去年「Hourglass」でメジャーデビューを果たしたSNARE COVERが、メジャー初のデジタルEP『NoRoShi』をリリースした。すでに配信されている「Hourglass」「Wedding Bell」の他、新曲「NoRoShi」やライブで⻑年あたためてきた楽曲「永い夢の終わり」「大人」のスタジオ新録曲も収録。
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ーこれまでは斎藤さんお一人の取材でしたが、今回はバンドメンバーでもある川上シゲさんと梅野渚さんを招いてのインタビューになります。まずは、お二人が感じる斎藤さんの音楽性や人柄について聞かせてください。
川上:人柄はめちゃくちゃいいですね。よすぎて困ってるんですよ(笑)。もうちょっと悪くなってほしいんですけどね。
斎藤:ハハハ、もうちょっと毒があった方が。
川上:だから俺やドラムのチャッピー(武田チャッピー治)がいるんだけどね(笑)。それは冗談として、とにかく曲がいいですね。曲と詞が素晴らしくて、自分でも弾きたいと思ったんです。それで今作に参加することになりました。
梅野:初めて斎藤さんの音楽に触れたのは、今回のEPにも入っている「私らしく、僕らしく」のデモ音源でした。ギターをかき鳴らしながら歌っているんですけど、衝動的な感情が溢れんばかりに表れていて、すごくいいミュージシャンだと思いました。その後、他のデモ曲も何曲か聴かせていただきました。それぞれ雰囲気は違うんですけど、どの曲も彼の心の内が表れていると感じました。それから実際にお会いして音楽制作に参加することになったんですけど、斎藤さんは人当たりが良くて、とても優しいです。彼の人間性が音楽にそのまま表れていると思います。
斎藤:僕はこれまで、音楽理論に沿って曲を作るよりも、感覚的に表現してきたんです。だからこそ、梅野さんとシゲさんと一緒にやらせてもらったことで、自分が鳴らしている音のよさに気づかせていただくことが多いです。逆に、足りていない部分もわかるんですよね。ご一緒することで自分自身が成長できているのを実感します。
ーお二人の人柄はどう見えていますか?
斎藤:梅野さんは、やさしいお姉ちゃんですかね。
ー川上さんについては?
斎藤:シゲさんはやさしいお父さん(笑)。それでいて天才だと思います。例えば、今回のEPで「永い夢の終わり」のミックス前の音源が上がってきたときに、イントロでトレモロのベースが入っていて。それが突拍子もなく聴こえるんじゃなくて、楽曲のバランスをとっているように聴こえて。歌に寄り添うベースを弾いても、もちろん綺麗だとは思うんですけど、シゲさんはそうではなくて。歌の邪魔をすることなく、楽曲のクオリティと存在感をガツンと上げてくれる。そのバランス感覚や弾くフレーズとか、それは千年COMETSにも表れていますけども、本当に天才的なベーシストですね。
ー改めて、今回リリースされるデジタルEP『NoRoShi』のテーマを教えてください。
斎藤:「痛みがあるからこそ生まれる強さ」をテーマに書きました。過ちがゼロの人なんていなくて、むしろ歳を重ねるにつれて消せない過ちや後悔を積み重ねていくのが人間だと思うんです。
ー「Hourgrass」や「Wedding Bell」は、自分の目の前から大事な人がいなくなっていく喪失感が描かれていましたけど、お三方が編曲された「永い夢の終わり」では大事な人の前から自分がいなくなる、逆の喪失感を描いたレクイエムに感じました。
斎藤:歌詞の内容を明確にすればするほど、楽曲の神秘性が失われるし、痒いところに手が触れる感覚はなくなる気がしていて。例えば「いつまでも後ろ姿を見失わないよう」のフレーズもそうですけど、人が生きていることの奇跡や「どこから人は生まれて、どこから来たんだろう」と思うことがあるんですよね。「きっと赤ちゃんはお母さんを選んで、この世に生まれる」ことって僕はあると思うんですけど、そういう母親の後ろ姿を見失わないように子どもが生まれてくる感覚とか、人間の神秘性を楽曲に入れたかったんです。
ー僕が感じたニュアンスと真逆でしたね。死ではなくて、生を描いていると。
斎藤:ただ、それを全部ストーリーでわかりやすくしてしまうと、この曲は違うかなと思っていて。部分部分でそういうものがちらつくというか……淡くすこしぼかしているんですね。
ー川上さんは「永い夢の終わり」を初めてお聴きになった時、どんな印象を持ちましたか?
