YouTuberから表現者に覚醒するまで
―Quadecaという名前の由来について教えてください。
ベン:まだ幼稚園の3、4歳くらいの頃に自分で作った名前なんだ。子どもの頃って想像力が爆発しているものだよね。そこから生まれた架空のスーパーヒーローの名前がQuadecaだったんだよね。そのヘンテコなキャラクターを絵に描いたりしてたんだけど、名前自体は何の意味もないデタラメな言葉で。その後、ネットでユーザー名を登録するときに試したら、どのプラットフォームでもその名前が使われてなくて……というか、そもそも自分がでっち上げた名前だからそうに決まってるんだけど(笑)、それを今でも使用しているというわけ。子どもの頃に自分が頭の中で作り上げたヒーローであり、ある意味、自分の分身みたいなキャラクターの名前が、そのままアーティスト名になってる。
―YouTuber/ゲーム実況者として最初に世に出てきたと思いますが、その前のティーンの頃はどんな感じだったんですか?
ベン:YouTube配信をする前は、いつもピアノで曲を書いているみたいな子で……当時はいわゆる王道のシンガーソングライター系の曲を書いていたんだ。でもほら、10代になるとビデオゲームだったり、サッカーだったりとか色々興味も移っていくわけだよね。そこからネットで『FIFA』だのサッカーまわりのネタを配信するようになったんだけど、それは完全に遊びや趣味の延長で、単純に楽しかったからやっていただけ。曲を書くこと自体は昔からずっと好きで、小さい頃からずっと一人で曲を作って遊んでいたんだ。
―本格的なアーティストに転向するにあたって、どんなきっかけがあったのでしょう?
ベン:四六時中、誰かに見られていることを意識しながら配信し続けていると、どうしても精神的に参っちゃうんだよね。
ネット配信者が音楽活動を始める場合、大抵は「アーティストになってクールに見られたい」といった虚栄心からというケースが多いよね。でも、僕の場合はむしろその逆で、音楽をリリースすることによってフォロワー数が激減したとしても、自分が心からやりたいことをしようって覚悟で臨んでいる。たとえ明日死んだとしても「やりたいことをやって、全力で生き切った!」って思えるように生きるっていう、それが自分の哲学だから。
そして幸いなことに、自分が情熱をかけて取り組んでいることを楽しんでくれる人たちがいてくれて……しかも、自分の場合、もともと配信者っていう変わった方向からスタートしているからね。今こうしてミュージシャンとして活動しているのを当たり前だとはちっとも思ってないし、むしろ自分がそれまでネット配信者として築き上げてきたものを失う覚悟で最初の一歩を踏み出してたから。
一アーティストとして活動する中で、動画配信者というルーツについて現在どのように考えているのかお聞かせください。
ベン:今あの頃の映像を振り返ると「アホだなあ、ガキだなあ」みたいな(笑)。あの頃は本当に子どもだったからさ。中学とか高校のときにクールと思ってたものも、後になって振り返るとイタいっていう、まさにそんな感じ(笑)。
―自分の音楽家としての歩みにとって重要だと思う3曲を教えてください。
ベン:最初に思い浮かんだのは「Sisyphus」……『From Me To You』(2021年)に入っている曲で、あのアルバム全体は当たり外れがあるんだけど、この曲は扉を開けてくれたっていうか、いろんなものが一気にバーッと開けた感覚があって。「やりたいことをやってもいいんだ」って、自分を全面的に肯定できた瞬間だったんだよね。実際、この曲のおかげでチャンスが広がっていったから。
それから「Born Yesterday」。『I Didn't Mean To Haunt You』(2022年)の収録曲で、あのアルバムは今でも自分のお気に入り。作りながら「うわー、僕ってこんなこともできるの⁉」って、自分にビックリする場面が何度もあって。自分の外側にある存在にチャネリングしているような感覚というか……心からそう言えるくらい特別な曲だし、何より作っていてめちゃくちゃ楽しかったんだ。
