Moon Light Song / 矢沢永吉
こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」案内人、田家秀樹です。今お聴き頂いているのは矢沢永吉さんの「Moon Light Song」。2020年10月21日に発売になるアルバム『STANDARD~THE BALLAD BEST~』よりお聴きいただいております。オリジナルは1997年のアルバム『YES』の中の曲です。こういうシンセサイザーのバラードは、矢沢さんの中でも数少ない方ですが、今回のアルバムはこういう曲が聴けます。これ誰なんだろう? と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、矢沢永吉さんです。
今月2020年10月の特集は「矢沢永吉」。1949年9月14日生まれで今年71歳。去年発売したオリジナルアルバム『いつか、その日が来るまで...』がアルバムチャート1位になりました。史上最年長アルバムチャート1位の記録です。
今回は『STANDARD~THE BALLAD BEST~』をいち早くご紹介したいと思います。ご本人からのコメントも届いておりますのでお楽しみに。それでは、このベストアルバムのDisc1の1曲目から「面影」。
面影 / 矢沢永吉
『STANDARD~THE BALLAD BEST~』3枚組全39曲の1曲目がこの曲で始まっております。ゆったりして気持ちいい曲ですね。この曲は2011年のアルバムは『ONLY ONE ~touch up~』の中の曲ですね。
安物の時計 / 矢沢永吉
『STANDARD~THE BALLAD BEST~』よりディスク2の5曲目「安物の時計」でした。ずっと矢沢さんの曲をお聴きになっているファンの方には、とっても懐かしい曲なんだと思いますね。この曲は1975年9月に発売になったソロの1stアルバム『I LOVE YOU,OK』に収録、作詞は松本隆さんです。このアルバムの中では「安物の時計」と「サブウェイ特急」という2曲が、松本隆さんの作詞でありました。「サブウェイ特急」は、"畳じゃ死なねーぜ"というように矢沢さんの生き方そのもののような曲で、ライブでもとても人気のある曲ですね。
お聴きいただいてお分かりになった方は、かなり古くからのファンだと思うのですが、実は今作では新録でございます。歌もオケもオリジナルとは違うんですね。今回の『STANDARD~THE BALLAD BEST~』には、そういう曲が何曲かあります。『I LOVE YOU,OK』には「キャロル」という曲もありまして、ご自分のキャロル時代のことを歌っているんですが、「キャロル」も歌い直されています。1975年に彼がソロデビューしたときは25歳。当時の曲が今、70歳の歌になって収録されています。この『STANDARD~THE BALLAD BEST~』や『ALL TIME BEST ALBUM』の時も気付いたのですが、全曲の解説には何年にリリースしたかだけではなく、何歳の時の曲かということまで書いてあるんです。そうやってこのアルバムを聴くと、また違った聴き方ができるかと思います。続いて、1976年6月に発売になった2枚目のアルバム『A Day』から「親友」。でもこのバージョンは、49歳の時の歌です。
親友/矢沢永吉
1976年6月に発売になった2枚目のアルバム『A Day』から「親友」。矢沢さんが26歳の時のアルバムですね。今お聴きいただいたのは、1976年のオリジナルバージョンではなくて、1998年のアルバム『SUBWAY EXPRESS』というセルフ・カバーアルバムのバージョンで、当時は49歳。親友というテーマですから、友情ソングです。矢沢さんはああいう生き方をされてきた人ですから、男同士の友情をテーマにしている曲も何曲かあり、その中のスタンダードがこれですね。でも26歳で感じる友情や親友と、49歳で感じる親友や人間関係だと、想いの込め方も違いますよね。ご興味のある方はオリジナルの方もお聴きいただければ、20代にとっての友情と言うのも感じられるかもしれません。
今回改めて特集を組むにあたって、『ALL TIME BEST ALBUM』や『STANDARD~THE BALLAD BEST~』を聴いていて気付いたことがあって。矢沢さんはとても年齢に拘られてきたんだなあと思いました。去年リリースのアルバム『いつか、その日が来る日まで...』は9月4日発売で、矢沢さんはまだ69歳。チャートが発表されるときには70歳になるわけです。そうなると、70歳の1位という風に世の中に伝わる。
