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『週プレ』復活シリーズ、JC『キン肉マン』56巻をおぎぬまXがレビュー!!

 完璧・無量大数軍(パーフェクト・ラージナンバーズ)の襲来から始まった「完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)編」も、いよいよクライマックスが近づいてきました...!

前巻から続く"完璧・弐式(パーフェクト・セカンド)"シルバーマンと"完璧・拾式(パーフェクト・テンス)"サイコマンの激闘、そして決戦へと至る展開について語っていきます!

 ●キン肉マン第56巻

 

おぎぬまXのキン肉マンレビュー【第56巻編】~完璧超人始祖編、最終決戦の幕開け!!~

レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5

【ゆでたまご先生の発想と知識が見事に融合!】

前巻のラストでは、サイコマンの完璧・拾式奥義「輪廻転生落とし(グリム・リーインカーネーション)」がなぜか不発に終わりました。シルバーマンの言う「珍しいミス」とは一体なんなのか...今巻では、その種明かしから始まります! 

渾身の必殺技が決まらなかった以上、その理由は技の〝掛け手〟か〝受け手〟のどちらかにあるはずです。一見、「輪廻転生落とし」をもろに被弾したように思えたシルバーマンでしたが、実はダメージを軽減する策を施していたのでしょうか?  

真相は意外なことに、掛け手にありました。

シルバーマンが激突した石のリングには、前の試合でブロッケンJr.が掘った窪みがあったのです。窪みの真下に落下したため、当然ダメージは半減。まるで、プロ棋士が対局中に二歩によって反則負けになるような――達人同士の試合で起きた衝撃的な凡ミスに周囲は騒然となります。 

ですが、これこそがシルバーマンが頑(かたく)なにマグネット・パワーを否定し続けた理由でもありました。マグネット・パワー無双によって、確かに試合の優勢はサイコマンに傾いてましたが、それ故に心が曇り、必殺技の着弾位置を見誤るという初歩的なミスを犯したわけです。さあ、ここからシルバーマンの反撃が始まります...! 

シルバーマンは、マグネット・パワーに頼り切ったファイトスタイルに転向したサイコマンを、「目を開けたまま眠り続けている」と評し、続けて「友達として目を覚まさせてやる」と告げました。その言葉にサイコマンはひどく困惑します。 

なぜなら、シルバーマンは自分のことを「友達」と称したからです。

サイコマンはマグネット・パワーを否定された時よりも激しく取り乱して、シルバーマンに反論します。自分がシルバーマンに抱いている感情は「敬意」であると、それを下等超人が馴れ合いで使う「トモダチ」「ユウジョウ」などといった陳腐な言葉で表現しないでほしい...と。完璧(パーフェクト)超人の世界には「友情」という言葉はありません。たとえ、正義超人の間で最大の敬意として使われる言葉だったとしても、サイコマンにはこの上ない侮辱に感じたのでしょう。

そして、サイコマンは自分が抱く感情と同じものをシルバーマンにも強(し)います。超人を磁力で捉え、思い通りにするマグネット・パワーを象徴するような傲慢で屈折した精神です。

おぎぬまXのキン肉マンレビュー【第56巻編】~完璧超人始祖編、最終決戦の幕開け!!~
互いに高め合う関係性、

互いに高め合う関係性、

ふたりは和解することなく試合が再開。サイコマンは、マグネット・パワーで生み出したサンダーサーベルを乱射し始めます。夢の超人タッグ編から登場したマグネット・パワーですが、その反則的な強さは衰えることを知りません。我らが主人公キン肉マンも、マグネット・パワーには散々苦しめられており、最終的にアポロン・ウィンドウをロックして、マグネット・パワーそのものを封印するという対策しかできませんでした。インフレが激しいバトル漫画において、ここまで過去に登場した能力が猛威を振い続けるのも珍しいですね。 

シルバーマンは、ガードに徹することでサンダーサーベルの乱れ撃ちをなんとか凌ぎますが、するとサイコマンはサンダーサーベルをつなぎ合わせて巨大な雷の槍(やり)を作ります。もはや神話の闘いといいますか、改めて発想が自由すぎます! さすがのシルバーマンも万事休すか...と思いきや、なんと自らロンゲストサンダーアローに突っ込んでいきました。すかさずマグネット・パワーを放ち、相手の自由を奪おうとしたサイコマンでしたが、なぜかシルバーマンの身体を磁波が避けていくではありませんか...!

