2011年11月、本誌が史上最高のギタリスト・トップ100のランキング記事の準備に取り掛かっていた最中に軽い会話をしようとエディ・ヴァン・ヘイレンが電話をかけてきた。本インタビューのなかで2020年10月6日にがんでこの世を去ったヴァン・ヘイレン(享年65歳)は、お気に入りのギターヒーロー(ナンバーワンはエリック・クラプトン)や自身のギタースタイルの起源など、ありとあらゆるテーマについて語った。今回は、インタビューのフルバージョンを初めて掲載する。
ー早起きですね。
俺はいつも早起きだよ。毎朝5時から7時のあいだに起床して、ワークアウトするんだ。かなり前からこの生活さ。
ーということは、昨夜(ギタリスト・トップ100に)投票してくれたんですね。
そうだよ。というか、まあ、努力はした。だって、俺にはどうもイマイチわからないんだ……(最高のギタリストの)定義ってなんだ? というのも、俺自身はもちろん、他のギタリストを個人的に評価したことなんてないから。
そうだ、こうしてみよう。ベートーヴェン、モーツァルト、チャイコフスキー、ショパンの時代にどうやって彼らを評価しろっていうんだ? 彼らは、それぞれの方法で優れていたし、彼らをランク付するなんて不可能だ。
ー言いたいことはわかります。
だから、こうした投票とか、歴史上もっとも偉大な人物は誰だ? とかの意味を理解できたことがないんだ。でも、君たちがそういうアプローチを取るなら、これはあくまで俺の視点だけど、まずはエレクトリック・ギターを発明してくれたレス・ポールとレオ・フェンダーから始めないといけないな。だって、彼らがいなかったら、弾くべきギターがそもそも存在しなかったから。ギタリストであり、革新者であったことを踏まえると、やっぱりナンバーワンはレス・ポールだな。レオ・フェンダーは、かならずしもギタリストではなかったけど、彼の周りにはいつもギタリストたちがいて、彼はエレクトリック・ギターを生み出した。そこで登場したのがエリック・クラプトンだ。クラプトンは、俺のランキングではナンバーワンだよ。クラプトンの演奏スタイルと雰囲気に魅了された点は、彼のアプローチの根底のシンプルさと、彼のトーンとサウンドにあるんだ。
言ってしまえば、クラプトンはただギブソンのエレクトリック・ギターを抱えてマーシャルのアンプに直で差し込んだ。それだけのことさ。基礎やブルース……後は、君も知ってのとおりだ。俺はレス・ポールもフェンダーどちらも好きじゃなかったから、2つを交配させた——それぞれの最良の部分を取って、独自のギターを開発したんだ。基本的には、俺に影響を与えたのはクラプトンだけだ。それもクリーム時代のクラプトン。クリームが解散した頃には、習得したことをベースに自分なりの方法で走っていた気がする。
ークラプトンの音楽に初めて触れたときのことを覚えていますか? 当時、クリーム以前の作品は聴いていたのですか?