燃えるサンセット / 矢沢永吉
1977年に発売になった3枚目のアルバム『ドアを開けろ』の中の「燃えるサンセット」。『ドアを開けろ』は時代を変えた一枚という意味で、史上最も劇的だったロックアルバム。アルバムについては来週詳しく話しましょう。その中に入っていた「燃えるサンセット」は矢沢さんの代表曲の一つですが、これは先ほどの「親友」と同じく『SUBWAY EXPRESS』で歌い直された曲です。オリジナルはもっと前のめりなんですね。前のめりな「燃えるサンセット」なんですが、このバージョンは染み込むような歌で表現しておりますね。これが27歳と49歳の違いなんだろうなと思ったりもします。
棕櫚の影に / 矢沢永吉
続いても『STANDARD~THE BALLAD BEST~』から「棕櫚の影に」。こちらは1984年のアルバム『E』に入っておりました。雑誌ローリングストーンの今月号は矢沢さんの巻頭特集なんですが、アルバムのインタビューが載っておりまして。その中で「棕櫚の影に」についてかなり話されてます。「若い頃は、寝ても覚めてもメロディーが浮かんできた。お酒を飲みながらでも曲を作って、それをカセットに入れていて、そういう宝物のようなカセットがいっぱいある。10年くらい経ってからそのカセットを聴いたときに、良いと思った曲があって完成させたのが「棕櫚の影に」だった」、と言っているんですね。曲を書いたのは1970年代半ばだったそうです。矢沢さんの活動は1970年代と1980年代でガラッと変わったところがありまして、1980年代に入ってアメリカに拠点を移すんですね。その中で色々なミュージシャンと出会って、プロデュースも依頼している。その中の1人にアンドリュー・ゴールドという全米でヒット曲もある西海岸を代表するシンガー・ソングライターがいるんですが、その人と初めて矢沢さんがあったのがこのアルバム『E』の時なんですね。彼の家に行って音源を聞かせて、彼が音を付けてくれた。彼が打ち込みの16ビートを選んで音を作っているのを見て、矢沢さんはとても幸せだったという話をしていました。つまり裸一貫で音楽を始めて、日本で頂点を極めてアメリカに行って色々なことを勉強する中で、そのリズムやサウンド、そしてメロディが生まれたという代表的な一曲、矢沢さんにとっても思い入れがある一曲でした。
次の曲もこのアンドリュー・ゴールドとイギリスのジョージ・マクファーレンの2人がプロデュースして、イギリスとアメリカでレコーディングされたアルバム『HEART』の一曲です。「この海に」。
この海に / 矢沢永吉
10月21日発売のベストアルバム『STANDARD~THE BALLAD BEST~』から「この海に」。1993年のアルバム『HEART』の中の曲です。このアルバムはロサンゼルスとロンドンでレコーディングされて、この曲はロンドンでのレコーディングです。今回の『STANDARD~THE BALLAD BEST~』を聴いた感想として、音がいいなっていうのがあったんですね。オリジナルとは全然違う音になっています。これはかなり手を加えたんだろうなと思ったのですが、矢沢さんはこの『STANDARD~THE BALLAD BEST~』についてこんなコメントを送ってくださいました。矢沢さんの話の後にお聞きいただくのは、アルバムの中の「いつの日か」です。
矢沢:矢沢永吉です。こうやっていただいた質問にコメントをくださいということで、いい企画ですね。久しぶりです。この度ベストアルバム『STANDARD~THE BALLAD BEST~』を10月21日に出すことになりました。やろうと決めてから、どの曲をどうしようかということまでトータルで7ヶ月くらいかかったのかな。そもそも今回ベストアルバム『STANDARD~THE BALLAD BEST~』をなぜ出そうと思ったのかというと、今から5、6年前に出したベストアルバム『ALL TIME BEST ALBUM』を二枚出して、一位を取れたのかな。このCDが売れない時代にこんな嬉しいことはないですね。やっぱり、従来の矢沢永吉のファン以外の人が買ってくれなかったら、聴いてくれてなかったらこんな数字にならないんじゃないかと思うと、作ってる本人からしたら最高ですよ。矢沢の名前は知ってるけどファンじゃないっていう人が口コミで聴いてくれてるのかなと思った。だったらバラードのベストみたいなものを将来出せたらいいよなっていうのはなんとなく思ってました。