川上シゲ
川上:タイトルと歌詞とメロディが合っているというか、自然に一体化しているのがすごく好きですね。何より1曲を作るのにすごく時間をかけて、かなり考えているんだなと思いました。歌メロに関しても、定石ではない持っていき方をするんです。その上、ファルセットを多用するじゃないですか。普通はこんなことできないし、これは新しい才能だと思います。ヴォーカリストの中でファルセットを使う人はたくさんいるけど、これほどまでにファルセットを最大限に活かしている曲や、プログレッシブな感じの曲をちゃんと作れる人間は少ないですね。
ー斎藤さんのファルセットは、天に向かっていく感じというか。ファルセットの中に景色が見えるんですよね。
川上:そうそう、いい表現ですね。なおかつ力があるんですよね。透明なんだけど、すごく力がある。だから苦しく聴こえない、そこが一番です。
斎藤:いやぁ……シゲさんに芸術として認めてもらっているというのは、ありがたいことですね。
川上:そういうのが全部1つになるとかっこいいですよね。向こうで言うと、ピーター・ガブリエルとかブライアン・イーノとか、あのへんの人間って譜面を書かないからね。ブライアン・イーノなんて「今日はこの曲をやります」って絵を描いて説明するんですよ。ロバート・フィリップとブライアン・イーノが2人で出した「Evening Star」という作品があるんだけど、結構おもしろいですよ。彼らも背景や情景をすごく大事にしてるから。
斎藤:はい、聴いてみます!
ー梅野さんは、最初に「永い夢の終わり」をお聴きになっていかがでしたか?
梅野:映像がはっきりと浮かんできたんです。暗闇にいるんだけど、遠くから光が差してきて、それが一気に特急列車に乗ったみたいにバーっと視界が開けていく。子供達の遊んでいる声が聞こえてきて、木々に包まれた中に電車がわーっと走って行く映像。
梅野渚
川上:それこそ、彼女は絵を描くんですよ。リハーサルでやる曲や、その日のライブをイメージして絵を描いてくれる。絵を描いてくれるほうが僕にとっては譜面渡されるよりイメージが膨らんで分かりやすいですね。言葉でも説明があって、「この曲はこうやって、遠くにこういう感じで」って。しかし遠くって一体どの音を出そうかとかね(笑)。
梅野:ふふふ。レコーディングの時は観念的な短い文章を読んでお伝えして、それだけでシゲさんは見事に再現してくださる。私はベースを弾けないし、専門的なことはわからないんですけど、自分が見たものを伝えるということが一番伝えやすいですし、それを汲み取ってくださって音にしてくださるので、とても楽しい時間でした。
ーそこでコミュニケーションが図れるのがすごいですよね。斎藤さんはお2人の演奏をお聴きになって、どんな印象を持ちましたか?
斎藤:もとは僕から生まれた曲ですけど、それが明確になるって言うんですかね。本来、曲はなんでもありというか、どういうふうに行き着いても正解なんです。でも、今回の演奏を聴いて明らかにクリアになる感覚があって。自分が作った言葉の意味がちゃんと音に現れて、さっきお話しした「後ろ姿を見失わないよう」の重要さとかが、音が入ることによって明確化しましたね。
ー他の楽曲もお伺いしていきたいんですけど、「永い夢の終わり」以外で好きなとかありますか?
川上:「戦火のシンガー」が好きですね。「永い夢の終わり」とは逆の攻撃的な雰囲気を感じて、そういうのがもっと広がっていくんじゃないかなと思っています。
ー梅野さんいかがですか?
梅野:私はEPの最後に収録されている「大人」ですね。「夢から覚めた いい夢だった」で歌が始まるんですけども、その時点でいい夢じゃなかったんじゃないの? みたいな。どうして「いい夢だった」と言っているのに、なぜ違って聴こえるんだろう?と思ったんですよね。最後は「大人よ諦めないで」で締めくくられるんですけど、この曲は自分や大人たちに対する怒りの感情が伝わってきたんです。大人たちがいろいろなことを諦めていることで、流されたりすることで、世の中が変わってくると思うんですけど。その責任を自分も含めて大人たちは担っている。「どうにかそれを諦めないでくれ」という彼の怒りや願いがすごく伝わる曲で。先ほどレクイエムのお話がありましたけど、魂を鎮めるのではなくて、この曲は魂を目覚めさせる曲だと感じました。
斎藤:梅野さんの話を聞いて、丁寧に受け取っていただいているなと思いました。歌詞の内容も僕的にはストレートだと思っているんです。その中で僕の性格も出ているし、”諦め”を皮肉って歌っているところもある。「大人よ諦めないで」ってあまりに残酷で、化け物に言われているような言葉だと、僕は思っていて。自分より綺麗なものとか優れているものを見て、心から「すごい、美しい」と思える人ってどれだけいるのかな?と疑問で、僕だったら絶望を感じるんです。「自分はそこのステージに行けないんだ」という敗北を繰り返して生きてきていて、その中でもなんとか美しさを手繰り寄せようとしている感覚。自分にとって音楽を表現することは、そういった今までの劣等感や諦めるしかなかったものを肯定できる唯一の武器なんですよね。
ーそれが「大人」に込められている。
斎藤:そうなんです。同時に、聴く人の応援歌になったらいいなと思うんですよ。なんでもかんでも手に入れられた自分だったら、作っていない曲だと思うし、最近読んだ小説の中に「歌って俗から生まれるものなんだ」という一行があったんです。この曲を作ってから読んだ小説ですけど、「あ! この曲にすごく当てはまる言葉だな」と思って。2番のサビで「愚かさ重ね生きる」と歌っているんですけど、自分や世の中に対して「大人になるってそういうことなの?」って問いている感覚とか、自分に対して絶望している部分もあるんだけど、それでも美しさがほしいという切実な想いの曲なんですよね。癒やされてほしいなと思います、この歌で。
ー癒やされてほしい?
