〈Dirty Hit〉から『Bleachers』をリリースした2024年、サマーソニックで観たブリーチャーズのライブは、非の打ちどころがない見事なロックンロール・ショーだった。売れっ子プロデューサー=ジャック・アントノフの仕事しか知らない人は、ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドの後継者と言い切りたい情熱的なパフォーマンスを目の当たりにして、度肝を抜かれたのではないか。


ジャックはその後もサブリナ・カーペンターの『Short n' Sweet』と『Man's Best Friend』(共に米・英1位)、ケンドリック・ラマー『GNX』(米・英1位)、ドージャ・キャット『Vie』(米4位・英5位)にプロデューサーとして参加。最近ではアン・ハサウェイがポップスターを演じた映画『マザー・メアリー』の公開とタイミングを合わせてデジタルリリースされたミニアルバム『Mother Mary: Greatest Hits』をチャーリーXCXと共同で手がけたばかり。引き続き多忙を極める中、ブリーチャーズのデビュー作『Strange Desire』(2014年)を再構築した10周年記念アルバム『A Stranger Desired』に取り組むなど、バンドでの活動も並行して進めてきた。

サマソニで観たライブの激烈さから、次作はバンド色が一気に強まるのでは、と予測していたが、5枚目のオリジナル・アルバム『everyone for ten minutes』はむしろ、前作『Bleachers』よりやや抑え目のトーンで、じっくりスタジオマジックを駆使した内容になっている。ヒップホップやソウルの影響などサウンド面で幅を出しつつも、ストーリーテリングの魅力は不変。今回のオンライン取材では生々しい詞世界についても一歩踏み込み、創作の秘密について語ってもらった。

「僕を燃え上がらせるのは、自分自身との深い会話」

─サマーソニックでのライブは高揚感あふれるパフォーマンスで、今もあの日の熱気が忘れられません。14年前にFUN.で来日した時も観ましたが、これまでの日本のオーディエンスとはまったく違う反応でしたよね。

ジャック:ワイルドさの境界線があったとして、ライブではそれをオーディエンスに超えてもらうのが醍醐味だよね。

─ライブで観たバンドの結束力が素晴らしかったので、新作もアップリフティングなロックンロール中心のアルバムになるのかなと予想していたんですが、全体的には「痛みに向き合う」モードの、実に深いアルバムになった気がします。どのようなプロセスを経て新作が生まれたのか、教えてもらえますか?

ジャック:時々思うんだけど、自分自身やバンドがあのレベルの(ライブでの)狂気を極めるには、これ以上ないくらいの脆さも見せられる状態でないといけないんじゃないかな。ということで、僕は両方をやっているんだ。
アルバムの中には僕たちが崖から飛び降りるような思いきりの良さを見せている箇所もあれば、ものすごく内省的になっている箇所もある。僕にとっては、自分の一番深いところに切り込んでいくことが、バンドをあれほどクレイジーにする唯一の方法なんだ。

─あなたが敬愛するブルース・スプリングスティーンもそうですが、どの曲も実在する登場人物がいて、実体験をそのまま書いているように聞こえます。本当のところは実話にせよフィクションにせよ、すぐれたソングライターには皆そんな風に感じさせる技術があると思うんですけど。あなたが歌詞を書くときは、いつもどんな風に組み立てていくんですか?

ジャック:僕にとっては……自分にとって極めてリアルな話であれば、それがフィーリングであろうと、自伝的なストーリーからのものであろうと、真摯なものとして伝わると思うんだ。僕は決して自分をたわ言でごまかすことはしないし、それはオーディエンスに対してもそう。だから、曲を書くときに半端な真実は入れない。中途半端には決してしないし、これで十分だろうと思うこともない。そのおかげでオーディエンスを獲得できているんだと思う。僕の言葉がどれだけシリアスなものか理解してくれているんじゃないかな。

─つまりフィクションであろうとなかろうと、あなたの本当の気持ちから来ている言葉、ということですね。

ジャック:フィクションではないよ。
僕はフィクションを書くのがうまくないからね。うまく書ければいいのにと思うこともあるけど、インスピレーションにはならない。事実に即したストーリーを伝えることから始めて、それが何を意味したのか、どうして起こったのか、どういう意味を持ちうるのか、自分がどう貢献するべきかなどに思いを馳せるんだ。ほとんどの場合、根っこはとても自伝的なところにあるね。フィクションに近いものとしては、僕の夢想がある。フィクションではなくてね。無自覚に感じているものについて詞を書くことも多いよ。

Bleachersが曝け出す内省のロックンロール ジャック・アントノフが語る作曲術と詞世界、ケンドリック・ラマーからのインスピレーション


─なるほど、よくわかりました。ところで、「the van」でブルー・マジックの曲をサンプリングしているのを聴いて、僕はゴーストフェイス・キラーのアルバムやウータン・クランのことをちょっと思い出したんですよ。

ジャック:うわあ、うれしいね(笑)。

─ヒップホップからはどの程度影響を受けている?