3曲目はそうだな……「MONDAY」にしておこうか。最新作『Vanisher, Horizon Scraper』からの曲で、自分にとって新しい手応えがあったからね。ただ、こうして3つ並べてみたものの、次に出すニューアルバムの曲なんだよね(笑)。もちろん今ここで明かすわけにはいかないけど、今制作しているアルバムの収録曲が、ミュージシャンとしての最重要曲になるはずだよ。
―ダニー・ブラウンやケヴィン・アブストラクトとのコラボレーションに関して、これまで彼らから受け取ったインスピレーションが、実際のクリエイションにどう結びついたか聞かせてください。
ベン:ああ、いい質問。ケヴィン・アブストラクトってキュレーター的というか、そこがすごくいいんだよ。音楽づくりにおいて一切のエゴがないんだ。「この曲は他の人の意見を採用したほうが輝く」と察知したら、自分はサーッと身を引いて、曲が本来あるべき姿になるよう徹底的に裏方役にまわるっていう、その潔さがマジで凄すぎる。すごくオープンマインドだし、常に関わってる人みんなが輝けるための余白をちゃんと作ってくれる。この先自分がアーティストとしてもっとビッグになって、ネットワークが広がったら、ケヴィンみたいなキュレーション型の作り方を見習いたいと思うし、その辺ですごく勉強になった。
ダニーはとにかくライターとして圧倒的な才能の持ち主。
2025年に出した曲(「THE GREAT BAKUNAWA」) に関しては、実は3日間くらいで一気に作ったんだよね。ダニーと一緒に曲を作った経験は、自分のソングライティングにも相当な影響を与えているはずで……何百通りの書き方があっていいし、ルールなんて存在しないんだなって……というか、仮にルールがあったとしても、ルールなんて破って自分のやりたいことをやっちゃえばいい。ある方法で一度うまくいくと、ゲン担ぎみたいな感じに毎回同じ型でやらないと不安になりがちだけど、可能性は無限にあるし、毎回好きに変えちゃっていいんだってことを体感させてもらった。
ケヴィン・アブストラクトとのコラボ曲「TEXAS BLUE」
ダニー・ブラウンとのコラボ曲「THE GREAT BAKUNAWA」
一人で作ることで、自分自身が研ぎ澄まされていく
―あなたの音楽性の変遷を辿ると、現代のラップミュージックとフォークミュージックの橋渡しをユニークかつ洗練された形で実現してきたように思われます。自分の中でフォークに対する関心が強まった理由を教えてください。
ベン:えーっと、少し考えさせて……世の中にはいろんなタイプの音楽があって、それぞれが果たすべき役割があると思う。僕は、その音楽の背景にある「意図」のようなものに、スッと共鳴できるタイプなのかもしれない。
たとえば、長距離をドライブしている最中や、深く内省的になっているときに、ふと流れてきたシンガーソングライターの曲が、信じられないくらい心に沁みることってあるよね。そういう体験をすると、アーティストとして「この感覚を、どうすれば自分の表現として再現できるだろう?」と創作意欲を掻き立てられるんだ。だから僕は、どんな音楽に対しても常に心を動かされているし、ヒップホップだろうとフォークやポップだろうと、ジャンルの垣根を越えて自分をオープンに開いている。今の自分が感じていることを伝えるためのツールを、いくつも手元に持っているような感覚に近いかな。
『I Didn't Mean To Haunt You』はフォーキーで、どこか暗くて鬱屈とした作品だったけれど、あれは普段からそういう音楽ばかりを聴いていて「自分もやろう」と決めたわけじゃないんだ。自分のそのとき抱えていた感情に一番しっくりくる音を追い求めていった結果、気づいたらああいうサウンドになっていた、という感じだね。
―自分の中でフォークミュージックをどう定義しますか?
