画家・光宗薫の初作品集『せみにんげん』が1月15日に発売された。完全描き下ろしとなる本作は、"せみにんげん"になるため旅に出る"せみちゃん"の物語がつむがれた絵本のような一冊。
そこで今回、大阪での開催に向けて新たな描き下ろしを鋭意制作中だという彼女に直撃。初作品集が絵本形式になった理由や、彼女自身がモチーフとして描き続けているセミのこと、理想のアーティスト像についてたっぷりと聞いた。
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――2013年に開催された初個展『スーパー劣等生』を皮切りに、画家としての実績を着々と重ねられ、個展の開催は今回6度目となりますが、意外にも作品集の出版は初なんですね。
光宗 本当はずっと出したかったんです。作品集を出すことでより幅広い層に作品を見ていただき、アーティストとしての活動を知っていただくきっかけになるとも感じていました。過去に発表した作品をまとめて本にする話もあったのですが、私はわりと個展区切りで絵のテーマや描き方を変えているので、それをそのまま一冊にするのは少し違うような気がして。
やるからには全て描き下ろしで、作品集を意識した制作がしたいと思いました。一昨年の夏から本格的に制作を始め、昨年末にようやく発表できたのが今回の『せみにんげん』です。その間、制作を中心にスケジュールを組んでくださったマネージャーさんをはじめ、支えてくださった皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。
――ちょうど一昨年の春にひとつ前の個展『むかしむかし』が開催されていたかと思います。終わった直後からブランクなく制作に向かわれていたのですね。
光宗 2023年頃からヴァニラ画廊さんの所属アーティストとして画家活動を行なっていて。毎回、個展が始まると同時に次の個展について打ち合わせをするんですよ。だから『むかしむかし』の会期中、既に『せみにんげん』のスケジュールが決まりはじめていました。特に今回は作品集の刊行で出版社さんとも足並みを揃える必要があり、いつも以上にカツカツでした。締め切り直前は1日15時間くらいキャンバスと向き合い続ける日々でした。
――そんなにハイペースだったとは......。作品集『せみにんげん』は、"せみにんげん"に羽化する前に、こころを成長させる"せみちゃん"の旅物語がベースになっています。作品集でありながら、構成は絵本に近いですよね。
光宗 私、絵本が大好きで。いつか自分で絵本を描くのが夢だったんです。当初は絵本を刊行する予定で話を進めていたのですが、絵本の場合、子供にも見せられる内容が前提になるので、前もって正確な下絵を全て提出する必要があるそうなんです。
私の絵は描き込むところからスタートするため、正確な下絵を別途提出するとなると制作期間が膨大になり、提出後に変更をお願いされた場合の対応が難しいという判断で、"絵本調の作品集"として刊行させていただくことになりました。
――読ませていただいて、絵本としての完成度がすごく高いと感じました。分かりやすい物語の展開。想像力で補える余白。見応えのあるイラストレーション。子供から大人まで、自由な感性で楽しめる作品だと感じました。
光宗薫作品集『せみにんげん』より
光宗 ありがとうございます。私が思う絵本の良さは説教くさくなく、感性で楽しめるところ。『せみにんげん』も、それくらい自由に楽しめる内容を目指しました。子供の頃に読んで、お話の内容は忘れてしまったけど、あのページのあの絵は鮮明に覚えている、という経験が多々あり、誰かにとってのそんな作品を作りたいと考えていました。だから物語はあるようでないんですよね。旅をして何を得たか、どう変わったか、具体的なことは書いていません。
――短命で儚いイメージが強いセミですが、羽化するまでの物語をファンタジックに描く着眼点はさすがだと思いました。
光宗 実際のセミの生態として、地上に出て来るまで長い年月を土の中で過ごすらしいんです。であれば、私たちがよく知らないだけで土の中で充実した人生、いや"セミ生"を送っているのかもしれないですよね。短命で儚いイメージは、人間の思い込みとも言えます。想像は自由ですから、"せみちゃん"には色んな景色を見てもらいました。
――そもそも、なぜそんなにセミが好きなんでしょう?