ジャック:うーん、たくさん。と言っても音的にというよりは、ストーリーテリングの面でだけどね。
僕は曲の中で、簡潔でありつつもたくさんの重みが潜んでいるストーリーを伝えるのが大好きなんだ。「the van」はその意味でパーフェクトな一例だね。僕が初めてのツアーに出ていって戻ってくるという簡潔なストーリーだけど、終わりのない旅に出ることを決断するというストーリーでもある。その旅は僕を高揚させて、落ち込ませて、右へ左へと翻弄する。振り回されるんだ。ラップはストーリーが鮮明なところが最高だよね。もう少し隠すタイプの音楽もあるけど、僕は隠したくない。ラップに強いインスピレーションがあるのは、隠すことがとても難しいからなんだ。

─その「the van」や「im not joking」のソウル・フィーリングが心地よかったです。あなたが古いソウル・ミュージックやR&Bについて話しているのを読んだ記憶がないので、どんな曲を好んで聴いているのか少し教えてもらえますか?

ジャック:フィリー(フィラデルフィア)の往年の名曲はよく聴くよ。僕が育ったニュージャージー州は、色んなサウンドが融合している興味深い土壌があるんだ。ホーンもよく使っていてね。
(ここで回線の接続状態が悪くなり、ハウリングが発生)……うーん、クールなサウンドだな(笑)。

─まるでサンプリングですね(笑)。

ジャック:(笑)……というわけで、僕はその手の音楽をよく聴いているんだ。ソウル・ミュージックというのはひとつのジャンルであると同時に、曲にソウル(魂)を込めるというコンセプトでもある。ブリーチャーズには独特のバージョンがあって、それは僕たち6人が一緒にプレイすると起こるものなんだ。僕たち独自のブレンドとしてね。他にも、自分の音楽とは真逆のものもたくさん聴くよ。それは必要に応じて聴くというよりは、フィーリングやメッセージに惹かれてのことなんだ。自分が作るジャンルの曲とは必ずしも同じでなくとも、自分をさらけ出している感じの音楽に一番惹かれるね。

─プログラミングされたビートに、サキソフォンなど人間くささが出る楽器をまじえたアレンジがあなたは本当にうまいですね。最近のメインストリームのヒット曲でこういう管楽器の使い方をする人は多くないと思うんですが、サキソフォンをフィーチャーした曲ではどんなことを心がけていますか?

ジャック:僕は、人があまり耳にする機会のない楽器をフィーチャーするのが好きなんだ。と同時に、あまりなじみのないやり方でフィーチャーするのも好きなんだよね。
サックスが80年代風のセクシーな感じにフィーチャーされるのは好きじゃない。コースト(ニュージャージー州沿岸部のブラス・セクションを多用した音楽)風で、悲しげで、希望も感じさせるようなやつが好きだね。同じように、今回のアルバムではハープシコードやハーモニカも使っている。僕にとっては新しい楽器で、想像しうる使い方の真逆を行く使い方をするという道のりの一環なんだ。

─今あなたが言ったことは、次の質問とも繋がる気がします……昔のインタビューであなたが「今のメインストリームの音楽はクソばかりだから自分で良いものを作って変えることにした」と言っていた記憶があって。実際にあなたはそれをプロデューサーとして、ブリーチャーズとして実践してきたわけだけど、2026年現在の気分はどんな感じでしょう? 状況を大きく変えられたという達成感がある?

ジャック:2026年の音楽は本当に多彩だと思う。まだまだ知られていないものがたくさんある。(リスナーが)それぞれのアルゴリズムから自由になって、新しいものを発見するべきだと思うよ。素晴らしいものが本当にたくさんあるし、多くの”技術側”の人々が望んでいる退屈な現状に抵抗しているからね。

─そういう興味深い音楽を人々が作るための道筋を、あなた自身が作ったという自負はある?

