が決まっているからこそ気持ちいいというか。
ラブサマ:あははは! 確かに気持ちいいんですよねえ。あと、エコーベリーは歌詞がすごくいいんですよ。
特に好きな曲が、「I Cant Imagine the World Without Me」(1994年の前作『Everyones Got One』収録)。タイトル通り、自分が世の中に存在していることを全面肯定しているんです。もうね、シングルのジャケとか最高ですよ。「私のいない世界なんて想像できない」って書かれたプラカードを持って街中に堂々と立っている。私は常に過剰な自意識と戦っている人間なので、こういうことを言われると本当に嬉しいんです。
しかも、この曲はラスサビで”Me! Me! Me!”って何十回も言うんですけど、こんなに自分を力強く肯定できるってなかなかない。私はあんなふうにパワフルに歌えないので、すごく憧れちゃいますね。
View this post on Instagramラブリーサマーちゃんさん(@imaizumi_aika)がシェアした投稿 - 2018年 6月月7日午前9時17分PDT
2. Blur『Leisure』(1991年)
─インタビューの最初、「ブラーってやばい!」とおっしゃっていました。ブリットポップにハマっているラブサマちゃんから見たブラーの魅力というと?
ラブサマ:顔がかっこいい(笑)。
─それは大事な要素です(笑)。
ラブサマ:私はブラーといえば、3rdアルバム『Park Life』の方が好きなんですけど、今回は「作品に影響を与えたアルバム」ということでこの1stを選びました。制作中のニューアルバムの中には「Theres No Other Way」のコード進行を引っ張ってきて、そこから膨らませたような楽曲があるんですよ。
※Apple Musicはこちら
─1995年当時には、オアシスとブラーの勢力争いもありましたよね。ラブサマちゃんはどっち派ですか?
ラブサマ:ちょうどその年に生まれたので、一つも記憶に残ってないんですけど……うーん、どっちかな。だいたいオアシスとブラーって得意分野が全然違うじゃないですか。私としては、どっちの得意分野も自分の音楽の中に取り入れたいです。
3. the brilliant green『TERRA2001』(1999年)
ラブサマ:ブリグリも私の「オールタイム・ベスト」なので、選盤は迷いましたね。1stアルバム『the brilliant green』も名曲ぞろいで捨てがたいんですけど、初めて聴いたアルバムが『TERRA2001』だったので、その思い出補正も含めて選びました。
─ラブサマちゃんは歌声ももちろん魅力の一つで、おそらく川瀬智子さんからの影響もあると思うんですが。
ラブサマ:「自分が気にいる音楽をやりたい」と常々思っているので、たとえばCymbalsみたいな曲が出たら、土岐麻子さんの声に「コスプレ」して歌ったり、ブリグリのような曲ができれば川瀬さんの声に「コスプレ」して歌ったりしていましたね、初期の頃は。特に川瀬さんの歌声には憧れていて、「あんなふうに歌えたら……」と思って中学生くらいからメチャクチャ練習してました。ですが、最近初期の音源を聴き返してみると、コスプレ系の声はなんか不自然で気持ち悪いなと(笑)。最近はもう「誰々に似せよう」などとは思わず、「自分の声は、こういう風に発せられた時に、一番気持ちよく出るよな」という角度から見て、歌い方を決めるようにしていますね。
※Apple Musicはこちら
─そういえば以前、「自分の新曲を聴いて、頭の中の架空リスナーが爆泣きしてくれている」ってツイートしていたじゃないですか。
その「架空リスナー」が喜ぶ楽曲を書きたいっていう思いは大きい?