光宗 第一にフォルムが好きです。昆虫全般好きですが、特にセミのビジュアルには強さや格好良さを感じますね。さらに言語化すると、昆虫の左右対称的に描けるところが好きなんだと思います。
以前、とある作家の方から「光宗さんの絵は左右対称に描くモチーフが多いね」と言われてハッとしたんです。今回の作品集も表紙をはじめ左右対称的な描き方がたくさん収録されています。私が個展ごとに絵のテーマや描き方を変えていたのは、昔は「こういう作風ね」と単一的なイメージで語られたくなかったからなのですが、無意識のうちに"自分らしさ"が出てしまっていたようで、すごく腑に落ちました。
――過去にはセミをモチーフに千手観音や薬師如来の絵も描かれていましたよね。
光宗 私にとってセミは、自分の理想を自由に投影できる存在でもあります。セミは人間との距離感がちょうどいいから、作品にしやすいのだと思います。同じ対象物を描き続けるのが楽しいと感じにくい私が、セミだけは何度描いても飽きないんです。
――"距離感ちょうどいい"とは、どういうことでしょう?
光宗 2022年に『SEMITOPIA(セミトピア)』というセミをテーマにした個展を開催させていただいたときに感じたのですが、セミは日本では世間的に広く知られた存在であるものの、関心を持っている人は非常に少ないんですよ。セミという生物は知っていても顔や羽の模様をまじまじと見たことのある人は少ない。
私は絵を描く際、出来るだけ誰もがニュートラルな距離感で見られる作品にしたいと思っています。例えば自分が"幸せ"と表現したものが、誰かを苦しめるきっかけになるかもしれない。自分の作品を通して、幸と不幸、正義と悪などを定義したくない、という考えが軸にあるので、主体となるモチーフはなるべく人間から遠いもの、架空の生き物がしっくり来るんです。そういう点で、セミは"ちょうどいい"んですよね。
――光宗さんはUMA(未確認生命体)をモチーフにした絵もよく描かれていますよね。『せみにんげん』にも、UMAと遭遇する"せみちゃん"の絵がありました。
光宗 逆に、人間は描く上でいちばん興味が沸かないチーフかもしれません。作品として人間を描くとなると、女性か男性か、大人か子供か、どんな服を着ているのか、あるいは着ていないのか......と、ひとつひとつの描写に理由がないと意味合いが強すぎる気がして。
例えば作品の真ん中に悲しそうな表情の人を置くと周囲をどれだけポップにしても悲しさを表現した絵になりかねないというか。本当に表現したいニュアンスのノイズになりかねません。誰も当事者性を感じない生物であれば、心置きなく描けます。
――セミの絵は過去に何度も描かれていますが、今作の"せみちゃん"は今まででいちばんデフォルメされていて、かなりキャラクターチックですよね。かわいいです。
光宗 "せみちゃん"のポイントは口です。セミの中でいちばん好きなパーツなんです。実物は剣道のお面みたいに線が入っているのですが、デフォルメしつつも口だけは残したつもりです。果たしてこれは客観的に見てセミと言えるのか......? という感じではありますが(笑)。
――グッズのぬいぐるみもかわいいです。
光宗 ぬいぐるみ制作も今回叶った長年の夢です。何度か試作を出していただきながら、配色や目の位置、お腹の膨らみ具合を調整し、細かくこだわって作りました。自分で作っておきながら、セミのぬいぐるみって客観的にどう感じるんだろうと心配していましたが、「かわいい」と言ってくださる方が多くてホッとしました(笑)。
せみちゃんのぬいぐるみは大阪の巡回展でも販売予定! かわいすぎる!
――今後も長く愛されるキャラクターになるといいですね。それにしても光宗さんは、自分の絵が鑑賞者の目にどう映るのかをとても丁寧に考えていらっしゃいますよね。
光宗 もともとは人目を気にしやすい性格なんです。趣味嗜好がアングラチックなので、多くの方に作品を見てもらうために、自分の"好き"をどこまでストレートに表現するかは常に考えています。実際、昔は絵を見て「怖い」と評価されることが多かったんですよ。
――今回の『せみにんげん』はフルカラーですが、もともと光宗さんの作品は細密な線で描かれたモノクロ絵が多かったですよね。
光宗 個人で発表する作品はできる限り自分の感性に従いつつも、最近はアングラ的なモチーフをモノクロの細密な線で描くことが与えるイメージを理解し、お仕事としてのご依頼やテレビ番組などでは"見やすさ、明るさ、分かりやすさ"を意識するようになりました。見てくださる方の幅を狭めないためにも表現のバランスは大切だと思っています。今回の『せみにんげん』がフルカラーなのは、まず私の好きなモチーフを好きなようにモノクロで描いた後に、絵本として見せる意識と、誰もが見やすい"ポップさ"を加えた結果でもあります。
――ところで、光宗さんにとってロールモデルとなるようなアーティストの方はいらっしゃるんでしょうか?
