アルゼンチンで生まれ、カリフォルニア州セリトスで育った彼は、韓国のオーディション番組への参加を機にプロの道へ。
音楽の出発点とボーカルのルーツ
―韓国の有名なオーディション番組『Kポップスター』(2011年放送)であなたの才能は見出されました。どのような歌手になりたいと思って応募したのでしょうか。
eaJ:実はね、プロの歌手を目指していたわけじゃなかったんだ。子供の頃はすごく現実的だったから、「歌手になりたい」と言うのは「大統領になりたい」と言うのと同じようなものだと考えていたんだよね。ほぼ不可能だと。だから……今こんな状況になって感謝しているよ!
―ではこの番組に参加するきっかけは何だったのですか?
eaJ:以前、YouTubeにカバーソングの動画をアップしていたんだ。ハイスクール時代のガールフレンドに「あなたはK-POPのカバーをやるべきよ」と勧められて。「そうか」と思って始めたんだけど、公開した動画を『Kポップスター』の関係者が見たらしくて、メールが来たんだ。
―あなたが応募した訳ではなく、制作サイドから誘いがあったわけですね。
eaJ:そう。「オーディションに参加しませんか?」と声をかけられたんだ。
―韓国の音楽事情については、出演する時点である程度ご存じだったのですか?
eaJ:好きな韓国のアーティストはいくつかあったけど、僕にとって一番のヒーローだったのが、god(ジーオーディー)という男性グループ。本当に大好きなグループで(日本語で)最高です! 『Kポップスター』に参加したおかげで、憧れのgodと同じ所属事務所・JYPエンターテインメント(以下、JYP)に入ることになったというのも面白いよね。
―さらに時間をさかのぼって、幼少期・学生時代について教えてください。アルゼンチンで生まれ、一時的にカナダに移り住み、それからカリフォルニア州セリトスへ。アメリカでの生活が大半だったそうですが、韓国でも何年か暮らしていましたよね。複数の国で暮らした経験はあなたの性格や音楽的な好みに何らかの影響を与えていますか。
eaJ:100%与えているよ! これまでの生活で実感したのは、ある国では「1+1=2」だけど、別の国では「1+1=0」になる場合もあるんだっていうことかな。数学的な意味で言っているわけじゃない。
―音楽的にも韓国の音楽や洋楽だけでなく、いろいろなジャンルに触れて育ってきたのでしょうか。
eaJ:父親が大の音楽好きで、ラテン音楽を筆頭に様々なジャンルのアナログレコードを持っていたんだ。その影響もあって僕も何となくラテン音楽が好きなんだ。自分で演奏したことはないけれどね(笑)。
―アコースティック系の音楽がお好きなのはその影響かも知れませんね。
eaJ:うん……その通りのような気がするよ。自分では考えたこともなかったけどね(笑)。
―前述のオーディション番組であなたが弾いていたアコースティックギターの音色が素敵だったものですから、「もしかして……」と思って。ところでアマチュア時代はどんな音楽を好み、どんなアーティストに憧れていたのでしょうか?
eaJ:ブライアン・マックナイトは昔から大好きだったね。
―あなたのボーカルスタイルはジェイソン・ムラーズと似ているところがあるという声もあります。ご自身としてはどう思いますか? ボーカリストとして影響を受けた人々はいますか。
eaJ:彼の声に似ているなんて言われたら、すぐに自動的に「本当にありがとう!」と答えるね(笑)。他にもブライアン・マックナイトやザ・スクリプト、コールドプレイ、ジョン・メイヤーといったアーティストのテイストを吸収しようとしてきたよ。
―確かに似ている点はあるとは思いますが、よく伸びる高音にあなたらしさを感じています。
eaJ:ありがとう! そう言ってもらえて嬉しいよ!
