◼️試合前のノックがスタート

前回に続き、ヤクルトの二軍球場、戸田球場での楽天戦にお邪魔した時のお話を。

球場に着いたあと、周囲や観客席などを散策しているうちに、グラウンドではノックが始まりました。

五月晴れの爽やかな空に、打球音と選手たちの声が心地よく響きます。私は寝不足でしたが、それにも関わらずここ最近で一番体調がよかったのは、きっと戸田の空気を存分に堪能しているから?

遠くに見えたのは、昨季から燕の救世主として存在感を放ち続ける西川遥輝選手。その日は西川選手をはじめ、赤羽由紘選手・松本直樹選手と、一軍に出場登録されている選手たちの姿もありました(取材日時点)。

その3選手は試合後、夜に神宮球場で試合を行なう一軍のチームに合流。いわゆる"親子ゲーム"です。戸田と神宮は位置的に移動が難しくないですから、こういうシーンがよく見られます。ハードなスケジュールではありますが、打席に立つ回数を増やし、実戦の中で調子を上げる目的があり、おかげで豪華なメンバー構成となりました。

山本は「三度の飯よりノック好き」なので、少し席から離れ、別の角度からも堪能してみることに。客席から階段を降りてベンチの裏を通り、ちょうど一塁ベースのあたりに行くと、目の前にはファーストの位置でノックを受ける川端慎吾選手の姿がありました。

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フェンス越しの川端選手(中央)。

神宮でも試合前の練習を見ることはできますが、あんなに近い距離で、グラウンドレベルでノックを見学できる機会はありません。体の大きさ、ハンドリングや送球のスピードなど、プロの迫力を体感できる貴重な場所なのです。

ただ、ここで立ち止まってしまうと他のお客さんの迷惑になりますので、移動の際に目に焼きつけてください(写真は許可をいただいて撮影しております)。

■若手選手のユニを着たファンがたくさん

試合開始30分前になりました。ネット裏をはじめ、内野席はほぼ埋まっています。一塁ベンチの前で組まれる円陣。中心には、声出しを託された武岡龍世選手。その日は5月28日で、武岡選手の24歳のお誕生日でした。

山本、ヤクルト二軍球場"戸田"に行く 後編【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第170回
試合前の円陣の様子。

試合前の円陣の様子。

山本、ヤクルト二軍球場"戸田"に行く 後編【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第170回
試合のメンバー表です。

試合のメンバー表です。

そんな武岡選手は、「7番・遊撃手」でスタメン出場。先発は松山での初勝利以来の再会となった松本健吾投手です。気温も上昇し、定期的な水分補給を促すアナウンスが流れます。日焼け止めも塗り直さねば。

客席には、選手のレプリカユニフォームを身に纏う熱心なお客さんがたくさんいます。骨折からのリハビリ中で、戸田でのトレーニングを重ねる丸山和耶選、注目のルーキーであるモイセエフ・ニキータ選手などのユニも。

私も川端選手のユニフォームを持参しました。大好きな選手の会話や、息遣いまで聞こえてきそうな距離で野球を堪能できる戸田球場は、ファンにとって特別で贅沢な空間なのです。

山本、ヤクルト二軍球場"戸田"に行く 後編【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第170回
丸山選手(左)、モイセエフ・ニキータ選手(右)のユニフォームを着たファンも。

丸山選手(左)、モイセエフ・ニキータ選手(右)のユニフォームを着たファンも。

山本、ヤクルト二軍球場"戸田"に行く 後編【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第170回
私は川端選手のユニフォームを持っていきました!

私は川端選手のユニフォームを持っていきました!

◼️プレイボール

メンバー表交換も終わり、いよいよプレイボールです。

池山隆寛二軍監督の姿にまた胸が高鳴ります。伊藤智仁コーチ、西浦直亨コーチ、山崎晃大朗コーチ、そして由規コーチ。往年の名選手はもちろん、ついこの間まで現役でプレーしていた選手たちのコーチ姿が見られるのもうれしいですよね。青木宣親GM補佐も、よく戸田に足を運んでいるとか。

山本、ヤクルト二軍球場"戸田"に行く 後編【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第170回
メンバー表を交換する、楽天の渡辺直人2軍監督(左)とヤクルトの池山2軍監督(右)。

メンバー表を交換する、楽天の渡辺直人2軍監督(左)とヤクルトの池山2軍監督(右)。

試合は序盤からスワローズの打棒爆発。

初回から赤羽選手・西川選手・松本選手の"一軍組"の連打で先制し、2回には一挙5得点。2022年のドラフト2位・西村瑠伊斗選手は強い打球をセンターから右方向に飛ばし、育成出身の橋本星哉選手も打席の中で徐々にタイミングを合わせ、しっかり振り抜いてタイムリースリーベースを放ちました。

川端選手が打席に入ると、拍手もひときわ大きくなり、お客さんがカメラを構えます。燕のプリンスは健在ですね。上体をそらせるルーティーンを、至近距離から見られてうれしい。登場曲や応援歌が流れない戸田の観客たちが、川端選手の打席に集中します。

山本、ヤクルト二軍球場"戸田"に行く 後編【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第170回
川端選手の上体そらしもじっくり見られます。

川端選手の上体そらしもじっくり見られます。

そして、試合と同じくらい目が離せないのは、西川選手の試合中の動向でした。その日は指名打者での出場でしたが、試合中は常にベンチ前に浅く腰掛けていて、若手選手たちはかわるがわる西川選手のもとへ向かいます。どうやら身振り手振りを加えて、スイングの軌道について話しているようでした。惜しみなく経験や技術を伝えるその姿に、あらめてヤクルトに与える影響の大きさを感じますね。