斎藤:みんな、後悔とかいろいろな黒いものを抱えていると思うんですね。でも、そういうところに美しさはあるよって。そういう部分から生まれる美しさで自分のことを肯定してあげることってできるよ、という自分なりの想い。そうしないと、生きるのってつらいと思うし、意外といろいろな人がそうやって抱えて生きている。すごい幸せそうに充実しているように見える人でも、抱えていきているはずだって僕は思っていて。それを表現したかったんです。「いいんだ、自分は」と思ってもらいたいというか、「美しさを求めていいよな」と。今の自分でも、自分を肯定して生きていっていいよなって思ってもらいたいんです。
ーなるほど。
斎藤:レッド・ホット・チリ・ペッパーズに、ジョン・フルシアンテというギタリストがいまして。僕はジョンが作る音楽がすごく好きなんです。今でも残っているんですけど、ジョンが薬漬けでガリガリになって、手に震えが残っているライブ映像があって。そのときにつくった楽曲を聴くと、ちょっと引く部分もあるんです。「うわー、大丈夫なの? もう死ぬ寸前じゃん」って。その反面「そういうものだよな」と腑に落ちたところもあったんです。それでも美しさというか、何かを求めている姿。めちゃくちゃ一生懸命やっている、なんとかしてやろうというふうに見えたんです。その姿を見せてくれたことが、自分にとっては希望だったし、かっこよさでもあったし、そこに人間の深みを感じた。そんな状況から今は回復したので、よりすごいなと思ったんですね。
ー改めて『NoRoShi』はどんな一枚になりましたか?
斎藤:すごく濃いと思うし、こんなに自分のことをさらけ出していいのかなって。そういう気持ちになるぐらい、パーソナルな部分を詰め込めた1枚だと思います。今メジャーで契約させてもらって、こういう楽曲をやらせてもらえるのはすごいありがたいことだし、SNARE COVERの音楽として価値を置いてくれている状況に感謝してやりたいなってあらためて思います。
梅野:昔に作った曲と新しく作った曲が一緒に入っていて、彼の歴史が1枚に表されているし、斎藤さんにとって大切なアルバムになったんじゃないかと思います。
川上:このキャリアでとかじゃなくて、作品としてすごくいい作品ができたなって感じはあります。それしかないですね。これだけ楽曲も詰まっていて、次はどういうふうに持っていくのかなというのも楽しみです。ストックを結構いっぱい持っていると思うので。
ーやりたいことを極めた1枚じゃないですか。なので、ここからどんな音楽を作って行くのかが想像できないですね。
川上:たぶん基本的なものはぶれないだろうね。
斎藤:まだまだ書ける気がしますね。音楽。書かなきゃいけない曲がまだいっぱいある感覚なので。
川上:いいね、書けるっていうのがね。書けない人が多いからね。
斎藤:トレンドを追っかけることをモチベーションにしたら、それは難しいかもしれないですね。そういう戦いをしている人はすごいと思いますけど、自分だったら難しい。とはいえ、もっと人に伝わりやすい、単純に言葉とメロディがもっと日常に寄り添えるようなものとか。そういうものに関しては自分も興味を持っているというか、自分がもし書いたら、もっと違う伝わり方をするというか、そっちの方のモチベーションは湧いているので、また違った楽曲ができるんじゃないかなと思っていますけどね。
ー記事の公開タイミングには終了していますが、3月1日にはイベント(「SNARE COVER Presents Special Talk&LIVE Session JAPANESE ROCKの夜明けから未来へつなぐもの その2」)がありますね。
川上:岡井大二や寺中(名人)くん世代の人たちに、SNARE COVERの音楽を聴かせたら結構気に入っていて。せっかくならイベントでみんな集まってやろう、という話になって。今回はそんなに絡むのはないんだけど、同じステージに1回出てみて、SNARE COVERがどんな刺激が受けるんだろうなって楽しみですね。あがた森魚もいるんですけど、この人も結構おもしろい。チャッピーは昔はクロニクルってバンドで、1974年にLAのWhisky A Go Goで日本人として初めてプレイして、日本で初めてアイランド・レコードと契約した人間なんですよ。
斎藤:ここにSNARE COVERがいるっていうのが、本当にすごいですよね。
ー「SNARE COVER presents」ですからね。
斎藤:当の本人がキョロキョロしちゃいますね(笑)。僕からすると、インプットがすごい多いイベントだと思います。
川上:こっちのおじさんたちも結構うるさいからね、どんな歌を歌ってるんだって(笑)。聴かせたらすごい反応よくてさ、これいいじゃん、なかなかいないよこんなのって話になっていて。
斎藤:この年になって新人的な感覚、若手という(笑)。そういう気持ちでやれる、それすごいうれしいことですね。どちらかと言うと、年齢的、世代的には下の方が多くなってくる、イベントをやるにしても何にしてもですけど。この自分がそういうニューフェイス的な感覚でやれるのはありがたいです。