ハッキリと出そうと決めたのは、去年の7月くらいですかね。そういった意味では、完成まで7、8ヶ月ほど経ったわけですね。話せば長くなるんだけど、音楽の世界、ショウ・ビジネス、ミュージック・ビジネスの世界、キャロルから含めたら48年くらいになりますかね。長いんですよ。キャロルの時代からとにかくライブ漬けの日々でアルバムも作る。イケイケで「ファンキー・モンキー・ベイビー」みたいなナンバーから、解散してから『I LOVE YOU,OK』など色々な曲を書いていきまして。でも、我々ロックのルーツはどこだって言われたら、やっぱり海の向こうのアメリカやイギリスだったり。だったらロックの本拠地に行ってやろうぜ! って思った。海外でレコーディングするミュージシャンたちの走りであるかもしれません。色々な人とやりましたよ。やっていくうちにだんだんアレンジの重要性、同じメロディでもアレンジでこんなに音楽感が変わってくるのかっていうことに、僕はショックと発見とびっくりがありましたね。
それからアレンジにものすごい興味を持つようになりました。アレンジ一つで、同じメロディーでもこんなにも表現が変わってくるのかと。ずっとやっていくうちに、だんだん自分がどういう立ち位置で音楽を作ってるのかなということに拘ったりもしましたね。そこから一周ぐるっと廻って71歳にもなるんですけど、60歳くらいから自分はどういう音楽をしたいんだ? と思い至りましてね。すると、今回の『STANDARD~THE BALLAD BEST~』を選曲するにあたって、昔のオリジナルをずっと聴いていく中で、どうしても納得できないある部分にぶつかるわけです。分かりやすい言葉で言うと、オリジナルの音源ってすごいかっこいいんですよ。かっこよくて、パッションで、イケイケ。だから、別の見方をするとちょっと強いって言うのかな。イケイケが出過ぎて、下手したら押し付けになってるようなサウンドになってるかもしれない。そうじゃない、押し付けじゃいけないんだ。もっと分かりやすく矢沢メロディが伝わるためには、何が強すぎるんだろう? って考えたら、もう一回ミックスダウンしなきゃ納得できない自分がいたんですね。
今回の『STANDARD~THE BALLAD BEST~』は、3枚組で全39曲入ってるんですけど、そのうちの17曲のミックスダウンをやり直しました。そのうちの4曲か5曲はカラオケから作り直し。例えば「いつの日か」なんてオリジナルだとキーがすごく高いんですよ。だから、一音キーを下げて作った。じゃあ昔作ったオリジナルの音源はなんでそんなにキーが高かったのか? 「いつの日か」だって「東京」だって、なんでこんなにキーが高かったんだろうって曲が結構ありました。なんでなのかね? あの頃イキがってたのか、ポール・マッカートニーに憧れて『ロング・トール・サリー』みたいに俺はこれくらいのキー歌えるぞ! ということばかり意識していたのか。でも、やがて音楽が分かってくると、キーって高くすりゃいいてもんじゃないだろうと気づいた。僕のこのボイスに一番マッチングするキーってあるじゃないか、って思い至ると、もういても経ってもいられない。一音キー下げて歌わないと俺は納得できないと思ったんです。だから、「いつの日か」は元から作り直しですよ。元から作り直して歌を歌い直してミックスダウンし直し。マルチテープがないものは、マスタリングのイコライジングで、尖ってる部分とかイケイケの部分をもっと素直にストンと入るサウンドに近づけようと思った。そんな感じでこの39曲は何らかの手を加えているんですよ。生まれ変わったといっても過言ではないと思うんです。矢沢音楽の総集編と言ってもいいアルバムができたと思います。
いつの日か / 矢沢永吉
1994年の曲「いつの日か」。ドラマ『アリよさらば』の主題歌になっておりました。代表曲ですね。オリジナルとは相当違います。歌い直されたニューレコーディングver.です。しみじみとした感じが一層強くなってますね。矢沢さんのバラードの魅力は、狂おしさだと思ってるんです。センチメンタルな情感に浸るのではなくて、狂おしいまでの想いが伝わってくる。これはロックでもバラードでも同じだなと思ったりもしました。そして、このアルバムの音がいいなと思った答えが、今の矢沢さんのコメントの中にありましたね。音楽家・矢沢永吉の一端でした。
今流れているのは、後テーマ曲で竹内まりやさんの「静かな伝説(レジェンド)」。この曲に"語ってくれ 彼の生き様を”という歌詞がありましたが、こんなに生き様が人に影響を与えてきたのは矢沢さん以外はいないでしょうね。そんな足跡を来週以降もお聴きいただこうと思っております。