おぎぬまXのキン肉マンレビュー【第56巻編】~完璧超人始祖編、最終決戦の幕開け!!~
サンダーサーベルにきりもみ回転しながら突撃したことで、シルバーマンの身に螺旋状の跡が残った。これが伏線になるとは...!!

サンダーサーベルにきりもみ回転しながら突撃したことで、シルバーマンの身に螺旋状の跡が残った。これが伏線になるとは...!!

 不可解な現象については、ファイティングコンピューターことウォーズマンが解説してくれます。彼曰く、「デパーミング」と呼ばれる、軍艦が磁力を消すために行う"船体消磁"を利用しているらしいのですが、漫画を読みながらひとつ賢くなった気分を味わえるこの感覚がすごく懐かしいというか...これぞ少年漫画といった熱いシーンですね! 

そして、この一連の攻防には、ゆでたまご先生の類稀なる発想力、その真髄が込められていると思いますので真剣に解説させてください。

 

まず、先ほどサイコマンが乱射していたサンダーサーベルですが...これはマグネット・パワーで雷雲を呼び出し、雷が落ちる瞬間に素手でキャッチして相手に投げつける...という、本来ならプロレスの試合中で絶対にお目にかかれないトンデモ技です。ですが、雷を掴むことができるなら、身体に巻き付けることもできるはず(?)。そこで、シルバーマンは高速回転してサンダーサーベルを全身に縛りつけました。これにより、自身を傷つけたサンダーサーベルが"船体消磁"の役目を果たし、マグネット・パワーの呪縛から逃れることに成功したのです!

僕が何を叫びたいのかと言いますと...サンダーサーベルという、ゆでたまご先生の自由な発想によって生まれたアイデアを、ゆでたまご先生が取材で得た知識、ロジックで攻略しているんです。まるで頭脳というリングの中で、現実と空想がプロレスをしているような...理論のないトンデモ展開の応酬や、ウンチクと知識だけを並べただけのバトルじゃないんです。何気ないことですが、僕たちが『キン肉マン』という漫画をこよなく愛し、作中の理論に笑いながらも、感心、感激、感動するのは、この絶妙な塩梅(あんばい)に酔いしれているからなのではないでしょうか!

おぎぬまXのキン肉マンレビュー【第56巻編】~完璧超人始祖編、最終決戦の幕開け!!~
ウォーズマンによるデパーミング解説。解説役の座もテリーマンから交代か!?

ウォーズマンによるデパーミング解説。解説役の座もテリーマンから交代か!?

とうとうシルバーマンは、過去誰も成し得ることができなかった〝独力でのマグネット・パワー攻略〟に成功しました。この瞬間、数億年に渡って言い争ってきたテーマにピリオドが打たれます。 

マグネット・パワーはたしかに強力です。いとも簡単に対戦相手を蹂躙(じゅうりん)することができ、対抗策がない超人は磁力に囚われた時点で詰んでしまいます。あまりにもお手軽かつ便利なため、マグネット・パワーさえあれば、その超人が本来持っている個性やポテンシャルも不要となるほどです。目には目を歯には歯を...そうなると行きつく先は、対戦相手もマグネット・パワーで対抗せざる得なくなり、互いの肉体と技術をぶつけ合う超人プロレスは、単なる〝マグネット・パワーバトル〟と化してしまいます。

 

トレーディング・カードゲームの世界では、あまりにも対戦環境を支配的にしてしまうようなカードは、運営が大会での使用を禁止にしています。そうやって規制を施さないと、皆が同じカードしか使用しなくなってしまうからです。マグネット・パワーはまさしく、超人界の対戦環境を支配的にしてしまう禁止カードだったといえるでしょう。本来ならば、運営(神)が即座に規制すべき能力だったのにも関わらず、ザ・マンは数億年に渡って放置してしまったのです。 

そして、時は流れ...今! シルバーマンが出したアンサーは、「マグネット・パワーは強すぎるから封印しよう」なのではなく、「極限まで研鑽(けんさん)した超人の技術はマグネット・パワーを凌駕するから、そんな力に頼るな」だったのです。まさしく、深い眠りに陥ったサイコマンを目覚めさせる、強烈で美しい、超人讃歌な答えといえるでしょう! 