DAY6を経て、eaJを名乗るようになるまで
―先ほど「そもそもプロの歌手になるつもりはなかった」とおっしゃっていましたが、大学進学も理由のひとつだったのかもしれませんね。大学では政治科学(Political Science)を学んでいたそうですが、なぜこの学問を選んだのですか? また、プロのミュージシャンになろうと考えたのはいつ頃からだったのでしょうか。
eaJ:僕は人前で話したりスピーチしたりするのが子供の頃から好きなんだ。すぐ不安になったりするのに……。不思議だけどね。子供の頃から国連が好きで、ハイスクール時代は模擬ディベートや模擬国連みたいな活動をよくしていたんだ。将来はロビイストみたいなものになりたいと本気で思っていた。当時はそれが夢だったね。
―大統領を目指すわけではなく?
eaJ:そう、僕は現実的だからね(笑)。
―そうすると、学生の頃はロビイストになりたいと思っていながら、音楽をやりたい気持ちも少しはあったのでしょうか。
eaJ:歌をやるというのは非現実的すぎると思っていたんだよね。昔から両親に言われていたんだ。「歌をやっている人で実際に儲かっている人なんていない。お金にするのは不可能だ。可能だとしても10億人に1人くらいの確率」って。僕も「確かにそうだよな」と思っていたよ。
でもコンサートを観に行って誰かがステージに立っているのを見るたびに、自分が間違った側にいるような気がしていたんだ。「僕は客席側にいるべきじゃない」ってね。そしてある時、「あっち側に行きたい」と本気で思うようになったんだ。
―人前で話すのが好きということもあって、心のどこかでステージの上でパフォーマンスをやりたいと思っていたのでしょうね。
eaJ:そうだね。おそらく心の中に音楽をやりたい気持ちがあったんだと思う。
―そして次にベストな道を見つけたところで『Kポップスター』に見出されたのですね。
eaJ:そうなんだよ!
Photo by Lucas Mumm
―同番組では敏腕プロデューサーのJ.Y.Parkさんに評価され、以降はJYPで3年以上、練習生として生活しました。そしてDAY6に加入、現在はソロアーティストとして活動されています。こうした変化にともなってご自身の音楽の好みも変わっていったのでしょうか?
eaJ:JYPの練習生になってすぐに「君はバンドに入ることになる」と聞かされていたから、当初はバンドミュージックに執着して、すごくのめり込んでいたんだ。前述の通り、ジョン・メイヤーやジェイソン・ムラーズが好きだったし、自分がやるのも理にかなっていると思った。でも通常のポップスやR&Bも大好きだったから、バンドミュージックはいつも僕の中心にあったけど、他のタイプの音楽も好き、といったところかな。
DAY6在籍時のパフォーマンス映像
―オーディションを受けたときは本名のパク・ジェヒョンで、その後Jaeという名前でバンド活動をして、現在はJaeをひっくり返してeaJにしています。その理由を教えてください。ネットで調べると「名前を逆さまにすることで初心を取り戻すため」という理由も見られますが……。
eaJ:2019年だったかな、何かを参考にして曲を書き続けていた時間があまりにも長くなって、自分が本当に好きな音楽は何なのか忘れてしまったんじゃないかと思うようになったんだ。その時作っていた音楽が好きじゃなかった、という意味じゃないよ。とあるバーで知らない人が「どんな音楽が好き?」と聞いてきたのがきっかけだった。「バンドミュージックが好きだよ」と答えたら、「君が作っている音楽の話をしているのではない。君が好きな音楽のことだよ」と言われたんだ。……答えられなかった。
その時こう思ったんだ。「自分は何が好きなのかを見極めるために、ひたすら何か作ってみるのはどうだろう」と。僕はギターも弾けるからそれができるしね。そこから始まったんだ。契約上、僕は自分で曲をリリースすることができなかった。当時はDAY6のメンバーだったからね。それでミドルスクール(日本の中学校のようなもの)時代の名前=イアージュ(eaJ)をプロジェクト名にして創作活動を始めたんだ。
―最初はイアージュだったのですね。イージュではなくて。
eaJ:うん。ただ、イアージュは何だかトゥーマッチな気がしてね。「だったらイージュでいいや。呼びやすいし」と思って。それでいくことにしたんだ。その後、友だちに名前の意味を聞かれたんだけど、「何の見当もつかない」と答えた。そうしたら「分かった。君は名前をひっくり返すことによって、ルーツに戻ろうとしているんだ」と言われてね。「それはとても賢い理由付けだ。じゃあそういうことにするよ」と言ったんだ(笑)。
―ということは、意味は後付けだったんですね。
eaJ:そうなんだよ(笑)。
—面白い話です。結果的に実際にあなたがやっていたことを言い表していたというわけですね。
eaJ:そう、ここまでたどり着くのに長い道のりだったよ(笑)。
eaJプロジェクトの挑戦、「不眠症」というテーマ
―2020年にバンド活動と並行してスタートしたeaJプロジェクトですが、多彩なジャンルに挑戦しているのが印象的です。しかしながら、どの曲も1、2分と短いのはなぜなのでしょうか?