ベン:いやあ、難しいね。質問に答えられる人っているのかな? フォークとカントリーの境界線は? アレックス・Gの音楽はフォークなのか、カントリーなのか? 世界中にその国ごとのフォークが存在していて、その形も千差万別だよね。
ただ、自分の中にぼんやりとしたフォーク像があるとすれば、その土地に根ざしていて、かつ感傷的な音楽……というイメージかな。自分が幼い頃に育った場所が鮮明に蘇ってくるようなノスタルジックな感情に包まれたり、自然や道、特定の風景が目の前に浮かび上がってくるような感じ。
Photo by Brendon Burton
―ボサノヴァからの影響については、他のインタビューでもよく語っていますよね。
ベン:『Vanisher,~』を制作していた時期に、ボサノヴァ周辺の音楽をたくさん聴いていたんだ。あのアルバムは海がモチーフになっているけど、ボサノヴァやブラジルの音楽って、聴いていると自然と海や水のイメージが浮かんでくるよね。そうしたビジュアル面からインスピレーションを得たり、コード進行やパーカッションの使い方も参考にしながら、自分なりに新しい形へと昇華させていったんだ。
ただ、不思議なことに、今作っているニューアルバムは、その辺りの音楽からはほとんど影響を受けていないものになりそうだね。その時々の自分の心象風景によって、何からインスピレーションを受けるのか、その受け方自体も本当に大きく変わってくるんだ。
―ボサノヴァという音楽はサウダージ(郷愁)と結びついていますが、そうした要素にも惹かれているのでしょうか?
ベン:まさにその通りだね。結局のところ、ああいう音楽が一番長く残り続ける気がする。一度好きになったら、いつまでも色褪せることがない。僕にも10代の頃に出会って、今でも繰り返し聴いている曲がたくさんあるけど、どれも時代が経ってもまったく古びていないんだよね。感情の深いレベルで一度コネクトしてしまえば、魅力が薄れることは決してない。逆に言うと、ただ楽しいだけの音楽は、時代と共に消費されて終わってしまう面があるのかもしれないね。その一方で、哀愁やノスタルジーに訴えかける曲は、一度心にヒットすると、永遠に自分の人生に寄り添う一曲になってくれる。
Photo by Cameron McIntyre
―制作クレジットを見ると、あなたには歌/ラップと作曲だけでなく、複数の楽器を操るマルチインストゥルメンタリストとしての側面もあるように思います。このような制作スタイルに落ち着いた理由を教えてください。
ベン:ほぼ99%、自分の部屋で一人で作っているからね。プロデュースもすべて自分でやっているし。といっても、決して楽器が得意だからというわけではなくて、単にそのほうが効率的だから。そこまで演奏が完璧じゃなくても、テイクを何度も重ねれば「使えるレベル」には持っていけるし、一見とんでもなく複雑に聴こえるギターパートもあるけど、実際はいいテイクを何層にも重ねているだけなんだ。まあ、ピアノの腕前に関しては悪くないんじゃないかな。もっとも、本職の演奏家から見たら、僕のやり方は思いっきり邪道なんだろうけど(笑)。変なチューニングも使いまくっているし。とにかく、自分にできるテクニックやツールをすべて駆使して、どうにか曲として成立させている。そのやり方が好きだし、自分には合っているんだ。
とはいえ、ツアーはバンド体制でやってるし、『Vanisher,~』のときは、フルートやギターとか、自分には逆立ちしても真似できないスキルを持ってるミュージシャンを呼んで、各自に得意なことをやってもらってたけど、そのコラボレーションも最高に素晴らしくてね。そこで拾ってきた音源を、自分が作った土台に織り交ぜていく形で、あのアルバムを作ったんだ。
―そもそも自分一人で作るということが重要な要素だったりもします?
