ゴミ回収業、配送業など人手不足に悩んできた業界を中心に、いまSNS運用に参入する企業が増えている。中には「底辺職業」というパンチのあるキーワードを使ったり、巨乳インフルエンサーを起用したりと、攻めた動画を繰り出す会社もある。
はたして採用には直結しているのか?実情を追った。

「ゴミ回収員って、本当に底辺だと思いますか?」で万バズ

とある平日の午後、東京都足立区内の駐車場で、ゴミ収集車を背景に撮影を行う3人の男女の姿があった。この日男性が扮していたのは、無許可の不用品回収業者という役柄だ。

「カメラ目線でニヤニヤお願いします」「急にヤクザ口調になってください」

女性2人から次々と繰り出される指示に、素直に従う男性。慣れない口調で「カネもらわねえと話になんねえんだよ!」とセリフを読み上げると、「ちょっと下手ですね」と、容赦のないダメ出しを受ける一幕もあった。

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「ゴミ回収員って、本当に底辺だと思いますか?」で万バズ、美女起用で応募殺到…人手不足業界で過熱する“採用TikTok”の実態
部長である利根川さんに演技指導を行うアミーさん、いーちゃんさん
女性たちの言いなりになっているようにも見えるが、実はこの男性、廃棄物の収集運搬を手がける利根川産業の経営企画部部長・利根川靖さん(47)。同社にパート社員として勤務する子持ち主婦のアミーさん(33)、いーちゃんさん(31)とともに、SNS企画・撮影全般を手がけている。複数あるアカウントの中でも’23年に開設したTikTokはフォロワーは5.5万人、投稿した動画の総「いいね」数は116.3万回(数字は’26年4月時点)と屈指の人気を誇る。

「ゴミ回収員って、本当に底辺だと思いますか?」で万バズ、美女起用で応募殺到…人手不足業界で過熱する“採用TikTok”の実態
利根川産業のTikTokアカウントが伸びるきっかけになった「底辺職業」動画。「底辺」というインパクトのある単語でユーザーの心を鷲掴みにした
アカウントが注目を浴びたきっかけは、’23年9月に公開されたとある動画がきっかけだった。「私は底辺職業と噂のゴミ回収員。でもゴミ回収員って、本当に底辺だと思いますか?」といういーちゃんさんの呼びかけから始まるこの動画は、1万4700回近い「いいね!」を獲得。その後も「底辺職業」をフックとした動画を次々と公開し、’24年1月時点で約3800人だったフォロワー数を1年後の’25年1月には、10倍以上の約4万人にまで伸ばした。

動画の中で「底辺職業」というパワーワードを使ったのは’22年、とある就職情報サイトが「底辺の職業ランキング」を公表し、大炎上を招いたことがきっかけだった。


間口を広げるためにエンタメ的な切り口を重視

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アミーさん。再生回数をあげるために、あえて身体のラインが出た服を着てくることも
「ランキングに『ゴミ収集スタッフ』が入っていて、『あれ見た?』と会議で話題になったんです。それまでも動画は出していたんですが、まあ再生回数が伸びず……。目を留めてもらうためにもまず、SNSで好まれがちなネガティブワードを逆手に取る戦略に切り替えました」と企画者のアミーさんは振り返る。ただし元ネタとなった炎上騒動も沈静化した今は「底辺」よりも「ブルーカラー」という表現を使うことが増えているという。

「最近ではゴミ処分の方法を説明する知識系だったり、流行りのショートドラマだったりと、トレンドも交えつつ試行錯誤しています」とひーちゃんさんは語る。

こうした努力は、はたして肝心の採用に直結しているのだろうか。靖さんはいう。

「職種にもよりますが、ゴミ収集のドライバー職についていうと、応募者はSNSを始めた3年前の約2倍に増えました。正社員募集をかけてもすぐに埋まるので、今はお待ちいただくためのエントリーフォームも用意しています」

