中国・北京の故宮博物院で展示品の盗難事件など失態が続くなか、中国紙、北京晩報は「台北の故宮では45年間盗難ゼロ」と設立以来盗難事件のないことを紹介した。台湾の「国立故宮博物院」では6月から、台湾と中国に分かれた水墨画の傑作「富春山居図」が初めて合同展示されるが、「北京の故宮で起きた盗難事件は台北の故宮の文化財の『里帰り』に深刻な影響を及ぼした」と指摘する。


 北京の故宮博物院で展示中だった香港の博物館の収蔵品が盗まれた事件は、発生から3日で容疑者が逮捕され、スピード解決した。しかし「一観光客が出来心で」犯行に及んだことが報じられると、故宮側のずさんな警備や管理体制にかえって不信感が広がった。

 中国紙によると、中華人民共和国の建国以来、北京の故宮博物院では公安当局に記録があるだけでも5回の盗難事件が起きているという。もっとも、中国の歴代王朝が受け継いできた国宝級の文化財のえりすぐりは、中華民国政府が日中戦争や国共内戦の戦禍を避けて移送したため、今は台湾・台北の「国立故宮博物院」にある。中国の夕刊紙、北京晩報は15日、「台北の故宮では45年間盗難ゼロ」という見出しの記事を掲載し、設立以来一度も盗難がないことを紹介した。

 もとは宮殿(紫禁城)だった北京の故宮とは違い、台北の故宮は初めから文化財の展示、収蔵のために設計された現代建築の博物館であり、防犯設備が整っていることも一因としている。文物はすべて防爆ガラスで覆われており、ガラス破壊検知装置や赤外線監視システムが導入されているほか、150人以上の警備員と警察官、警察犬が巡回している。今年3月に停電で一時セキュリティシステムが停止するトラブルがあったが、大事には至らなかった――と紹介した。

 台北の故宮博物院では6月2日から、同院と中国の浙江省博物館に分かれて収蔵されている元代の水墨画の逸品「富春山居図」を約360年ぶりに合同展示する特別展が始まる。この作品は温家宝首相が「いつか1つになってほしい」と中台関係に例えたことで注目を集め、中国側は中国での合同展示も希望している。

 だが北京晩報は、「今回北京の故宮で起きた盗難事件は、『富春山居図』の中国での合同展示に深刻な影響を及ぼした」と指摘する。そうでなくとも、台湾側が「大陸(中国)に文化財を貸し出したら戻ってこない」と心配しているため、台北の故宮の文化財が北京に「里帰り」するのは難しいという。


 台湾の故宮は、「海外」に貸し出し展示するさい、「司法による差し押さえの禁止」の立法化を条件にしている。貸し出した文化財を必ず返してもらうという法的保障のためだが、中国側はこれは「両岸関係」を「国際関係」化することになり、「1つの中国」の原則に反するとして応じていない。もう1つの障害は、台北の故宮の呼称問題だ。台湾側は「国立」の二文字を入れることを条件としているが、これも折り合いがつかないという。(編集担当:阪本佳代)

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