ベン:というよりは、僕に一番合ってる方法ってことじゃないかな。これまで何年か活動してきて、自分が特に愛着を抱いている曲は、どれも「孤独」から生まれてきたような気がする。一人でいると想像力が広がって、どんどん自分自身が研ぎ澄まされ、本質に近づいていく感じがするんだ。それが僕自身の成長にも繋がっていると思う。アルバムごとにサウンドが大きく変化するのは、自分自身を探求するための余白を、自分に与えているからかもしれない。もちろん、誰かと一緒に作業するのも楽しいし、そこから面白いものが生まれることもある。でも、自分の人生のサウンドトラックと呼べるような曲は、心の内側の奥深くを探っていったときにこそ生まれてくるような気がするよ。
だから、アイデアの部分に関しては基本自分一人でいるときに生まれてくるもので。毎回、自分の中でこういう音にしたいっていう何かしらのビジョンがあって、自分で一通りやり切ったあと、「やっぱり生のドラムがほしいかも」みたいな感じで、初めて人を呼んで足りない部分を埋めてもらう。そういう感じで制作しているよ。
―最新作『Vanisher, Horizon Scraper』では、映画音楽的なストリングスの使用や南米音楽からの影響が見受けられます。新しい音楽性を吸収し作品の中で表現するにあたって、どのような技術的なプロセスを辿ったのかお聞かせください。
ベン:自分がよく一緒にやってるミュージシャンは、その手の音楽が好きな人が多いんだけど。彼らが普段一緒に仕事している人たちはそっちに全振りするのには抵抗があるらしく、基本的にはポップソングを目指して、そこに味つけ程度に変わったギターのフレーズを付け足す、みたいなスタンスなんだよね。でも、自分はそういう抵抗を一切感じないから。たとえば、自分のバンドでギターを弾いてもらっているファヘム・エルファン(Fahem Erfan)がギターをいじってるとき、何気なくそっち系のフレーズを弾いたら、当然のことながら「ちょっと待った、何それ!? ちゃんと録音しようよ」ってなるんだよね。
ちなみに『Vanisher,~』のエピローグというか続編みたいなものとして、ルイス・ボンファの影響を受けたアンビエントっぽい作品を出したんだけど(『Vanisher,~』のデラックス版『Vanisher, Horizon Scraper (The Extended Cut)』に追加収録された3つのインスト曲)、あれなんてまさにファヘムが何気なく弾いたフレーズに対して、僕が「その感じを徹底的にやろうよ!」って言ったところから始まっている。もちろん、自分からも参照できそうな曲を提案したりして、足りないピースを埋めていくみたいなやり方をして作っていった。そのきっかけとなった一つがファヘムの弾いたギターのフレーズだったんだよね。
―同作ではトラックメイクや発声表現の面で、ラップミュージックとしての側面も強く感じられます。具体的な楽曲制作の工程を紹介した去年の動画からも、いわゆるフォークミュージック的な手法とは一線を画しているような印象を受けました。ラップとフォークを融合させるにあたって意識したことはありますか?
ベン:いや、どうだろう……何かを意識しているというよりは、考えるよりも先に「いいな」と思ったアイデアを直感的に実行に移しているだけかもしれない。だから曲を作るときは、まずインストゥルメンタルから入って、そこから思いついた言葉を呟いていくんだ。できるだけ余計なことは考えず、自分が心地よいと感じるメロディやフロウを歌っていく。それがラップのようなリズムを刻む方向に流れるときもあれば、シンガーソングライター的な歌い方になるときもあって、たまたまその二つがいい具合に交わったら、それはそれで両方とも残すようにしている。
たとえば「GODSTAINED」という曲は、最初はすごくフォーキーなんだけど、後半は「ダダダダダダ」と畳み掛けるような、まったく別のものに変貌していくよね。それだって、単純にそっちのほうが楽しそうだからという理由でそうなっただけ。そもそも僕の中にジャンルという発想はなくて、もし意識していることがあるとすれば、「このパートを入れることで、曲がレベルアップするか?」ということだけだね。
日常を超えた「意識の深淵」を旅する
―『Vanisher,~』の中で特に印象的な楽曲が「FORGONE」でした。「Sisyphus」や「Born Yesterday」といった初期の楽曲における、複数のレイヤーが折り重なったような飽和感を引き継ぎつつ、より音響的にリッチな生演奏に置き換えたサウンドが凄まじいなと。
ベン:そこは完全に素っていうか、ピアノを弾いていたら、普通にあのコードが浮かんできて。なんか賛美歌っぽいというか、キリスト教の曲とか、クリスマスソングみたいだなって……当初は周りから「え、なんでそっちの方向に行くの?」みたいに若干引かれたんだけど(笑)、ちょうどアルバム制作の途中で、むしろその方向に寄せていきたくなって。海と航海にまつわる賛美歌みたいなイメージ。だから最初は、ピアノと歌だけのバラードから始まって、そこに肉付けしていったんだ。
―いつもアルバムと一緒に、同尺の映像を必ず発表していますよね。音楽だけではなく映像作品としての側面もかなり重視しているように思います。
ベン:そうだね。風変わりなアルバムを作っているときほどビジュアルが鮮明に思い浮かぶパターンが多くて……そのイメージを他の人にも共有できたら、もっと曲の世界観を楽しんでもらえるんじゃないかと思って、ほとんどそのためだけに映像を作っているよ。曲を聴いたときに特定の風景が思い浮かんで、そこを旅するような感覚に陥った経験って誰にでもあると思うし、あるいは最初は嫌いな曲でも、映像を通してその曲が本来伝えようとしている世界を見てみたら、すべてが理解できて一気に好きになったりすることもあるし。アルバムの世界観をムービーを通して伝えているのも、その世界の土台を作るためなんだよね。その世界観を実際に見てもらうことで、曲がそれまで以上に意味を持つように。
―『Vanisher,~』を作っているとき、自分の中で思い描いていたイメージがどういうものだったのか改めて教えてもらえますか?