■劇的サヨナラに歓喜

戸田は試合中も選手の声がよく響きます。

ヤクルトの育成選手で、23歳の澤野聖悠選手が途中出場で打席に入ると、ヤクルトベンチからは「自信持って!」の声が。

対する楽天のショートを守るのは、2年目のワォーターズ璃海ジュミル選手。プレーの随所に身体能力の高さが感じられて魅力的な選手ですが、まだ19歳と"若さ"も感じます。守備中には、楽天ベンチから「慌てんなよ!」。チームの未来を担う若手にかける言葉にも、ファームらしさが垣間見えますね。

そして本日の主役、バースデー・ボーイの武岡選手。客席では多くのタオルが掲げられています。第1打席は追い込まれながらも、外角のボールをうまく拾ってセンター方向に運びました。

山本、ヤクルト二軍球場"戸田"に行く 後編【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第170回
この日に24歳のお誕生日を迎えた、武岡選手のタオルを持ってきていたファンが多数。

この日に24歳のお誕生日を迎えた、武岡選手のタオルを持ってきていたファンが多数。

山本、ヤクルト二軍球場"戸田"に行く 後編【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第170回
柵にくくりつけたり、自ら掲げたりとさまざまです。

柵にくくりつけたり、自ら掲げたりとさまざまです。

8対8の同点で迎えた9回裏には、二死満塁でバッターボックスへ。そしてカウント1-1からの3球目をライトへ鋭く引っ張り、爽快なサヨナラ打で試合を決めました。

山本、ヤクルト二軍球場"戸田"に行く 後編【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第170回
武岡選手がサヨナラヒット! 約一週間後には、神宮球場で劇的なサヨナラ本塁打を放つことに!

武岡選手がサヨナラヒット! 約一週間後には、神宮球場で劇的なサヨナラ本塁打を放つことに!

■野球だけに集中できる環境

神宮との大きな違いは、お客さんがより穏やかに、静かに野球と向き合う様子にあるかもしれません。賑やかな演出や派手な応援、ビールやスタジアムグルメがない空間で、ただプレーを見つめ、そのひとつひとつに拍手を送る。それだけに、4人目で登板した山本大貴投手がピンチを招いた時、最前列に座っていた年配の男性が送った「山本、踏ん張れ!」という大きな声援が印象的でした

ちなみに回を追うごとに、球場の横にある荒川の土手で観戦するギャラリーも増えていきました。自転車にまたがりながらグラウンドを見下ろす通りがかりの人や、レジャーシートを広げてお弁当を食べる人も。こういう楽しみ方もファームらしいなと思いました。

山本、ヤクルト二軍球場"戸田"に行く 後編【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第170回
戸田球場の外野席からは、荒川の河川敷が一望できます。

戸田球場の外野席からは、荒川の河川敷が一望できます。

◼️戸田の観客席紹介

戸田には、大きく分けて4種類の席があります。今回、私が座ったネット裏の2階席に加えて、ネット裏1階席が1塁側と3塁側にそれぞれあり、外野はライト側のみ開放されています。その中でも特徴的なのが、1塁側にあるブルペン席でしょう。

戸田も神宮と同様に、ブルペンがグラウンド内に設置されています。神宮も客席からブルペンの近さを堪能できる球場ではありますが、戸田はもっと体験型。客席がグラウンドレベルに近いこともあり、文字通り「目の前」で投球練習を見ることができてしまいます。

この席に座ったお客さんの視線は、試合と投球練習を行ったり来たり。まるでランナーを2塁に背負った投手さながらでした。

山本、ヤクルト二軍球場"戸田"に行く 後編【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第170回
ブルペンで投げ込む石原勇輝投手。

ブルペンで投げ込む石原勇輝投手。

山本、ヤクルト二軍球場"戸田"に行く 後編【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第170回
受けるキャッチャーのミットの音もダイレクトに聞こえます。

受けるキャッチャーのミットの音もダイレクトに聞こえます。

一塁ベース付近のエリアには、車イス席もあります。ちなみに、どの席も800円~1,300円(平日価格)と、かなり良心的な価格設定です。この日は平日ながら200人を超えるお客さんが足を運んでいたようですが、もちろん戸田のチケット代だけでこの立派な二軍施設の運営費が賄えるわけではありません。

つまり、チーム全体の収益から、ファームの運営費が捻出されているということ。一軍の応援も、チーム力に直結するということです。戸田に来るとそれを実感できますね。これからも、たくさん応援しようと心に決めて球場を後にしました。

◼️試合後の1杯

山本、ヤクルト二軍球場"戸田"に行く 後編【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第170回
戸田遠征の最後に1杯! 最高の瞬間です!

戸田遠征の最後に1杯! 最高の瞬間です!

さて、山本としては、試合が終わってから駅前の居酒屋に入るまでが戸田遠征です。心地よい風が吹いていたとはいえ、快晴の戸田は暑いですから、冷えた生ビールが全身に沁みわたります。

移動を含めると、丸一日を費やした戸田遠征もそろそろおしまいです。河川敷の景色や、ゆったりと流れる時間。選手との距離感など、二軍球場には独特の魅力がありますよね。

戸田はまもなく役目を終え、茨城県守谷市の新球場へと移転しますが、今回の観戦で、戸田には戸田の魅力があることを再認識しました。

移転前にたくさん足を運ぼう。だって、戸田のあとのビールは格別ですから!

構成・撮影/キンマサタカ

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