梅野:皆さんとのセッションにも参加させていただきますが、緊張しますけど小難しいことを考えず、とりあえず音にしていこうと。一曲やるだけでも、多くのことを学べるんじゃないかと思っています。
ーお二人を含めたバンドメンバーもそうですし、イベントも含めて、こんなことができるSNARE COVER って何なんだって話ですよ(笑)。
斎藤:いやぁ、たしかに(笑)。いろいろな力が働いてくれてありがたいですよね。
ー今後もこの形態が続いていく?
斎藤:おそらく今後もやらせていただくと思います。
ークロコダイルというライブハウスも何かご縁があるんですか?
川上:オーナーが西哲也さんという方なんですけど、T H E・Mってバンドでドラマーをやっていて。日本のロックの中では、みんなが尊敬するバンドなんです。その後に結成したファニー・カンパニーに桑名(正博)を連れてきたのは、西さんだったんですよ。あと、りりィのバイバイ・セッション・バンドのドラムをやっていた。その当時、日本では3本の指に入る人が店長をやっている老舗。昔、西さんを慕ってきていたのは、内田裕也とかジョー山中とか、安岡力也も来ていた。70年代のミュージシャンには今も慕われているんです。
斎藤:……すごい。話を聞けば聞くほど、身が引き締まりますね。
<リリース情報>
SNARE COVER
Digital EP「NoRoShi」
配信中
https://SNARECOVER.lnk.to/NoRoShi
=収録曲=
1. Hourglass
2. NoRoShi (2024.1.31 先行SG release)
3. 永い夢の終わり
4. Wedding Bell
5. 私らしく、僕らしく –井手上漠のこと- (WHITE MOUNTAIN Mix)
6. 大人
<ライブ情報>
「伝説のスーパーバンド 千年COMETS 奇跡の復活前夜祭 Presented by SNARE COVER」
2024年3月31日(日)原宿クロコダイル
時間:開場 17時/開演 18時
前売り券:4500円/当日券5000円
詳細:https://crocodile-live.jp/events/event/page/2/
●Part1
千年COMETS ミュージックビデオ 3部作上映
特別ゲスト 映画監督 林海象
●Part2
SNARE COVER With Special Band LIVE
武田チャッピー治 Chappys NION カルメン・マキ&OZ( exファーラウト クロニクル 千年コメッツ Typhoon NATALi 他)
川上シゲ カルメン・マキ&OZ 岡本健一 with ADDICT OF THE TRIP MINDS 川上シゲwith The Sea(ex 千年コメッツ Typhoon NATALi 他)
Piano 梅野渚(ex MOTELS AJATE 他)
Flute Sax Gt Harry Yoshida
●Part3
千年COMETS Secial Setライヴ
さらに、2022年に井手上漠とコラボした楽曲「私らしく、僕らしく –井手上漠のこと-」の別ミックスバージョンとなる「私らしく、僕らしく –井手上漠のこと- (WHITE MOUNTAIN Mix)」を新録収録した豪華な1枚。今回のインタビューは、アレンジやプレイで参加した川上シゲ(B)、梅野渚(arrange ピアノ)も交えて、作品の魅力に迫っていく。
関連記事:SNARE COVERが語る「永遠」、喪失を経験して初めて分かるラブソング
ーこれまでは斎藤さんお一人の取材でしたが、今回はバンドメンバーでもある川上シゲさんと梅野渚さんを招いてのインタビューになります。まずは、お二人が感じる斎藤さんの音楽性や人柄について聞かせてください。
川上:人柄はめちゃくちゃいいですね。よすぎて困ってるんですよ(笑)。もうちょっと悪くなってほしいんですけどね。
斎藤:ハハハ、もうちょっと毒があった方が。
川上:だから俺やドラムのチャッピー(武田チャッピー治)がいるんだけどね(笑)。それは冗談として、とにかく曲がいいですね。曲と詞が素晴らしくて、自分でも弾きたいと思ったんです。それで今作に参加することになりました。
ここまでの世界観を表現できるミュージシャンは、そう多くないですよ。
梅野:初めて斎藤さんの音楽に触れたのは、今回のEPにも入っている「私らしく、僕らしく」のデモ音源でした。ギターをかき鳴らしながら歌っているんですけど、衝動的な感情が溢れんばかりに表れていて、すごくいいミュージシャンだと思いました。その後、他のデモ曲も何曲か聴かせていただきました。それぞれ雰囲気は違うんですけど、どの曲も彼の心の内が表れていると感じました。それから実際にお会いして音楽制作に参加することになったんですけど、斎藤さんは人当たりが良くて、とても優しいです。彼の人間性が音楽にそのまま表れていると思います。
斎藤:僕はこれまで、音楽理論に沿って曲を作るよりも、感覚的に表現してきたんです。だからこそ、梅野さんとシゲさんと一緒にやらせてもらったことで、自分が鳴らしている音のよさに気づかせていただくことが多いです。逆に、足りていない部分もわかるんですよね。ご一緒することで自分自身が成長できているのを実感します。
ーお二人の人柄はどう見えていますか?