ベン:なんとなく、曇り空の下に広がる海のような景色が見えていたんだ。暗い夜に岩だらけで、荒れ狂う嵐の海……そんな光景がずっと頭の中にあった。だから今回、映像を作るのにはかなり苦労したよ。本来なら七つの海すべてを制覇したかったところだけど、とりあえず身近な港や海岸で撮影するしかなかった(笑)。とにかく、自分の中にあったのは「嵐の海」というイメージだね。
―『Vanisher,~』を含め、これまでの作品は一定のストーリーテリングを前提としたコンセプトアルバムとして制作されてきましたが、今話してもらったイメージとストーリーテリングの関係性について教えてもらえますか。
ベン:というよりも、すべて同時に降りてくるものなんじゃないかな……音楽を作っていると、好きとか嫌いとか関係なく、必ず何かしら「見えてくる」ものなんだよね。それこそ空間というか、世界みたいなものが音と抱き合わせで出てくるというか、本質的に備わっている。たぶん、どんなアーティストも作っている間に何かしらの映像が見えてるんじゃないかな。ただ、実際に全曲に映像をつけたりビジュアルを作ったりするのってものすごく大変だし、ぶっちゃけ、そこまでする必要ないとも思う(笑)。あるいは、自分が見ている世界とは別に、受け手にそれぞれ違った世界を想像してもらうために、あえて映像をつけないという選択肢もある。それもあって、次回作ではたぶん丸ごと映像を付けることはしないと思う。その代わり単体の中身を濃くして、それだけで十分ストーリーを伝えられるようにしたいんだ。
ストーリーテリングってことに関しては、長い時間をかけてアルバム作りに向き合ってると自然と浮かび上がってくるもので……さっきも話したように、これって自分の人生と直結しているものだから……僕の場合は、それが単に創作物っていう特殊な形でアウトプットされているだけで。そこから最後に振り返ったときに「ああ、そういうことだったのか」って、自分の人生を理解するという……生きるってそういうことじゃないかな。自分の人生を生きて、しかもアートを作っていたら、自分自身について語ることは不可避なわけで、どうしたって作品の中に自分が映し出されてしまう。ただ『Vanisher,~』に関しては、あえて自分の人生から距離を置いた視点から語っていて……すごく特殊な伝え方をしているよね。今になって振り返ると、その距離感が好きじゃないと思うときもあるけど、当時の自分にとっては必要なプロセスであり、あのアルバムが果たすべき役割があったわけだよね。それに対して、今作ってるものは何て言うか、もっと直接的なものになっている。
―『Vanisher,~』の中で描きたかったフィーリングやムードはどういうものだったんですか?