ジャック:そうだなあ……僕は内容が極めて具体的で正直な作品を作ることにいつもこだわりがあって、すべてにわたって自分らしくやることができれば悪いことにはならないと考えている。だから、メインストリームのせいで自分を変えなければならないというプレッシャーを感じたことがないんだ。自分が何らかの影響を与えることができたのであれば、それは大切なことだと思う。


─そんな質問をしたいと思ったのは、あなたが「take you out tonight」で”make the records I wanna make / f*ck off and tell them anything”(僕は作りたいレコードを作るだけ / 外野は失せろ、何とでも言えばいい)と歌っていたからです。あなたほど成功した人でも、まだこんな気分になることになるんだなと思いました。

ジャック:そう、挑戦的態度で(笑)。僕のモチベーションになっているのは成功じゃないからね。僕を燃え上がらせるのは他の人の意見じゃない。僕を燃え上がらせるのは、どこまで自分をプッシュしていけるか、どこまで深く掘り下げていけるかについての、自分自身との深い会話なんだ。そんなわけで、挑戦的態度は今も健在だよ。

─同じ曲の”Im made of east coast music / Im made of ghost from the past / and Ive been gone since I was 15 daring my soul to crash”(僕を形作るのは東海岸の音楽と、過去のゴーストたち / 15の時からずっとイカれたままで、魂がクラッシュするのを待ち望んでる)というのは、忘れられないパンチラインです。ポップ・ミュージックの中に、限られた言葉数でこれだけの情報を詰め込めるのが凄いですね。

ジャック:詰め込むのが好きなんだ、「トロイの木馬」みたいに。バンドがあって、フックやメロディがあって、花火みたいにパーッとした箇所があって、蓋を開けると僕が普通の人よりうんと多く物申している(笑)。すべて詰め込むその過程が大好きなんだよね。すごく小さな空間の中でたくさんのことを言うと、すごくパワフルなものになるんだ。

ケンドリック・ラマーからのインスピレーション

─「you and forever」の「They hate themselves, forever war, it paves their hell(彼らは自分自身を憎み、終わりのない戦争が彼らの地獄を舗装していく)」という一節も耳に残りました。あなたはどんな気持ちでこのラインを書いたのでしょう。

ジャック:あれは僕たちの注意を引いて心を引っ張り込もうとする、世の中にはびこる邪悪なパワーについて歌っているんだ。今の世の中に存在するシステムの多くは、自己嫌悪の強い人たちによって設計されている。ひどい話だよ。僕は、自分のやっていることが大好きで、人が大好きで、希望が大好きな人たちが作っているものが大好きだけど、世の中で作られているものの多くは、気を散らしたり、怒りや不協和音を生み出したりするようにできていて、人からカネを巻き上げるようにできている。そういう力ずく的なものの多くを、ひとつのコンセプトにまとめて考えたんだ。暗雲から自分が逃げようとしているような感じにね。

まあ、(世の中が)ヘンな状態であることは確かだよね。僕は、その人たちが自分自身の大好きなものを作っていると嬉しいんだ。僕にとってのそれは音楽であり、それをプレイすることだけど、人によってはそれが椅子を作ることだったりするし、電化製品を作ることが好きな人もいる。僕たちは今とても興味深い時代に生きている。テクノロジー業界が、僕たちの多くが使っている物の多くを作っている。今は多くがスマホに集約されているよね。道順、コミュニケーション、恋愛、食事のオーダー……みんなそういうことについて何も知らない。やつらは物事をよりクソみたいにして、速いもの、手っ取り早いものにして、僕たちをより中毒にさせることだけを望んでいるんだ。

最近素晴らしい記事を読んでさ。マッチングアプリの仕組みについて語っている人がいたんだ。マッチングアプリの仕組みってのは……恋愛させることが目的じゃない。アプリを使わせ続けるようにできているんだよ。そうやってカネを稼ぐわけだからね。今の世の中、生きているだけで、自分のやっているあらゆることが、他人にとってのマネタイズへの旅になってしまっているような気がすることのすごいメタファーだと思ったよ。心にとっては、どうにもキツいことだよね。

─その「you and forever」は、声の重ね方がすごく面白くて。スパークスの最近のレコードと共通するようなテイストを感じました。あのハーモニーはどういう風に作ったんでしょうか。