マグネット・パワーは、あくまで地球の力を借りているだけ...いわばドーピングのようなものなんです。マグネット・パワーを愛用し続けたサイコマンは、数億年に渡って自己研鑽の機会を失うという副作用に蝕(さいな)まれていたのです。 

決着が近づいてまいりました。マグネット・パワーを破られたサイコマンは、自力で「輪廻転生落とし」を仕掛けますが、あっさりとシルバーマンに抜け出されてしまいます。「昔のキミなら技の完成まで持っていけたことだろう」とシルバーマンが哀しそうな表情で見つめると、サイコマンは思わず目を逸らしてしまいました。

おぎぬまXのキン肉マンレビュー【第56巻編】~完璧超人始祖編、最終決戦の幕開け!!~
向かい合い、手を握り合っていても全くわかりあえていない、哀しき両雄...

向かい合い、手を握り合っていても全くわかりあえていない、哀しき両雄...

シルバーマンは長かった闘いに決着をつけるため、かつて最も得意としていた奥義を繰り出します。それはマッスル・スパークによく似た技の仕掛けでありながら、似て非なるもの...完璧・弐式(セカンド)奥義「アロガント・スパーク」が石のリングに炸裂します! 

フィニッシュを飾った「アロガント・スパーク」ですが、この技がなんというか...もう。

これまで数多の残虐技を見てきましたが、それらを軽く凌駕するほどの恐ろしいフォームでして、全身を隅々まで破壊されたサイコマンを見て、観客はドン引き。キン肉マンたち超人も皆、言葉を失ってしまいました。 

技から解放されて石のリングに崩れ落ちるサイコマン。吐血した血しぶきをシルバーマンがマフラーで防ぐのですが、この仕草がおっかなすぎて、「さっきまでの穏やかな笑顔はどこへ...!?」とガクガクと震えおののいてしまいました。ここでゴングが鳴り、試合終了です。

 

おぎぬまXのキン肉マンレビュー【第56巻編】~完璧超人始祖編、最終決戦の幕開け!!~
完璧に決まったシルバーマンの必殺技アロガント・スパーク。サイコマンがグニャグニャになるほどの破壊力...!!

完璧に決まったシルバーマンの必殺技アロガント・スパーク。サイコマンがグニャグニャになるほどの破壊力...!!

凄惨な決着に誰もが息を呑む中、ネメシスだけがシルバーマンに喝采を送ります。自分のマッスル・スパークなんて足元にもおよばない、さきほどの奥義こそが究極のフィニッシュホールドだと叫びます。ですが、シルバーマンは自身の奥義を恥じるように否定しました。 

これはあくまで〝殺しの技〟であって、真に理想の技とは、キン肉星王位争奪編でキン肉マンが最後に放ったマッスル・スパークである...と。どんなに強力な必殺技であろうと、相手を殺してしまえば、二度と再戦は叶わず、己の成長につながりません。一見、矛盾しているように聞こえますが、理想の技とは相手の命を奪わない〝生かす技〟であるという考えにシルバーマンは至ったのです。

そして、そのために必要なものこそ「慈悲の心」なのです。 

シルバーマンの言葉に納得のいかないネメシスでしたが、キン肉マンと闘えば分かるはずだと諭され、満を辞してキン肉マンvsネメシス...という同族同士の対戦カードが決定しました。 

おぎぬまXのキン肉マンレビュー【第56巻編】~完璧超人始祖編、最終決戦の幕開け!!~
ネメシスのマッスル・スパークに足りないもの、それは

ネメシスのマッスル・スパークに足りないもの、それは

【サイコマンが仕組んだ最後のしかけ!?】

両者の死闘のあとは「始祖(オリジン)のダンベル」をめぐるドラマにも決着がつきます。

サイコマンが敗北したことで、ついに完璧超人始祖が持っていたダンベルが10個そろいました。キン肉マンたちは、このタイミングで初めて聞かされますが...10個のダンベルを超人墓場の祭壇に納めると、超人閻魔を含めた完璧超人始祖が消滅することになっているのです! 

さっそく悪魔将軍は、サンシャインに命じて集まったダンベルを超人墓場に納めさせようとします。事前に話を聞いていたとはいえ、サンシャインとしては自らの主(あるじ)を消滅させなければならないわけです。祭壇を前にギリギリまで葛藤して、泣きながら「悪魔将軍様ぁぁぁ~~っバンザァァァーーイ!」と、最後のダンベルをはめこみます。 

しかし...結論から言うと完璧超人始祖たちは消滅しませんでした。実はサイコマンがあらかじめ、消滅エネルギーが自分ひとりに向かうように改造していたのです。 

サイコマンという超人は、敵にも味方にも嫌われていた生粋(きっすい)のヒール、生粋のトリックスターでしたが、最後の最後で完璧超人始祖に対する純粋な敬意...いや、彼が毛嫌いしていたはずの深い「友情」を見せてこの世から消滅しました。 

一枚岩だった完璧超人始祖が次第に仲違いして、離反者が増えていく中、サイコマンは楽しかったあの頃に戻そうと一人奮闘していた悲しい道化師なのです。泣いた...という直接的な感想はなるべく控えるようにしておりますが、多くの読者と同じように、このシーンで僕の頬に熱い涙が伝ったことを記しておきます...!!!!