実のところ、クリームを聴きはじめた後にザ・ブルースブレイカーズ的なものを若干振り返って聴いたんだ。でも、俺がいちばん好きなのはクラプトンがクリームにいた頃だ。それもたった2~3年なんだけど。期間的には決して長くはないけど、『クリームの素晴らしき世界』や『グッバイ・クリーム』みたいなライブっぽいのが大好きだった。それぞれのメンバーが楽器を弾くことで全体の雰囲気を作っているのが実感できるから。
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ー実際、こうしたレコードをスロー再生にして、全フレーズを覚えたんですね。
そうさ、ターンテーブルを使ってやってたよ。基本的には、すべてのベースはブルースだ……最高に美しいスリーコードと自由に使える12音がある。極めてベーシックだ。当然、クラプトン時代にはジミー・ペイジ、(ジミ・)ヘンドリックス、(ジェフ・)ベック、タウンゼントといったギタリストもいた……リズム・ギタリストとして影響を受けたのはピート・タウンゼントだ。結局は、ヘンドリックスまでたどり着かなかった。レコードだって1枚も買ったことないんじゃないかな。ヘンドリックスのアプローチはどちらかというと抽象的だった。
ー子どもの頃、ヘンドリックスのワウワウという音や、他のペダルを使って出している音を再現する方法がわからなかったと言っていたのを覚えています。
まさにそのとおり。第一に、あんなバカ高い機材なんて買えなかった。だから、俺にとってはクラプトンがほぼすべてさ。
ーあなたの演奏からはクラプトンの影響が感じられないと言う人もなかにはいます。言われるまでクラプトンから影響を受けたとはわからないようです。
まあ、クリームの後は変わったからな。ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの「I Shot The Sheriff」をカバーしたり、デラニー&ボニーとつるみ始めたりした頃からクラプトンのスタイルはすっかり変わった。少なくとも、サウンドは変わった。たとえば、『グッバイ・クリーム』の「Im So Glad」みたいなライブ音源を聴けば、ジャック・ブルース、ジンジャー・ベイカー、クラプトンの3人が本当に最高のサウンドを生み出しているのが実感できる。というのも、クラプトンは2人のジャズマンに支えられていたから。かなり昔にクラプトンが「当時は自分がいったい何をしているか、まったくわからなかった」と言っていた記事を実際目にしたことがあるよ。クラプトンはどうにかして2人に遅れないようにしていたんだ。
でも、考えてみると不思議だ。というのも、ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ時代の楽曲をさかのぼって聴いていたときにピーター・グリーンを発掘したんだ。実のところ、彼はクラプトン本人よりクラプトンらしかった。
ーメンタルヘルスに問題を抱えていたようです。
らしいね。俺たちはみんな、エレクトリック・ギターを弾いているせいで若干クレイジーなんだと思う。何はともあれ、今回の投票はかなり難航してるよ。
ーリズム・ギタリストとしてのピート・タウンゼントに話を戻しますが、彼から学んだのはスリーコードとペダルトーンの使い方ですか?
すべてはパワーと密度だった。そして何度も言うけど、シンプルさ。知ってのとおり、複雑なものは何もなかった。「マイ・ジェネレイション」を聴いてごらん(メインのリフを口ずさむ)。『フーズ・ネクスト』のような後期の作品も基本的にはパワーコードがベースだ。
ートミー・アイオミはどうですか?
俺的には、彼はヘビーメタルの父親のような存在だ。
ーダウンチューニングのインスピレーション源はアイオミですか?
そうだな、どちらかと言えば、そのほうがシンガーにとって楽だったから。
ーヴァン・ヘイレンには、ギターソロがメロディと同じくらい重要な——あるいはギターソロが楽曲のなかで確固たるポジションを築いている——楽曲が数えきれないほどあります。いますぐここで鼻唄で歌えるギターソロがたくさんありますね。
まあ、そう思いたいね。楽曲にメロディアスな要素が加わるから。俺たちの場合は、いつも曲から始まるんだ。エルトン・ジョンが作詞家バーニー・トーピンの歌詞をもとに作曲するように、なかには歌詞から始める人もいるけど、俺はこういうアプローチをとったことがない。というのも、俺にとって歌詞は音楽を想起させるものじゃないから。ヴァン・ヘイレンでは、まず曲から始める。(ベートーヴェンの交響曲第5番を口ずさむ)ところで、この曲にはどんな歌詞がいいかな?
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ー他のお気に入りのギタリストのことも話してください。スティーヴ・ルカサーのファンだと聞きました。
彼はスタジオ・ミュージシャンタイプだ。最初の頃、ルカサーはいろんな人のレコードで演奏したので、望まれるどのスタイルでもギターを弾くことができた。彼のカメレオンっぷりにはいつも驚かされるよ。どんな状況にも飛び込み、輝けるんだ。本当のルカサーを見分けるのが難しいくらいさ。きっと、すべてがルカサーなんだろうな。いままで彼が表現してきたすべてがルカサーなんだと思うよ。まさにギタリストのためのギタリスト、ミュージシャンのためのミュージシャンのような存在だ。俺はどちらかと言うと直球型のロックンロール・ギタリストで、イケてるロックバンドのメンバーであることに感謝している。
ー誰のビブラートが好きですか?
