日本国籍を取得したラグビー選手らが、リーグワンの選手登録区分に関する新規定は「独占禁止法違反」に当たるとして公正取引委員会に訴えた。新規定は来季以降導入され、日本で義務教育を受けた期間などを起点にチームの起用人数を定める(写真中央は中島イシレリ選手)。

作家の乙武洋匡氏はリーグワンの新規定は単なる制度変更ではなく、帰化して日本代表として戦ってきた選手たちの存在そのものを揺るがしかねない問題だとみる(以下、乙武氏による寄稿)。

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なぜ“日本人”ではなく“日本出身”に線を引くのか

「レイシストがルールを作ってしまっている」

ラグビー日本代表がW杯で8強入りしたときのメンバーでもあるトンガ出身のコベルコ神戸・中島イシレリ選手が激しく憤っている。いったい、何が起こっているのか。

先般、日本ラグビーの最高峰「リーグワン」は、’26-’27シーズン以降の選手登録区分を、日本代表資格を持つ「カテゴリA」から「A1」と「A2」に細分化すると発表した。A1を「日本で生まれた選手、または小中学校の義務教育9年間のうち6年以上を日本で過ごした選手」、A2を「日本代表資格を持つものの、A1の条件を満たさない選手」とする。わかりやすく言い換えれば、たとえ日本国籍だったとしても、帰化選手は来季から出場が制限されることになる。

これに対して中島を含めた帰化選手ら27名は、今回の変更は独占禁止法に違反するとして公正取引委員会に申告した。しかし、リーグワンの玉塚元一理事長は、「日本出身選手を育成するため」「現時点で制度を見直す予定はない」と平行線を辿っている。

私はこの件に関して、意図、手段、時期の3つの観点から疑問を感じている。まずは、意図。なぜ“日本人”ではなく、“日本出身”選手の育成にこだわるのか。帰化により日本国籍を取得すれば、日本人だ。にもかかわらず、「日本で生まれ育った選手」にこだわる理由がよくわからない。


育成の名のもとに人生設計まで狂わせていいのか

次に、手段。「日本出身選手を育成する」という目的を達成する手段として、今回の措置は適切なのか。本当に育成が目的であれば最高峰リーグでの出場機会を無理にこじ開けるのではなく、高校や大学といった育成年代に焦点を当てるべきだろう。そして、それは協会の仕事であり、あくまでリーグワンとしての責務は「国内最高レベルの試合を見せる」ことではないだろうか。

最後に、時期。帰化はラグビー選手としてだけでなく、人生を懸けた大きな決断である。また、引退後の人生まで見据えた長期計画でもある。そして、当然ながらその計画は“現行ルール”が基盤となっている。そのルールがいとも簡単に変わってしまえば、彼らの人生設計にも大きな狂いが生じることとなる。せめて「次シーズン以降に新規契約する選手から」といった措置が取れないものだろうか。

桜のジャージに袖を通し、日の丸を背負って戦ってくれた選手たち。その彼らにまるで後ろ足で砂をかけるような制度変更をファンは支持できるのだろうか。


ラグビー日本代表を支えた「帰化選手への不当な仕打ち」乙武洋匡が喝破。「日本出身の育成」という美名の罠
乙武洋匡
<文/乙武洋匡>

【乙武洋匡】
1976年、東京都生まれ。大学在学中に執筆した『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。ニュース番組でMCを務めるなど、日本のダイバーシティ分野におけるオピニオンリーダーとして活動している
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