光宗 画家の方ではありませんが、ロンドンにある個人経営の珍奇博物館のマスターであるヴィクター・ワインドさん(@viktor_wynd)です。以前、ロンドンへ長期の一人旅をした際によく訪れていた博物館で、その後発売したフォトブックのロケ地としても使わせていただいたくらい思い入れのある場所です。館内はヴィクターさんが個人で収集したユニークな標本や剥製がズラリと展示されていて、その量と奇妙さは何度見ても圧倒されます。その収集は今も続いていらっしゃるようで、"好き"を貫く熱量と行動力に、ただただ感銘を受けるばかりです。
また、アメリカのニュージャージー州で、ルナパーク(Luna Parc)という自宅兼アートスペースを公開されているリッキー・ボスカリーノさん(@rickyoflunaparc)も最近気になっています。インスタグラムでよくルームツアーを配信されているのですが、外観からして個性的で、まるでティム・バートンの映画に出てきそうな世界観が広がっているんです。自身で増築されているのか、配信を見るたびに見たことのない部屋が出てくるのも興味深い。近々訪れたい場所のひとつです。
――変わったお二人ですね。でも、とても魅力的です。
光宗 お二方に共通しているのは、自分の"好き"に貪欲なところ、その"好き"を突き詰めた場所にお客さんが集まっているところ。一人の強い好奇心や想像力が多くの人々の心を踊らせるなんて、アーティストの理想形ですよね。お二人を見ていると「自由にストイックに好きなことをやり続けろ!」と言われているような気がして、元気が湧いてきます。
実際、お二人の活動も最初から理解者がいたわけではないと思うんです。行動と発信を続けてきたからこそ、世界各地から近い感性を持つファンが訪れるようになった。私は絵の展示を始めてまだ12年程で、アーティストとしては赤ちゃんのようなもの。とにかく制作や展示を続けて、その先に自分がどんな表現に行き着くか知りたい。自分が描くものも世間の反応も予測できないのがアートの面白さだと、年々強く感じるようになってきました。
――アーティストとしてさらに突き抜けていかれるのかと思うと、楽しみで仕方がないです。次は地元・大阪での巡回展ですね。大阪で個展を開催されるのは初個展『スーパー劣等生』(2013年)ぶりじゃないですか?
光宗 そうなんです。「また大阪でも個展をやってほしい」というお声は今までもたくさんいただいていましたが、ようやく叶えることができました。初個展を開催した味園ユニバースは昨年夏に解体となってしまいましたが、今回の開催地は梅田の阪急百貨店でアクセスがいいので、気軽に遊びに来てもらいたいです。
ありがたいことに、東京での個展でも原画が多く売れてしまったので、今、大阪用に新作を描いている真っ最中です。"せみちゃん"の旅は続く......今度は恐竜のいた時代!? 既に『せみにんげん』をご覧になった方も、これからの方も、是非、楽しみにしていてください!
●光宗薫(みつむね・かおる)
1993年生まれ、大阪府出身。2011年頃より独学で絵を描き始める。11年12月、AKB48の研究生としてデビュー、翌年10月活動終了。2013年に初個展『スーパー劣等生』を開催。現在は東京・銀座のヴァニラ画廊に所属し、定期的に個展を開催している。桜井美奈の小説『復讐の準備が整いました』(朝日新聞出版)の装画を担当するなど、画家としても幅広く活動中。女優、タレントとしても活動中で、出演ドラマ『100日後に別れる僕と彼』(MBS/TBSドラマイズム)が5月26日(火)から放送開始予定。
公式X【@mtmnkor】
公式Instagram【@mtmnkor】
■光宗薫作品集『せみにんげん』(玄光社)/本体2,700円+税
光宗薫完全描き下ろしによる物語調の初作品集! 優しい家族の元を離れ、せみちゃんは旅に出る。「せみにんげん」になるために。2026年8月26日(水)~9月7日(月)、阪急百貨店阪急うめだ本店9階アートステージにて作品集出版記念個展『せみにんげん』開催!
取材・文/とり 撮影/まくらあさみ

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