矢沢さんは、生き様そのものが音楽になっている人でしょう。高校を卒業してすぐに、卒業証書を破り捨てて上京してきた。横浜で列車を降りて、バンド活動を始めた。その頃のことは『成りあがり』という自伝で克明に語られております。青春のバイブルです。でも、考え方によってはそこだけがクローズアップされすぎているのではないか? と思いました。矢沢さんのインタビューを何度かやらせてもらったことがあるのですが、彼が何気にそういう話をしたことがあるんです。「『成りあがり』で音楽の話をもっとしておけばよかったかな? あれはあれでもちろんいいんだけど、ちょっと音楽の話足りなかったかな?」と、ふと呟かれたことがありました。そういう意味では、矢沢さんのバラードベストは、彼が屈指のメロディメイカー、シンガー、アレンジャーであるという、様々な音楽家の側面が刻まれているアルバムでもあると思います。1970年代、1980年代には活動の拠点が変わったりしたという話も少しありましたが、1980年代の矢沢さんがやってきたことは、アメリカ西海岸のAORと呼ばれている音楽を誰よりも自分で作ろうとして音に記録して体現している。そして、そういうミュージシャンと付き合ってきた人なんだ。ということを、来週以降でお話できたらと思っております。でも、来週は彼の言葉を借りるならイケイケの永ちゃんですよ(笑)。お楽しみに。
<INFORMATION>
田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp
「J-POP LEGEND FORUM」
月 21:00-22:00
音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
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<リリース情報>

矢沢永吉
『STANDARD ~THE BALLAD BEST~』
発売日:2020年10月21日(水)
通常盤:3CD/3630円(税込)
初回限定盤A(Blu-ray):3CD+Blu-ray/5830円(税込)
初回限定盤B(Blu-ray):3CD+Blu-ray/5830円(税込)
初回限定盤A(DVD):3CD+DVD/5280円(税込)
初回限定盤B(DVD):3CD+DVD/5280円(税込)
=収録楽曲(初回限定盤A/B/通常盤・共通)=
DISC1
1. 面影
2. #9おまえに
3. フォーチュン・テイラー
4. 真昼
5. 燃えるサンセット
6. ミスティ misty
7. ひき潮
8. THE STRANGE WORLD
9. この海に
10. 黄昏に捨てて
11. 愛はナイフ
12. 今・揺れる・おまえ
13. YES MY LOVE
DISC2
1. 未来をかさねて
2. HEY YOU・・・
3. 風の中のおまえ
4. Moon Light Song
5. 安物の時計
6. Morning Rain
7. バーチャル・リアリティー・ドール
8. 早冬の気配
9. Tonight I Remember
10. チャイナタウン
11. A DAY
12. メイク
13. キャロル
DISC3
1. 親友
2. 「あ.な.た...。」
3. Sweet Winter
4. 棕櫚の影に
5. アイ・ラヴ・ユー, OK
6. 時間よ止まれ
7. いつの日か
8. Dry Martini
9. 東京
10. パセオラの風が
11. 夕立ち
12. エイシャン・シー
13. ホテル・マムーニア
※初回限定盤A(Blu-ray/DVD共通)収録楽曲
1. 東京(2014年「Dreamer」)
2. 風の中のおまえ(2017年「TRAVELING BUS」TOUR)
3. 時間よ止まれ(2014年「Zs START ON」TOUR)
4. YES MY LOVE(2019年「ROCK MUST GO ON」TOUR)
5. アイ・ラヴ・ユー, OK(1999年「LOTTA GOOD TIME」TOUR)
6. A DAY(2010年「TWIST」TOUR)
※初回限定盤B(Blu-ray/DVD共通)収録楽曲
1. 風の中のおまえ
2. YES MY LOVE
3. 面影(from ONLY ONE~touch up~SPECIAL LIVE in DIAMOND MOON)
STANDARD~THE BALLAD BEST~特設サイト
https://www.eikichiyazawa.com/feature/standard
矢沢永吉オフィシャル・ショップ
https://diamondmoon.jp/