ラブサマ:そうです。喜ばせてあげたいですね。
─TWEEDEESの沖井礼二さんも、「自分の楽曲の一番のファンは自分で、そいつを喜ばすために曲を作っている」っておっしゃっていました。
ラブサマ:最高です。次に選んだオウズリーもそう言ってましたよ。
4. Owsley『Owsley』(1999年)
─では、そのオウズリーの魅力を。
ラブサマ:確か大学1年のころ、スカートの12インチがアナログ限定で出たんです(2014年の『シリウス』)。その時にレコードプレーヤーを初めて買ったんですけど、「せっかくだから、他にもレコード聴きたい」「”レコード屋でレコードを買う”という楽しみを味わってみるか」と思い、ココナッツディスクで何枚か買った中にまずワナダイズがあって。それがすごく良かったので、関連を掘っている時に「グッドメロディ特集」みたいなネット記事でオウズリーを見つけたんです。
「音楽って何が一番大切なんだろう?」「何を一番大切にしたらよかったんだっけ?」「そもそも、いい音楽ってなんだっけ?」などと考え込んで、迷走してしまうときがあるんですけど、そういう時にオウズリーを聴けば一発解決というか。こんなTシャツを着て(この日はティーンエイジ・ファンクラブ)、「いいメロディが」とか言ってるのそれっぽすぎて恥ずかしいんですけど(笑)、ワナダイズとかティーンエイジとかオウズリーとかを、酔っ払った帰り道とかにいつも一人で聴くんです。そういう時に聴く音楽って、メチャメチャ大事じゃないですか。もうね、いいメロディといい歌詞というのがやっぱ一番大事だわ、私の帰ってくる場所はここだわって。オウズリーを聴くとそういう気持ちになるんですよね。それを思い出させてくれる1枚です。
※Apple Musicはこちら
─ただ、残念なことに彼は2010年に自殺してしまったんですよね。
ラブサマ:私、オウズリーの人柄も大好きなんですよ。日本盤ライナーノーツに掲載されたインタビューを読んだり、90年代に渋谷クアトロでやった時のインタビュー映像を見たりするうちに気づいたんですけど、私と考え方が一緒なんだなって。だから、このジャケを見ながら曲を聴いてるとメチャメチャ泣いちゃうんです。
オウズリーって、いわゆるシンガー・ソングライターじゃないですか。でも本当はバンドがやりたかったんですよね。このアルバムは、お金をコツコツと貯めて家の中にスタジオを作り、サポート・メンバーに助けてもらいながら自分でバリバリ演奏していて。それでジャケットを見ると、1人部屋の中で「バンドごっこ」をしてるという。こっちを向かずに、背中を見せてジャンプしてますよね? この内向的な感じと、1人ではしゃいでる感じ、でも最終的に自殺しちゃって……もうなんか全てが愛おしすぎてどうしよう。とにかくこの人、頑張ったんだなあ。すみません、オタクしゃべりしちゃって。
Photo by Takanori Kuroda
─これほど素晴らしいオウズリーのレコメンド、お目にかかった事がないですよ。
ラブサマ:しかも彼は、歌詞を1年もかけて書くんですよ。作品に対してあまりにも真摯じゃないですか? 私はもう、「Coming Up Roses」みたいな曲が書けたら音楽やめてもいいですね。”みんながウトウトしている間に、君のバラは咲いている”でサビが終わるとか、すごく詩的。脚韻の踏み方も全曲素晴らしいし。私は今まで、韻を踏むという事を意識せずに曲を作ってきたんですけど、最近はやっぱり歌詞というのは言葉の意味だけじゃなくて、音としての要素がすごく強いんだなって思うようになって。自分が想像していた以上に、音としての要素が人に与える影響ってヤバイらしいということに気づいたんです。
5. MGMT『Little Dark Age』(2018年)
─続いては、MGMTが昨年リリースした4年ぶりの通算4枚目。
ラブサマ:一番有名な『Oracular Spectacular』(2007年)もメチャメチャ好きで、聴きまくった青春の1枚なんですけど、その彼らが新しいアルバムを出してくれるということで、大変期待して聴いたらやっぱり最高でした。特に、なんともいえない不穏な感じがすごいというか。私がこのアルバムを聴いていたのは、去年の梅雨の時期。結構、アホっぽい音も入っているし音像も可愛らしくて、ビートとかもチープなかんじだしノレるのに、なんか不穏な感じがするんです。ちょっと調律の狂った古いピアノみたいな。
ビートルズの「Revolution 9」ってメチャクチャ怖いじゃないですか。あれを希釈した不穏さというか。私、そういうのに惹かれちゃうことに最近気がついたんですよ。ディアハンターの新譜(『Why Hasnt Everything Already Disappeared』)も不穏ですよね。あれ、なんなんでしょう。ボーカルとかギターのリバーヴの処理なのかなと。どう思います?