eaJ:理由はシンプルで、長い曲をプロデュースする余裕がなかったから。資金がなかったんだ。それで仲のいい友だちにボランティアみたいな感じで参加してもらった。みんな「友達価格」でやってくれたんだ。でもヴァースをふたつ以上作るほどのお金は払えなかった。
―いろいろなスタイルを少しずつ試して自分の音楽性に何を取り込むか、何が自分らしいスタイルなのかを見極めるつもりでああいう形にしたのだと思っていました。
eaJ:それもまた真実ではあるね。あのプロジェクトでリリースしたのは10曲前後あったと思うけど、すべて内容が違う。これらの作品を通して自分は何が大好きなのかを見極めようとしていたのは間違いない。ただ、お金の問題の方が大きかったんだ。
―そして2022年4月に初のソロシングル「Car Crash」をリリースしました。この曲はeaJプロジェクトのリリカルで内省的なサウンドやDAY6のハードロック路線、そのどちらにも似ていないサウンドでした。以前よりも開放感が強く感じられましたが、やはり当時の気持ちを反映しているからなのでしょうか?
eaJ:あの曲が生まれた背景について正直に言うと、2022年に88risingのCEOを務めるショーン・ミヤシロから「ソロアーティストとして、ロサンゼルスで開催するHead In The Clouds Festivalに出てほしい」と連絡があったんだ。その時点で僕は8曲くらいしかリリースしていなかった。ところがショーンがセッティングしてくれたのは、午後6時、夕暮れ時のメインステージ。だから「みんなが飛び跳ねられる曲を作ろう」と考えたんだよね。それで書いたのが「Car Crash」だったんだ。
2022年、Head In The Clouds Festival出演時の映像
―この時も、外部からのアプローチがきっかけだったのですね。
eaJ:そうなんだよ。考えてみると、多くのことが何かに反応したことから始まっている気がするんだ。すべてのものごとに深い意味付けをするアーティストは多いけれど、僕の場合は人生に訪れる波にとりあえず乗ってみる感じかな? それでもいい感じにきているよ。
―やってくる流れに柔軟に対応できるのは非常にいいことだと思います。そうした過程の中でできた曲で聴く側も開放感を味わえる、とても素晴らしいですね。
eaJ:そう言ってくれてありがたいよ。JYPの練習生時代に経験したことが実を結んでいると思う。あそこで受けたレッスンの多くが今すごく役に立っているんだ。JYPで養った洞察力がなければ、こんなにたくさんの曲を書くことは絶対にできなかったよ。
―振り返ってみると、オーディション番組への参加もDAY6時代も現在のスタイルを作り上げる過程で必要な経験だったのではないでしょうか?
eaJ:そう! 最近、自分の今のキャリアについてよく考えるんだ。歳も重ねて31歳になって、もう少しで(今年9月で)32歳になる。いつも歳より若く見られるのが嫌だったけど……。ほら、アメリカ人ってよく「アジア人は若く見える」って言うよね(笑)。
―ああ、確かにそうですね。
eaJ:そうだよね。僕は神的な存在を信じていて、それは自分が耳にしたことのある特定の何か(の宗教)ではないんだけど……で、すべてが今この瞬間に繋がっていて、神が伏線をくれていたような気がしているんだ。「eaJとしてキャリアを全うしなさい」みたいなね。奇妙な考えかもしれないし、僕がただそうだといいなと思っているだけかもしれないけど……。でも、そう願っているよ。
Photo by Lucas Mumm
―これまでにソロで出したEPは『laughing in insomnia』『smiling in insomnia』『medicated insomnia』の3枚。いずれもinsomnia(不眠症)をテーマにしていますが、この意味について教えていただけますか?