 

おぎぬまXのキン肉マンレビュー【第56巻編】~完璧超人始祖編、最終決戦の幕開け!!~
今歳の際(いまわのきわ)でもマグネット・パワーの素晴らしさを伝えるサイコマン。しかし、シルバーマンは無慈悲にも断固拒否。人の心が...ないのか!?

今歳の際(いまわのきわ)でもマグネット・パワーの素晴らしさを伝えるサイコマン。
しかし、シルバーマンは無慈悲にも断固拒否。人の心が...ないのか!?

そしてサイコマンの消滅と同じくして、シルバーマンの姿も消えようとしていました。もともと、すでにシルバーマンは実体がなく、一時的に復活していたに過ぎないため、どのみち試合後には「銀のマスク」に戻るつもりだったのです。今後は以前と同じように、超人たちの行く末を静かに見守っていくと告げて、シルバーマンはマスクを残して消滅しました。 

数億年も前からすれ違い、最後の最後まで分かり合うことがなかったふたりでしたが、奇しくも肉体が消滅した後、互いの遺品が重なり合いました。あまりにも壮大な幕引きです。

 

おぎぬまXのキン肉マンレビュー【第56巻編】~完璧超人始祖編、最終決戦の幕開け!!~
幾億年の時を経て、ようやく重なったシルバーマンとサイコマン。エモすぎる...!

幾億年の時を経て、ようやく重なったシルバーマンとサイコマン。エモすぎる...!

さて、なんだか最終回っぽい雰囲気になりましたが、物語はまだまだ続きます!

残された超人たちの動向を追うと、ジャスティスマンは自分の答えを探しにいくと言ってフェードアウトし、ネメシスは待ちに待ったキン肉マンとの闘いを要求します。ですが、ネメシスは傷が治りきっていないうえ、日没を迎えようとしていたため、仕切り直しとなります。そして、"許されざる世界樹(アンフォーギブン・ユグドラシル)"に導かれてたどり着いた先にあったのは、甲子園球場でした...! 

ついに残された超人はたったの4人となりました。完璧超人軍は、超人閻魔ことザ・マンとネメシス! 正悪連合軍は、悪魔将軍と我らがキン肉マンです。長きに渡った完璧超人始祖編もあと2試合...次巻もクライマックスに向けて、激アツな展開を迎えます。ぜひ楽しみにお待ちください! 

おぎぬまXのキン肉マンレビュー【第56巻編】~完璧超人始祖編、最終決戦の幕開け!!~
キン肉マンたちが降り立ったのは、高校球児の聖地・甲子園! 決戦までもう間もなく...!!

キン肉マンたちが降り立ったのは、高校球児の聖地・甲子園! 決戦までもう間もなく...!!

●こんな見どころにも注目! 

おぎぬまXのキン肉マンレビュー【第56巻編】~完璧超人始祖編、最終決戦の幕開け!!~

 因縁の闘いに燃えるネメシスに対して、キン肉マンは終始逃げ腰です。正直、子どもの頃はこういうキン肉マンがヘタレるシーンに「どうせ闘うんだから早く闘ってくれよ~!」と、文句をこぼしてました(笑)。でも大人になった今は、キン肉マンの気持ちがすごくわかります。ロビンマスクとラーメンマンを破り、まだ余力を残すようなネメシスと闘えなんて言われたら、普通は誰だって逃げたくなりますよ!むしろ、ちょっとかわいそうだな...と思うくらいなので、アタル兄さんあたりが助っ人に駆けつけてくれないだろうかと、淡い期待を抱いてしまいますね。まあ、これも主人公の運命ということで頑張ってもらいましょう(笑)。

●おぎぬまX(OGINUMA X)
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。原作者として参加している『笑うネメシス―貴方だけの復讐―』が『漫画アクション』(双葉社)にて連載中。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中

構成/石綿 寛(樹想社) 撮影/中里 楓 ©ゆでたまご/集英社

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