─うーん、ハープシコードやファルフィッサ(オルガン)のちょっとピッチがずれている感じとか、シンセの揺らぎとか、そういうものも影響してそうですよね。
ラブサマ:あ、なるほど。私の曲作りって、ギターをジャーンってコードで鳴らして、ベースはルートに5度を足すくらい。ドラムはAddictive Drums(ドラムのソフト音源)の一番シンプルなやつをアサインして8ビートみたいな。だからバカっぽい曲しか出来ないんですけど(笑)。こういう、不穏な曲を作りたいって最近は思っているんです。なんか、ちょっと怖いものって絶対みんな気にしちゃうじゃないですか。好きか嫌いかじゃなくて、なんか気になってしまう。「畏怖」の気持ちと「憧憬」って近いですよね。
※Apple Musicはこちら
6. Only Real『Jerk At the End of the Line』(2015年)
ラブサマ:私はリズム感が致命的にないからラップは出来なくて。試しにやってみたら、お母さんに「さっき念仏唱えてた?」って言われるくらいムリなので。でもヒップホップには興味があって、色々聴いています。ケンドリック・ラマーに、”I got, I got”って歌う曲あるじゃないですか(「DNA.」)。私、下の名前が「愛夏」なので、たまに1人で替え歌やってるんですよ。”アイカ、アイカ”って(笑)。
─何ですかそれ(笑)。
ラブサマ:それはそれとして、今メチャメチャ好きなのがオンリー・リアルですね。トラックメイキングやボーカルの表現にUKロックを感じるというか。ブリットポップのエッセンスを感じるところが特に好きで。彼はバンド系の音楽が好きらしく、(UKでは)ヒップホップやグライムがすごく流行っているけど、それより自分の好きなバンドと一緒にラップをする方が向いているとかインタビューで言ってて。この人、音楽に対するマインドがめっちゃ自由だなと思いました。
オンリー・リアルやラット・ボーイを聴いていると、今っぽさと懐かしさが同時に存在している気がして。今後、UKロックが進化していく中で、こういうヒップホップとの融合は一つの道になっていくのかも知れない。私もドラムを電子音にしたり、アホっぽいピャー!という音を入れたり、そしていつかはラップしてみようかな~みたいな。新しいチャレンジに目を向けさせてくれる1枚ですね。
※Apple Musicはこちら
7. Billie Eilish『WHEN WE ALL FALL ASLEEP,WHERE DO WE GO?』(2019年)
ラブサマ:「when the partys over」は新しいアルバムから先行リリースされた曲なんですけど、もう聴いた瞬間ゾワゾワして。気持ちが先走ってセレクトしました(※)。この人は、とにかく声が美しすぎてドンピシャで好きなんですよね。自分と比較するのはおこがましいけど、あまり声を張らないタイプの女性ボーカルじゃないですか。私もそうなので親近感を持ちましたし、「このくらい声のニュアンスを大事にしたいな」と思いました。
※『WHEN WE ALL FALL ASLEEP,WHERE DO WE GO?』は3月末リリース、取材時はアルバム発表前だった。
─とにかく「声」を大事にしたサウンド・プロダクションですよね。
ラブサマ:もう、神がかってるんです。努力と天性の掛け合わせというか。声そのものが素晴らしいのはもちろんのこと、その声をメロディに乗せた時の、ニュアンスの付け方や感情の込め方に、「歌と声ってやばい!」と改めて感じましたね。私もメチャクチャいいスタジオで、いいエンジニアとボーカル録りをしたくなりました。
もちろん「声」だけじゃなくて、トータルで素晴らしいです。歌詞もメロディもエンジニアリングも。低音の作り込みもヤバイ。音に対する美学がひしひしと伝わってきて身が引き締まる思いでした。まだ10代なんですよね。それであの歌詞って(笑)。
※Apple Musicはこちら
8. Shocking Pinks『Shocking Pinks』(2007年)
─これはニュージーランドの才人、ニック・ハートによるソロプロジェクトの代表作ですよね。
ラブサマ:こういうローファイな音像と、ヘロヘロなボーカル、淡々としたドラムってやっぱり好きだよなあって思うんですよね、特に目新しいことはやっていないんだけど。ワンマンのタイトルにもなっている新曲の「ミレニアム」は、4曲目の「Second Hand Girl」という曲を参考にしました。クリーンなギターが途中からメチャクチャに歪んで繰り返されて、ドラムとベースは平熱で続いていて、静かに少しずつ汗をかいていくような曲です。
※4月22日追記:ラブリーサマーちゃんの最新2曲入りシングル「ミレニアム」が同日配信スタート。
※Apple Musicはこちら
9. 横沢俊一郎『ハイジ』(2018年)
ラブサマ:横沢さんは、2015年くらいに音楽を始めた宅録の人で、今は30歳くらいなのかな。この人の書く曲を初めて聴いたとき、すごい感激して。特に歌詞ですね。私、歌詞を書くときに心がけていることがいくつかあるんですよ。「嘘は書かない」「自分の知っている言葉でしか書かない」「誰にでもわかる平易な言葉で書く」という。要は、「個人的なことを、素直に本当のままで書く」ということが大事で。
それをしていない人って、聴いてて一発で分かるんですよね。「ここにこういうメロがあるなら、こういう言葉をハメたらいいんでしょ?」みたいな。「それっぽい、ありがちな言葉をアサインすればいいんだよね、ハイハイ」みたいな。あるじゃないですか、その人の生活している風景が、全く思い浮かんでこない歌詞。”君、あなた、踊る、涙、ありがとう”みたいな。
─(笑)。
そういうのを見ると、メロディに言葉を乗せるということをナメてるだろ?と思ってしまう。苦手なんですよね。では、その違いってどこにあるのかなと考えると、色んな要素の一つに「使う名詞の選び方」があると思っていて。例えば横沢さんに「マロニー」という曲があるんですけど。”マロニー”という単語を使って曲を書こうなんて、マロニーを作ってる会社の人くらいしか普通思わなくないですか?