斎藤:梅野さんは、やさしいお姉ちゃんですかね。
客観的なアドバイスをくださったり、いいところも言ってくださったり、的確な指摘も言ってくれるのでありがたいです。僕は自分を見る能力が長けていないので、そういう部分ですごく助けられています。
ー川上さんについては?
斎藤:シゲさんはやさしいお父さん(笑)。それでいて天才だと思います。例えば、今回のEPで「永い夢の終わり」のミックス前の音源が上がってきたときに、イントロでトレモロのベースが入っていて。それが突拍子もなく聴こえるんじゃなくて、楽曲のバランスをとっているように聴こえて。歌に寄り添うベースを弾いても、もちろん綺麗だとは思うんですけど、シゲさんはそうではなくて。歌の邪魔をすることなく、楽曲のクオリティと存在感をガツンと上げてくれる。そのバランス感覚や弾くフレーズとか、それは千年COMETSにも表れていますけども、本当に天才的なベーシストですね。
ー改めて、今回リリースされるデジタルEP『NoRoShi』のテーマを教えてください。
斎藤:「痛みがあるからこそ生まれる強さ」をテーマに書きました。過ちがゼロの人なんていなくて、むしろ歳を重ねるにつれて消せない過ちや後悔を積み重ねていくのが人間だと思うんです。
それでも美しく見せる方法を模索して、生きていくしかない。そういう単なるポジティブさではなく、綺麗事ではない元気付ける曲を作りたいと思った結果、表題曲の「NoRoShi」が生まれました。EPのタイトルを『NoRoShi』にしたのは、他の曲にもその部分が含まれているからなんです。「Hourgrass」や「Wedding Bell」で表現してきた喪失感と、戻ってこない時間に対して肯定しようとする自分がいる、そういった感覚ですね。
ー「Hourgrass」や「Wedding Bell」は、自分の目の前から大事な人がいなくなっていく喪失感が描かれていましたけど、お三方が編曲された「永い夢の終わり」では大事な人の前から自分がいなくなる、逆の喪失感を描いたレクイエムに感じました。
斎藤:歌詞の内容を明確にすればするほど、楽曲の神秘性が失われるし、痒いところに手が触れる感覚はなくなる気がしていて。例えば「いつまでも後ろ姿を見失わないよう」のフレーズもそうですけど、人が生きていることの奇跡や「どこから人は生まれて、どこから来たんだろう」と思うことがあるんですよね。「きっと赤ちゃんはお母さんを選んで、この世に生まれる」ことって僕はあると思うんですけど、そういう母親の後ろ姿を見失わないように子どもが生まれてくる感覚とか、人間の神秘性を楽曲に入れたかったんです。
ー僕が感じたニュアンスと真逆でしたね。死ではなくて、生を描いていると。
斎藤:ただ、それを全部ストーリーでわかりやすくしてしまうと、この曲は違うかなと思っていて。部分部分でそういうものがちらつくというか……淡くすこしぼかしているんですね。
ー川上さんは「永い夢の終わり」を初めてお聴きになった時、どんな印象を持ちましたか?
