与野党協議が再開され、皇族数減少へ向けた制度論が国会の議題に戻った。現在は「婚姻後も皇族の身分を保持する案」と「養子縁組で旧皇族の男系男子を皇族化する案」が中心に検討されている。
高市首相が養子案の優先を示すなか、皇室史家の倉山満氏が皇室の先例と現行典範の制約を整理し、課題を論じる(以下、皇室史家・倉山満氏による寄稿)。
皇室史家が語る皇族養子案の核心と「絶対に超えてはならない一線...の画像はこちら >>

皇室典範改正実現を宣言

4月15日、皇位継承に関する国会の全体会議が一年ぶりに再開された。二つの政府案を軸に議論を進めている。第一案が「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することとすること。」であり、第二案が「皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とすること。」である。

与党の自民・維新の他に、国民・公明・参政・みらいなど主要政党が政府案に賛成である。

この中で注目は、新たに議論に加わったチームみらいである。「女系天皇は先例が無いから」と実質は否定。皇室の議論の基礎は先例である。オールドメディアやSNSでは「(選挙ですらない)世論調査で次の天皇を決めよ」等と軽佻浮薄な議論が蔓延っているが、政界の大勢はマトモだ。

問題は、野党第一党の中道である。一か月の猶予で意見をまとめることになった。皇室の話は、政権交代くらいでひっくりかえされないよう、与野党合意で進めねばならない。責任は重い。


森英介衆議院議長(自民党出身)は、今国会でも皇室典範改正実現を宣言した。ということは、政府の方では法案ができているのだろう。ならば、今後の議論は、条文化した際におかしなことにならないように議論を進めるべきだ。

政府の主眼は「養子による皇籍取得」

政府の主眼は、第二案である。

現状で何もしないと、悠仁殿下が即位された時代に、皇族がいなくなる可能性がある。また、悠仁殿下にお子様が生まれれば良いが、どこにもそんな保証はない。だから、皇族を増やさねばならない。では、どこにそんな皇族が?

占領期、GHQに身分を奪われた方の子孫がいる。俗に「旧皇族」と呼ばれる方々だ。旧皇族はすべて伏見宮家に源流を持つ。この、皇族に生まれるはずだった方々に、本来の身分を取り戻していただこうとの考え方だ。これが第二案の「養子による皇籍取得」である。

さて、「養子による」は皇室典範の第九条を、「皇籍取得」は第十五条を変えねばならない。


皇族の養子は、近代でこそ禁止されているが、それ以前は常例である。

何より伏見宮家の歴代当主は、その時の天皇か治天の君の養子となって、家を継いだ。血が遠くても、「天皇の子」との擬制を続けたのである。養子は、典範改正による恒久法でも構わない。

問題は、「一般人は、女性が結婚する時以外は皇族になれない」とする第十五条である。

血がつながっていれば良いのではない

皇統に属する男系男子と言っても、血がつながっていれば良いのではない。たとえば、近衛文麿は後陽成天皇十二世孫の男系男子である。同じように西園寺公望は東山天皇七世孫なのでもっと近い。しかし、近衛や西園寺が皇族になれるなどとは、誰一人思わないのが常識である。

基本的に皇籍離脱したら、皇族に戻れない。ただ例外はある。特別の御由緒により、いったん臣籍に下っても皇籍復帰した例、子孫が皇籍取得した例はある。

では現在、そのような特別な御由緒があるのは誰か。
旧皇族の男系男子孫と呼ばれる方たちだけである。政府は「旧皇族は日本国憲法下でも皇族であった」ことを理由に、その男系男子孫の皇籍取得を可とする。

伏見宮家は皇室に何かあった時に備える家として、室町時代に後花園天皇の勅命により永世御所とされた。その後、近世では永代親王家の一として続き、明治の典憲体制でも皇族だった。だから日本国憲法下でも皇族であった。このような特別な御由緒があるのは、伏見宮家を源流に持つ、いわゆる旧皇族だけである。

さて、現行典範第十五条である。「皇族以外の者及びその子孫は、女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合を除いては、皇族となることがない。」とある。「できない」ではなく「ない」である。女性は結婚により皇族になれるが、一般人の男はなれない。これが皇室の掟だ。

皇籍取得は常例ではない。
例外中の例外の存在である旧皇族を、一般化できるか。典範本文に書き込むなら、但し書きにするしかない。むしろ本来ならば、特措法でやる話だ。

間違っても「一般人の男子が皇族になれるようにすること」のような書き方をしたら、どこで独り歩きするかわからない。

一案もどこまで考えているのか。条文としては、「天皇皇族以外と結婚したら皇籍離脱」と定めた典範第十二条を変えることになる。皇室に残れるように選択肢を増やすだけであるが、従来通り皇室を出るのも選択肢とする方針のようだ。

一般男性を絶対に皇族にしてはならない

ただ、配偶者がどのような方かで、分岐がある。

実は、内親王殿下と旧皇族の男系男子孫の方がご結婚されれば、現行典範第十二条改正どころか、養子案も不要である。極端な話、お相手が決まってから、皇籍取得を可能とする特措法でも構わない。

問題は、お相手が一般人の男子の場合に、皇籍を残す場合である。これは先例が多々あり、政府は皇女和宮をあげる。
夫は将軍徳川家茂。徳川将軍は代々大臣であったので、皇族よりも宮中席次は上で、いわば准皇族である。ただし、皇族の形式と皇位継承権だけはなかった。これは徳川以前の歴代権力者も同じ。

内親王殿下が結婚後も皇室に残りお相手が一般人の場合、絶対に皇族にしてはならない。

皇族が減っているから、誰でも皇族にしてしまえなどの暴論があるが、パンピーの男を皇族にして事が済むなら、誰も苦労しない。日本の歴史を全否定する気か?

世の中に勘違いがあって、女性皇族の配偶者を皇族にしたらその子が天皇になり女系天皇につながるから危険だとのヌルイ論があるが、違う。

日本の歴史において、いかなる権力者も皇族にだけはなれなかった。ましてや天皇に。これは、超えてはならない絶対の一線。皇室を守る掟である。だから、いかなる妥協をしてもならないのだ。


政界の大勢は良識的だが、まだまだ油断はできない。

【倉山 満】
皇室史家。憲政史研究家。1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『噓だらけの日本近世史』が2月28日より発売
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