ベン:曲ごとに違うんだけど、何もかも包み込むような感じというか……自分の思い描いていたイメージに一番近いというか、このアルバムの核だなって思える曲は 「NO QUESTIONS ASKED」 「WAGING WAR」 「MONDAY」「NATURAL CAUSES」あたりだね。 壮大で、広大な海に囲まれているような映像が思い浮かぶというか……暗く荒れ狂う海辺に立ち、冷たい空気に肌を刺されたときの、シャキッと身が引き締まるような感じ。その感覚を求めていくうち、音も自然とそっちの方向へ寄っていったんだ。
Photo by Cameron McIntyre
―特に『Vanisher,~』は顕著ですが、Quadecaの音楽は前情報なしに聴くと、カリフォルニアで生まれたものだとは到底思えなさそうな気がします。地域性が希薄というか、もっとパーソナルな部分から生まれた音楽に聴こえるんですよね。
ベン:ありがとう、すごく嬉しいよ! まさにそこを目指しているからね。もちろん、大半はLAでレコーディングしているけど、スタジオに一歩足を踏み入れた瞬間、そこはもうLAではなくなるんだ。自分が思い描いてる音像は「LAらしいもの」ではないから、土地の空気感を曲に入り込ませないよう意図的に切り離している。
現在制作中のアルバムでも、レコーディングの場所を転々としていて。ワシントン州の森の中とか、ユタ州だったり、ヨーロッパ・ツアーの後にアイルランドの田舎に滞在したりもしてきた。昔からそんなふうに音楽を作ってきたし、このやり方が自分に合っていると思う。
とはいえ、生まれ育った場所から何かしらの影響を受けているのも否めないね。僕はLAと言っても、北カリフォルニアのベイエリアで育ってきて、そこは今でも地元だし、思春期から大人になるまでを過ごした場所として深い愛着がある。でも一方で、僕は旅をするのが大好きで、「自分一人で音楽を作っている限り、どこへだって行ける」という感覚がデフォルトになっている。まあ、そう遠くないうちにLAを離れる予感はしているよ。もっと自然に囲まれた田舎のほうが、より良い音楽を作れそうな気がするんだ。
要するに、いつだって自分に正直でありたいし、自分の音楽にしっくりくる場所を探し求めている。僕の音楽は、今の自分がいる地点よりも、もっと先の方を見据えているというか。未来の自分の視点に近いのかもしれない。だからこそ、今の自分に最もフィットする感覚が得られそうな場所を見つけ出して、そこで作品を作っていけたらと思っているよ。
―今のお話と関連した質問で、例えば『I Didn't Mean To Haunt You』で「幽霊」、『Vanisher,~』で「海へ消えた失踪者」をテーマに扱っているのは、馴染みのある場所から離れ、「不確かな存在のあり方」に関心が向いているようにも見受けられます。
ベン:そうだね。「場所」よりも「感覚」のほうが自分にとっては重要なんだと思う。その2作を作っている間は、ひたすら自分の内側へと潜り込んで、自分という存在の根源に近づいていくような……目の前にある現実を一瞬で超越して、より真実に近いものを探求するような感覚に近かった。どちらのアルバムも、自分が「生きている」という感覚を、少しシュールな視点から捉え直そうとしているような気がする。例えば、車を運転しているんだけど、意識は「今、ここ」ではなく、これまでの道のりを振り返ったり、あるいはその先を見据えているような感覚。日常を超えた先にある、意識の深淵を旅するような感じというか。自分という個人に留まらない巨大な何か……それこそ死後の世界や海のような、途方もないものと向き合うというか……うまく説明できているかわからないけど。
日本からの熱い支持、驚きと感謝を
―当初の発表から様々な紆余曲折を経て、『Vanisher,~』はこれまでのレーベル〈deadAir〉からではなく、ご自身が主宰する〈X8 Music〉からのリリースになりました。この辺りの経緯について聞かせてください。
ベン:ただ自分の音楽のためのレーベルを持ちたくて、それと自分が好きなアーティストや知り合いの音楽を出すためのプラットフォームにもしていきたいと思ったんだよね。レーベルを通して自分の世界観をさらに拡大できると思ったから。完全に独立した形でやっていきたくて、それで自分のレーベルからのリリースに至ったんだ。
レーベルを始めようと思ったのは長期的なビジョンを見据えてのことで、自分のやりたいことを実現したり、自分の作品以外にも、自分が最高だと思うアーティストたちの作品も含めたディスコグラフィーみたいなものを形成していきたいという思いから。ちょうど『Vanisher,~』を出すときがいい頃合いだと思ったんだよね。リリースまで時間をかけて細かいディテールや断片を小出しにしていくような展開だったから、レーベルを開始するチャンスだと思って。今年はOlēkaってアーティストのアルバムもリリースする予定で、それもすごく良くて今から興奮している。こういうのって共生みたいなもので、例えば自分のアルバムが出てうまくいけば、自分が信じている他のアーティストの作品も後押しできるし、彼らの作品がうまくいけば、それがまたレーベル全体の発展にも繋がる。自分の世界に他人を招き入れることでもあり、同時にその逆のことも起きうる。その相乗効果を狙ってるんだ。
―このインタビューでもすでに何度も言及していますが、噂されている新作『life1』について、現段階で言えることがあれば教えてください。
ベン:とりあえず、自分がこれまで作ってきたものとはまったく違う作品になりそうだね。これまでで一番ダイレクトかつ奇妙な内容になりそうで、今からどうなるか楽しみだよ(笑)。僕の場合、いつも今作っている作品がベストだと思うけど、今回はリリースするまで詳細を秘密にしておきたいんだよね。作品と自分との間に密な関係を築くために、必要なスペースを確保しておきたいんだ。常に情報をアップデートして、みんなと共有しなきゃっていう焦りを入り込ませることなく、作品づくりそのものに集中したいから。とはいえ、これまでの作品の中で最も核心に触れているアルバムで、一番正直かつ自由な自分を表現したアルバムになるってことだけは断言できる。
―リリースはいつ頃を予定していますか?
