オースティン・バトラー主演の伝記映画『エルヴィス』に続いて、それと対になるバズ・ラーマン監督の新作『EPiC/エピック エルヴィス・プレスリー・イン・コンサート』が日本でも封切られた。ロックスターの内面に踏み込んだ『エルヴィス』の陰影に富んだ世界とは対照的に、『EPiC』が見せてくれる”キング”は朗らかでパワフルでどこまでもエネルギッシュ。監督なりに『エルヴィス』とのバランスを考えたところがあったのかもしれない。1972年公開の傑作ライブ・ドキュメンタリー『エルヴィス・オン・ツアー』はライブ本番前の驚くほどナーバスなエルヴィスの様子をキャッチしていたが、そういう繊細な部分は『EPiC』ではほぼ出てこない。エルヴィスがギンギラギンに輝いている強烈な瞬間ばかりを、驚きの高画質・高音質で存分に堪能できる。
ライブ・パフォーマンス満載の『EPiC』なのに、これを単にライブ・ドキュメンタリーと呼ぶのはどうもしっくりこない。何しろ同じ曲を聴かせる上でも、別の時期・場所でのライブ映像が次々に現れ、シームレスにミックスされて行くのだ。映像だけならまだしも、音まで違和感なくつなげられている点には感服せざるを得ない。素材の修復作業には『ザ・ビートルズ:Get Back』を手掛けたピーター・ジャクソンのチームが参加、IMAXでの上映が可能なレベルにまで作品を引き上げた。劇場上映でどこまで本物のライブに近付けるかという試みの最新地点を、ぜひともシアターで、全身で体感してほしい。
バズ・ラーマンが以前から”存在するらしい”と噂を聞いていた、未発表フィルムの山を運良く探し当てたおかげで、こうして『EPiC』は生まれた。多くが未公開のインタビュー音声を活用し、ナレーターを立てず、エルヴィスの発言のみで進行する形になっているのも新鮮。
『エルヴィス』から入ってきたビギナーを意識してか、序盤は改めてエルヴィスの歴史を振り返る構成。アメリカ陸軍への入隊による失速、除隊後に映画界で活躍した時期の心境も率直に語られており、大づかみに変化の流れが把握できる。ハリウッドの世界にはまり込んでいた彼が方向転換、再びライブ活動に力を入れ、ラスベガス進出へと至る流れがよくわかる。
良識派から批判を浴びたセクシーな体の動きについて、自然と体が動き出してしまうのだと説明するエルヴィス。逆に言えば、体の奥底から湧き上がる衝動がなければ、エルヴィスにああいうアクションはできないのだ。そこを意識してライブ場面を見て行くと、養殖ではない天然モノロッカーとしての凄味を実感できると思う。全てはファンを楽しませるため。空手の動きだって決しておふざけではなくて、真剣に空手を愛していた彼の純粋さの表れなのだ。
エルヴィス「音楽的豊穣期」の記録
本作で見せ場になっているシーンの多くは、ラスベガス進出後のドキュメンタリー『エルヴィス・オン・ステージ』(1970年)と、前述の『エルヴィス・オン・ツアー』で撮られた未公開映像。バックを務める通称TCBバンドの熱演ぶりをたっぷり見られるのがうれしい。
ジェリー・シェフのベースが唸りを上げる「Polk Salad Annie」は、間違いなくクライマックスのひとつだろう。執拗な編集が抜群の効果を上げており、バズ・ラーマンが最も力を入れたシークエンスではないかと感じた。ロニー・タットの雷神のごときドラミングにも注目してほしい。そして彼らプレイヤーの目は、いつも必ずエルヴィスをじっと見ている。エルヴィスが曲をどんな方向へ持っていくか、誰にも予測できないからだ。ステージ上を支配しているのはいつもエルヴィスで、演出から衣装に至るまで、全てにおいて彼がコントロールしていた。それがよくわかるのはリハーサルの場面。気楽にやっているように見えて、アレンジのメリハリをしっかり見ていて、バンドに的確な指示を飛ばす。他のドキュメンタリーを見てもわかるが、曲のテンポやちょっとしたフレーズのキメ方など、細部まで神経をつかう人なのだ、エルヴィスは。ミュージシャンとしての彼の能力について懐疑的に見ている意地の悪い人たちが、こういうシーンをちゃんと見てくれたら、と切に思う。
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また、バズ・ラーマンは本作で、ゴスペルに傾倒するエルヴィスの姿に着目している。「How Great Thou Art」や「Oh Happy Day」では、幼い頃から教会で歌ってきたエルヴィスの素地が浮き彫りに。ライチャス・ブラザーズのカバー「Youve Lost That Loving Feeling」や、サイモン&ガーファンクルのカバー「Bridge Over Troubled Water」も、ゴスペル的な解釈のアレンジで、壮大なスケールで歌われている。役者として経験を積んできたことも、歌の世界を拡大する上で大いに助けになったことだろう。こうした曲ではコーラスを担当したスウィート・インスピレイションズが大活躍。スクリーンでは姿を見つけられないが、ここに1969年まで在籍していたホイットニー・ヒューストンの母、シシー・ヒューストンも、エルヴィスのバックを務めたシンガーのひとりだ。
「In The Ghetto」(米3位)、「Suspicious Minds」(米1位)、「Burning Love」(米2位)といった、現役シンガーとしての当時のヒット曲を大事に扱っているところにも、エルヴィスに対する深い愛情を感じた。ロックンロール、リズム&ブルースに、カントリー、ゴスペル……あらゆるルーツ・ミュージックの影響を落とし込んだ、音楽的に最も豊穣な時期の記録。ラスベガス時代のエルヴィスをネガティブにとらえていた人たちにこそ、本作をしっかり観て、感じてほしい。同時に、毎夜こんな全身全霊のパフォーマンスを続けていたら、燃え尽きてしまうだろう……と思ったのも確かだ。本作のメインとなるライブは30代半ば。1977年に亡くなった時点で、エルヴィスはまだ42歳だった。
『EPiC』サウンドトラックもチェック
『EPiC/エピック エルヴィス・プレスリー・イン・コンサート』
製作・監督・音楽製作総指揮:バズ・ラーマン(【エルヴィス」「華麗なるギャツビー』)
出演:エルヴィス・プレスリー
配給:パルコ ユニバーサル映画
(2025年/オーストラリア/97分)
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2026年5月15日(金)よりIMAX先行上映、5月22日(金)より2D(通常版)全国ロードショー
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/epic
『EPiC/エピック エルヴィス・プレスリー・イン・コンサート』オリジナル・サウンドトラック
発売中 2,860円
●バズ・ラーマン監督ライナー(翻訳付)
●日本盤書き下ろしライナー(萩原健太)
●歌詞・対訳付
特設サイト:https://www.110107.com/elvis_epic
再生・購入:https://sonymusicjapan.lnk.to/ElvisPresley_EPiC
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