ところで、すでに見てきたように、NTTコムは「ICT」という言葉で、多くのSIerほかITベンダーが推進するソリューションとの差別化を図っている。
「キャリアである以上、理念として??つなぐ”というアクションへの視点をベースに置いているのです」と石本氏。
報道によれば、08年4月に発表された英テレマーク社によるグローバル・キャリア8社を対象とした顧客満足度調査で、NTTコムは堂々、総合第1位の座に輝いている。「グローバルなICTソリューションを提供できるカンパニーを目指す」というNTTコムが掲げる事業目標は半ば達成したといってよい。今後は、こうした世界的な評価やスケールメリット、豊富な実績ほどには高くない中国での知名度をいかに高めていくか、キャリアとしての優位性を生かしてプレゼンスを発揮し、日本企業以外の市場に食い込んでいくかが事業テーマとなってくるのではないだろうか。(もっとも、知名度不足はあくまで中国のコンシューマー領域に限ったことであるが。)NTTコム(中国)の強みとして、チャイナテレコム、チャイナユニコムといった中国二大キャリアとの緊密なパートナーシップがある。さらには、台湾地区、韓国、アメリカのキャリアとの間で「TransPacificExpress(TPE)」というプロジェクトを進め、信頼性の高い国際ネットワークの構築とシームレスなICT基盤づくりに挑んでいるのが昨今の情況だ。
国際的な通信インフラを土台として、NTTコム(中国)が基幹事業の一つとして位置づけているのが、高い信頼性と品質を備えたデータセンタサービスである。「オフィスがどこへ移っても対応が可能な情報システムの維持管理を、コンパクトでスリムな形で構築できるように提案しています」(石本氏)。
今年はじめ、中国電信上海公司による次世代のデータセンタ開設に、コンセプト策定から設計、構築にいたるまで関わった。上海の南匯区に設けた「上海・園区データセンタ」である。このほか、非キャリア系データセンタの「プレミアムデータセンタ」でもお客様の大切なシステムを預かり、高いセキュリティレベルで運用サービスを提供している。
「たとえば一般のインターネット回線を業務基盤としていた某クライアントは、通信速度の遅延に悩んでいました。そこで弊社はデータセンタによる国内の情報処理集約を提案、さらに日中間を専用のIP-VPNで接続することで通信の高速化を試みました。さらに、各種サーバーをデータセンタに統合したことで回線集約によるコストダウン、監視・保守の一元化によるセキュリティ性の向上といった副産物も得られました。
なお、このデータセンタ事業において弊社が今後中国でプレゼンスを発揮していくうえで、「グリーンIT」といった社会貢献への提案も重要になっていくと思います。多くの機器を利用されているお客様に対して「節電」「省スペース」を促し、環境に配慮した体制を構築するようにご提案していきます」(石本氏)。
「東アジア」をつなぐソリューション
確かな技術力に支えられたNTTコム(中国)の高品質なソリューション。これをバックアップするのが日本で先端技術の開発を進めるNTT研究所である。次々に研究成果を見せる最新技術には、NTTコム(中国)の事業領域に新たな可能性を開こうとしている。
たとえば、レッドタクトンという固体認識をセキュリティに生かした研究成果がある。身体の表面を伝送路として利用し、無線でも有線でもない新しい通信技術がいま脚光を浴びている。オフィスのゲートの手前にある踏み板を踏むだけ、あるいはドアのノブに触れるだけで認証・開錠の制御が可能となる画期的なものだ。「このような研究開発技術にもし関心を持つ企業があれば、一緒に実用化への用途を考えていきたいです」(石本氏)
こうした先端技術の助けも得ながら、業容は拡充を続け、徐々にではあるが欧米系企業の顧客取り込みにも手ごたえが得られるようになっている。
多言語に長けたスタッフの確保は、アウトソーシングビジネスの充実にもつながる。大連の支社ではデータエントリーや日本のネットワーク設計業務の一部を請け負うなど、NTTグループ自身のコストダウンのニーズにも対応しているという。
「大切にしたいのは顧客の目線です。一つの企業の悩みは多くの企業に共通しているはずです。お悩み事例、カイゼン事例のデータベースを活用して取り組んでいきます」(石本氏)。
石本氏の肩書きには総経理・中国総代表のほかに、大陸、台湾・香港地区、韓国も包括した「東アジア」代表という顔がある。グレーターチャイナ+韓国、いわば「東アジア」全体を結びつけ、ボーダレスなICTソリューションを実践していこうというNTTコムの決意の表れでもあるといえよう。
「お客様から支えられ、成長していく会社を私たちは目指しています。お客様の利用シーンや技術的な条件を十分に考慮に入れつつ、今後もより充実したソリューションを提供していきます」(石本氏)。かつてインドやシンガポールにも駐在、出張で出向いた国・地域は40を超えるという石本氏。
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石本孝典
NTTコミュニケーションズ(中国)総経理・中国総代表。広島県出身。1976年に無線系エンジニアとして電電公社に入社。開発担当、人事育成、資材調達などの業務に従事する。NTT設立後、1993年から95年にかけてインド、1996年から1999年にシンガポールに駐在。その後、7年間の日本法人営業部門にて各法人顧客のグローバル事業構築のサポートを行う。この間、出張に出向いた国・地域は40数カ国にのぼる。
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