川上シゲ
川上:タイトルと歌詞とメロディが合っているというか、自然に一体化しているのがすごく好きですね。何より1曲を作るのにすごく時間をかけて、かなり考えているんだなと思いました。歌メロに関しても、定石ではない持っていき方をするんです。その上、ファルセットを多用するじゃないですか。普通はこんなことできないし、これは新しい才能だと思います。ヴォーカリストの中でファルセットを使う人はたくさんいるけど、これほどまでにファルセットを最大限に活かしている曲や、プログレッシブな感じの曲をちゃんと作れる人間は少ないですね。
ー斎藤さんのファルセットは、天に向かっていく感じというか。ファルセットの中に景色が見えるんですよね。
川上:そうそう、いい表現ですね。なおかつ力があるんですよね。透明なんだけど、すごく力がある。だから苦しく聴こえない、そこが一番です。
苦しかったらつまらないですから。今は第1段階の「永い夢の終わり」のレコーディングが終わったので、次にリアレンジしてやるときは、もうちょっと生弦を入れても面白いかなとか、ステージングも「ビジュアルはこういう感じで、SNARE COVERの世界はこういうふうにしたい」という構想が頭の中にあるので、ライブでどんどんやりたいです。普通にライブハウスで「いくよー!」みたいな感じじゃなくて、セッティングや後ろの映像とか照明にしても、もっと考えてやったらカッコよくなると思います。
斎藤:いやぁ……シゲさんに芸術として認めてもらっているというのは、ありがたいことですね。
川上:そういうのが全部1つになるとかっこいいですよね。向こうで言うと、ピーター・ガブリエルとかブライアン・イーノとか、あのへんの人間って譜面を書かないからね。ブライアン・イーノなんて「今日はこの曲をやります」って絵を描いて説明するんですよ。ロバート・フィリップとブライアン・イーノが2人で出した「Evening Star」という作品があるんだけど、結構おもしろいですよ。彼らも背景や情景をすごく大事にしてるから。
斎藤:はい、聴いてみます!
ー梅野さんは、最初に「永い夢の終わり」をお聴きになっていかがでしたか?
梅野:映像がはっきりと浮かんできたんです。暗闇にいるんだけど、遠くから光が差してきて、それが一気に特急列車に乗ったみたいにバーっと視界が開けていく。子供達の遊んでいる声が聞こえてきて、木々に包まれた中に電車がわーっと走って行く映像。
それをどうにか音で表現できないか?ということでチェロとピアノで録りきったものの、列車に乗ってる感じが出ないというか、一気に視界が開けていく感じが足りないなと思っていたところ、シゲさんに演奏していただくことになって。まず私が見た映像をお伝えしてからレコーディングが始まりました。イントロでトレモロが聞こえてきた瞬間、「これは絶対大丈夫だ」と確信しました。私の中で浮かんだ映像を遥かに超えて素晴らしい曲になったと思います。
梅野渚
川上:それこそ、彼女は絵を描くんですよ。リハーサルでやる曲や、その日のライブをイメージして絵を描いてくれる。絵を描いてくれるほうが僕にとっては譜面渡されるよりイメージが膨らんで分かりやすいですね。言葉でも説明があって、「この曲はこうやって、遠くにこういう感じで」って。しかし遠くって一体どの音を出そうかとかね(笑)。
梅野:ふふふ。レコーディングの時は観念的な短い文章を読んでお伝えして、それだけでシゲさんは見事に再現してくださる。私はベースを弾けないし、専門的なことはわからないんですけど、自分が見たものを伝えるということが一番伝えやすいですし、それを汲み取ってくださって音にしてくださるので、とても楽しい時間でした。
ーそこでコミュニケーションが図れるのがすごいですよね。斎藤さんはお2人の演奏をお聴きになって、どんな印象を持ちましたか?
斎藤:もとは僕から生まれた曲ですけど、それが明確になるって言うんですかね。本来、曲はなんでもありというか、どういうふうに行き着いても正解なんです。でも、今回の演奏を聴いて明らかにクリアになる感覚があって。自分が作った言葉の意味がちゃんと音に現れて、さっきお話しした「後ろ姿を見失わないよう」の重要さとかが、音が入ることによって明確化しましたね。
ー他の楽曲もお伺いしていきたいんですけど、「永い夢の終わり」以外で好きなとかありますか?
川上:「戦火のシンガー」が好きですね。「永い夢の終わり」とは逆の攻撃的な雰囲気を感じて、そういうのがもっと広がっていくんじゃないかなと思っています。
ー梅野さんいかがですか?