ジャック:スパークスは大好きだよ! まぁ、あれはいろいろいじっていたらできたんだけど、寂しげなサウンドが気に入ったんだよね。孤独感と切望感、それから真っ暗闇を感じさせるものにしたかった。自分が暗闇の街を走り抜けて、どこか美しい場所に向かっているような。そういう要素の入ったサウンドにすごくこだわって、求めていた。希望と美しさ、そして本当の孤独感を併せ持つ感じをね。

─あなたはうつ病の経験について公言していますが、同じように僕もそれとつき合ってきました。ふとした時に沈みそうになった時の対処法が、ブリーチャーズの歌詞ではいつも示されているように感じて、気持ちを助けられます。ソングライティングは、ある種の自己セラピーになっている?

ジャック:ああ、それは間違いないね。僕はそれで命を救われてきたんだ。僕にとってソングライティングは、理不尽なものごとを理解することを意味するんだ。もしもそれがなかったら、意味のあるものなんてなくなってしまう。それほどシンプルな話なんだ。自分自身や身の周りのことを理解する方法は人それぞれだと思うけど、僕にとってのそれはソングライティングなんだよ。これがなかったら……自分がどうなっていたかわからないよ。

─あなたの歌詞から、リスナー側も自分たちのネガティブな面をポジティブに変換するヒントをもらっているような気がします。

ジャック:良かった。僕にとって肝心なのは、どう前に進んでいけばいいかということだからね。僕にとってソングライティングで肝心なのは、人生に行き詰まらず、どう前に進んでいけばいいかということなんだ。

─プロデューサーとしてたくさんのアーティストを手掛けてきたあなたですが、人をプロデュースしている時に発見したり思いついたアイディアが、ブリーチャーズの作品で役に立つということはあった? 具体的な実例があったら教えてほしいです。

ジャック:あるね。ただ、特定のサウンドが役立ったというわけではないんだ。フィーリングだね。例えばケンドリック・ラマーのアルバムを作ったとき、彼のストーリーの伝え方がとても鮮明だった。そういうものからインスピレーションを得て、もっとストーリーテリングを深く掘り下げていきたいと思う。だから実例からそのまま音的に影響を受けるということはなくて、受ける影響はいつもフィーリング面なんだ。

─日本盤のボーナス・トラック「Nothing Is U」も、とても良い曲で、アルバムからこれが外れたことに驚きました。良い曲ばかりできて、収録曲決めや曲順にはかなり悩んだのでは?

ジャック:いや、それが、僕にとってはすこぶる楽だったんだよね。何故か、これを検討して、あれを検討して、はい終わり、という感じだった。

─そうですか。曲はたくさん作ったんですか?

ジャック:いや、クレイジーな量ではないね。アイディアはたくさんあったけど、全部(曲として)完成させたわけじゃないから。たくさんアイディアを作っても、よほど説得力のあるものがない限り、それが先に進み続けることはないんだ。

─なるほど。あなたの中にはっきりとした基準があるから、曲選びが楽なんですかね。

ジャック:もしかしたらね。そうかもしれないけど、自分ではわからないんだ。直感で選んでいるからね。それだけシンプルなんだ。感覚的に分かって終わりというか。

Bleachersが曝け出す内省のロックンロール ジャック・アントノフが語る作曲術と詞世界、ケンドリック・ラマーからのインスピレーション

Photo by Alex Lockett

─これまでのアルバムと新作を比較して、新作はどんな位置付けができるでしょうか?

ジャック:うーん……(しばし考える)……このアルバムは…今までの中で一番内省的だと思うね。僕がバンドに心底支えられているから。

─この後ツアーの予定がありますが、今回はどんな内容になりそうでしょう。

ジャック:僕たちのゴールはひとつ。それは人々に毎晩、僕たちの絆に触れてもらうことなんだ。

─また日本に来てくれますよね?

ジャック:ああ。早く行きたくて待ちきれないよ。日本のオーディエンスが大好きだからね。ツアーの計画に今取り組んでいるところだけど、日本のファンのことは絶対に忘れない。絶対にだよ。日本で会おう!

Bleachersが曝け出す内省のロックンロール ジャック・アントノフが語る作曲術と詞世界、ケンドリック・ラマーからのインスピレーション

ブリーチャーズ
『everyone for ten minutes』
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