eaJ:僕はひどい不眠症でね。薬を飲むようになるまでは本当にひどかったんだ。今は薬を飲んでいるからかなり良くなったけど、それまでの27、8年間は全然眠れなかった。頭が冴えっぱなしでさ。面白いのは、曲がひらめくのが眠れない夜、あるいはシャワーを浴びている時が多いんだ。僕の音楽的なアイデアの多くは不眠がベースになっていると思うよ。
―曲はあなたが日中にしていたことを反映したものなのでしょうか? それとも眠りたいという願望とか……。
eaJ:僕は眠れないでベッドに横になっているときに、過去の自分がやった些細なことを思い出してくよくよするタイプなんだ。5年前のことを急に思い出して「うわああああ」なんてなったりする。「何であんなことを」とバツが悪くなってしまったりしてね。あのEP3枚は、僕が頭の中やベッドの中で考えたことのコレクションだと思う。
―曲を作ることによってカタルシスを覚えたりしますか。不眠症を題材にした曲を作ることによって自分自身が自由になる時もあるのでしょうか?
eaJ:少しはそういう効果があったと思うね。でも新しいEPが出たらもっともっと開放感を味わえると思うんだ。だからすごくワクワクしているよ。
来日公演の展望、次のEPに向けて
―まもなくソロでは初となる日本公演を開きます。今はそのツアーのアイデアをまとめているところでしょうか?
eaJ:もうほとんど固まった感じかな。今はバンドでちゃんと演奏できるようにしているところだよ。お客さんが一瞬たりとも退屈しないような内容にしたいんだ。大小のセクションがあって、みんなが没入感を味わえるような感じにしたいね。会場を訪れた人たちがまばたきする間も惜しむようなショー。それが僕の目指すところなんだ。
―ツアーなどで海外へ行く機会も少なくないと思いますが、国によってリアクションの違いはありますか。例えばこの国ではこの曲の人気が特に高いとか。
eaJ:どの国でも僕が来るのをとても楽しみにしてくれているし、僕に注いでくれるエネルギーと愛が驚くほど大きい。大好きなアーティスト・Hindiaとともに「right where you left me」って曲を今年7月にリリースしたんだけど、インドネシアですごく人気があるみたいなんだ。とても感謝しているよ。(歌うような口調でウキウキと)ありがとう~♬
―日本の観客に対して何を期待しますか?
eaJ:とにかく楽しい時間を過ごしてもらいたい、それだけだね。もちろん僕の方から飛び跳ねてもらいたいとか、歌ってもらいたいとか言うこともあるだろうけど、だからと言ってそうしなくたっていい。僕がやるべきことを果たしてさえいればね。
僕はファンが結構な金額を払って観に来てくれることに対してとても真剣に考えているんだ。ライブを観終えた後に「お金を払った甲斐があった」と思ってもらいたい。たったひとりでも「無駄な金を使ってしまった」と感じてしまう人がいたら、ものすごく申し訳なく思ってしまう。そういう状況には絶対になりたくない。だって失敗したと思ってしまうだろうからね。来てくれるすべての人に良い体験をしてもらいたい——。それだけが望みなんだ。
―今はツアーのセットリストを作っている最中なのでしょうね。
eaJ:すでにまとまっているよ。
―どんなショーになるのか本当に楽しみです!
eaJ:これはまだ誰にも言っていなかったけど、今度出すEPは『when the rain stopped following me』というタイトルになるんだ。
―ということは、今回のツアー名と同じになるのですね。
eaJ:そう。でもまだ誰もそのことを知らないんだ。
―書いてしまっていいんですか?
eaJ:もちろん! ぜひ書いてください。
―ツアーだけでなく新作も出すなんて、期待が高まりますね!
eaJ:(日本語で)本当にありがとうございます!
eaJ / when the rain stopped following me tour
日時:2024年9月11日(水) OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京・渋谷 Duo MUSIC EXCHANGE
料金:VIP ¥15,000(※完売) / ADV. ¥7,500 (各1D代別途)
主催・招聘・企画制作: KYODO TOKYO / EVENTIM LIVE ASIA
公演詳細:https://kyodotokyo.com/pr/eaJ2024.html