大谷は打者として打率.281、49本塁打、93打点、投手としては防御率3.75、1勝1敗とMVPの有力候補に挙がるが......
2年連続で世界一を狙うロサンゼルス・ドジャースがシーズン終盤にきて迷走している。9月2日(現地時間。
7月3日の時点では56勝32敗と順風満帆に見えたが、それ以降は28勝34敗(9月16日終了時点。以下同)。これだけ停滞が長引けば一時的なスランプとは言えず、連覇に黄信号がともっていると思われても仕方がない。下位チーム相手の連敗中、デイブ・ロバーツ監督も憔悴したような表情でこう述べた。
「みんな不満を抱いているし、イラ立っているし、なんとかしたいと思っている。満足している選手はいない。ワールドシリーズで優勝するには、改善しなきゃいけない部分がまだまだあるってことはみんな理解している」
チームの〝看板〟である大谷翔平こそ、今季もMVP最有力候補になる活躍を続けているが、ほかの野手は故障者が目立ってきた。また、ムーキー・ベッツ、テオスカー・ヘルナンデス、トミー・エドマンといった多くの主力打者は前年比で成績を落としている。
投手陣ではブルペンに疲れが目立つ。中でも、新加入のタナー・スコットが9月5~12日の1週間で3度もサヨナラ打を許すなど大誤算。
ただ、それでもロバーツ監督は「これから先に最高のベースボールができると信じている。私たちはもっといいプレーができるはずなんだ」と述べている。そして実際に、希望はあるように見える。一年で最も大事なシーズン終盤&プレーオフの時期に向け、3つの要素がいい方向に向かっているからだ。
まずは、先発投手陣が整ってきたこと。エースの山本由伸は9月6日、12日の2度の登板でどちらも被安打1のピッチングを見せるなど絶好調。さらにシーズン中盤から大谷、ブレーク・スネル、タイラー・グラスノー、クレイトン・カーショーといった実績ある先発投手たちが次々と復帰し、総じて好投している。
加えて、マイナーで右肩痛のリハビリを続ける佐々木朗希が、同9日の登板で100マイル(約161キロ)以上の速球を連発したといううれしいニュースも届いている。
9月上旬に大谷が「苦しいときにそれぞれがカバーしていければ、長いシーズンをみんなで乗り切れると思う。(シーズン終了まで)1ヵ月を切っていますけど、みんな健康で戦い抜くことが大事だと思います」と語ったとおり、先発陣全体が本来の力を取り戻すというシナリオが現実のものになりつつあるのだ。
プレーオフで必要な先発投手は多くても4人なため、エメ・シーハンも含めた実力派ぞろいの先発ローテーションから、何人かを懸案のブルペンに回すこともできる。
また、「リリーフ登板したら、以降はDHでの打席に立てなくなる」という現在のルールでは簡単ではないが、23年のWBC決勝と同じように、ゲームによっては大谷にクローザーを任せるというドリームプランも浮上している。
総合的に見て、この先発投手陣こそが今季のドジャースの最大の強み。ロバーツ監督や首脳陣が上手に使いこなせば、短期決戦で相手打線を恐れさせる武器になりそうだ。
打線では、核となるベッツが調子を上げているのも大きい。7月は打率.205、2本塁打と信じられない不調に陥ったが、9月は14試合を消化した時点で打率.390、5本塁打、OPS1・161と復調。9月10日のロッキーズ戦では5打点を挙げるなど、明るい笑顔も戻ってきた。
大谷、フレディ・フリーマン、ウィル・スミスらの打撃は安定しているだけに、ベッツがこのままベッツらしさを取り戻せば打線の層は厚くなる。選球眼が良く、相手投手に多くの球数を投げさせるマックス・マンシーが故障者リストから帰還したのも心強い。陣容が整えば、各チームの投手力のレベルが上がるプレーオフでも得点を奪うことは可能なはずだ。
最後に、今季のナ・リーグでは本命不在の戦いが続いていることも忘れてはいけない。なかなかエンジンがかからないのはドジャースだけではないのだ。
ドジャースとの直接対決で6連勝したミルウォーキー・ブルワーズが最高勝率を保っているが、8月19日以降は13勝14敗と勢いが止まった感がある。
シカゴ・カブスはやや波が激しく、多くのスター選手をそろえたニューヨーク・メッツもプレーオフ進出が危ぶまれるなど、プレーオフに向けて万全のチームは見当たらない。そんな中、ケガ人が次々と復帰しているドジャースの現状は決して悪くなく、依然としてリーグ全体から警戒される存在であり続けている。
「なかなか結果が出ないとタフだが、立て直さなきゃいけない。戦い続けて、流れが変わると信じないといけない。誰も同情なんかしてくれない。だから積極的に動き、自分で状況を変えるしかないんだ」
そう意気込むロバーツ監督とドジャースは、緊張感の高まる秋にペースアップできるのか。第1シードだった昨季とは異なり、第3シード以下が濃厚な今季はワイルドカードシリーズからの登場になる可能性大。より厳しい道になることが予想されるが、王者の底力を侮るべきではない。大谷、山本、佐々木の日本人トリオを擁する〝パワーハウス〟の2連覇は不可能ではないはずだ。
取材・文/杉浦大介 写真/アフロ