アンガス・ヤングには、特別な何かがある。興味深いことに、つい最近こんな記事を読んだよ。彼は、自分自身をギタリストとして評価していないんだ。俺もそうだ。自分自身をギタリストとしていったいどうやって評価すればいいんだ? ただやるべきことをやれば、より大きなものの一部になる。これは決して悪い意味ではなく、AC/DCの全楽曲は、最高に優れたひとつの楽曲のように聴こえる。同じことの繰り返しになるけど、シンプルさこそが魅力なんだ。
ートミー・アイオミをはじめ、影響を受けたギタリストについてもう少し聞かせてください。
トニーの場合はリフ、そして音楽のパワー。リッチー・ブラックモアやレスリー・ウェストというギタリストもいるね。マウンテンのレスリー・ウェストのトーンは最高だ。リッチー・ブラックモアは、『ディープ・パープル・イン・ロック』の1970年代のトレモロアームの使い方が好きだ。それに2人が生み出すリフは最高だ。だって「スモーク・オン・ザ・ウォーター」なんて歴史の教科書にも載っているじゃないか。
ーエレクトリック・ギターはあなたを超えてしまったと思っていますか?
そうだな、俺が子どもの頃は、クリーム、レッド・ツェッペリン、ヘンドリックス、ザ・フー、ディープ・パープル、ブラック・サバスという、どれもまったく違うバンドが数えきれないほどいた。いまは、そんなふうに感じられないんだ。俺からすれば、みんながなんとなく同じに聴こえる。父親や保護者じみたことは言いたくないけど、いまの音楽は、昔ほど唯一無二のものではないんだ。
ー息子さんからクールなアーティストを教えてもらうことは?
息子が聴く音楽はあまり聴かないけど、彼はバンドに若々しいエネルギーをもたらしてくれるよ。
ージミー・ペイジも通っていますよね?
ああ。彼の楽曲が好きだ。ソロという点では、やっぱりクラプトンだな。
ー「ハートブレイカー」のジミー・ペイジのプリング・オフを聴いて両手を使ったタッピング奏法をひらめいたと言っていましたね。
ああ、そうだったね。まあ、あの曲を聴いてハンマリング・オンとかいう弾き方を思いついた。当時は名前なんてなかった。なんとなく、俺のスタイルの一部になったんだ。いまではハマリング・オンやプリング・オフと呼ばれているけど、俺にはわからない。でも「ハートブレイカー」をきっかけに右手の人差し指を左手の6本目の指のように使う奏法を思いついたんだ。
ーでも、ジミー・ペイジの影響はここまでですね。その後、あなたは自分の道を行きました。
ああ。だって俺の弾き方は、クラプトン、ベック、ペイジ、ヘンドリックスとは似ても似つかないから。
ージェフ・ベックはよく聴いていたのですか?
『ブロウ・バイ・ブロウ(1975年のジャズ・フュージョンアルバム)』までは聴いたことがなかった。インストゥルメンタルとか『ワイアード(1976年のアルバム)』とか。なかなか興味深いよ。実験的なところが気に入っていたんだと思う。ジェフ・ベックは、紛れもなく独立型のギタリストだ。次に何をするかわからない。20年前に兄とフランスにいた頃、ジェフ・ベックがライブでロックなことをしていた。当時の俺たちは「なんだこれ!?」って思ったよ。ベックは本当に予測不能だ。
ーいまもギターに夢中ですか?
もちろん。いつも自分のギターをいじってるよ。ギターを見るたびに「ここはOK、ここはダメ」と言いながら必要性やギターに望むことをもとに変更を加えている。俺のギターのボリュームノブとトーンノブは同じじゃないんだ。たいていの場合、ギターのこうしたツマミは同じだけど。俺のギターのボリュームノブは回しやすい、かなり抵抗の低いツマミなんだ。でも、トーンノブはかなり回しにくい。だから、セットした位置からずれないし、うっかりぶつけて回してしまう心配もない。
ーいまも完璧なトーンを追求しているんですね。
いつもピックアップをいじっては、もっと温かみがあって、滑らかで、サスティーンが効いたサウンドを探してるよ。
ーまた近いうちにあなたのサウンドが聴けますね?
もちろん。それが俺たちの仕事だから。俺たちは、音楽で生計を立てている。でも、これはまた別のインタビューで話そう。
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