梅野:私はEPの最後に収録されている「大人」ですね。「夢から覚めた いい夢だった」で歌が始まるんですけども、その時点でいい夢じゃなかったんじゃないの? みたいな。どうして「いい夢だった」と言っているのに、なぜ違って聴こえるんだろう?と思ったんですよね。最後は「大人よ諦めないで」で締めくくられるんですけど、この曲は自分や大人たちに対する怒りの感情が伝わってきたんです。大人たちがいろいろなことを諦めていることで、流されたりすることで、世の中が変わってくると思うんですけど。その責任を自分も含めて大人たちは担っている。「どうにかそれを諦めないでくれ」という彼の怒りや願いがすごく伝わる曲で。先ほどレクイエムのお話がありましたけど、魂を鎮めるのではなくて、この曲は魂を目覚めさせる曲だと感じました。
斎藤:梅野さんの話を聞いて、丁寧に受け取っていただいているなと思いました。歌詞の内容も僕的にはストレートだと思っているんです。その中で僕の性格も出ているし、”諦め”を皮肉って歌っているところもある。「大人よ諦めないで」ってあまりに残酷で、化け物に言われているような言葉だと、僕は思っていて。自分より綺麗なものとか優れているものを見て、心から「すごい、美しい」と思える人ってどれだけいるのかな?と疑問で、僕だったら絶望を感じるんです。「自分はそこのステージに行けないんだ」という敗北を繰り返して生きてきていて、その中でもなんとか美しさを手繰り寄せようとしている感覚。自分にとって音楽を表現することは、そういった今までの劣等感や諦めるしかなかったものを肯定できる唯一の武器なんですよね。
ーそれが「大人」に込められている。
斎藤:そうなんです。同時に、聴く人の応援歌になったらいいなと思うんですよ。なんでもかんでも手に入れられた自分だったら、作っていない曲だと思うし、最近読んだ小説の中に「歌って俗から生まれるものなんだ」という一行があったんです。この曲を作ってから読んだ小説ですけど、「あ! この曲にすごく当てはまる言葉だな」と思って。2番のサビで「愚かさ重ね生きる」と歌っているんですけど、自分や世の中に対して「大人になるってそういうことなの?」って問いている感覚とか、自分に対して絶望している部分もあるんだけど、それでも美しさがほしいという切実な想いの曲なんですよね。癒やされてほしいなと思います、この歌で。
ー癒やされてほしい?
斎藤:みんな、後悔とかいろいろな黒いものを抱えていると思うんですね。でも、そういうところに美しさはあるよって。そういう部分から生まれる美しさで自分のことを肯定してあげることってできるよ、という自分なりの想い。そうしないと、生きるのってつらいと思うし、意外といろいろな人がそうやって抱えて生きている。すごい幸せそうに充実しているように見える人でも、抱えていきているはずだって僕は思っていて。それを表現したかったんです。「いいんだ、自分は」と思ってもらいたいというか、「美しさを求めていいよな」と。今の自分でも、自分を肯定して生きていっていいよなって思ってもらいたいんです。
ーなるほど。
斎藤:レッド・ホット・チリ・ペッパーズに、ジョン・フルシアンテというギタリストがいまして。僕はジョンが作る音楽がすごく好きなんです。今でも残っているんですけど、ジョンが薬漬けでガリガリになって、手に震えが残っているライブ映像があって。そのときにつくった楽曲を聴くと、ちょっと引く部分もあるんです。「うわー、大丈夫なの? もう死ぬ寸前じゃん」って。その反面「そういうものだよな」と腑に落ちたところもあったんです。それでも美しさというか、何かを求めている姿。めちゃくちゃ一生懸命やっている、なんとかしてやろうというふうに見えたんです。その姿を見せてくれたことが、自分にとっては希望だったし、かっこよさでもあったし、そこに人間の深みを感じた。そんな状況から今は回復したので、よりすごいなと思ったんですね。
ー改めて『NoRoShi』はどんな一枚になりましたか?