ベン:それは言えないけど(笑)、今年中であることは間違いないね。
本インタビュー実施後に発表された新曲「Baby Steps」「Dark Magic」
―遠く海を隔てた日本で、『Vanisher,~』が思わぬ反響を呼んでいることに驚くようなSNSでの投稿がありました。どういうふうにそれを知ったんですか?
ベン:普通にSNSを通じて。日本の音楽アカウントからのメッセージとかタグ付けが他の地域よりぶっちぎりで多くて。もちろん、アメリカやUKからの反応は以前からあったけど、今回のアルバムはやたらと日本で盛り上がってるみたいで、「何これ、めっちゃ面白いことになってる!」と思って。
だから、まずは本当にありがとう! フジロックへの出演が決まって、僕自身も最高にテンションが上がっているよ。日本のファンからはいつも嬉しい声をもらっていて、本当に愛されているなと実感しているんだ。絶対に楽しいライブになるから、ぜひ会場で会おう!
―去年の北米やヨーロッパ・ツアーの様子を動画で拝見して、バンドセットによるパフォーマンスが印象的でした。フジロックでのライブについて具体的な構想を教えてください。
ベン:とりあえずフルバンドで出演するつもりなのと……日本のリスナーは音楽的に面白いかどうかをきちんと評価してくれる印象で。『Vanisher,~』ってジャジーなコードやフルートとか野心的な構成が多いし、日本のリスナーからいちばん反応が大きかったのもその辺の楽曲だったんだよね。だから今回は、セットリストも思いきり攻めようと思っている。この夏、何本かフェスに出るんだけど、フジロックのステージは間違いなく音楽的に一番エキサイティングで充実した内容になると思う。ポップ寄りの選曲を控えめにして、超クールなセットを組む方向で進めているよ。
―それは楽しみです。フジロックの出演アクトで興味を惹かれる人はいますか?
ベン:とりあえずマッシヴ・アタックはマストだよね。父親が好きで子どもの頃から聴いていたけど、最近になって本格的に聴き返してみたら、ことごとく名盤揃いだね! あとはBADBADNOTGOODもぜひ観てみたいし、HYUKOHもいいよね。
―最後に、フジロックに向けた意気込みを聞かせてください。
ベン:ウチのバンドメンバーもみんな、今年出るフェスの中でフジロックが一番楽しみだと言ってるよ。5日くらい前倒しで日本に行くつもりで計画中だね。フジロックって、東京よりもずっと離れた山の方でやるんでしょ? 日本の都会でなく郊外に行けるのも楽しそうだなって。きっと特別な体験になるんじゃないかなあ。日本にもポータブルの制作用機材を持っていくと思う。今、UADのインターフェースとギターとマイクを持ち歩いて新作の制作を進めている最中で、日本でも現地でのインスピレーションを反映させながら曲作りができたらと思っている。いつも好きな土地ごとに1曲作るようにしているから、日本でも1曲作れたらいいなって。
―新作からの曲も披露する予定ですか?
ベン:うーん、どうだろう(笑)。言っちゃっていいものか。とりあえず、まだ誰も聴いたことのないサウンドをお届けする予定とだけ言っておこうかな。
Photo by Cameron McIntyre
FUJI ROCK FESTIVAL '26
2026年7月24日(金)~26日(日)新潟・苗場スキー場
※Quadecaは7月25日(土)出演
公式サイト:https://fujirockfestival.com/


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