今でも溢れ返る名ばかり管理職
立場が人をつくる――。経営者が口にしがちな名言だが、立場が社員を苦しめる事例も枚挙にいとまがない。その典型が「名ばかり管理職」だ。この言葉を広めたのは、’08年の日本マクドナルド事件だった。長時間労働を強いられてきた店長が「管理職とみなして残業代を払わないのは違法だ」と会社を訴えたところ、その主張が全面的に認められ、以後、飲食業界のみならず他業種でも同様の係争が続出。「名ばかり管理職」は流行語にもなったのだ。あれから20年弱、係争に発展する悪質な事例は減ったが……今でも名ばかり管理職は溢れ返り、当事者を「クソ忙しい」負のスパイラルに陥れている。IT系のスタートアップ企業でマーケティング職の課長を務める秋田省吾さん(仮名・47歳)が話す。
「2年前に勤め先が上場企業に買収されてから、大きく体制が変わったんです。それまではいちプレーヤーにすぎなかった私は、年次が上という理由だけで10人の部下を抱えるマーケティング課長に昇進しました。ただ、部下はほぼ全員20代の若手なので、私がマネジメントに専念したら業務が回らない。
1on1ミーティングで時間と精神をすり減らす
秋田さんをクソ忙しくさせている原因の一つに、“親会社”の方針があるという。「部下1人につき、週に30分ずつの1on1ミーティングを行うように言われているんです。10人の部下がいるので、それだけで週に300分が潰れる。部下と信頼関係を築くためには重要なことかもしれませんが、毎週やっていると親との関係性や恋愛についての相談など、仕事とまったく関係のない話が増えていく。ショックだったのは、退職した元部下から『1on1ミーティングでの課長のアドバイス、正直ウザかったです』とメールが届いたこと。
週の頭には10人の部下との全体ミーティングを行って、毎日、業務報告書を読んで個別に返信して、自分の業務もこなして、さらに時間を割いて個別のミーティングをやっていたのに、これですよ。課長といっても自由に使える経費はなく、すべて事前申請して管理部門の承認が下りないと使えないし、ハラスメント研修やコンプライアンス研修などに多くの時間を取られる。できることなら、いちプレーヤーに戻りたいです……」
“文字どおりの名ばかり管理職”の実態は?
「某大手保険会社に20年以上勤めたのですが、最後にいた海外事業企画部は異常でした。約50人からなる部署なのですが、そのうちの半分以上が『部長』だったんです。事業部長がトップにいて、その下に企画部部長が20人、その下は部長代理だらけ。私は部長代理でしたが、部下はいませんでした(笑)。当然、上長に当たる部長の部下は私一人。
なぜ、そんな歪な組織ができたのか? 田原さんは「団塊ジュニア世代に当たる50代が多く残っているのに、年次に合ったポストが足りなくなったからだろう」と話す。
とはいえ、大手保険会社なだけあって待遇はよかったとか。
「名ばかり部長でも年収2000万円はあったはずです。海外駐在のチャンスもあるので、その場合はさらに報酬が上乗せされる。高年収によって厚生年金の標準報酬月額が上がってるので、『年金受給額がこれで増える』と喜ぶ人もいました」
役職と責任を背負わせリストラするパターン
だが、「好待遇には裏がある」と話すのは、数多くのリストラ企業のトラブル処理に対応してきた社会保険労務士の辻清則氏(仮名)だ。「その部署は、ある種の“追い出し部屋”としての機能を有していたと考えられます。部長職なら、名ばかりでも部としての成果を求められるからです。仮に、成果が上がらなければ、降格やクビ切りの対象にすることができる。大企業なら大きな労組があるでしょうが、管理職は当然のことながら組合員にはなれませんので、守ってくれる人はいません。一方で、大企業の元部長なら再就職は比較的容易なので、“最後の箔づけ”の意味合いもあるでしょう」
辻氏によると、こうした名ばかり管理職は’19年以降、増えているという。
「国を挙げて取り組んだ働き方改革が一因にあります。原則月45時間・年360時間という時間外労働の上限規制が導入された影響で従業員を長時間働かせることができなくなったため、その規制の対象外である管理職を増やす企業が増加したのです。その結果、一般従業員の残業削減分を管理職が担うようになり、役職に応じた報酬アップに見合わない業務量で身も心もすり減らす名ばかり管理職が増えていったのです。
多忙感に襲われている管理職は、まずは自身の職務や権限、待遇がポジションに見合ったものか考えてみよう。
通常の管理職=労働基準法上の「管理監督者」
②重要な責任を負うと同時に、大きな権限を有する
③現実の勤務態様も、労働時間などの規制になじまない立場にある
④賃金などの報酬面についてその地位にふさわしい待遇を受けている
[名ばかり管理職]の実態
①課長・部長などの肩書はあるのに実質的な権限はナシ②わずかな部下しかいない。もしくは部下0人というケースも
③部下の採用や評価、解雇の権限を有していない
④業務内容は一般社員とほぼ変わらない(給与もほぼ同じケースも)
⑤残業代や休日出勤手当はなく労働時間の規制を受けない
⑥出退勤や休暇取得は自由なはずなのに上司の許可が必要
⑦管理職なのに会社の経営会議には参加していない
※2026年5月5日・12日合併号より
取材・文/週刊SPA!編集部
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