斎藤:すごく濃いと思うし、こんなに自分のことをさらけ出していいのかなって。そういう気持ちになるぐらい、パーソナルな部分を詰め込めた1枚だと思います。今メジャーで契約させてもらって、こういう楽曲をやらせてもらえるのはすごいありがたいことだし、SNARE COVERの音楽として価値を置いてくれている状況に感謝してやりたいなってあらためて思います。
梅野:昔に作った曲と新しく作った曲が一緒に入っていて、彼の歴史が1枚に表されているし、斎藤さんにとって大切なアルバムになったんじゃないかと思います。
川上:このキャリアでとかじゃなくて、作品としてすごくいい作品ができたなって感じはあります。それしかないですね。これだけ楽曲も詰まっていて、次はどういうふうに持っていくのかなというのも楽しみです。ストックを結構いっぱい持っていると思うので。
ーやりたいことを極めた1枚じゃないですか。なので、ここからどんな音楽を作って行くのかが想像できないですね。
川上:たぶん基本的なものはぶれないだろうね。
斎藤:まだまだ書ける気がしますね。音楽。書かなきゃいけない曲がまだいっぱいある感覚なので。
川上:いいね、書けるっていうのがね。書けない人が多いからね。
斎藤:トレンドを追っかけることをモチベーションにしたら、それは難しいかもしれないですね。そういう戦いをしている人はすごいと思いますけど、自分だったら難しい。とはいえ、もっと人に伝わりやすい、単純に言葉とメロディがもっと日常に寄り添えるようなものとか。そういうものに関しては自分も興味を持っているというか、自分がもし書いたら、もっと違う伝わり方をするというか、そっちの方のモチベーションは湧いているので、また違った楽曲ができるんじゃないかなと思っていますけどね。
ー記事の公開タイミングには終了していますが、3月1日にはイベント(「SNARE COVER Presents Special Talk&LIVE Session JAPANESE ROCKの夜明けから未来へつなぐもの その2」)がありますね。
川上:岡井大二や寺中(名人)くん世代の人たちに、SNARE COVERの音楽を聴かせたら結構気に入っていて。せっかくならイベントでみんな集まってやろう、という話になって。今回はそんなに絡むのはないんだけど、同じステージに1回出てみて、SNARE COVERがどんな刺激が受けるんだろうなって楽しみですね。あがた森魚もいるんですけど、この人も結構おもしろい。チャッピーは昔はクロニクルってバンドで、1974年にLAのWhisky A Go Goで日本人として初めてプレイして、日本で初めてアイランド・レコードと契約した人間なんですよ。
斎藤:ここにSNARE COVERがいるっていうのが、本当にすごいですよね。
ー「SNARE COVER presents」ですからね。
斎藤:当の本人がキョロキョロしちゃいますね(笑)。僕からすると、インプットがすごい多いイベントだと思います。
川上:こっちのおじさんたちも結構うるさいからね、どんな歌を歌ってるんだって(笑)。聴かせたらすごい反応よくてさ、これいいじゃん、なかなかいないよこんなのって話になっていて。
斎藤:この年になって新人的な感覚、若手という(笑)。そういう気持ちでやれる、それすごいうれしいことですね。どちらかと言うと、年齢的、世代的には下の方が多くなってくる、イベントをやるにしても何にしてもですけど。この自分がそういうニューフェイス的な感覚でやれるのはありがたいです。
梅野:皆さんとのセッションにも参加させていただきますが、緊張しますけど小難しいことを考えず、とりあえず音にしていこうと。一曲やるだけでも、多くのことを学べるんじゃないかと思っています。
ーお二人を含めたバンドメンバーもそうですし、イベントも含めて、こんなことができるSNARE COVER って何なんだって話ですよ(笑)。
斎藤:いやぁ、たしかに(笑)。いろいろな力が働いてくれてありがたいですよね。
ー今後もこの形態が続いていく?
斎藤:おそらく今後もやらせていただくと思います。
ークロコダイルというライブハウスも何かご縁があるんですか?
川上:オーナーが西哲也さんという方なんですけど、T H E・Mってバンドでドラマーをやっていて。日本のロックの中では、みんなが尊敬するバンドなんです。その後に結成したファニー・カンパニーに桑名(正博)を連れてきたのは、西さんだったんですよ。あと、りりィのバイバイ・セッション・バンドのドラムをやっていた。その当時、日本では3本の指に入る人が店長をやっている老舗。昔、西さんを慕ってきていたのは、内田裕也とかジョー山中とか、安岡力也も来ていた。70年代のミュージシャンには今も慕われているんです。
斎藤:……すごい。話を聞けば聞くほど、身が引き締まりますね。
<リリース情報>
SNARE COVER
Digital EP「NoRoShi」
配信中
https://SNARECOVER.lnk.to/NoRoShi
=収録曲=
1. Hourglass
2. NoRoShi (2024.1.31 先行SG release)
3. 永い夢の終わり
4. Wedding Bell
5. 私らしく、僕らしく –井手上漠のこと- (WHITE MOUNTAIN Mix)
6. 大人
<ライブ情報>
「伝説のスーパーバンド 千年COMETS 奇跡の復活前夜祭 Presented by SNARE COVER」
2024年3月31日(日)原宿クロコダイル
時間:開場 17時/開演 18時
前売り券:4500円/当日券5000円
詳細:https://crocodile-live.jp/events/event/page/2/
●Part1
千年COMETS ミュージックビデオ 3部作上映
特別ゲスト 映画監督 林海象
●Part2
SNARE COVER With Special Band LIVE
武田チャッピー治 Chappys NION カルメン・マキ&OZ( exファーラウト クロニクル 千年コメッツ Typhoon NATALi 他)
川上シゲ カルメン・マキ&OZ 岡本健一 with ADDICT OF THE TRIP MINDS 川上シゲwith The Sea(ex 千年コメッツ Typhoon NATALi 他)
Piano 梅野渚(ex MOTELS AJATE 他)
Flute Sax Gt Harry Yoshida
●Part3
千年COMETS Secial Setライヴ
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