─はははは!
ラブサマ:それを歌おうと思った横沢さんの、そのチョイスの痕跡こそが「彼だな」と思わせるし、その連続こそが本当の歌詞だと思うんです。
※Apple Musicはこちら
─なるほど。よく分かります。
ラブサマ:あと、自分の気持ちを歌うときに、言葉を選ぶ精度が横沢さんはすごく高いんですよ。例えば、「好きな女の子がいるけど、その人とうまくいかない」みたいなことを歌いたいときに、”君が好きだけどうまくいかないね”って歌ったらもう、それまでじゃないですか(笑)。そうじゃなくて、そこで歌われている恋が、他のどれとも違う恋であるように聞かせることが、歌の美味しいところだと思うんですよね。
横沢さんの場合はそれを、”遠い君が遠いままだなんてとても耐えられない”って歌ったんです(「遠い人」)。それを聴いた時、うまくいかない状況を「遠い君」という言葉で表せるんだと思って感動したんですよね。「遠い君」って日常会話で使ったら違和感のあるフレーズだけど、それをメロディに乗せて歌えば違和感がなくなるというのも、歌の面白いところだし。とにかく、言葉を選ぶ精度をこれくらい高く出来たらいいなと私は思っているんですよね。
10. Ryoji Ikeda『Test Pattern』(2008年)
─最後は池田亮司です。このセレクトは意外でした。
ラブサマ:「どこをどう影響受けたの?」と思われるかも知れないですね。「池田さんみたいな音楽をやってみたい!」というのではなくて、刺激を受けた1枚として選びました。
昨年の7月くらいに、池田さんの作品の上映イベントがあったんです。この「Test Pattern」という音楽が流れ、ものすごくミニマルな映像が再生されていくという。1時間ちょっとくらいの展示を観に行って、そのときにメチャクチャ感激したんですよね。それは何に対してか?というと、音に対する根源的な問いというか。例えばコップを叩いたって音は出るけど、それが人間にどんな作用を及ぼすのかみたいなことを、色々と考えたんです。
─「音に対する根源的な問い」ですか。
ラブサマ:人間の声ですら、サイン波やホワイトノイズをめちゃくちゃうまく組み合わせれば、理論的には再現可能らしいんですよね。「え、じゃあ音ってなに?」と思いましたし、「人間は、低い音が定期的になるとなぜ気持ちいいのか」とか、「なぜ4の倍数で(リズムを)繰り返されると落ち着くのか」とか、「音が終わる瞬間や、音と音が重なる瞬間が気持ちいいのはなぜか」とか色んな疑問が湧いてきて。あと、でかい音で流されると、電子音でもめっちゃシューゲイザーに聞こえたりするのはなぜだろう、そもそもデカい音はなぜ眠くなるのかとか……。そんなことを考えさせられて、とても感銘を受けたんです。
あと、「無音」というのも大事なのだなと。音楽は「音の芸術」だけど、音そのものだけが芸術というわけじゃなくて。音が「無い」瞬間が、いかに大切か?みたいな。池田さんのイベントは、そういう「人が音を聞くときの感じ方」についてハッとさせられる経験でした。私がやっている音楽スタイルとは全く違いますけど、音に対してはもっとストイックなフェチになるべきだなって。
※Apple Musicはこちら
─以上、アルバム10枚を紹介していただきました。お疲れ様でした。
ラブサマ:こちらこそありがとうございます。好きな音楽についてこんなに話せるなんて幸せです……(笑)。
─でもホント、どうして4の倍数の繰り返しは落ち着くんでしょうね。
ラブサマ:なんなんでしょうね。人間は二本足で歩くからかな。これが3本足の動物だったら、気持ちいい音のリズムも変わっていたかもしれない。
─なるほど! ……え、でもワルツは気持ちいいじゃないですか。
ラブサマ:あー確かに! そしたら「足の本数理論」は成立しなくなっちゃいますね(笑)。
Photo by Takanori Kuroda
ラブリーサマーちゃん ワンマンライブ
「ミレニアム」
日時:2019年4月30日(火・祝)
場所:恵比寿リキッドルーム
open 17:00 start 18:00
出演:ラブリーサマーちゃん(BAND SET)
料金(ドリンク代別);
前売り3000円/当日券3500円
※ミレニアム キャッシュバック
2000年生まれ以降の方は、当日受付にて身分証提示で1000円キャッシュバック
詳細:https://www.liquidroom.net/schedule/lovelysummer20190430
編集部おすすめ