中国政府は6日までに、9月の第3週を「第16回全国普通話推進週間」とすることを明らかにした。「普通話(プートンホワ)」とは北京などの北方方言を土台にした中国語の「標準語」を指す。
中国政府・教育部は「推進週間」の発表にあたって、「わが国では4億人以上が、普通話での意思疎通が出来ない」と、長年の努力にも関わらず、国民全体が自然な会話をできない実態を認めた。

 教育部によると、海南省三亜市で11日に「第16回全国普通話推進週間」の開幕式を行い、17日には湖北省政府などが恩施トゥチャ族ミャオ族自治州で同週間の重点活動を実施する。

 「推進週間」の実施発表にあたり、教育部は「わが国で普通話で意思疎通出来る人は人口70%しかおらず、しかも大部分はそのレベルが高くない。そして4億人は普通話での意思疎通ができない」と表明した。特に農村地域や辺境地帯、少数民族地帯では普通話の普及に力を入れる必要があるとの考えだ。

 「普通話」は国民全体の自然な意思疎通を可能にし、共産党・政府の意思の伝達を容易にするなど、「国民国家」の建設にとって大きな意味を持つ。中国政府は1960年代から70年代にかけての文化大革命による混乱期を除き、「普通話」の普及に大いに努力してきたが、国民のかなりの部分に依然として「言葉の壁」の存在することが改めて浮き彫りになった。

 中国の地方では、地元の言葉を使った放送なども行われているが、「普通話」を広める運動は反発を招く場合がある。広東省広州市では2010年、「広東語が禁止される」とのうわさが発生し、反発する住民が街頭で抗議集会を行ったところ、警察が出動して集会参加者の一部の身柄を拘束した。

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◆解説◆

 「普通話」とは、「普遍的に通じる言葉」を意味する。中華人民共和国が制定と普及に着手したのは1955年。それまでにも、清朝時代には官僚などの「共通語」としての「北京官話」があり、「普通話」は北京などの北方方言や「北京官話」を土台に作られた。


 北京方言と「普通話」は近い関係にあるが同一ではなく、例えば北京方言では、単語の語尾にR音を組み込むことが極めて多いなどで、「普通話」をかなりしっかりと学んでいても、北京の人の話す言葉は聞きとれない場合がある。

 中国では方言差が大きく、例えば「広東語」しか話せない人と「普通話」を使う人では、意思疎通がほとんど出来ない。そのため、学術的には「中国語という1つの言語」は存在せず、近い関係にある複数の言語の集合を「中国語」と呼んでいるとの意見が一般的だ。

 中国大陸ではさらに、識字率の向上を目指して簡略化された「簡体字」が用いられている。「普通話」と「簡体字」の使用は法律でも定められており、違反があった場合には当局が強制力をもって改善を命じる場合がある。

 台湾では、「北京官話」を母体にした言語を「国語(グオユー)」と呼んで公用語としている。台湾の「国語」と大陸の「普通話」は意思疎通が十分に可能だが、発音や語彙(ごい)などで違いもある。また、台湾では漢字も、伝統的な字体が用いられている。伝統的な字体は中国大陸では「繁体字」、台湾では「正字」などと呼ばれている。

 台湾の「国語」と大陸の「普通話」は完全に同一ではないため、外国企業が大陸外向けに作成したパンフレットなどの文面の文字だけを「簡体字」に改めて使用したところ、語彙の違いを理由に当局により「使用不可」とされた事例もあったという。(編集担当:如月隼人)
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