人材獲得とはまた別のメリットも感じているという。

「ゴミ回収業への偏見を大真面目に訴えるより、エンタメ的な切り口で伝えたほうが視聴者には見てもらいやすい。結果としては求職者以外も含めて、SNS動画が業界への理解を深めるきっかけになっていると思います」
 
SNS採用代行などを行うリソースクリエイションが転職活動を行う20代を対象に実施した調査によれば、転職活動の際、「SNSを使って社名を検索した」と答えた割合は約8割、その手段としてTikTokを挙げたのは46%と半分近くにのぼった。若年層獲得のための企業採用活動でSNSが欠かせない存在となりつつある中で、最近増えているのが、従業員ではなくインフルエンサーを起用・出演させるという手法だ。

画面中央に巨乳を配置する徹底ぶり

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浜松急送のTikTokアカウント。社員にもヒアリングして、ドライバーが実際によく食べているものを再現しているという
静岡県浜松市内で運送事業を手がける浜松急送は、’25年7月にTikTokアカウントを開設。
同社のロゴが入ったポロシャツを着た女性が車両の中で豪快に昼ご飯を食べたり、ハンドルの上に胸を置いたりする動画が注目を集め、’26年4月時点でフォロワー数は1万8千人を超えた。

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なな茶さん。妊娠を機に15kg太ったというが、「太めが好きな男性もいる。同じ食事シーンを撮るにしても、細い人より太い人のほうが見応えがあります」と本人は何ら意に介さない
この女性は元グラビアアイドルで、現在はインフルエンサー兼SNSプロデューサーとして自身の会社を持つなな茶さん(29)。武器は豊かな胸とふくよかな肉体で、見せ方にもこだわりを持つ。

「視聴者は男性が9割以上で、年代でいうと30代~50代が多め。そこまで振り切った企業が他に少ないからか、胸を強調すると実際再生回数も伸びやすいです。以前は胸が大きいのがコンプレックスでしたが、グラビアをやって自信もつきました。動画では、視聴者の目が最も留まりやすい画面中央に胸が映るように工夫しています」

SNSの運用は、同社の専務である彼女の父に持ちかける形で提案したものだという。

「配送業界は慢性的な人手不足で、特に20~30代が少ないとよく父から聞いていたんです。トラック運転手は『3K』(きつい・汚い・臭い)職業の代名詞のように語られがちですが、浜松急送はオフィスが綺麗で、給与も高い。エンタメ要素を交えながら情報発信ができれば、若年層には刺さりやすいと思いました」

父の大介さんによればSNSアカウントの開設以来、同社の求人用LINEアカウントには月15~20件、最も多い時期で80件ほど応募がある状態という。「求人サイトにも募集を出していますが、今ではSNSを見たというケースが8~9割。近郊からの応募が少ないのが今後の課題です」と話す。


「ゾス!」で知られるグローバルパートナーズなどのSNS運用代行業を行うHITO GOAT GOATの大谷真弘さんは、特にショート動画に特化したTikTokでは、「現場系の仕事(いわゆるブルーカラー職)との相性が極めて高い」と指摘する。

「ゴミ収集やドライバーなど、ブルーカラーの仕事は何をしているのかが視覚的にわかりやすい。未経験歓迎の企業も多く、応募しやすいのも魅力です。男性仕事のイメージも強い中で、可愛い女の子が出てくる動画は差別化が効き、再生回数も伸びやすい傾向にあります」

炎上リスクも心配されがちな企業SNSだが、使いようによっては世間からのよくある誤解やイメージを払拭する格好の手段にもなる。

大谷真弘(おおたに・まさひろ)
プリントシール機シェアNo.1のフリュー株式会社にて、新規事業開発を複数務める。’24年に独立。嫁が平野紫耀くんが大好きだったので、そんな嫁のために平野くんに見た目を寄せていく動画が累計5000万回以上の大バズリ。「さらけ出しSNS」を掲げて、SNSを日々運用中。

<取材・文・撮影/松岡瑛理>

【松岡瑛理】
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部で編集・ライター。 Xアカウント: @osomatu_san
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