親への思いが生活破綻の要因に
同居母に搾り取られる生活費と週1万円の小遣い。赤字は体を売って補塡家計も心も限界。でも結局また手を差し伸べちゃうんです――。都内近郊の公営住宅。段ボール箱が積まれた6畳一間で、シングルマザーの田端恵美さん(仮名・45歳)は深いため息をつく。多くが美談として語られる「親孝行」だが、親への思いが生活破綻の要因となることもあるのだ。介護ヘルパーとスーパーでの品出しのアルバイトで生計を立てる田端さんの年収は13歳になる娘の児童手当を含めて約260万円、手取りで毎月17万円ほどだ。
家賃は2万円台と激安だが、常に赤字と語る彼女の家計を圧迫する最大の要因は、同居する母親(70代)の存在だ。いわゆる“年金暮らし”だが、母親が家にカネを入れることはない。
「家賃や光熱費などの固定費を含む生活費はすべて私の負担。普段は食事も作りますが、よく仕事で家を空けるので、配食サービスや飲み物の定期便で月3万5000円。最近は、母の持病のため、医療費が3万円に上る月もあります」
母親は一銭も払わないどころか、毎週1万円の小遣いを田端さんに無心する始末。
暴食とギャンブルの挙げ句孫のお年玉に手をつける
「デパ地下の総菜を買い込んでは、『物価高でパンが高い』とぼやいている。以前、母のマイナンバーカードを探すため財布を確認したら、パチンコ店のポイントカードが2枚出てきて言葉を失いました」一家共倒れの危機を感じた田端さんは先月、母を説得し、家計の一括管理に乗り出した。
「預かった年金口座の残高はたった120円。つらすぎて娘に話すと、娘がもらったお年玉から1万円を借金していたことが判明したんです。財布から千円札が消えたことも一度や二度ではないようで、我が家では現金は“ミニ金庫”に入れて管理しています」
「毒親ぶりはさらに強まった」
「常にイライラしていて『誰のおかげで子育てできると思ってるんだ』と恩着せがましく言うんです。娘には『宿題は?』『帰りが遅い』など過干渉になり、辟易しています」
なぜこうなってしまったのか。その原点は30年前にさかのぼる。中学3年生で両親の離婚を経験した田端さんは、家計と小遣いのため、年齢を偽り、スナックで働き始めた。
「最低賃金650円の時代、時給1500円のスナックは破格のバイト。そこでお金を稼ぐ味をしめてしまいました」
高校卒業後にはキャバクラに“就職”。一時は高級ソープ店に在籍し、100万円の月収を手にした時期もある。
「“大黒柱”を前に母は何も言えず、性の仕事もなかば公認。私も『女手一つで育ててくれた母に親孝行するのは当たり前』と思い、誕生日には20万円ほどの大金を渡していました。今思うと金銭感覚がバグってましたね(苦笑)」
現在の仕事にシフトすると収入は激減
転機は12年前。未婚の母となり、「娘のため安定した職に就きたい」と現在の仕事にシフト。「子供の入園前の大変な時期、頼れるのは母だけでした。私も世話してもらう負い目から財布の紐が緩みがちになり、母の経済的依存は、さらにエスカレートしていきました」
今も田端さんは3万~5万円の赤字を補うべく、月数回、性的サービス店に出勤している。
「年々、教育費がかさむ中、背に腹は代えられない。娘も学校指定の裁縫セットなど、“皆と同じもの”が買えないと不憫ですから……」
親孝行に潜む経済的困窮について、カウンセラーの川島崇照氏は次のように語る。
「数ある人間関係のなかで親から受ける影響は甚大で、無意識のうちに子供の心に与えた深い傷は、生涯にわたり悪影響を及ぼし続ける。いわゆる“毒親”の状態です」
毒親の主な4つの類型
「①精神的・物理的に子供に頼り切る『依存型』 ②他者への配慮が苦手な『精神的未成熟型』 ③自己肯定感の低さから子供の挑戦を否定する『過干渉・過保護型』 ④子供の成果を自分の価値と混同し教育虐待などに走りやすい『承認欲求型』です。田端さんの母親は①と②が色濃く重なる併合型と言えます」
自らの生活を犠牲にしてまで“親孝行”する人の根底にあるのは、「愛情ではなく強烈な罪悪感」と川島氏。
「離婚などつらい思いをする親に、子供が『自分が助けなければ』と感じるケースは多い。人は環境に適応する生き物なので、たとえ過剰な親孝行で生活が苦しくても、慣れが親の搾取を助長する例は珍しくありません」
親子だからどちらも“当然”と思ってしまう
依存心が強く、精神的に未熟な親にとって、こうした子供は「自分を支えてくれる都合のいい道具」でしかない。「過去には親の反対を押し切って結婚した『罰』として、月数十万円の送金を強要された事例もありました。当人は『親を傷つけた』という自己否定感が強いため、強制的な親孝行から降りることができず、親もまた『やってもらって当然』となる。
そんな膠着した親子関係も、「新しい誰か」の存在が風穴を開けることがある。
「田端さんは母との関係をつらく思いながらも、ときに感謝され、喜びを感じていたからこそ親孝行を続けられた。しかし娘の誕生により、優先順位が崩れ、母へのストレスが顕在化したと推察されます」
こうした「親孝行地獄」を断ち切るには、どうすればいいのか。川島氏は、物理的距離を取るほか心に境界線を引くことの重要性を説く。
「『親には親の人生があり、生きる力がある』と信じることが大切です。病気やケガといった〝苦難〞も含めて親の人生。過剰な手助けを断つことは、見捨てることではなく、互いの自立への一歩なのです」
自転車操業の日々の中、田端さんはパニック障害の発症をきっかけに“家族”を守るため、母との別居を検討中だ。
「母への感謝は変わりませんが、私にも娘との生活がある。母には生活保護を受けてもらえるよう、行政と相談中です」
自分の人生を取り戻すため――田端さんの苦闘は続く。
【親子関係カウンセラー 川島崇照氏】
「おとなの親子関係相談所」代表。毒親との関係に悩む延べ4 万人の回復支援を行う。
取材・文/週刊SPA!編集部
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