ひろゆき、土壌学者・藤井一至とひも解く"土の秘密"①「そもそ...の画像はこちら >>

藤井一至氏いわく「定義からいえば、土と岩の違いは『生物活動があるかどうか』です!」

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。今回から土壌学者の藤井一至氏がゲストです。

普段、よく見かける、どこにでもある「土」。皆さんは、土と岩と砂の違いがわかりますか? 土って、簡単に作れると思いますか? 

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ひろゆき(以下、ひろ) 今回から新しいゲストをお迎えします。土壌学者の藤井一至さんです。

藤井一至(以下、藤井) よろしくお願いします。

ひろ 先生が専門にされているのは「土」ですが、正直、普段あまり意識しないですよね。専門家を前にこんなことを言うのは失礼かもしれませんが......。

藤井 いえいえ、大丈夫です。そのとおりですから(笑)。

ひろ 日本って、そこら中に土があるじゃないですか。だから、あまり意識しないのかもしれません。でも、僕が昔住んでいたアメリカのアーカンソー州は、場所によってかなり砂っぽかったですし、今住んでいるパリの周辺も、もともと石灰石が多い土地なんです。日本みたいに放っておいても雑草が生えてくる土地って、実はかなり恵まれてると思うんですよ。

藤井 おお、さすがです。いきなり核心に迫っていますね。同じ〝地面〟に見えても、その場所ごとに性質はまったく違うんです。

ひろ そこで、そもそも論なんですけど、土と岩、砂、地層って、何がどう違うんですか?

藤井 定義からいえば、土と岩の違いは「生物活動があるかどうか」です。そもそも土というのは、岩が砕けてできた砂や粘土に、落ち葉や根っこ、微生物などが関わって少しずつ性質が変わっていくものです。その〝変化している物質〟を、私たちは土と呼んでいます。

ひろ ただ細かく砕けた岩ではないんですね。

藤井 そうです。単なる粉々の岩ではなくて、生き物が関わることで性質が変わり続けている。そこが重要です。

ひろ では、地層とはどう違うんですか?

藤井 地層というのは堆積物で、簡単に言えば「過去を閉じ込めたもの」です。川や海、風で運ばれてきた砂や泥が積もって、長い時間をかけて層になっていく。

そこには恐竜やアンモナイトの化石が入っていたりして、「昔ここに何があったか」という物語が閉じ込められています。

ひろ タイムカプセルみたいなものですね。

藤井 そうですね。一方で土は過去の記録というより、「今まさに生き物と鉱物が関わって変わり続けているもの」です。地層が〝昔の物語〟だとしたら、土は〝現在進行形の現場〟です。

ひろ でも、そうすると境目はかなり曖昧ですよね。例えば、湖や海の底にも生き物はいるじゃないですか。あれは土なのか堆積物なのか。

藤井 そこが難しいところです。実際、境界線はかなり際どい。表面に近い所なら、生き物の影響を強く受けているので土と言えます。でも深い所までいって、生物とのやりとりがほとんどなくなると、もう土とは言いにくくなる。

でも、ゼロではない。

ひろ じゃあ、どこで線を引くんですか?

藤井 土壌学の世界では「ずっと一定以上の水の下にあるものは、土とは呼ばない」「基本は地表から2m以内を対象とする」といったルールを設けています。厳密な自然の境界があるというより、研究や仕事のために線を引いている面が大きいですね。

ひろ つまり、自然界にハッキリ線があるというより、人間が便宜上定義していると。

藤井 そうです。定義がバラバラだと話が通じなくなりますから。

ひろ すると干潟は土ですか?

藤井 はい。干潟は土です。潮が引けば空気にも触れますし、生き物の活動も活発ですから。

ひろ じゃあ、砂浜は?

藤井 意外かもしれませんが、砂浜も立派な土です。土壌学では、粒の大きさが違うだけで、砂も土を構成する重要な要素なんです。しかも砂浜にはカニや微生物がいたり、植物が生えていたりする。

つまり、生物活動がちゃんとある。だから土と考えていいんです。

ひろ 一般人の感覚だと砂と土って別物ですけどね。そうすると砂漠は? なんとなく生物活動がなさそうなイメージがありますけど。

藤井 一般には「砂漠=生物にとって死の世界」というイメージがありますが、実際にはそこまで単純ではありません。乾燥に強い生き物がいたり、短い雨期だけ一斉に花が咲いたりもする。

ひろ 確かにオアシスがあったり、サソリがいたりしますね。

藤井 なので、生物活動が完全にゼロでなければ土として扱える場合もあります。

ひろ ツンドラみたいな永久凍土はどうですか? 

藤井 永久凍土地帯でも夏には表面が少し解けるんです。すると、その短い期間だけ生き物が活動する。植物が芽を出したり、微生物が動いたりする。だから、そういう場所は土として考えられます。

ただ、そうやって生物活動を土の絶対条件にしてしまうと、困る人が出てくるんです。 NASA(アメリカ航空宇宙局)の人たちです。

ひろ NASA!?

藤井 月や火星の表面って、見た目は土じゃないですか。でも生物活動がないから、僕たち土壌学者の定義では「ソイル(土)」とは呼ばず、岩石の上を覆う砕けた物質という意味で「レゴリス」と呼んでいます。ところがNASAの人たちは「ルーナーソイル(月の土)」「マーティアンソイル(火星の土)」と言っちゃうんですよ。

ひろ ソイルというと、土壌学的には「生物がいること」を前提にしてしまいますよね。

藤井 そうなんです。だから最近は、土の定義を少し広げて、生物活動が必須とまでは言わず、元の岩石や堆積物とはっきり区別できるくらい変質していて、粒状で、地表を覆う物質なら土と見なしてもいいのでは、という考え方も出てきています。

ひろ でも、その定義にすると、かなりの堆積物が土になっちゃいますよね。

藤井 そのとおりです。定義を広げると使いやすくなる一方で、今まで守ってきた境界線が崩れてしまいますから。

ひろ 土って一般の人が思っているイメージと、研究者が考えている定義でかなり違うんですね。

藤井 そもそも土壌学は、約150年前にロシアの地質学者がつくったものです。地質や堆積物を研究していたのに、どうしても地表の一番上にある土だけは、地質学だけでは説明しきれない。「これは別のものとして扱うしかない」ということで土壌学が生まれました。

ひろ 思ったより新しい学問なんですね。

藤井 当時の研究者は、ダーウィンの進化論の影響も受けていたといわれています。生き物が進化するように岩も生き物と関わりながらだんだん土へと変わっていく。その変化には独自の物語があるんじゃないかと。生物学と地質学が重なるところに土壌学という新しい分野をつくろうとしたわけです。

ひろ 奥深いっすね。

藤井 それに土といえばもうひとつ面白い話があって、人類の科学力をもってしても、実はゼロから本物の土を作ることはまだできないんですよ。

ひろ え、そうなんですか? めちゃくちゃ気になるので、続きは次回教えてください!

藤井 わかりました。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■藤井一至(Kazumichi FUJII) 
1981年生まれ。土壌学者。福島国際研究教育機構・土壌ホメオスタシス研究ユニット・ユニットリーダー。主な著書に『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)、『土と生命の46億年史』(講談社ブルーバックス)など

構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾

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