帯でハードルを上げすぎ? 中身よりタイトルで難航? 今年度N...の画像はこちら >>

「枚数が足りなくて4話目を丸々削っちゃいました。いずれ続編を書けたら。
すでに結末を知っている読者も面白く読めるように書く自信はありますよ」と語る相沢沙呼氏

「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」で共に国内1位、「2019年ベストブック」選出をはじめ、吉川英治文学新人賞や本屋大賞にノミネートされるなど、快進撃が続く話題作『medium 霊媒探偵城塚翡翠(じょうづかひすい)』。

本作は死者の声を聞くことができる霊媒師の女性・城塚翡翠と、推理作家の男性・香月史郎が霊視と論理の力を駆使して事件に立ち向かう本格ミステリー。初版帯の「すべてが、伏線。」という惹句(じゃっく)にたがわぬ衝撃の結末も話題になっている。

著者の相沢沙呼(あいざわ・さこ)氏は代表作『小説の神様』(講談社)が佐藤大樹と橋本環奈主演で映画化(5月公開予定)されるなど、現在波に乗っているが、本人いわく「苦労人」の一面もあるという。今年度ナンバーワンミステリーの著者に話題作の創作秘話を聞いた。

* * *

──帯どおりの衝撃的な展開に驚かされました。

ラストのどんでん返しには思わず、「もしかして、ページを読み飛ばしてしまったんじゃないか!?」と目を疑うほどでした。書き上げた瞬間に手応えがあったんじゃないですか?

相沢 いえ、世に出す前はものすごくドキドキしていたんですよ。「プロモーションで自らハードルを上げるようなマネはやめてくれ、もっとさりげなくしてくれ」と担当編集にお願いしたくらいですから......。

書き手としては「わかりやすく伏線を書いて大丈夫なのかな」と思う半面、「伏線がなさすぎるとアンフェアだと言われちゃわないかな」とも思ったりするわけです。「絶対売れる」と言われても、「本当かな」と疑心暗鬼でしたが、発売後すぐに版を重ねることができて本当によかったです。

──『medium』を書こうと思ったきっかけは?

相沢 僕はミステリー作家としてデビューしましたが、同世代の作家友達の作品がどんどん重版されていくなか、自分が書いたミステリー小説は今まで一度も重版されたことがなかったんです。

そんな折、「売れる小説、いい小説ってなんなんだ......」と思い悩んでいた僕の負の感情を詰め込んで書いた『小説の神様』が重版される作品になって、ようやく精神が落ち着きました。もともとミステリー作家としてデビューしたので、青春小説だけでなく、本格ミステリーで多くの人に読んでもらえる作品を書きたいなと思っていました。

──殺人を描くのは今回が初めてなんですよね?

相沢 そうなんです。今までは日常生活のちょっとした不思議な現象を取り扱う「日常の謎」というジャンルのミステリー作品を主に書いてきました。ただ、どうしてもインパクトが弱いので本格ミステリーとしては扱われないことも多くて......。

昨年はデビュー10周年という節目だったので、新しい挑戦をしたいという気持ちもありましたし、自分のやってきたことを生かしつつ、殺人が起こる話をやったらどうなるかなと。

ただ日常の謎に愛着もあるので、今作でもちょっとだけ触れてます。

──ああ、確かに登場人物に「日常の謎が好き」と言わせていますもんね。とはいえ、これだけ複雑な小説を書き上げるには、執筆期間も相当長かったのでは?

相沢 僕は遅筆なほうで、ひとつの作品を書き上げるのに普段は6ヵ月程度かかるんですが、今作は2ヵ月くらいであっという間に書けました。むしろタイトル決めのほうが大変でしたね。最初は『霊媒探偵城塚翡翠』というタイトルにしようと思っていたんですけど、担当編集に「漢字の密度が高すぎてダメ」って言われまして......。

──『medium』というタイトルはどういった経緯で決まったんですか?

相沢 シンプルに「霊媒」を表す英単語でしたし、「中間」「媒介」という意味があったので気に入りました。

今作は目に見えない世界を扱っていますが、僕自身のスタンスとしては「魔法や超能力は存在する」と言い切れないけれど、読んだ人が「そういうこともあるかも」と思えるような、想像の余地がある作品にできたらいいなと思っていました。

──霊媒師の城塚翡翠はミステリアスで女性的なしとやかさもあり、読者の間ではすでにものすごい人気を誇っているキャラクターです。モデルはいるんでしょうか?

相沢 具体的なモデルはいませんが、泡坂妻夫さんの『奇術探偵 曾我佳城(そがかじょう)』(講談社)というシリーズに影響されました。泡坂さんはミステリー作家でありながらマジシャンもやられているという方だったんですが、僕もマジックが趣味のミステリー作家なので、いつか曾我佳城のようなキャラクターが出てくる小説を作ってみたいと思っていたんです。

曾我佳城はステージマジックを扱う奇術師でしたが、僕は最近、読心術やテレパシーを駆使する「メンタルマジック」系に興味があったので、霊媒探偵にしようと思ったんです。

──趣味といえば、作家になる前はプログラマーだったそうですね。

その経験も小説に生かされている?

相沢 今でもプログラミングは好きで趣味でやったりしていますが、小説自体にはあまり役立っていないですね(笑)。

強いて言うなら、プログラムコードを誰が読んでも理解できるように短く書き直していく「リファクタリング」という工程が好きなんですけど、この工程は小説作りとちょっと近いんです。よりシンプルで短い文章にするために何度も書き直していく作業は、リファクタリングの技術が役立っているといえなくもない。

まあ、削りに削った原稿を担当編集に出しても、「もっと削って」と言われるんですけど(笑)。今回も枚数が足りなくて4話目を丸々削っちゃいましたし。

──そこは続編に期待ですね。

相沢 いずれ書けたらいいですね。すでに結末を知っている読者も面白く読めるように書く自信はありますよ。続編やスピンオフでは本格ミステリーだけでなく、読みやすい広義のミステリーも書いていけたらなと思います。

──最後に、『medium』が映像化される際には城塚翡翠役は誰がいいですかね?

相沢 うーん。女優さんはあまり詳しくないので......。演技力のある方に演じてもらえるならとても光栄ですね。

●相沢沙呼(あいざわ・さこ)
1983年生まれ、埼玉県出身。2009年『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。2011年「原始人ランナウェイ」が第64回日本推理作家協会賞(短編部門)候補作、2018年『マツリカ・マトリョシカ』が第18回本格ミステリ大賞の候補作となる。繊細な筆致で、登場人物たちの心情を描き、ミステリー、青春小説、ライトノベルなど、ジャンルをまたいだ活躍を見せている。『小説の神様』は、読書家たちの心を震わせる青春小説として絶大な支持を受け、実写映画化(5月22日公開予定)が発表されている

■『medium 霊媒探偵城塚翡翠』
(講談社 1700円+税)
霊媒として死者の言葉を伝えることができる城塚翡翠と、推理作家として難事件を解決する香月史郎。ふたりはコンビを組み、霊視と論理の力を組み合わせながら、さまざまな事件を解決していくなかで、一切の証拠を残さない連続殺人事件に立ち向かう。ところが、恐ろしい殺人鬼の魔手はひそかに彼女へ迫っていた──。主要賞3冠にとどまらず、吉川英治文学新人賞や本屋大賞にノミネートされるなど、話題を呼んでいる今年度ナンバーワンミステリー

帯でハードルを上げすぎ? 中身よりタイトルで難航? 今年度No.1ミステリー『medium』の創作秘話が明らかに!

取材・文・撮影/草作